ガンダム系の世界……それは、俺にとってはある意味で慣れた世界だった。
SEED世界、W世界、UC世界、X世界。
ガンダム系の世界だけで、既に4つの世界に行った事があるのだ。
嫌でも慣れるというものだろう。
とはいえ、ヒューマンデブリという名の奴隷が存在する以上、この世界は色々と酷い世界でもあるのは間違いないだろう。
そして何より驚いたのは、ヒューマンデブリというのの中で昌弘は最年長に近いという事だろう。
昌弘や他の者達が言っていたように、基本的にヒューマンデブリというのは使い捨ての消耗品として使われる。
海賊をしている者達にそのように使われているのを思えば、次々に死んでいくのは当然だろう。
「昌弘達が最年長って……」
俺が見た感じ、年齢は12歳か13歳くらいか?
小学校6年生とか中学1年生とか、そんな感じだ。
MSの操縦というのは、そう簡単なものではない。
俺の場合は今までMSに限らず多くの機体を操縦してきたので、機種転換訓練そのものはすぐに終わる。
それどころか、コックピットを見れば大体の操縦の仕方は分かってしまう。
しかし、昌弘のような子供達にしてみればMSの操縦はそう簡単に出来る事ではない。
ここに矛盾がある。
MSというのは、言うまでもなく非常に高価な代物だ。
……あるいは、この世界においてはMSは安いのかもしれないが。
使い捨てのヒューマンデブリであっても……いや、だからこそMSという高価な機体に乗せても、無駄にMSを失うだけになるのではないか?
そう疑問に思って尋ねると……
「クダルが、俺達を宇宙ネズミって言ってたじゃないですか。それが……」
そう言い、昌弘は自分の首の後ろを見せる。
するとそこには、妙な出っ張りが存在していた。
「何だ、これ……?」
「阿頼耶識システムって奴です。これがあれば、MSを自分の手足のように使えるので」
「なるほど」
その説明は、俺にとっても分かりやすいものだった。
自分の乗っている機体を操縦して動かすのではなく、意識するだけで動くというのはT-LINKシステムと同じようなものだったのだから。
とはいえ、T-LINKシステムには阿頼耶識システムとやらのような首の後ろの出っ張りを作る必要はないが。
「さっきクダルが言ってた、宇宙ネズミってのも、この事」
「……ああ、そう言えば言ってたな」
クダルが俺達を見つけた時、宇宙ネズミがどうこうと言っていたのを思い出す。
宇宙ネズミと言われた時、昌弘達が微かにだが嫌そうにしていたのを考えると、宇宙ネズミというのは侮蔑の言葉なのだろう。
とはいえ、聞いた限りでは阿頼耶識システムというのはかなり便利なシステムのような気がする。
T-LINKシステムと同じように動かせるのなら、尚更だ。
シャドウミラーでは、一応ET-LINKシステムという、T-LINKシステムの簡易版とでも呼ぶべきシステムも開発されている。
そちらではT-LINKシステム程ではないにしろ、ある程度機体の操縦補助が行えてるという事だったが、阿頼耶識システム……いや、阿頼耶識でいいか。とにかくその阿頼耶識はET-LINKシステムよりも機体の操縦性は上のような気がする。
もっとも、阿頼耶識を使うにはあの首の後ろにある出っ張りを用意する必要がある以上、それを嫌がる者も多いだろうが。
「とにかく阿頼耶識については分かった。で、他に聞くのは……何がある?」
シーラに視線を向けると、そのシーラは大きく息を吐いてから昌弘達に尋ねる。
「貴方達は、ヒューマンデブリと呼ばれているらしいですが、それでいいのですか?」
「それでいいって……だって、俺達がヒューマンデブリなのは間違いないし」
「己の運命を打ち破ろうとは思わないのですか? このままでは、いつまでもあのガロウ・ランの如き男にいいように使われるだけですよ」
シーラの口から再び出た、ガロウ・ランという単語。
それが分からなかったのか、昌弘の隣にいる子供が恐る恐るといった様子で口を開く。
「えっと、その……さっきも言ってましたけど、ガロウ・ランって何ですか?」
「口にするのも汚らわしい者達です。……中には良いガロウ・ランもいますが、大半のガロウ・ランはそのような者達です」
「……それを言うなら、ヒューマンデブリの俺達だって、汚い存在じゃん」
子供の1人がそう呟くのが聞こえてくる。
本人としては、別にシーラに言い返すつもりではなかったのだろう。
ただ、自分の思った事を素直に口に出しただけといった感じか。
実際にシーラには聞こえていなかったし。
この連中、長年――具体的にどのくらいの間かは分からないが――ブルワーズでヒューマンデブリとして使われてきた為に、それが染みついてしまっているのだろう。
ましてや、子供となると成長期だ。
ヒューマンデブリの扱いが教育として身体に染みついてしまっている者もいるのだろう。
全ての子供がそれを受け入れる訳ではない。
中にはそれを受け入れず、ふざけるなと反発する奴もいるだろうが……所詮は子供だ。
大人には力で敵わない。
そうした経験により、昌弘を含めた子供達にはブルワーズに逆らえないという認識が生まれてしまったのだろう。
さて、これらの話を聞いたところで、これからどうするべきか。
いっそすぐにでもニーズヘッグを出して転移でホワイトスターに戻るか?
それはありと言えばありだが、この世界がガンダム系の世界であると知った以上、出来ればこの世界独自の技術とかを確保したい。
となると、ゲートを設置する必要がある。
だが、ゲートは宇宙船とかそういう場所に設置出来るようなものではない。
地球とか月とか火星とか……今まで設置したのは、そういう場所だ。
現在のこのブルワーズがどこにいるのか分からない以上、どうしようもないな。
となると、まずはその辺から話を聞くべきだと思ったんだが……
「そうか、分からないか」
シーラと話していた昌弘達だったが、俺の質問に答えられる事は殆どなかった。
何しろ自分達が現在どこにいるのかも分からないのだから。
宇宙にいるのは間違いないが。
しかし、それ以上の事となると……うん。難しいらしい。
唯一分かったのが、アリアドネという一種の交通システム? いや、色々と話を聞いた感じだと灯台とかそういうのの方が印象的には間違っていないか? ともあれ、それが地球から火星とかに行く時に使うものらしいが、宇宙海賊のブルワーズは当然そういうのは使えない。
また、他にもそういうのを使えない、あるいは使いたくない者が現在ブルワーズのいるようなアリアドネの影響下にない場所……いわゆる裏道を移動するらしい。
この裏道はいわゆるデブリ帯で、エイハブ・リアクターが多数あるとか。
「エイハブ・リアクター? 何だそれは?」
再び分からない単語が出て来たので、そう尋ねる。
さっきシーラがガロウ・ランについて話した時、昌弘達が抱いていたのはこういう思いだったのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺は昌弘達にエイハブ・リアクターについて尋ねるが……
「うう……一体何が……」
「寝てろ」
ごっ、という音と共に、目を覚ましかけたクダルは再び気絶する。
「うわぁ……」
子供達の1人がいきなりの光景にそんな声を上げるが、そこにはクダルに対する同情の色はない。
寧ろざまあみろといったような思いすら抱いているように思える。
「えっと、その……何でエイハブ・リアクターについて知らないんだ?」
「色々と事情があるんだよ。それで、エイハブ・リアクターについて教えてくれ」
「……分かった。MSの動力源だよ。ただ、エイハブ・リアクターを使うとエイハブ・ウェーブってのが出て、通信とかそういうのが使えなくなる」
「なるほど」
つまり、ミノフスキー粒子やNジャマー的な効果を持つ動力炉といったところか。
微妙に使いにくそうだな。
動力炉として使った時点で自動的に電波阻害効果が発揮されるのだから。
これがミノフスキー粒子なら、それを散布すれば、Nジャマーなら起動すれば電波阻害効果が発揮されるが、エイハブ・リアクターの場合、MSを動かす為に起動した時点で自動的に電波阻害効果が発揮されるのだ。
他にも幾つか特殊な効果があるという話だったが、これについては昌弘達もあまり詳しくないらしい。
また、この世界の事情とかそういうのについても、詳しい話は勿論、大雑把な内容ですら分かっていなかった。
一応火星とかに移植がされているというのとか、木星とかにも移住はしていないが人類が進出してるってのはなんとなく分かったが。
何でそこまで詳しい事情を知らない?
そう思ったが、昌弘達は消耗品のヒューマンデブリとして扱われていた以上、教育の類がされている筈もない。
勿論、教育がされていないからといって何も勉強出来ない訳でもないが……宇宙海賊である以上、そんな勉強をする道具とか、そういうのはそう簡単に入手出来るものではなかった。
例えば小学生になるかどうかという時から少年兵としての訓練だけしかしてなかった者が、歴史とかそういうのを分かるかという問題だろう。
……まぁ、その少年兵に敵を憎悪させる為に間違った歴史を教え込むとかしていれば、話は別だが。
ただ、ブルワーズにおいてはそういうのはないらしいし。
そうなると、やはりこの世界について色々と詳細を聞くには……
そう思い、床で気絶しているクダルに視線を向ける。
やっぱりこいつか?
ただ、クダルからは話を聞くにも素直に話すとは思えない。
それこそ徹底的に痛めつけて、それで話を聞いても真実を話すとは思えないのだ。
あるいは素直に話したとしても、そこには自分に都合のいい嘘を混ぜ込むくらいの事はしていてもおかしくはない。
少し接しただけだが、昌弘達からクダルについての話を聞く限り、それは決して間違ってはいないだろう。
となると、他の奴に聞く?
いや、けどこのブルワーズというのは海賊だ。
そうである以上、全員がクダルのような性格ではないにしろ、似たような性格の者が大半だろう。
全員が全員そのような者ではないと思うが、それでも大半はそういうタイプなのは間違いない。
となると……
「昌弘。このブルワーズというのは、宇宙海賊としてどのくらいの規模だ?」
「え? うーん、その……以前ちょっと聞いた話だと、中堅よりは少し大きいくらいだって言ってた」
「なるほど。そうなると、そこそこの戦力は有していると思ってもいい訳か。具体的には? この船1隻だけという事はないだろう?」
「強襲装甲艦が2隻と、輸送艦が1隻」
「へぇ、なかなかの数だな」
ブルワーズの戦力は、俺にとっても少し驚く程に充実していた。
てっきり船は1隻だけかと思っていたのだが、輸送艦も含めて3隻もあるとは。
軍艦に限らず、船の類は維持するだけでも相応に費用が掛かる。
いわゆる、ランニングコストという奴だな。
それをどうにか出来ているのは、さすが海賊の中でも中堅どころといったところか。
「艦艇については分かった。それで、MSは?」
「15機」
「……なるほど」
こちらも俺の予想以上。
例えばUC世界においては、MS3機で1小隊、そして3小隊で1中隊だ。
つまり、MSの中隊以上の戦力をブルワーズは持っているという事になる。
いやまぁ、同じMSを使っているとはいえ、小隊の編制とかも同じだと考えるのはどうかと思うが。
そうなると……可能か?
いや、可能かどうかというだけなら、こうして俺が船の内部にいる時点でどうとでもなるだろう。
ましてや、この強襲装甲艦はブルワーズの旗艦だという話だし。
そうなると、当然この船の中にブルワーズを率いている奴がいる。
なら、その男をどうにかすればブルワーズを壊滅……いや、乗っ取るのか? そういう事も可能な筈だ。
幸いにも、現在床にいるクダルはMS隊を率いる男で、ブルワーズの実質的なNo.2らしい。
そのクダルをこうして無力化したのは、このブルワーズを乗っ取る上で大きな意味を持つ。
まだホワイトスターと連絡が出来ない現状、こっちの手札となる物は多ければ多い程にいいのだから
「ちょっと、アクセル。何を考えてるの?」
俺と昌弘の会話で何か不穏な事を考えていると理解したのか、マーベルが尋ねてくる。
この辺、俺と一緒にバイストン・ウェルにおいて一緒に戦い抜いた相棒――恋人でもあるが――というだけの事はあるのだろう。
「何をというか、今の状況ではこっちの手札は多い方がいいだろう? だからこのブルワーズを乗っ取ろうと思ってな。そうすれば、海賊の被害も減るだろうし」
「……やっぱりアクセルよね」
しみじみと呟くそれは、呆れながらもどこか喜んでいるようにも思える。
数年ぶりに会うので、マーベルにも色々と思うところはあるのだろう。
もっとも、転移して合流した先が宇宙海賊の強襲装甲艦の中だったのだから、お互いに……いや、シーラも合わせると3人でゆっくり話せるのはまだ少し先になりそうだが。
「どうだ? 俺達に協力すれば、ヒューマンデブリなんて馬鹿げた待遇から抜け出せるぞ」
そんな俺の言葉に、昌弘達は驚きの表情を浮かべるのだった。