厄祭戦。
これがこのオルフェンズ世界において、文字通りの歴史の転換点となった出来事だ。
詳細についてはブルワーズのブリッジクルーに渡されたコンピュータにも入っていなかったが、これはブルワーズが海賊だからその辺の情報がないのか、あるいはこの世界そのもので隠されているのか。
その辺りはちょっと分からない。
分からないが、とにかくこのコンピュータに残っているデータによると、無人機のMAと人類が戦ったという事らしい。
このMAというのも、1機ではなくかなりの数がいて、人類は文字通り全滅寸前になったとか何とか。
そんな中、MSのガンダム、正確にはガンダム・フレームを使ってMAを倒した者達、通常セブンスターズと呼ばれる者達がギャラルホルンという組織を結成。
そのギャラルホルンが、現在はこのオルフェンズ世界の支配者といった感じか。
一応世界に国はある。
ただ、厄祭戦の影響か、俺が知っている国が多数存在するのではなく、それらの国が合併・吸収された形になっているが。
具体的には、ロシアやカナダ、アラスカを中心とするアーブラウ、アメリカとラテンアメリカを中心にしたSAU、ヨーロッパとアフリカ、中東、中央アジアを中心としたアフリカユニオン、日本や中国、インド、オセアニアを中心としたオセアニア連邦の4つ。
正確にはこれは国ではなく経済圏という扱いのようだが、実質的には国と認識しても間違いではないだろう。
そんな国々だが、基本的に軍事力の類は持っていない。
実際には自警団くらいの戦力はあったりするらしいが、MSのような軍事力はギャラルホルンによって完全に管理されている。
そういう意味では、この世界は歪なのだろう。
……見ようによっては、国が軍事力を持っていないので平和な国だという者もいるかもしれないが、海賊という存在を考えると、とてもそうだとは思えない。
ギャラルホルンか。
俺がこの世界で活動する上で厄介になるのは間違いない。
ただ、ギャラルホルンの影響力が一番強いのは地球で、それ以外ではそこまででもない。
正確には地球とその周辺……月にはアリアンロッド艦隊という、ギャラルホルンの中でも大規模な艦隊が存在するらしいのだが。
それでも厄祭戦が終わってから300年、曲がりなりにも地球を治めてきたと考えると、ギャラルホルンは優秀な統治機構なのは間違いない。
……ちなみに、このアリアンロッド艦隊の存在は俺にしてみれば微妙な存在だ。
何故なら、俺がネギま世界で魔法を習った時、魔法の始動キーとして使っていたのが『アリアンロッド』だったのだから。
混沌精霊になった今はもう、全ての魔法を始動キーや呪文の詠唱もなしに即座に発動出来るが。
まぁ、それは今更の話か。
ギャラルホルンの件はこれでいいとして……現在俺がいるのは、地球から火星に向かう途中の裏道とでも呼ぶべき場所だ。
正式な航路はアリアドネという灯台的な存在のある場所だが、そのアリアドネはギャラルホルンの物だ。
ブルワーズのように海賊であったり、あるいは密輸とか、それ以外にも表沙汰に出来ないような者達にしてみれば、現在ブルワーズがいるような裏道を通る訳だ。
そして火星は現在地球の植民地的な存在となっていた。
ちなみにデータによると、当初は火星と金星のどちらを開発するのかといった問題もあったようだが、最終的に勝利したのは火星。
現在の金星は、星そのものが牢獄という扱いになっているらしい。
実際には囚人ではなく一般人もそれなりにいるようだったが。
ともあれ、そんな訳で火星の方が発展しているのは間違いないが……半ば植民地という場所である以上、その富は地球に搾取されている。
しかもこのオルフェンズ世界の火星には、ハーフメタルという特殊な鉱物が存在しているらしい。
オルフェンズ世界のMSで使われている動力炉、エイハブ・リアクターから放射される、エイハブ・ウェーブという電子機器の類を使えなくなる……磁気嵐? ようは電波障害を生み出すのだが、ハーフメタルはその電波障害を防ぐ事が出来るらしい。
うん、この辺りの技術は俺にとっても魅力的だよな。
ちなみに木星の方にもそれなりに手を伸ばしているのだが、テラフォーミングはまだ行われておらず、テイワズという組織が半ば占拠している状況らしい。
そしてMSだが、特徴的な技術が幾つかある。
まずは高硬度レアアロイ。これはMSのフレームや武装とかに使われている金属で、エイハブ・リアクターの高出力に耐えられる頑丈さを持つ。その頑丈さはかなりのもので、300年前に起こった厄祭戦時のMSがまだ普通に可動出来たりするくらいらしい。
そしてMSの動力炉として使われているエイハブ・リアクター。
これは相転移変換炉で、物理的な破壊は理論上不可能な上、稼働している間は半永久的にエネルギーを生み出すという、動力炉として見ればかなり優秀な代物だ。
ただし、エイハブ・ウェーブによって電子機器の類が使えなくなったり、エイハブ・リアクターによって生み出された疑似重力によって高密度のデブリ帯が出来たりと難点も多い。
ちなみにこの高密度のデブリ帯というのが、現在ブルワーズがいるこの辺りの事だ。
……それはつまり、ここには結構な数のエイハブ・リアクターが眠っているという事になる。
そしてエイハブ・リアクターの製造技術は基本的にギャラルホルンしか所有していない以上、新しくMSを作るにはギャラルホルンからエイハブ・リアクターを購入するか、あるいは厄祭戦の時に機体が壊れて宇宙を漂っているMSの残骸からエイハブ・リアクターを取り出して使用するしかない。
この時、エイハブ・リアクターが理論上は破壊不可能だという頑丈さが大いに役立つ。
……取りあえずブルワーズを占拠して海賊を止めるとなると、何らかの方法で金を稼ぐ必要があるが、この辺りにあるエイハブ・リアクターを見つけ出して売るとかいいかもしれないな。
まぁ、それはともかくMSの技術についてだ。
次に、ナノラミネートアーマー。
これは小難しい理屈を抜きにしてその効果だけを説明するのなら、ビームや実弾兵器に高い防御力を発揮するというものだ。
ただし、質量物による物理攻撃には弱い。
具体的にどのくらいのビームなら無効化出来るのかは、分からないが。
例えばアプサラスⅢの大型メガ粒子砲とかでも無効化出来るのかどうか。
もしくは、シャドウミラーで使われているビーム兵器はどうか。
色々と試してみないと分からない。
ただ、このナノラミネートアーマー。基本的には塗料という形なので、機体に塗ればそれだけで効果を発揮するという優れ物だ。
とはいえ、塗料だけに攻撃とかで剥離すれば、次にそれを防ぐのは難しくなるのだが。
ぶっちゃけ、エイハブ・リアクターとか高硬度レアアロイとかも興味深いが、一番興味深いのはこれだよな。
攻撃を続けて受ければ塗料は剥離してしまうという事だが、それはつまり最低でも1回は攻撃を受けても問題がないのだから。
それも塗料を装甲に塗るだけで効果を発揮する代物だ。
勿論、塗料を塗るとはいえ、本当にただ塗るだけでは意味がない。
きちんとした手順が必要な道具を使って塗らないといけないのだろう。
それにエイハブ・リアクターによる特性や反応によって使える物なので、エイハブ・リアクターとセットでなければ意味がないというのは大きな欠点でもある。
火星のハーフメタルという、オルフェンズ世界独自の鉱物であったり、諸々の技術であったり。
伊邪那美大神によってこの世界に飛ばされた……いや、違うな。俺が伊邪那美大神に飛ばされたのは、あくまでもあの黒い空間の中だ。
その空間から俺をこのオルフェンズ世界に転移させたのは、ジャコバ・アオンの力か。
そういう意味ではマーベルやシーラと合流したこともそうだが、ジャコバ・アオンに感謝したいところだ。
ともあれ、それ以外にも諸々この世界の情報……とはいえ、あくまでもブルワーズが持っている情報だが、それを見ながらマーベルやシーラと話していると、不意に部屋の通信機が着信を知らせる。
この状況で俺に通信を送ってくるのは、普通に考えればブリッジクルーだろう。
ブルワーズに所属する者達がこれからどうするのか。
それについての意見が纏まった……いやまぁ、全員でどうにかするのではなく、決めるのはあくまでも個人だ。
そう考えると、一体どのくらいの人数が残ってくれるのか楽しみなような、不安なような。
あるいは万が一……本当に万が一の話だが、この期に及んで俺達を力でどうにかしようと考える者がいて、その連中が何らかの行動を起こした可能性も否定は出来ない。
普通に考えれば、そんな事をしても自分達に勝ち目がないと分かるだろう。
だが……ブルワーズは海賊だ。
頭の良い奴はMSを有しており、ましてや生身の戦いでもブルックを一瞬にした殺したと俺という存在を相手に勝てるとは思えないだろう。
だがそれは、あくまでも頭の良い奴の話だ。
海賊にいる中でも頭の悪い奴にしてみれば、俺を殺せばブルワーズが自分の物になると思い、実際にそれを行動に移してもおかしくはない。
まぁ、それならそれで面倒が少なくなるからいいか。
そう考えつつ、通信を受ける。
『アクセルさん、これからどうするのか……全員の希望が決まりました』
意外な事に……あるいは当然の流れと言ってもいいのか? 映像モニタに表示されたのはブリッジクルーの1人だった。
どうやら俺が心配していたように暴発した馬鹿の件ではなかったらしい。
もしかしたら、そういう奴もいたかもしれないが事情を理解している者が鎮圧したのかもしれないな。
「そうか。それでどうだ?」
『組織を離れる選択をした者は50人程です』
「……マジか?」
それは正直なところ、予想外も予想外。ちょっと信じられない話だった。
ざっとだが、強襲装甲艦を1隻運用するのに必要なのは50人程。
輸送艦はその性質上、もう少し多くで70人程。
つまり、ブルワーズの合計は大体170人程となる。
勿論これは大雑把な人数なので、正確な人数ではない。
昌弘を始めとした、ヒューマンデブリの人数も含んでいるし。
そんな中でも、50人程。
それはつまり、3割強がブルワーズを抜けるという決断をしたという事になる。
これが『3割強も』なのか、『3割強しか』なのかは、人によってそれぞれ違うだろう。
だが、俺にしてみれば3割強しかブルワーズを抜けないという事を意味していた。
「残っている連中は本気で俺の下につくと言ったのか?」
『はい。そのようです。……ただ、これはあくまでも本人の希望通りの話です。中にはアクセルさんに従う振りをして、隙を見つけて殺そうと考えている者もいるかと』
「そういう風に言ってくるという事は、お前にはそういうつもりがないという事か?」
『勿論、そんなつもりはありませんよ。アクセルさんの力を間近で見た以上、どうにか出来るとは思えませんし』
それはつまり、俺の力……白炎で一瞬にしてブルックを焼き殺すのを見ていなければ、自分も俺の寝首を掻こうとか、そんな風に考えていたという事じゃないのか?
そう思ったが、大人しくこっちに従うというのだから今はその件については特に突っ込まなくてもいいだろう。
「なるほど。そうなると、具体的にどのくらいの人数が残るのかは分からないな」
『一応、こちらでもその辺については調べて起きます。ですが……その、本当に組織を去る者は大人しく見逃すのですか?』
「ああ。移動用のランチを使って放出してやれ。アリアドネに行くか、あるいは他の海賊団に行くのも好きに判断させて構わない」
ブルワーズの海賊行為は、基本的にMSを使ったものだ。
しかし、襲った船から貨物やら何やらを奪う際、MSだけでは手が回らない場合もそれなりにある。
その為、小型や中型のランチがそれなりに用意されていた。
人が移動するだけなら小型のランチだけで十分なのだが、それだけでは足りないのは襲撃した相手から荷物を奪ったりするからだろう。
そういう時に中型のランチが必要となる。
海賊をやめてそれ以外……取りあえず今のところはこのデブリ帯でエイハブ・リアクターを確保してそれを売るといった事を考えているのだが、そういう行為をするにもランチは必要になるだろうが、その辺については必要経費と考えておいた方がいい。
ブルワーズの状況を考えれば、出来るだけ出費を押さえたいと思うのだが……ただ、まさかそのまま宇宙空間に放り出す訳にはいかないしな。
そんな訳で、ランチの類は必要経費と思っておこう。
『分かりました。その辺で話を進めます。……ちなみに、それでは嫌だと言う者がいたらどうします?』
「その時は相応の対処を取る」
相応の対処という言葉にブルックの件を思い出したのか、映像モニタに映った男は一瞬顔を強張らせる。
それでもすぐにそれを消して、素直に頷く辺り有能なのは間違いないのだろう。
『分かりました。では、そのように。それと持たせる金……こういうのも退職金と呼ぶべきでしょうか? それとも手切れ金でしょうか? それはどうします?』
「そうだな。取りあえず1週間くらい寝泊まりに困らない程度は支払ってやれ」
その言葉に男は頷くと、その後も辞める者達についての処遇について話し合いを続けるのだった。