ようやく……そう、ようやくという表現が正しく、足立が姿を現した。
最初の、山野真由美の事件から半年以上。
……いやまぁ、実際には足立がTVの中の世界に逃げ込んだのは早紀の一件からなんだが。
とにかく、それでも時間にして半年近く経ったのは間違いない。
それくらいに見つけた足立は……予想以上に普段のままだった。
着ている服もボロボロという訳ではなく、普通の……いや、服の事についてはそこまで詳しくない俺が見ても分かるくらい、上物のスーツだ。
生田目から貰ったのか、あるいはジュネスから盗んだのか。
その辺は分からないが、取りあえず生活に困窮していたといった様子ではない。
ただ、足立を見て一番に思うべき事は……
「足立、その拳銃はどこから手に入れた」
そう、堂島が言うように足立の持っている拳銃についてだろう。
これが稲羽市以外であれば、あるいは暴力団の事務所とかから盗み出すといった事も可能だろう。
TVを通って好きな場所に出入り可能な足立にしてみれば、暴力団の事務所であろうとも漁るのは容易なのだから。
だが、この稲羽市に暴力団はない。
……いや、もしかしたら俺が知らないだけであったりすのかもしれないが、堂島の様子を見る限りそれはなさそうだ。そうなると……
「どこって決まってるじゃないですか。嫌だなぁ、堂島さん。もう分かってるでしょ?」
「……誰だ?」
「ありゃ、本当に分かっちゃった」
苦々しい様子で尋ねる堂島に、足立は少しだけ驚いた様子を見せる。
もっとも、その驚きは本当に驚いたというより、そういう風に見せているといった感じだったが。
「言え、足立。誰が裏切った」
「うーん、ここは教えるべきか、教えない方がいいのか。迷うな。幾ら人生クソゲーとはいえ、堂島さんはズルをしたし。……けど、まぁ、いいか。谷口さんの代わりなら幾らでも用意出来るし。あ、言っちゃったな」
「谷口、だと?」
「そ。子供が可愛い盛りの谷口さん」
「足立……てめえ」
今の足立の言葉で、その谷口という相手をどのように脅迫したのかは俺にも分かった。
子供を人質にとったのだろう。
実際に何か危害を加えなくても、TVのある場所なら足立は自由に出入り出来る。
そして街中にはTVがありふれているし、その谷口という人物の家にも当然ながらTVはあるだろう。
足立はそれを使って谷口という奴を脅し、拳銃を手に入れたのだろう。
そして拳銃を入手したという事は、恐らくそれだけではない。
警察の捜査情報とかそういうのも入手していたと考えておかしくはない。
そういう意味では、足立は相応に頭の回転が早いのだろう。
早いのだろうが……
「それで、拳銃程度でこの状況をどうにか出来ると?」
そう言い、俺は空間倉庫からゲイ・ボルク……ではなく、どこで入手したのかも忘れた重機関銃を取り出す。
本来なら地面に支える器具を設置して使ったり、あるいは車に設置するような、そんな重機関銃。
しかし、混沌精霊の俺にしてみれば重機関銃程度を片手で持つのはそう難しい事ではない。
「……お、玩具を持ってきたところで、どうにか出来ると思ってるのかい?」
「玩具……玩具か。仮にも刑事が、この重機関銃を見て玩具と言うのか?」
いやまぁ、そう言いはしたものの、普通の刑事が重機関銃の本物を自分の目で見るような事はまずない。
そうである以上、重機関銃を一目で本物と認識しろという方が無理だろう。
なので……トリガーを引く。
ドゥン、と。
そんな鈍い発射音と共に1発だけ弾丸が放たれる。
足立から少し離れた場所にある、何らかの建物の残骸に命中し、派手に吹き飛ぶ。
「な……」
本物だとは思わなかった……いや、思いたくなかったのだろう足立だったが、目の前で実際にそれを見せられれば、さすがに信じない訳にもいかない。
「一応言っておくけど、外したのはわざとだぞ。堂島がお前を捕らえたいと言うから、殺さなかったんだ」
俺のステータスの射撃と命中の数値を考えれば、こんなに間近で重機関銃を撃って外すという事はない。
それでもこうして外したのは、足立に言ったように堂島が足立を捕らえたいと言っていたからだ。
あるいは、この事件の原作の主人公である鳴上がいれば、足立を殺さずに捕らえようとしたかもしれない。
だが、生憎とここに鳴上はいない。
……代わりに堂島がいるんだが。
「で、どうする? 言っておくが、俺達がここに来た時点でもう逃げようがないぞ? お前に出来るのは、大人しく投降するか、もしくは俺達に戦いを挑むかだ。どっちでも好きな方を選ぶといい」
「……足立、投降しろ。アクセルが言うように、もうお前は逃げられない。お前は罪を償え」
「堂島さん……」
堂島の言葉に、足立は神妙そうな様子で堂島の名前を呼ぶ。
これはもしかしたら大人しく投降するか?
そう思ったのだが……
「投降なんてする訳ないだろう、ばーか!」
堂島に向かってそう叫び、拳銃を投擲する。
……そう、拳銃を撃つのではなく、拳銃そのものを投擲したのだ。
これは俺にとってもかなり予想外の行動だった。
堂島も、まさか拳銃を投擲するとは思わなかったのか、一瞬動きを止め……
「ペルソナぁっ!」
その隙を突くかのように、足立がペルソナを召喚する。
召喚するのだが……
「嘘だろ?」
そのペルソナは、鳴上のペルソナ……有里のように複数のペルソナを使える鳴上だったが、それでも最初に使っていたペルソナの色違いとでも評するべき存在だった。
イザナギだったか。
勿論、鳴上のイザナギは決してそこまで強力という訳ではない。
しかし、その色違いの足立のペルソナは、明らかに強い。
それは見ただけで分かる。
「俺には拳銃よりも強い、このマガツイザナギがあるんだよ! そんな馬鹿でかい銃があったところで、対処のしようがないだろう!?」
叫ぶ足立だったが、それは自信満々というよりは必死になって虚勢を張っているように思える。
それにしても、マガツイザナギか。
鳴上のペルソナがイザナギである以上、そこには何らかの因果関係があると見るべきか?
実際、鳴上以外のペルソナは、似ても似つかない。
そんな中で足立のマガツイザナギが鳴上のイザナギとここまで似ているのは……やはりそこに何かがあると思うべきか。
「ペルソナ!」
足立に対抗するように、堂島も自分のペルソナであるワダツミを召喚する。
そうして始まるペルソナ同士の戦いだったが……
パチン、と指を鳴らして炎獣を生み出す。
その数は二十匹程。
TVの中の世界の稲羽市で出した時に比べると大分数は少ない。
ただし、生み出された炎獣は獅子であったり、虎であったり、巨大な狼であったり……その全てがTVの中の稲羽市で生み出した炎獣よりも攻撃力を重視していた。
何しろTVの中の稲羽市で生み出した炎獣は、シャドウを倒すというのもあるけど、それ以外にも宝箱からマジックアイテムを入手してくるという目的もあった。
その為、大きすぎて宝箱のある場所に入れなかったりという事を考えて、小さめの炎獣も多かった。
……その小さめの炎獣であっても、戦闘力は十分にあるのだが。
そんな中、こうして俺が呼び出したのは戦闘向けの炎獣。
「ひ……卑怯だぞ! TVの中の世界に入ったのなら、ペルソナで戦えよ!」
堂島のワダツミと戦うマガツイザナギをコントロールしていた足立だったが、炎獣がこれだけの数現れれば、それに気が付かない筈もない。
「これは殺し合い……という程殺伐としたものではないが、何でもありの戦いだ。ルールなんてあってないようなものだろう? 実際、お前は同僚……いや、元同僚の娘を人質に取ったりしているんだし」
もっとも、もし足立が子供を人質に取るといった事をしていなくても俺が炎獣を生み出さなかったかと言えば、また別の話だが。
「く……刈り取る者はどこにいるんだよ! こういう時にいないなんて、本当にクソゲーだな!」
炎獣が足を踏み出したところで、足立が言う。
言うが……
「刈り取る者だと?」
その言葉に、俺は炎獣の動きを止める。
刈り取る者という単語は、そう簡単に聞き逃せるようなものではない。
いや……だが、考えてみればTVの中の世界に刈り取る者がいるのは、そうおかしな話ではないのか?
このマヨナカテレビの一件はシャドウが出て来ている事からも分かるように、明らかに俺が介入したニュクスの一件の続編だ。
ゲームか漫画かアニメか、小説か。
その辺については分からないが、それでも続編であり、シャドウが出ている以上は刈り取る者が出て来てもおかしくはなかった。
「は……はっ! 刈り取る者が怖いのか?」
炎獣の動きを止めた俺を見て、足立がしてやったりといった様子で叫ぶ。
足立にしてみれば、刈り取る者の名前を出した途端に俺が炎獣の動きを止めたので、そのように思ってもおかしくはない。
とはいえ、マガツイザナギとワダツミの戦いは続いていたが。
こうして俺達に注意を向けながらも、ペルソナをコントロールしている辺り、足立はペルソナ使いとしての才能はあったのだろう。
そんな勘違いをしている足立だったが……
「刈り取る者? 俺が知っている刈り取る者と比べると、随分と弱いな」
そう言いながらムラタが姿を現す。
その手に握られているのは、俺も知っているようで微妙に違う刈り取る者。
死んでいる……のではない。
シャドウは死ねば消える。
つまり、ムラタに顔面を掴まれて引きずられている刈り取る者は、まだ生きているという事になる。
俺が知ってる限り、刈り取る者はこのような状態で黙っている事はないのだが。
それでも黙っていたのは、それこそ手足が切断されているからか。
刈り取る者としての特徴である、異様に銃身の長い拳銃も持っていない。
あるいは俺が知らない何らかの攻撃手段をムラタが持っており、それによって刈り取る者を大人しくしたのかもしれないが。
「遅れたか」
そして続いて現れたのは、五飛。
こちらは俺を見ると特徴的な銃身の長い拳銃を2丁地面に放り出す。
「この武器はアクセルが欲しがると思って持ってきたぞ」
「持ち主はどうした?」
「死んだ」
あっさりと告げる五飛。
……にしても、刈り取る者が死んだのに拳銃が消えないのは何故だ?
そんな疑問を抱いていると、最後に空中を飛んでふわりと俺の隣に降り立つ者がいた。
それが誰なのかは、考える間でもないだろう。
刈り取る者だ。
ただし、その刈り取る者は足立に使われていた刈り取る者ではなく、タルタロスで俺と召喚の契約をし、シャドウからそれ以上の存在となった刈り取る者。
その雰囲気は、それこそ足立の刈り取る者と比べても明らかに上だ。
そして刈り取る者と俺は召喚の契約で結ばれているので、何を言いたいのか理解出来る。
自分の同類を倒してきたと。
「これ以上ないタイミングだな。……さて、取りあえずお前が有していた刈り取る者は3人……いや、3匹か? とにかく倒した。それ以上いても、恐らく他の面々が倒している筈だ」
狛治がまだ来てないが、狛治も刈り取る者と戦ってるんだろうか。
あるいはそれ以外の者……具体的には、炎獣が倒しているのかもしれないな。
とはいえ、俺と契約をする前でも刈り取る者は結構な強さを持つ。
狛治ならともかく、炎獣では……数で押さないと、倒すことは出来ないだろう。
もっともそれはつまり、数で押せば勝てるという事なのだが。
「お前……お前ぇっ! お前さえ、お前さえ、お前さえいなければぁっ!」
恐らく足立にとって、刈り取る者が奥の手だったのだろう。
実際、ムラタ達は容易に倒したようだったが、その強さは足立が奥の手とするまでの実力はあった筈だ。
……とはいえ、俺の召喚獣の刈り取る者に比べれば、どうしても劣るのだが。
そんな風に思っていると、足立の激高を感じたのか、それとも本能なのか、あるいは足立が俺をどうしても許せないと感じたのか……ともあれ、ワダツミと戦っていた筈のマガツイザナギが、俺の方に向かってくる。
そんなマガツイザナギの行動はワダツミにとっても、そして堂島にとっても意外だったのか反応が一瞬遅れ……
「馬鹿が」
こちらに向かってその手にした刃を手に突っ込んでくるマガツイザナギ。
それを見ながら、俺は手で他の面々を制しつつ空間倉庫からゲイ・ボルクを取り出し……そして一瞬の交差。
次の瞬間、マガツイザナギまるでそこに存在していたのが嘘のように消滅するのだった。
「呆気ない。……うん?」
マガツイザナギを倒しはしたが、ペルソナというのは別に生き物ではない。
やられても、ペルソナ使いがいればまた召喚出来る。
それでもペルソナがやられるとその衝撃がフィードバックされ、ダメージとなり、すぐには再度召喚出来ない。
その間に足立を捕らえるようにと堂島に言おうとしたのだが……その足立は、マガツイザナギを倒された衝撃から顔を押さえて大きくのけぞり……次の瞬間、どこからともなく飛んできた黒い何か……シャドウか何かと思しき存在が、その身体にぶつかり、足立の体内に入っていくのだった。