幸いな事に、ブルワーズで……というか、恐らくこのオルフェンズ世界で使われている銃火器その物は俺の知っている銃火器とそう違いはなかったらしい。
実際には細かなところでは色々と違っているのだろうが。
とにかく昌弘を始めとしたヒューマンデブリの面々は、俺が渡した銃火器は普通に使えるらしいので安心した。
子供達の方は、俺が空間倉庫から銃火器を取り出した事で驚いていたが。
……昌弘達はヒューマンデブリとして育ってきたので、常識を知らない。
それはつまり、この世界にも魔法というのがあると教え込めば……駄目か。
それを素直に信じたら信じたで、何か余計な事を他人に喋りそうな気がするし。
「全員武器は持ったな。……一応言っておくが、こちらから攻撃するのはあくまでも向こうがこっちに攻撃を仕掛けて来た時だけだ。また、その時も可能な限り殺さないように手足を撃ってくれ」
その言葉に、何人もの子供達が不満そうな様子を見せる。
まぁ、その気持ちは分からないでもない。
ヒューマンデブリとして自分達を使い捨ての消耗品として使ってきた者達に復讐出来るかもしれないのだ。
とてもではないが俺の言葉を素直に受け入れる事は出来ない者もいるだろう。
「いいか、不満を抱いている奴もいるかもしれないが、よく考えてみろ。俺達はこのブルワーズを乗っ取る。そうなると……まぁ、海賊はちょっとやる気にならないが、ブルワーズを乗っ取ったところで出来るのは、傭兵とかだろう。あるいはジャンク屋といったところか。どちらをやるにしろ、書類仕事とかは必要になる。……それがお前達に出来るか?」
「う……それは……」
俺の言葉に、不満そうにしていた子供が何も言えなくなる。
「だろう? ……というか、今更だがお前達は文字の読み書きは出来るのか?」
そう言うが、誰も自分は出来ると言わない。
ブルワーズの連中にしてみれば、ヒューマンデブリに文字の読み書きは必要ないと判断したんだろうな。
とはいえ、それは馬鹿な事だとは思うが。
何かあった時……例えば海賊をしていても、文字が読めないと場合によっては貴重品とかを間違って捨てるとか、そういう事があってもおかしくはないのだから。
俺は何だかんだと識字率の高い場所に行った事が大半だったので、これはちょっと予想外だった。
取りあえず、俺達がブルワーズを乗っ取ったら読み書きと簡単な計算くらいは覚えさせよう。
そう決意する。
「これからは文字の読み書きや簡単な計算くらいは出来た方がいい。このままお前達がブルワーズにいたり、あるいは自分の道を見つけてそのような行動をするにも、読み書きや計算の有無で待遇とかも大きく変わってくるし」
ヒューマンデブリだから、読み書きや計算が出来ないのか、それともこのオルフェンズ世界はX世界みたいに荒廃していて、読み書きや計算が出来ないのが普通なのか。
その辺はちょっと分からないな。
「分かりました。……いいよな、皆。大人はなるべく殺さないようにするって事で」
昌弘の言葉に、他の子供達……特に最初大人を殺すと口にしていた子供も頷く。
完全に感情で納得した訳ではないのだろうが、それでも今の説明で取りあえず自分を納得させたのだろう。
「よし、じゃあ行くぞ。マーベル達はどうする?」
「私達も一緒に行くわ。ここにいて、もしブルワーズの人達に見つかったら対処出来ないもの」
「私もマーベルと同意見です」
「……えっと、でも……その……姉ちゃんみたいな人達が一緒にいると……」
マーベル達の言葉を聞いた子供の1人が、心配そうに言う。
その子供が何を心配しているのかは、俺には十分に分かった。
マーベルにしろシーラにしろ、間違いなく美女と呼ぶに相応しい美貌の持ち主なのだから。
ダンバイン世界で俺と活動していた時から3年の時が経過し、完全に少女から大人の女になっている。
そんな2人の女が海賊の前に……それも武闘派として名高い海賊達の前に姿を現せば、どうなるか。
間違いなく、自分達の欲望を満たす為に捕らえようとするだろう。
「構わないわ。敵の意識がこちらに向けられるのなら、それはつまりアクセルや貴方達から多少なりとも意識が逸れるという事でしょう?」
子供達が何を心配しているのかを知ったマーベルが、あっさりとそう言う。
「いいのか?」
「いいのよ。そういう視線には私もシーラもそれなりに慣れているし。ねぇ?」
「否定はしません。特に最近はそのような視線を向けて来る者が多かったのも事実ですから」
「だろうな」
マーベルの言葉にシーラがそう言うのに、俺は頷く。
女として非常に魅力的なだけに、そのような視線を向けられる事に慣れているのも事実だろう。
もっとも、慣れているからといって不愉快じゃないかと言えば、それは当然の事なのだが。
「女王という立場を退くという事で、色々と思うところがあった者もいたのでしょう」
シーラの場合は、単純に女としてではなく、その件もあったらしい。
もっとも、元女王という立場と現女王という立場では、当然ながら後者の方が意味は大きい。
そうである以上、女王を辞めた後で言い寄ってくる相手が増えたのは、純粋にシーラの女としての価値を見出した者の方が多いと思う。
「とにかく、行くのなら俺の側から離れるなよ。それと……」
右手を白炎にし、そこから炎獣を生み出す。
犬の炎獣だが、その大きさは普通の犬よりは明らかに大きい。
シベリアンハスキーくらいの大きさか?
「え? わぁっ!」
子供達の1人がそんな炎獣を見て驚きの声を上げる。
まぁ、こうも露骨に魔法の存在を見せつけられれば、それで驚くなという方が無理だろう。
「安心しろ。これは炎獣。……簡単に言えば俺の手下だ」
常識の類すら殆ど知らないヒューマンデブリだ。
魔法だとか何とか言っても、それを理解出来るとは思えない。
そうである以上、どのような存在なのか簡単に説明していたおいた方がいいだろう。
「て、手下……ですか?」
「そうだ。ついでだからもう少し出しておくか」
戦力としては、狛治と刈り取る者、そして俺がいるというだけで、もう十分だ。
だが、子供達には出来るだけ被害を出したくない。
中には昌弘達に説得されたものの、それでもやはりブルワーズの大人達に逆らうのは怖いと思う者もいるだろう。
それを少しでも和らげる為に、炎獣を生み出す。
ただし、マーベルやシーラの炎獣と違って、リスのような小さな炎獣だが。
MSとかを相手にするのは難しいだろうが、人を相手にするにはこの程度の炎獣でも十分な戦力となる。
「お前達を攻撃してくる相手がいたら、この炎獣が自動的に守ってくれる。……もっとも、狛治や刈り取る者がいる以上、そんな事になる可能性は少ないが」
「当然だろう。この世界の人間は、俺の敵ではない」
狛治はこの世界とか普通に言ってるが、ここにいるのは昌弘達だけなので、特に疑問に思っている様子はない。
とはいえ、大人のいる前でそんな風に言わないように後で注意していた方がいいかもしれないな。
「子供達にも言ったが、出来る限り殺さないで欲しい」
「分かった」
以前であれば、殺すなという言葉をこうも素直に狛治が受け入れる事はなかっただろう。
だが色々な経験をした影響によってか、今の狛治はそれなりに臨機応変に活動出来るようになっている。
刈り取る者は……それなりに自我はあるが、基本的に俺の言葉に絶対服従なので問題はない。
唯一不安なところは、刈り取る者は強力な魔法を使えるが、その威力が強すぎるということだろう。
元々刈り取る者として活動していた時から強力な魔法を自由に使っていたが、俺の血を飲み、召喚獣となったことで、その能力は更に強化されている。
下手にメギドラオンとか使おうものなら、それこそこの強襲装甲艦が中から破壊されてしまう可能性があった。
そういう意味では、手加減のしやすい素手での戦闘を得意としている狛治と比べて、刈り取る者はここでの戦闘が向いていないっぽいな。
まぁ、それならそれで色々と手はあるし、魔法ではなく刈り取る者が持っている銃身の長い拳銃を使えばいい。……それでも強襲装甲艦の装甲を内部から貫くような事になったりしたら、どうかと思うが
「とにかく行くぞ。……刈り取る者、お前はクダルを引きずってこい。昌弘、まずはブリッジに案内しろ。ブルワーズを率いているブルックってのはブリッジにいるんだな?」
刈り取る者にクダルを連れてこさせたのは、クダルをこの場に置いていくのは少し不味いと思った為だ。
この辺は倉庫のように使われているので人はあまり来ないという話だったが、それでも絶対に来ないという訳ではない。
実際、俺達がここに転移してすぐにクダルや昌弘達がやって来たのだから。
今のクダルは精神的に問題があるので、もし敵に見つかっても戦力になったりはしない。
しないが、それでも万が一がある。
それなら縛ったまま連れていって、脅しや交渉の材料に使った方がいい。
ブルックというのがブルワーズを率いている人物なのは間違いない。
だが、MS隊という実戦部隊を率いているのはクダルなのだ。
実質的なNo.2のクダルがこうして捕らえられているのを見れば、ブルックを含めたブリッジのメンバーも大人しく降伏……はしないにしろ、士気が下がるのは間違いない。
あるいその身体の大きさから盾として使ってもいいし。
……ただ、昌弘達を見れば分かるように、そして俺と最初に接触した時の件からも分かるように、クダルは決して他人に好かれるような性格ではない。
盾にしても問題なく……いや、これ幸いと攻撃してくる可能性があったが。
まぁ、死んだら死んだでいい。
昌弘達の様子を見る限り、とてもではないがブルワーズの乗っ取りが終わった後で無事に解放するといった事は不可能だろうし。
そんな訳で、準備を整えると俺達は昌弘の案内でブリッジに向かうのだが……
「おい、デブリども。一緒にいるのは誰だ? そんな奴、うちにいたか?」
「いやいや、そうじゃないだろ。あの女を見ろよ。そそるぜ」
当然ながらブリッジに進む途中、通路で他の海賊達に会わないという訳にはいかない。
俺達がいた倉庫として使われていた場所からそれなりに進んだところで、2人の男と遭遇する。
最初は疑問、そして次にいい獲物が来たとマーベルとシーラを見て……その直後、動きが止まる。
「……え?」
「……は?」
その2人がそんな間の抜けた声を上げたのは、昌弘達が銃火器を手にしていたからか、これ見よがしにマーベルとシーラの横にいる犬の炎獣を見たからか、それとも狛治や刈り取る者といった人外の存在を見たからか、あるいは刈り取る者が手にしている、縛られたクダルを見たからか。
はたまた、それら全てが理由なのか。
ともあれ、男2人は目の前の現実を理解出来ない状態のまま、次の瞬間には狛治が前に飛び出て拳を振るう。
連続して2度。
それだけで鳩尾を殴られた男2人は気絶して床に倒れ込む。
今の一撃……もしかしたら、肋骨を折ってないよな?
取りあえず手加減をしてるのは、狛治の拳が男達の鳩尾を貫かなかった事から明らかだが。
「取りあえず死んでないならいいか」
「アクセルさん、その……この2人も、クダルみたいに縛って連れていくんですか?」
子供の1人が床に倒れた2人を見てそう聞いてくる。
どうするべきかを一瞬考えたが、俺はすぐにそれに対して首を横に振る。
「その連中はそのままでいい」
クダルのように、ブルワーズの中でも相応の地位がある者であれば話は別だが、子供達の様子を見る限りでは特にそういう感じでもないらしい。
その言葉に素直に納得する子供達。
……そのうちの何人かが、床に倒れた2人を睨み付けている。
多分、何か因縁の類でもあったんだろうな。
とはいえ、それでも手に持つ拳銃の銃口を向けたりしないのは、俺の指示に従っているからだろう。
「よし、このまま進むぞ。出て来た敵は基本的に狛治に任せてもいい」
「でも、それなら何で俺達に武装させたんですか? その……この炎獣とかいうのも」
昌弘の言葉に他の子供達も頷く。
実際、俺も少し過保護かとは思う。
だが、ヒューマンデブリの面々はこのブルワーズを乗っ取った後でシャドウミラーとして活動する上で、大きな意味を持つ。
何しろこのオルフェンズ世界のMSは阿頼耶識システムとかいうのがあるらしいし。
実際には阿頼耶識システムを使わず、普通に操縦するタイプもある……というか、そっちが一般的らしいが。
クダルの乗ってるMSも阿頼耶識システムは搭載していないらしいし。
ただ、阿頼耶識システムはこの世界独自のシステムである以上、未知の技術の収集を国是としているシャドウミラーを率いる身としては、決して見逃せない要素だ。
……まぁ、首の後ろの突起物を考えると、技術の収集はするが、それを実際に使うという事はないと思うが。
そんな風に思いつつ、俺はその辺については適当にはぐらかして昌弘達に案内されてブリッジに向かうのだった。