大広間に戻ると、既にそこには鳴上を始めとする白鐘の救出部隊の姿はなかった。
荒垣や真田がいる以上、そこまで心配はいらないと思うが。
そんな風に思いつつ、俺は美鶴や堂島に事情を説明する。
罠の類がなかった事は勿論、今回の報告で一番重要なのは、やはり生田目の部屋の食器や箸が複数あった事だろう。
「なるほど。足立の奴が生田目の部屋に匿われていた可能性は否定出来んな。堂島、どう思う?」
「可能性は十分にある。だが……どうする? もしアクセルが見たのが正しいのなら、生田目の部屋で待ち伏せをしていればいつか足立が出てくるかもしれないが」
そう言いつつも、堂島本人にそのつもりがない事は明らかだった。
確かに上手くいけば、現実世界に出て来た足立を捕らえられるだろう。
現実世界に出てくれば、TVの中の世界でペルソナに覚醒した足立は、当然ながら現実世界でペルソナは使えない筈だ。
……とはいえ、これも絶対ではない。
ずっと……それこそ俺達とは比べものにならないくらいに長くTVの中の世界にいた足立だ。
もしかしたら、本当にもしかしたらだが、俺達が知らない何らかの方法によって現実世界でペルソナを召喚出来るようになっているかもしれない。
もし俺がペルソナ能力について鳴上達しか知らないのなら、そんな事は有り得ないと言っていたかもしれない。
だが、美鶴を始めとして、ニュクスに関わったペルソナ使い達が現実世界でペルソナの召喚が可能なのを、俺は知っている。
だとすれば、やはり万が一というのは十分に有り得るのだ。
「アクセルの意見は?」
美鶴の問いに、少し考えてから口を開く。
「待ち伏せは止めた方がいいと思う。上手くいけば……本当に上手くいけばの話だが、足立を容易に捕らえられると思う。だが、俺達が生田目の部屋で待ち伏せをしてると何らかの手段で知れば、まず間違いなくもう生田目の部屋に姿を現す事がないと思う」
「だが、それはあくまでも最悪の場合だろう?」
「堂島の言う事も分かるが、今はその最悪の場合を考えた方がいい。何しろ俺達の戦力は強力だ。それこそ正面から戦っても普通に足立に勝てると確信出来るだけの戦力が揃っている」
そう言うが、足立がどれだけの戦力を有してるのかは、今のところ分からないんだよな。
もしかしたら、俺達に対抗出来るだけの何らかの戦力を有しているという可能性は捨てきれない。
捨てきれないが、俺が直接戦うのならそれこそ負けるつもりがないのも事実。
ちょっとやそっとの戦力では、俺達をどうにかするのはまず無理だろう。
あるいは戦力が足りないのなら、狛治や刈り取る者、そして場所によるが空が自由に使えるのならグリを召喚すれば、こちらの戦力は大きく上がる。
そうした戦力でごり押し出来るだけの力がある以上、わざわざ足立に気が付かれたら逃げられるという可能性のある策を採る必要はない。
今なら、生田目の部屋にあるTVは足立のいる場所に繋がっているのだから。
なら、その手段を選ばないのは愚策でしかない。
「分かった。それなら俺にも異論はない。アクセルの提案に乗ろう」
堂島も、元々いつ足立が来るのか分からない、そして場合によっては足立が生田目の件に気が付いてとっとと逃げるという可能性を考えると、自分達から積極的に動いて足立を捕らえる方がいいと判断していたのだろう。
そして五飛とムラタは当然のように俺の意見に反対するような事はなく……俺達は生田目の部屋に影のゲートで転移をするのだった。
「……なるほど。確かにこの部屋で食器や箸がそれぞれ2つずつあるというのはおかしいな」
生田目の部屋の台所を見て、堂島が呟く。
俺が感じたのと同じ疑問を感じているのだろう。
「だろう? もっとも、俺達がやるのは足立を直接捕らえるというものだ。ここであまり時間を掛ける訳にはいかないけどな」
「……そうだな。だが今更の話だが、本当にこの部屋のTVから足立のいる場所まで行けるのか?」
「どうだろうな。実際に試してみないと何とも言えない。寧ろそういうのは、俺が色々と動いている間に生田目を多少なりとも尋問して、堂島が聞き出しておくべき内容だったりしないか?」
「う、それは……いや、だが。アクセルが生田目を捕らえる時にあのような無茶をしたから、生田目は今もまだ精神的に錯乱状態なんだ。これが明日か明後日くらいになれば大分落ち着くとは思うが」
「そう言われてもな。あの時は白鐘を連れ去られる訳にはいかなかったし」
もっとも、生田目が白鐘をトラックの荷台に連れ込んだ時点で、既にTVの中に入れられてしまっていた。
そういう意味では、俺の目的は達成出来なかったのだが。
それでもあのまま生田目が逃げ切っていれば、白鐘を助けに行くのに、まずは白鐘のいるダンジョンを見つけるという事から始めないといけなかった。
いや、雪子や巽、りせといった面々がTVの中の世界に入れられた事を考えると、やはり白鐘のいるダンジョンを探す必要はあるのかもしれないが……それでも何の手掛かりもない中で探すよりはマシだと思いたい、
「アクセル、堂島。いつまでもここで見ていても仕方がないだろう。まずはあのTVの中に入ってみるぞ」
もう待ちきれないといった様子のムラタの声。
実際、ムラタにしてみれば今まで俺と堂島の話を黙って聞いていただけで十分に待ったのだろう。
また、五飛の方もそんなムラタ程ではないにしろ、やる気に満ちた様子なのは間違いなかった。
「そうだな。じゃあ、行くか」
このままムラタを放っておけば、それこそ自分だけで……もしくは五飛と2人だけでTVの中に入りかねない。
そう判断し、堂島に視線を向ける。
すると堂島も俺のその言葉に異論はないのか、頷く。
それを確認してから、俺は改めて全員に向かって言う。
「恐らくだが、TVの中の世界に入ったら足立に見つからないように慎重に行動するのではなく、素早く行動した方がいい。何しろ俺達が向かうのは足立の本拠地だ。何らかの方法によって、そこに侵入した時点で俺達の存在が知られると思った方がいい」
「そういうものなのか?」
堂島はまだ完全に俺の言葉を理解した様子ではなかったものの、それでも今の状況を考えるとわざわざ俺の言葉に反論する必要もないと思ったのか、半信半疑といった感じだ。
それに比べると、五飛とムラタは俺の実力を本当の意味で知っている為に、素直に納得している。
「そういうものだ。だからこそ、素早く動くのが先決だ」
そう言うが、一応足立のいる場所に他のダンジョンのように宝箱があった場合、確保するが。
ラストダンジョン……いや、足立が小ボスや中ボスだとすれば、まだ後ろに誰かいるかもしれないから、ラストダンジョンではないかもしれないが、それでもこのダンジョンがボスのダンジョンなのは間違いない。
だとすれば、ここには結構なお宝が……具体的には希少なマジックアイテムの類がある可能性は十分にある。
もっとも、さすがに全ての宝箱を開けてマジックアイテムを確保するといったことは出来ない……いや、やろうと思えば出来るだろうが、実際にそういう事をしていれば時間が幾らあっても足りないので、その辺は炎獣に任せるとしよう。
炎獣なら宝箱を破壊し、その中に入っているマジックアイテムを入手出来るだろうし。
ちなみに当然ながら、犬や猫、小鳥、ネズミといったような小さな炎獣ではそういう事をするのは難しいので、大型の炎獣を多数作る事になるだろう。
それは同時に、足立のいるダンジョンのシャドウを皆殺しにするという事になるが。
まぁ、それは悪くない。
わざわざ足立の前に行くまで、敵と戦わないというのはこちらの消耗がそれだけ少なくなるという事を意味しているのだから。
もしこれが、鳴上達と一緒に挑戦してるのなら、鳴上達の戦闘経験値を少しでも上げる為に、道中の戦闘については鳴上達に任せていたし、場合によっては足立との戦闘も鳴上達に任せただろう。
だが、今回の戦いは違う。
何しろここいるのは俺、五飛、ムラタ、堂島の4人だけだ。
……堂島はペルソナ世界の住人で原作キャラなのは間違いないだろうから、必ずしもどうこうとは言えないが。
それでもここまで来たら、堂島を鍛えるよりも足立を倒すのを優先するべきだろう。
堂島を鍛えるというだけなら、足立を捕らえるなり倒すなりした後で五飛やムラタに鍛えて貰えばいいのだから。
「さて、そんな訳で……行くぞ。足立を倒すなり捕らえるなりすれば、このマヨナカテレビの一件が解決するかどうかは分からない。分からないが、それでも事態が進むのは間違いない」
そう言うと堂島は決意を込めた表情で、五飛は真剣な表情で、ムラタは獰猛な笑みでそれぞれ頷き、俺達はTVの中に入るのだった。
「これは……稲羽市、か?」
目の前に広がる光景に、堂島が呟く。
実際、その言葉は間違っていないだろう。
こうして見る限り、恐らくこのダンジョンは稲羽市をモデルにした物で間違いない。
足立がいると考えると、ある意味でらしい場所と言えないでもない。
そして同時に、誰か……いや、何者かの視線を感じる。
その視線に気が付いているのは、どうやら今のところ俺だけのようだが。
「稲羽市だな。色々と違うところはあるが」
「つまり足立は、TVの中の世界に稲羽市を作り上げ、そこで暮らしていた訳か」
どう反応すればいいのか分からないといった様子の堂島。
実際、それは俺も同様だった。
TVの中の世界にこうして存在するという事は、恐らくこの稲羽市は足立のダンジョンと考えていいだろう。
りせのストリップ劇場のように。
それにしても、TVの中の世界はかなり探索をした筈だったが、この稲羽市のように見える場所を見つけられなかったのは……一体どういう事だ?
普通に考えれば、五飛やムラタならこういう場所を見つけてもおかしくはないと思う。
「ともあれ……まずは先制攻撃といくか。宝箱もそうだし、このダンジョンにいるシャドウも片付けたい。構わないな?」
俺の言葉に堂島は特に問題なく頷き、五飛はあまり気が進まないと思いながらも頷くが……
「それでは強力なシャドウと戦えんではないか」
強力な敵との戦いを望んでここにいるムラタにしてみれば、俺の言葉はそう簡単に受け入れられるようなものではなかったのだろう。
とはいえ、今の状況を考えると素早く行動する必要があるのも事実だし……妥協案を出すか。
「俺の炎獣は強いが、それでも最強という訳じゃない。俺の炎獣に倒されるような相手なら、ムラタにとってもそこまで戦って楽しめる相手じゃないんじゃないか?」
「それは……いや、だが……」
「それでも不満なら、ムラタにはこのダンジョンで自由に行動する事を許可する」
「……何? それは本当か?」
驚きの表情をこちらに向けてくるムラタ。
今まで、TVの中の世界のダンジョンの攻略にムラタは何度も同行してきた。
だが、それは基本的に俺達と一緒だったり、あるいは鳴上達と一緒だったりといった具合に、大勢で纏まっての行動だったのだ。
そうである以上、ムラタにしてみればここで自分が独断行動をするのを許可されるとは思っていなかったらしい。
「本当だ。上手くいけば、ここで足立を捕らえてマヨナカテレビは終わりになる。つまりこれは、いわゆるラストダンジョンだ。なら、少しくらい羽目を外してもいいだろう」
そう言うものの、俺個人としては足立はラスボスだとは思っていない為に、これが本当にラストダンジョンだとは思っていない。
ここで足立を捕らえても、足立の裏にいる者を倒す必要がある。
……そう、今俺達に視線を向けているだろう誰かを。
俺達がこのTVの中の稲羽市に入ってから向けられている視線。
五飛はともかく、ムラタですら気が付かない視線。
ムラタはシャドウミラーの中で生身での戦いに限定すれば、間違いなくトップクラスだ。
そのムラタが気が付かないのだから、この視線の主は普通ではないだろう。
……もっとも、ムラタは生身での戦いでトップクラスなのは間違いないが、同時にその能力はあくまでも戦闘に特化してる。
常人と比べると視線を感じる能力は高いが、それでもそちら方面の能力となると、どうしてもシャドウミラーの中ではそこまででもない。
そういう意味では、ムラタがこの視線に気が付かなくてもおかしくはないのか。
「分かった。なら……行くぞ」
「ああ、好きにしろ。炎獣にはお前に攻撃しないように言っておく。……グリと狛治、刈り取る者にもな」
その言葉に、俺が炎獣以外に召喚魔法も使うのかと理解したムラタは驚きの表情を浮かべるものの、すぐに俺達から離れていく。
「アクセル」
「分かっている。五飛、お前も好きに行動していい。ただし、俺達が足立のいる場所に到着する前にやってこないと、ボス戦に参加出来ないかもしれないから気を付けろよ」
五飛は頷くと、ムラタを追うように走っていくのだった。