転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3798話

「えっと……」

 

 俺は目の前――実際にはかなり遠くだが――で起きた光景が何を意味しているのか、最初は分からなかった。

 だが、そんな俺の様子にりせが不思議そうに尋ねる。

 

「アクセルさん、どうしたの? 何かあった?」

「俺の見間違いじゃなければ、いなば急便とかいう運送会社のトラックが白鐘と俺の視線の遮るように停まったかと思うと、トラックが動いて、気が付いたら白鐘がいなくなっていた」

「……え? じゃあ、それって……足立じゃないの!?」

「いや、けど……取りあえず俺はあのトラックを追うから、りせは天城屋旅館にいる美鶴達に連絡をしてくれ」

「わ、分かった」

 

 そう俺の言葉に頷くりせ。

 りせの言う通り、さっきのトラックの運転手が足立だとすれば、白鐘を連れ去ったのは理解出来る。

 元々白鐘は自分を囮にして、足立を……白鐘が足立と認識していたのかどうかはともかく、この稲羽市で起こっている事件の犯人を捕らえようとしたのは間違いない。

 何でそれで天城屋旅館に続く道を見張っていたのかは分からないが。

 ただ、天城屋旅館に続く道は他に家とかもないので、人目につかないという意味では誘拐しやすい場所なんだろう。

 それでも足立はどこであのトラックを入手した?

 いや、TVの中の世界に入れる足立にしてみれば、さっきのいなば急便とかいう会社の事務所とかに忍び込んでトラックを……いや、普通に考えるとちょっと難しいか。

 もしトラックとかが盗まれたとすれば、それは普通に考えて昨夜遅くとか、もしくは今日の早朝とかだろう。

 だがそうなれば、当然ながら稲羽署に盗難報告がある筈であり、そうなれば堂島を通して俺達にも情報が伝えられるだろう。

 そのような情報がなかったということは、やはりこれは違う。

 だがそうなると、あのいなば急便とかいうトラックの運転手が足立ではないという事になる。

 いやまぁ、実はどうにかして盗難報告をさせないようにして足立があのトラックを運転している可能性も否定は出来ないのだが。

 

「その辺は捕らえてみれば分かるか」

 

 そう判断し、気配遮断のスキルを使う。

 監視カメラとかそういうのがある日本では使いにくいスキルではあるが、何も隠蔽工作をしないで追うよりはマシだろう。

 そうして移動するトラックに容易に追いつく。

 トラックが白鐘を連れ去ったのが、天城屋旅館に着く道で人通りが少ないのもこの場合は大きかったのだろう。

 あるいはトラックを追ってるのが俺じゃなければ、人目の少ないこの場所から逃げ切る事も出来ただろうが。

 とにかく、俺はトラックに追いついたところでその前に飛び出す。

 ……横から不意に出て来たとかであれば、あるいはトラックを運転している男も何らかの行動が出来たのだろう。

 だが、俺がトラックを止める為に行動したのは、気配遮断を使っての行動。

 しかし、トラックの前に出てトラックを止めるという行動が攻撃とスキルに判断されたらしく、気配遮断の効果が切れる。

 俺の予想通りに。

 キキィッ! と、俺の姿を見たトラックの運転手は反射的にブレーキを踏む音が聞こえてくる。

 これが例えば、俺がトラックの前に出る前から運転手に見られている状態なら、運転手もクラクションを鳴らすなり、あるいはアクセルを踏んで轢き殺そうとするなりしたかもしれない。

 数秒程度とはいえ、考える時間はあるのだから。

 だが……気配遮断を消す事で姿を現したということは、どうするのかを一瞬で判断する必要がある。

 その一瞬の判断が、ブレーキだったのだ。

 このトラックの運転手、そういう意味では本気で凶悪犯という訳でもないのかもしれないな。

 もし本当に凶悪犯なら、それこそブレーキを踏む事なく、即座にアクセルを踏んでいただろうし。

 ともあれ、突然姿を現した俺を見てブレーキを踏んでも間に合う筈もない。

 白鐘を連れ去った、そしてここは周囲に家が建ったりはしておらず、人目もない。

 そういう事で、トラックの運転手はかなりの速度を出していたのだから。

 どん、と。

 結局ブレーキを踏んでもトラックは停まることが出来ず、俺にぶつかる。

 そこまではこの世界の住人から見ても、特におかしなことではないだろう。

 しかし、おかしくなったのはここからだ。

 いやまぁ、俺にしてみればそんなにおかしな事ではないが。

 俺にぶつかった瞬間、その車のバンパー部分を掴む。

 普通ならそんな事をしても、車の重量や勢いに負けて轢かれた者が吹き飛ばされるだろう。

 だが、混沌精霊の俺はそんなことではどうという事もなく……そのまま地面に立ったままで、1歩も動かない。

 それでいながら、バンパー部分を両手で掴んでいる為に、俺にぶつかった車もその衝撃でどこかに吹き飛んだりといったことはしない。

 ギュルルルルとタイヤを回転させつつ、その場で固定されたようになっていた。

 俺にぶつかった車を押さえつつ、俺は運転手の顔を確認する。

 トラックは軽トラ程度の大きさで、いわゆる大型トラックではないので、そういう事も出来たのだが……

 足立じゃない?

 帽子を被っているのではっきりとは分からないが、それでも運転手が足立ではないのは、はっきりと分かった。

 驚きと、理解が出来ないといった表情で固まっている男。

 そんな男は、明らかに俺が知っている足立ではない。

 整形か、あるいはTVの中の世界で顔を変える特殊な魔法なりスキルなりマジックアイテムなりを入手したのか。

 そんな疑問を抱きつつ、大きく目を見開いてこっちを見ている男を観察する。

 だが、俺も多少なりとも足立については知っている。

 そんな俺から見ても、この男が本当に足立の変装している姿だとは到底思えない。

 

「降りろ」

 

 俺にぶつかった衝撃で、フロントガラスも割れてはいないものの、ヒビが入っている。

 こういう車のフロントガラスとかは、ぶつかっても普通の……それこそ窓ガラスのように飛び散ったりとかはしないように加工されてるんだったか。

 とはいえ、ヒビが入っている以上気密性の類もそこまで完璧ではないので、俺の声が運転手に聞こえてもおかしくはない。

 というか……今更だけど、今の衝撃で白鐘が怪我をしたとか、そういう事はないよな?

 ふとそんな心配をする。

 俺にぶつかったトラックは、それこそ壁に突っ込んだくらいの衝撃はあった筈だ。

 俺がバンパーを掴んで止めたので、正確にはそこまでの衝撃はなかったが、それでもかなりの衝撃があったのは事実。

 ……というか、今更の話だが運転手の男はしっかりとシートベルトをしているな。

 白鐘を連れ去るという行為をしているのに、シートベルトをする余裕があったのはちょっと驚きだ。

 あるいは単純にそういう癖があるのか、もしくは少し走ってからシートベルトをしたのか。

 シートベルトをしてないのを警察に見つかると停車させられて交通違反になるしな。

 白鐘の件を考えると、警察に止められるのはとてもではないが避けたいだろう。

 そうならないよう、走り出してから慌ててシートベルトをしたとも考えられる。

 

「どうした? 降りろ。この状況で逃げられるとは思っていないだろう? それとも……力ずくで強引に下ろして欲しいのか?」

 

 この男が足立が変装した姿ではないというのは、俺から見てもほぼ確定事項だろう。

 とはいえ、それはあくまでも俺の予想だ。

 実際に確認してみないと何とも言えない。

 そして幸いなことに、ここにTVはない。

 つまり、もし俺の勘が外れて足立が変装していたとしても、この男に逃げられる心配はまずないという事になる。

 

「あ……あ……」

 

 そんな声を上げる男。

 自分が目にしているのが理解出来ないといった、そんな言葉を口にする。

 

「降りろ」

 

 再度そう言うが、男は引き攣った表情を浮かべるだけだ。

 これは仕方がないか。

 トラックの中にいる白鐘が怪我をしないように……本当に今更だが、それに気を付けながらトラックを持ち上げる。

 バンパーを掴んだままトラックを移動させ、取りあえずすぐにトラックで走って逃げられないようにしておく。

 幸いなことに、トラックが俺にぶつかった衝撃でトラックの前輪が沈み込んだ車体に覆い被さるようにひしゃげ、タイヤが回りにくくなっている。

 無理をすれば、アクセルを踏み込むことでタイヤが回るかもしれないが、前の部分がひしゃげている状態でそのようなことをすれば、それこそどうなってもおかしくはない。

 あ、でもそうなると白鐘が大きな被害を受けるかもしれないから、その辺は気を付ける必要があるな。

 そう考え、トラックが動けないようにしてからようやくバンパーから手を離す。

 次に向かったのは、運転席のドア。

 バンパー部分に俺がぶつかったので、トラックそのものが半ばひしゃげている。

 その結果として、運転席側の扉もボディが歪んだ影響で、普通に開けることは出来なくなっていた。

 ……そう、普通ならだ。

 そっと手を伸ばす。

 ヒビが入っているガラスは、俺が触れただけで呆気なく溶けていった。

 白炎と化した俺の腕は、そのままガラスの部分を溶かし、扉を引き千切る。

 それこそ子供が粘土で遊ぶかのような、そんな行動。

 

「ひ……ひぃっ!」

 

 男は目の前で起きた光景が理解出来ない……というよりは、恐怖しか感じてないような様子で叫ぶ。

 それでも毟り取られたドアの部分から逃げなかったのは、その前に俺がいて、ここで下手に逃げたら俺に殺されるかもしれないと思っていたからだろう。

 実際にはもし逃げても殺すつもりはなかったのだが。

 ただ、その場合は手足の1本や2本は諦めて貰っていたと思う。

 この男からは情報を聞き出す必要がある。

 特に足立との関係については、何が何でも聞き出す必要があった。

 

「白鐘はどこだ?」

「ひ……ひぃっ!」

 

 怯えている男に尋ねるも、それに答える様子はない。

 助手席にいるのかもしれないという淡い希望は消えた。

 いやまぁ、トラックが正面から俺にぶつかった時の事を思えば、助手席に乗っていないのは白鐘にとって幸運だったのかもしれないが。

 そして助手席にいない以上、白鐘がどこにいるのか想像するのはむずかしくない。

 それはつまり……

 

「荷台か。……取りあえずお前からは色々と、本当に色々と話を聞く必要がある。そうである以上、このまま死なれる訳にもいかないしな。ちょっと出て来い」

 

 そう言い、俺はシートベルトを引き千切ってから、男を引きずり下ろす。

 

「ひ……ひいいいっ!」

「逃がすと思うか?」

 

 引きずり下ろして地面に触れた瞬間、男はそのまま逃げ出そうとする。

 それを見て俺は指を鳴らして影槍を伸ばし、影によって男の足を拘束する。

 

「ひぃっ!」

 

 足が動かなくなり、転ぶ男。

 再度指を鳴らして狼の炎獣を呼び出し、男の見張りをさせる。

 本来なら獅子の炎獣とかを出した方がいいのだろうが、街中で獅子の炎獣を出すのは不味い。

 この辺りには家はないし、人通りも決して多くはない。

 多くないが、それはゼロでもないのは事実。

 特に今は夕方である以上、日中は街中で活動していたシャドウワーカーの面々……は別にいいにしろ、天城屋旅館に泊まっている他の宿泊客がやって来る可能性が十分にあった。

 そうなった時、何とか誤魔化す必要がある。

 狼の炎獣なら、犬と間違える……のは無理かもしれないが、すぐに消せば見間違いだったとか、そういう風に思うかもしれない。

 ともあれ、荷台を調べる上であの男に逃げられるのは困るのだ。

 そんな訳で炎獣に男の見張りを任せ、俺はトラックの荷台に向かい……

 

「TV……だと?」

 

 荷台の中にあったのは、大型の……それこそ、ジュネスの家電売り場にあり、鳴上達がTVの中の世界に入るのに使ってるとの同じくらいの大きさのTV。

 そして他には幾つかの段ボールがあるだけで、白鐘の姿はない。

 普通なら、この光景を見て白鐘がいない事を不思議に思うだろう。

 だが、マヨナカテレビの一件に関わってる者なら、この状況で考えられるのは1つだけだ。

 

「白鐘をTVの中の世界に入れたな?」

 

 そう言うが、当然ながらその言葉はトラックを運転していた男には聞こえていない。

 それでもこの状況ではそれ以外に考えられないが……同時にそれは、あの男がTVの中に入れる能力を持っている事を意味している。

 一般人にはTVの中に入る事は出来ない。

 だが、そのような相手でもTVの中に入れる方法は、TVの中に入れる能力を持つ者にTVの中に連れていって貰って、そこで自分のシャドウを受け入れてペルソナ使いになる事だけだ。

 つまり、この男は足立によってTVの中の世界に入ってペルソナ使いとなり、自由にTVの中の世界に入れるようになったところで、白鐘をTVの中の世界に入れた……そう考えてもいいのだろう。

 この男がいつから足立と手を組んでいたのかは分からない。

 ……あるいは、雪子とかりせがTVの中の世界に入って足立によって乱暴されなかったのは、もしかしたらそれが影響してるのかもしれないな。

 俺はこちらに向かってくる堂島の車を見ながら、そんな風に思うのだった。

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