狛治と刈り取る者の姿を見て、昌弘達は素直に俺達に協力する事を約束する。
クダルの方は……うん。自分の身体――正確には身体の上にあった俺の影――から刈り取る者が召喚されたのを見て、目があらぬ方向に向けられている。
何も知らない状況であのような事になれば、影ではなく自分の身体から刈り取る者が姿を現したという風に思えてもおかしくはないのかもしれないな。
現実逃避なのか、それとも精神に異常が生じたのか。
その辺は生憎と俺にも分からなかったが、クダルが大人しくなったのは俺にとっても悪い話ではない。
「えっと、アクセルさん……だっけ? その、この2人は……」
昌弘が他の仲間達と共に恐る恐るといった様子で狛治と刈り取る者を見る。
刈り取る者は勿論、狛治も外見的には背中に竜翼があり、額からは角が1本伸びている。
普通に考えれば、人間には思えない。
……実際、狛治は元鬼だったのが、俺との召喚の契約で血を飲んだ事により、今のような外見になった。
宇宙ネズミ云々とか、阿頼耶識で気にしていたようだが、狛治を見ればそんなのは大した事はないと思えるだろう。
「そう言えば、まだ自己紹介もしてなかったな。これからクーデターを起こすんだから、お互いに自己紹介くらいはしておくか」
狛治と刈り取る者について聞きたそうな昌弘の言葉をスルーして、そう話す。
普通に考えれば、クーデターを起こすのにお互いの名前も知らないというのは、どうかと思うし。
そんな訳で、それぞれ自己紹介をしていく。
昌弘、アストン、デルマ、ビトー、ペドロ。
それがこの5人の名前らしい。
そうしてお互いに自己紹介を終えると、次にどうやってクーデターを起こすのかの話となる。
「ブルワーズの戦力は、強襲装甲艦が2隻に輸送艦が1隻だったな。その割合だと、輸送艦の方はやっぱり戦力が少ないと思っていいのか?」
「あ、うん。ただ、輸送艦には生活物資とかそういうのもあるから、全く戦力がいないって訳じゃないけど」
「とはいえ、そこまで気にする必要はない、と。そもそもこの艦が旗艦なんだから、ボスを押さえてしまえばいいか。そうすれば他の者達も容易に攻撃をしたりは出来ないだろうし」
「だが、海賊……いわば山賊や盗賊と似たような存在なのだろう? であれば、首領を捕らえたと聞けば、これ幸いと攻撃してきて、自分がボスになりたいと考える者もいるんじゃないか?」
狛治の言葉に、昌弘達は正気を失っているクダルに視線を向ける。
どうやら昌弘達の目から見て、クダルならそういう事をしそうだと思われているのだろう。
「クダルは取りあえずこれでいいとして、他にはそういう奴はいるか?」
「え? うーん……何かあったらそういうことをしようとする人はいるかもしれないけど、ブルワーズではMS隊を率いるクダルが力で支配していた形だったから」
「……クダルが支配していたのなら、ブルワーズのボスはどうなんだ?」
「ブルックはそれなりにクダルと古い付き合いだから、その辺は問題ないんだと思う」
ブルックというのが、どうやらブルワーズのボスらしいな。
「となると、やっぱりそのブルックってのを押さえてしまえばいいのか。……もしクーデターを実行した場合、お前達の仲間、他のヒューマンデブリはどうするか分かるか?」
昌弘達の話によると、ブルワーズで使われているヒューマンデブリは50人近いらしい。
それこそ頻繁に死んでは追加されといった感じになっているので、正確な人数は分からないとか。
そんなヒューマンデブリだが、子供であっても銃を持てば十分な戦力となるのは間違いない。
ましてや、そういう風に教育をされてきただけに、ブルワーズに逆らうという選択が出来ず、言われるがままにこちらと敵対するような者もいるだろう。
そうなると、クーデター実行時にヒューマンデブリ達が大きな被害を受けないとも限らない。
だからこそ、出来れば実際にクーデターを起こす前にヒューマンデブリはこっちの味方に引き込んでおきたい。
何しろこちらには拠点がないし、俺の組織もない。
地球なり月なり火星なりに行ってゲートを設置すれば、シャドウミラーの面々を呼び込めるだろう。
それこそX世界の時のように勢力の1つとして行動する事も可能かもしれない。
もしくは、セイラのようにこのオルフェンズ世界においても高貴な、あるいは尊い血筋の持ち主を担ぎ上げて国を作るというのもありかもしれない。
だが……こうして宇宙にいる以上、そういう事は出来ないのだ。
そういう事をするには地球、月、火星といった場所に行ってゲートを設置する必要がある。
そんな諸々をする為にも、前段階とした何らかの戦力……というか、組織は必要だ。
このブルワーズを乗っ取るという事を考えたのも、その辺が理由だ。
ヒューマンデブリの子供達を戦力として使うのはどうかと思うが、聞いた話によるとブルワーズのMS隊はそれを率いるクダル以外は全員ヒューマンデブリらしいし。
……そしてヒューマンデブリは全員が阿頼耶識の手術を受けている。
それに対して、クダルは阿頼耶識を使わない普通の、一般的な操縦方法で昌弘達以上の強さを発揮してるとか。
何でもMSが高性能だというのもあるらしいが、純粋に操縦技術という点では阿頼耶識を持つ昌弘達に勝るだけの実力があるというのは……うん。戦力として見れば悪くはないのだろう。
悪くはないのだが、その精神性がちょっとな。
シーラからもガロウ・ランの如き者と言われているし。
もしどうしてもクダルを使いたいのなら、それこそ鵬法璽を使って魔法的な契約をするしかないが……そこまでして欲しい戦力かと言えば、それは否だ。
MSの操縦という意味でなら、俺は全く問題ないだろう。
マーベルは……オーラバトラーとMSでは操縦方法が大きく違うが、それでも最強の聖戦士と呼ばれたマーベルだ。オーラバトラーとMSの違いに慣れれば、相応の実力を発揮出来るだろう。
シーラはMSの操縦は無理だろうから、艦長として活動して貰う感じか。
そんな訳で、クダルはいらない。
もし鵬法璽を使ってでもクダルを仲間に引き込めば、シーラやマーベル、そして何より昌弘達が不満を持つだろうし。
素直に殺しておいた方がいいかもしれない。
クダルの扱いは後で昌弘達に任せよう。
「クダルの扱いはお前達に任せる。それは他のヒューマンデブリを引き込める条件になるか」
「本当に!?」
俺の言葉に、一瞬の躊躇もなく昌弘が叫ぶ。
他の4人も俺の言葉に目を輝かせている。……もっとも、その輝きは憎悪の輝きだったが。
それだけクダルに対する恨みが子供達の中にはあるのだろう。
「ああ、本当だ。それ以外にも、俺がこのブルワーズを乗っ取ったら、お前達はヒューマンデブリではなく、普通の人間として扱う。……まぁ、出来れば新しい組織に所属して欲しいとは思うが、もし帰る場所があるのなら、組織を抜けてもいい」
「それは……嬉しいけど、多分帰る場所がある奴なんて……」
クダルに向けていた憎悪の光は消え、悲しみの色を瞳に宿す昌弘。
「昌弘とかはそうかもしれないけど、ヒューマンデブリは50人近くいるんだろう? なら、その中には1人や2人くらい帰る場所がある者がいる可能性はあるんじゃないか? もっとも、すぐに帰りたいと言った場合は金は渡すが自分で帰って貰うしかないが」
「そんな……そんなの無理だよ」
「かもしれないけど、どうしようもない事もあるだろう? あるいは、乗っ取ったブルワーズ……いや、乗っ取った場合はシャドウミラーに名前を変えるけど、シャドウミラーとして行動している時、そいつの帰る場所の近くまで行ったら送る事も出来るかもいしれないけど」
「それなら……多分、協力してくれる連中も多くなると思う」
「なら、話は決まったな。本来ならもう少し計画をしっかり練って行動したいところだけど、クダルの件もあるし、そういう訳にはいかないんだよな」
ブルワーズの実質No.2のクダルがこの有様である以上、こっちに時間的な猶予はあまりない。
この状況で宇宙海賊としての仕事をするとか、そういう風に決断をしたら洒落にならない。
勿論、普通に考えて宇宙海賊としての仕事をするにしても、まずは綿密に敵の情報を調べるとかはするだろうから、そう簡単に襲撃したりはしないと思う。
思うが、それはあくまでも俺の予想だ。
もしかしたら、そういうのを何もせず、標的を見つけたら即座に襲撃といった風に考えていてもおかしくはない。
「わ、分かった。じゃあ、すぐに他の連中にも話を通してくる!」
「そうしろ。……ああ、その前にここはどういう区画だ? 見たところ部屋があるみたいだが」
「えっと、ここは……何だっけ?」
「倉庫だよ。いらないけど捨てるのはどうかって奴を置いてある部屋だか、あまり人がやってきたりはしないんだって」
昌弘の言葉に、そう他の子供が返す。
なるほど、床とかが汚いと思ったけど、掃除をしてないとかもあるけど、倉庫代わりに使われていて、あまり人が来ないからなのか。
……なら、クダルは何をしにここに来たんだ?
そんな疑問を抱くが、今はそれよりもここがあまり人の来ない場所というのが大きい。
「なら、取りあえずここを拠点にする。昌弘達は他の子供達を連れてきてくれ。どうしてもクーデターに参加出来ないという奴がいた場合も同様だ。ただし、縛って身動き出来ない状態にしてな。クーデターに参加しないのにその情報を知ったとなると、最悪上に知らされる可能性もある」
本来ならそういう連中は殺してしまった方が手っ取り早いのだろう。
だが、昌弘達の様子を見る限り、ヒューマンデブリ同士の連帯感は強い。
無理もない。大人は自分達を使い捨ての道具程度にしか見ていないのだ。
信頼出来る者は同じヒューマンデブリの仲間くらいしか存在しないだろう。
だからこそ、もしクーデターに参加しない、それどころか上に知らせるという奴がいたら、殺せとは言えない。
ここまで縛ってでも連れてこいと言っておいた方がいいだろう。
そういう連中は現在は極端に上に怯えているだけだ。
クーデターを成功させ、俺達がブルワーズを乗っ取る事に成功すれば、素直にこちらの戦力となる。
というか……問題なのは、具体的にどのくらいの者達が大人しく従うかだよな。
あるいは逃げるのでもいい。
MSを使った戦闘にならなければ、現状でならどうとでも対処の方法はあるのだから。
「分かった、すぐに行ってくる!」
俺の言葉に頷き、昌弘達は俺達の前から走り去る。
そうして子供達がいなくなり、残ったのは俺とマーベル、シーラ、狛治、刈り取る者、おかしくなったクダルだけだった。
「さて、俺達だけになった訳だけど……狛治は何があってもいいように準備をしておいてくれ。ここがあまり人の来ない場所だから多分大丈夫だとは思うけど、それでも一体何が起きるのか分からないし」
「そうだな。少し周囲の様子を見てくる」
「……狛治だから大丈夫だとは思うけど、見つかるなよ」
「任せろ。子供達以外の者、大人が近付いて来たら倒せばいいか?」
「一応殺さないようにな。人手は必要だ」
クダルのような例外はともかく、強襲装甲艦が2隻に輸送艦が1隻だ。
そして子供達の数は大体50人くらい。
とてもではないが、それだけの人数で3隻を動かす事は出来ないだろう。
あるいは1隻だけ使って残り2隻は俺の空間倉庫に……どうだろうな。
俺の空間倉庫は基本的にどのような大きさであっても収納出来る。
それはシャドウミラーの本拠地であるホワイトスターを収納していた事を考えれば分かりやすいだろう。
だが、生き物を収納出来ないという欠点もある。
そしてブルワーズは海賊だ。
半ば偏見かもしれないが、例え宇宙であっても……いや、宇宙だからこそか?
船の中にはネズミやゴキブリがいてもおかしくはない。
まぁ、最悪スライムを使ってそういうのを全て吸収してしまえばどうにかなるんだが、ブルワーズを乗っ取って新たにシャドウミラーとして活動するにも、大人は必要だろう。
特に宇宙海賊ではなく……うーん、何になるんだろうな。やっぱり傭兵がそれらしいか?
とにかく何をやるにしても書類仕事とかは必須だ。
そして俺達はまだこの世界の事を殆ど知らない。
だからこそ、そういうのが出来る人材は必須となる。
……まぁ、海賊の中にそういうのが出来るのが具体的にどのくらいいるのかはちょっと分からないが。
ただ、それでも0ではない……と思いたい。
ブルワーズも海賊とはいえ、中堅くらいの規模の海賊なのだから。
そうである以上、まさかどんぶり勘定でやってたりはしないだろう。
「分かった。アクセルがそう言うのなら、それに従おう」
そう言い、狛治は俺から離れていく。
意外な事に、刈り取る者も狛治と共に離れていった。
俺の召喚獣同士、通じるところがあるのかもしれないな。
あるいは、俺とマーベル、シーラに少しでも時間を作ってやろうと考えたのかもしれなかったが。