ブルワーズを離脱すると選択した者達は、無事に送り出す事に成功した。
……もっとも、離脱した者の中には俺を殺そうと狙っていた奴もいたが、海賊に……それもオルフェンズ世界のように科学技術の発達している世界では、殺気を消すという事は出来ない。
あるいはそれを出来る者もいるのかもしれないが、そのような者はこのオルフェンズ世界においては本当に少数だろう。
ブルワーズが武闘派で有名な中堅の海賊であっても、そんな場所に殺気を消せるような者がいるとは思えない。
そうである以上、俺を狙う者を見つけるのは難しい話ではない。
そんな訳であっさりと取り押さえられた奴は……殺すのも面倒だし、俺に従うと判断して残る連中に対する見せしめの意味もあり、手足を折ってから他の連中と一緒にランチで追放……もとい、旅立たせた。
ただし、手足の骨を折った以外にもペナルティとして他の者達に支払った退職金は取り上げた。
とはいえ、一応退職金と表現はしたが、その額は1週間くらい食うのに困らず、安宿なら寝泊まり出来るくらいの金額でしかない。
実際にはランチを売るという選択もあるので、もう少し懐は潤うだろうが。
ただし、ランチを売った金の分配で揉めるのは目に見えているが。
もうあの連中はブルワーズではないので、それはそれでどうなってもいいが。
ちなみに精神異常を起こしたクダルも離脱者の中に含まれている。
ヒューマンデブリの者達の中には、クダルを殺したいと思った者もいたらしい。
だが、精神異常を起こしたクダルを見ると大半の者がその気をなくした。
もっとも、中にはそれでもクダルを殺したいと思う者はいたらしいが、その辺は昌弘が説得したとかなんとか。
もっとも、ブルワーズを去った者達の中で精神障害を負ったクダルの面倒を見る者がいるかどうかは微妙なところだが。
「アクセルさん、ではお願いします」
ブリッジクルーの1人が、そう言って俺に視線を向けてくる。
これから行われるのは……何だ? 方針演説とか、そういう感じか?
ブルワーズが海賊を止めるというのはもう通達してあるが、なら何をするのかといった事はまだ話していない。
その辺についての詳しい説明をする事になる。
また、ブルワーズという名前がシャドウミラーに変わるというのも説明する必要があるだろう。
そんな風に思いつつ、俺は放送の準備が整ったところで立ち上がる。
「アクセル、頑張ってね」
「演説というのは、慣れですよ」
俺の隣に立つマーベルとシーラがそれぞれ声を掛けてくる。
マーベルはともかく、シーラはナの国の女王を務めていた身だ。
今回のような演説をする機会はそれなりにあっただろう。
もっともそれを言うのなら、俺もシャドウミラーという国を率いている身である以上、それなりに演説にも慣れていてもおかしくはないのだが。
ちなみにこの2人が俺の両脇に立っているのは、マーベルとシーラの立ち位置を他の面々にも知らせる必要がある為だ。
でないと、この2人のような美人を相手に手を出そうとする者は結構な数になるだろうし。
……一応X世界でティファの護衛にしたように、マーベルとシーラにも常に炎獣による護衛をした方がいいかもしれないな。
そんなふうに思いつつ、俺は演説を始める。
「アクセル・アルマーだ。この放送を聞いている皆は既に知っていると思うが、ブルックを倒して俺がブルワーズを乗っ取った。以後、この組織はブルワーズではなく、シャドウミラーと名乗る事になる。シャドウミラーというのがどのような意味を持つ組織なのか気になるだろうが、簡単に言えば俺が所属している組織だ。つまりブルワーズはシャドウミラーの支部とでも呼ぶべき組織になる。もっとも、別にそれで何が変わる訳ではない。いやまぁ、海賊行為を止めるから、そういう意味では変わるが」
正確にはシャドウミラーオルフェンズ世界支部とでも呼ぶべきなんだろうが、その辺についてはまだ言えない。
というか、別の世界からやってきたとか言っても、理解出来るのか?
海賊の中にそういう漫画とかを楽しむ趣味の者がいれば、話は分かるかもしれないが。
いずれ……本当にいずれ、その辺については話してみてもいいかもしれないな。
残った連中が信用出来る相手だと判断したら。
「そんな訳で、海賊行為を止めた後でどうやって食っていくかという問題もある。ブルワーズを離脱した者達は結構な数になったが、それでも残ってくれた者は結構いる。この組織を率いる身となった以上、お前達を食わせていくのは俺の義務だ」
うーん、こういう事なら、いっそUC世界の月の農場で使っているマブラヴ世界の合成食を大量に持っておけばよかったな。
……いや、中には合成食を食うくらいなら死ぬとか言う奴もいるかもしれないが。
「幸い、人数が少なくなったので食料とかそういうのにも余裕は出来た。そんな訳で……まず俺達がやるのは宝探しだ」
ざわり、と。
話を聞いていたブリッジの面々がざわめく。
恐らくこの放送を聞いている他の者達も同様だろう。
この状況で何を夢物語をという不満か、あるいは宝探しという行為に燃えるか。
普通なら前者が多くなるだろうが、ブルワーズという海賊と考えると、意外と後者が多いような気がする。
「宝探しと言ったが、別に本当に金銀財宝を探す訳じゃないから安心しろ」
コンピュータで調べた限りでは、厄祭戦において無事だった金持ちや高貴な血筋の者達が財宝をどこかに隠したという噂はそれなりに聞く。
だが、それがこういう場所にあるとは思えないし、あっても見つけるのは難しいだろう。
……そもそも、見つけるのが簡単だったら、今までにとっくに見つかってるだろうし。
「俺が言うお宝は、エイハブ・リアクターだ。このデブリ帯を構成しているのは、エイハブ・リアクターによるエイハブ・ウェーブの影響だろう。そして現在、エイハブ・リアクターはギャラルホルンしか作れない以上、それを欲しがる者は幾らでもいる」
現状において、MSを新規に開発出来るのはギャラルホルンと……木星に本拠地を持つテイワズだけだ。
このテイワズというのは色々な事に手を出している、いわゆるコングロマリットという奴だ。もっとも、その実体はマフィアらしいが。
圏外圏と呼ばれる木星で大きな勢力を持つテイワズ。
勿論、純粋な戦力という点では、ギャラルホルンに大きく劣る。
だが、地球、月、火星、金星、コロニー……様々な場所を管理しないといけないギャラルホルンと比べて、テイワズは木星が本拠地だ。
勿論、テイワズも木星だけで商売をしている訳ではなく、火星や地球でも働いている。
それでもやはりギャラルホルンと比べると楽なのは間違いなく、MSを作れる高い技術もそのような状況故のものだろう。
もっとも、そのテイワズもMSを製造は出来るが、動力炉のエイハブ・リアクターを作る技術は持っていないので、MSを作るにはどこかからエイハブ・リアクターを入手する必要があるのだが。
そしてこの高密度デブリ帯には、多数のエイハブ・リアクターが眠っている。
つまり、ここで見つけたエイハブ・リアクターをテイワズに売る事も出来る訳だ。
個人的には、自分でMSを開発してみたいんだが……技術班がいない状況でそんな事が出来るとは思えないしな。
エイハブ・リアクターをそのまま売るのと、新型MSを開発して売るのとでは、当然ながら後者の方が高く売れるだろうし。
「そんな訳で、エイハブ・リアクターの売買が暫くの間はシャドウミラーの仕事となる。とはいえ、テイワズに売るにしても、木星まで行くには相応に時間が掛かるし、伝手も作る必要がある」
今まで名前も聞いた事がないような組織が、いきなりエイハブ・リアクターを売りに来たと言っても、普通はそう簡単に信じられないだろう。
ましてや、ブルワーズが武闘派として有名だったという事は、テイワズでもブルワーズについての情報をそれなりに掴んでいると思ってもいい。
そうなると、少し調べればシャドウミラーと名乗っている組織が実はブルワーズに所属していた者だと認識されるのは間違いないだろう。
それこそ、場合によってはブルワーズが名前だけを変えてテイワズを騙しに来たとして、敵対関係になってもおかしくはない。
その前に、俺がブルワーズを乗っ取ったというのを言えば信じて貰える……難しいだろうな。
だからこそ、余計な騒動をどうにかするよりも前に紹介する相手、あるいは仲介する相手を用意する必要がある。
ブルワーズ時代の伝手にそういうのがあっても、使えるかどうかは微妙だし。
何しろ俺は、ブルワーズを率いていたブルックを殺して組織を乗っ取ったのだ。
それはつまり、ブルックと友好関係にあった奴にしてみれば、俺を許せないと思ってもおかしくはない。
金だけのドライな関係の相手なら、俺と取引も出来るかもしれないが。
「そんな訳で、エイハブ・リアクターを確保したらまずは火星に向かう」
これは他に選択肢がない。
地球とその周辺……月やコロニーのある辺りは、ギャラルホルンの本拠地だ。
金星は木星と正反対である以上、論外。
そもそも刑務所が大半である以上、交渉出来る相手は少ないだろうし。
そんな訳で、ギャラルホルンの勢力ではあるものの、地球周辺に比べるとそれが薄く、そして地球の植民地となっている火星となる。
問題なのは火星にテイワズと繋がりのある者がいない場合だが……その辺についてはもう少し調べてみる方がいいか。
「それと……俺の隣にいるのは、マーベルとシーラだ。宇宙暮らしで色々と溜まっているだろうが、ちょっかいを出すような事はしないように。この2人は炎獣……と言っても分かりにくいか。俺が魔法で生み出した存在が守っている。ああ、そうそう。俺は魔法使いだ。こんな風にな」
パチンッと指を鳴らすと、右指が白炎となる。
実際にはこれは魔法ではないんだが……まぁ、その辺について詳しく説明はしなくてもいいか。
「魔法使い。それを信じられない奴もいると思う。俺が今見せたのも、場合によっては手品と思われるかもしれないし。だが、事実だ。世の中にはそういう存在もいるという事を忘れないようにしろ。……さて、取りあえず色々と説明したが、多くの情報が出て整理出来ていない者もいるだろう。その為、取りあえず今日はこれ以上はどうしても抜けられない者を抜かして休日とする。自分の中で今の情報を色々と整理してみて欲しい」
その言葉を最後に、通信が終わる。
幾つもの視線を感じてブリッジを見てみると、そこではブリッジクルーの多くが俺に驚愕の、そして中には数人だけだったが好奇心の視線を向けている。
多分これは、俺が魔法使いであると公言したからだろう。
……もっとも、ブルックを殺す時に白炎を使ったんだから、その時点で俺が魔法使いであるというのは、あるいは魔法使いではなくても超能力者とか、あるいは何らかのそれ以外の特殊能力の持ち主であるというのは理解出来ていた筈だ。
であれば、ここまで驚くような事はないと思うんだが。
そうなると……他に考えられるのは、魔法という単語か?
「その、アクセルさん。少しお話が……」
「魔法についてか?」
「あ、いえ。それもありますが、エイハブ・リアクターについてです」
ブリッジクルーのその言葉に疑問を覚える。
「何だ?」
「その、アクセルさんのエイハブ・リアクターを確保するという方針は、悪くない考えだと思います。それが数個くらいであれば問題は……ない訳ではないでしょうが、それでもどうにかなるでしょう。ですが、大量にエイハブ・リアクターを確保すると、また別の問題が生じます」
深刻そうな様子からすると、そういう疑念があるとかいう話ではなく、本当に何かがあるのだろう。
具体的にそれが何なのかは、俺にも分からなかったが。
「例えば?」
「この場所を通る者……具体的にはアリアドネを通れない者達が通るのですが、その案内役を仕事にしている者達がいますし、ブルワーズのような海賊もこの高密度デブリ帯の抜け道や地形、具体的にどの辺りにどのようなデブリがあるのかを理解し、その知識から行動しています」
「……なるほど。そんな中で俺達が多数のエイハブ・リアクターを確保したりすれば、その高密度デブリ帯の地形……というか、デブリのある位置や密度が変わる訳だ」
それはつまり、案内人をしている者達にしてみれば今まで自分達が使っていた航路を使えなくなるという事を意味しているし、海賊達にとっても今まで襲撃ポイントとして使っていた場所が使えなくなるという事を意味している。
「そうなると……ちょっと不味いな」
例えばこれが、ホワイトスターと繋がっているのなら、ある程度どうとでもなる。
もっとも、この世界のMSは基本的にビーム兵器が通用しないので、シャドウミラーの戦力でも大分苦戦する。
それでも重力波砲を始めとして、ビーム以外の兵器も使われているので、ある程度は対処出来そうだが。
それが出来ない以上、ある程度どうするのかを考える必要があった。