「これがガンダム・グシオンか。……まぁ、操縦の仕方そのものは何となく分かるな」
俺はガンダム・グシオンのコックピットに乗り込み、そう呟く。
もっとも、これは別に俺の特殊能力といった訳ではない。
今までMSを含めて多くの機動兵器に乗ってきた経験からの言葉だ。
機動兵器のコックピットというのは、例外はあるものの、基本的に操縦しやすいように設計されている。
当然だろう。わざわざ操縦しにくくなるようにコックピットを設計するなど、馬鹿らしいことでしかないのだから。
だが、そうなると細かいところに差異はあるものの、基本的には似た作りになる。
これは操縦するのが人間だからだろう。
例えば4本腕を持っているとか、頭が2つあるとか、そういう生き物がパイロットになるのなら、コックピットもそういう風に改良されるだろう。
だが、機動兵器……特にMSは人間が乗る物だ。
それだけに、大雑把に操縦の仕方は理解出来る。
とはいえ、それはあくまでも大雑把になので、詳細についてはきちんと調べる必要があるんだが。
何しろこのガンダム・グシオンは、ガンダム・フレームを見つけて、それで作り上げていったワンオフ品だ。
当然ながら、取説の類は存在しない。
……いや、あるいは前にはそういうのもあったのかもしれないが、クダルがパイロットをしていた時点でそういうのを期待する方が間違っているだろう。
『アクセルさん、その、どうですか?』
映像モニタに昌弘の顔が映し出される。
その周囲には、他にもマン・ロディの姿が複数あった。
俺の護衛……という訳ではなく、昌弘達がこれからやるのは高密度デブリ帯にあるエイハブ・リアクターを探す為だ。
高密度デブリ帯を生み出しているとはいえ、探せばすぐに見つかる訳ではない。
もしそこまであっさりと見つかるのなら、別に俺達に限らずとも周囲を敵に回してでも楽に金を稼ぎたいと思う組織がいてもおかしくはない。
しかし、そう簡単には見つからない以上、取りあえず何とかして見つける必要があるのは間違いなかった。
とはいえ、何の手掛かりもない訳ではない。
エイハブ・リアクターによって重力が生み出されているのなら、デブリの密集している場所を探せばいいのだ。
……ただ、そういう場所を見つけるのがまず難しいのだが。
わかりやすいように、一ヶ所にデブリが集中している訳ではない。
いや、中にはそういう場所もあるかもしれないが。
ともあれ、そういうのを見つける為にMSが……いや、MWも出撃する事になっている。
俺はそのついでに、ガンダム・グシオンの操縦訓練をしていた訳だ。
「問題ない。まだ完璧ではないにしろ、ある程度は操縦出来る。……もっとも、この武器はどうかと思うけど」
昌弘にそう返しつつ、俺はガンダム・グシオンが持っている武器に視線を向ける。
それは、巨大なハンマー。正式名称はグシオンハンマーと呼ぶらしい。
ガンダム・グシオンが使うから、グシオンハンマー……うん、分かりやすいのは間違いない。
……いやまぁ、ナノラミネートアーマーをどうにかするには物理攻撃が有効だというのは知っているので、そういう意味ではMSを相手にするのはこういう武器がいいのだろうが……何と言うか惹かれないな。
長方形の立方体に柄がついている外見なのだから、仕方がない。
とはいえ、本当に見掛け通りのハンマーという訳ではない。
殴るのとは反対部分にはスラスターがあり、このグシオンハンマーを使う時にはそのスラスターによって一撃の速度を上げる事が出来るらしい。
そう言えば、UC世界でアムロの乗っていたガンダムにこういう武器があったような。
そんな風に思いつつ、俺は昌弘に続けて口を開く。
「取りあえず俺は大丈夫だから全員自分の担当の場所に行ってエイハブ・リアクターを探せ」
『けど……』
昌弘が心配そうな様子を見せるのは、それだけ俺を心配している……というのもあるのだろうが、その心配は俺に好意を持っているからではなく、自分達の待遇を考えての事だろう。
いや、好意を持っていないかと言えば、それは恐らく否なのだが。
それだけヒューマンデブリの扱いがブルワーズでは酷かった証だろう。
「心配するな。いざ何かあっても、俺は問題ない。お前も見ただろう? 生身で宇宙に出ても問題なかったんだぞ?」
ちなみに、俺は今もパイロットスーツの類を着ないでMSに乗っている。
ヒューマンデブリの面々は、当然パイロットスーツを着ているが。
……ブルワーズ時代から、パイロットスーツは着ていたらしい。
とはいえ、これはブルワーズがヒューマンデブリの事を思っての行動という訳ではなく、生身で出したら死にやすい……そうなるとまたヒューマンデブリを買わないとならないと思ったからだろう。
あくまでもブルワーズ側の意向によるものだが、それでもヒューマンデブリ達にとっては悪くない事だったのだろう。
『分かりました。じゃあ……行ってきます』
俺の言葉に納得したのか、あるいはこれ以上は何を言っても聞き入れないと思ったのか。
とにかく昌弘はそう言うと他のマン・ロディやMWと共に俺から離れていく。
「さて」
グシオンハンマーについて、正直なところエイハブ・リアクターを探す上では必要ない。
それでも今後の事を思えばこのグシオンハンマーを使うのに慣れておく必要がある。
それに……このグシオンハンマーが本当に役に立たない訳でもない。
エイハブ・リアクターのある場所には、デブリが集まっている。
そしてエイハブ・リアクターは、理論上は破壊出来ない。
……いやまぁ、大抵そういうのは大袈裟で、もしかしたら破壊する手段とかはあるのかもしれないが、とにかく頑丈なのは間違いない。
グシオンハンマーの一撃で集まっているデブリを吹き飛ばしても、エイハブ・リアクターが壊れる事はないだろう。
もっとも、グシオンハンマーを振るった一撃の影響によってエイハブ・リアクターもその衝撃で吹き飛んでいく可能性は十分にあったが。
そうなったらそうなったで、昌弘達やMW隊を呼んで見つけて貰えばいいだろう。
「あそこが怪しいな」
宇宙空間をガンダム・グシオンで移動しながら、映像モニタに表示された場所……デブリが密集している場所を見て、怪しいと判断する。
もっとも、怪しいとは思うが絶対にそこにエイハブ・リアクターがあるとは限らない。
そうである以上、今はまず試して見るのが先決だろうと判断してデブリ帯の中に突っ込む。
グシオンハンマーのような巨大武器を振るうには、機体の動かし方とグシオンハンマーの敵にぶつける面とは反対方向にあるスラスターを上手い具合に連動させる必要があった。
「ちっ」
デブリの固まっている場所にグシオンハンマーを振り下ろしたが、初めての一撃という事もあって機体と武器の連動がずれる。
それでも完全に連動がずれた訳ではない。
連動が完全に合った場合を100点とすると、70点から80点くらいか。
振るわれたグシオンハンマーは俺の予想したのとは若干違うが、それでも集まっていたデブリの中でも一際大きな岩塊を破壊することに成功する。
当然ながら、破壊された岩塊は四散して飛んでいくが……
「やっぱりないか」
デブリを破壊したものの、そこにはエイハブ・リアクターの姿はない。
もっとも最初の一撃ですぐに見つけられるとは思っていなかったが。
そんな訳で、次だ。
そうしてグシオンハンマーを使って次々とデブリを破壊していくが、エイハブ・リアクターを見つける事は出来ない。
「次……うん?」
一体グシオンハンマーを振るい続けてから、どのくらいの時間が経ったのか。
それでもまだエイハブ・リアクターを見つけられないが、ある程度グシオンハンマーの使い方も分かってきて調子が良くなってきた。
そろそろ完全にグシオンハンマーを使いこなせるようになるだろうという予想が俺の中にはあったのだが、そんな俺の行動を遮るようにコックピットに音が鳴ったのだ。
何だ? と思って確認すると、推進剤の残りが少なくなっているというアラームだった。
「推進剤って……もうか? いや、ガンダム・グシオンの性能を考えればそれもおかしくはないのか」
ブルワーズで使われていたマン・ロディは重装甲とそれを補う為に多数のスラスターがある機体だ。
その無茶なコンセプトの代償として、推進剤の消費がかなり激しい。
そしてガンダム・グシオンはマン・ロディと同じようなコンセプトの機体だ。
……いや、同じようにというか、ガンダム・フレームはロディ・フレームと違ってエイハブ・リアクターを2つ装備出来るだけに、その出力が高く、マン・ロディの上位互換と呼ぶような性能となっている。
それだけに、当然ながら推進剤の消費も激しい。
この辺はもう少し使い慣れないと上手くコントロール出来ないな。
とはいえ、それでもまだもう数回はデブリを破壊出来るだけの余裕はあるのだろう。
『アクセル様、そろそろ戻ってきてはどうでしょう? 推進剤に問題があるのではありませんか?』
ちょうどそのタイミングで通信が入る。
どうやら結局俺は様付けで呼ばれるようになったらしい。
まぁ、生身で宇宙に出るとかしたのを思えば、それも不思議ではないが。
ちなみにこの通信……と周囲を確認すると、少し離れた場所に強襲装甲艦の姿が見える。
こうして見える位置に母艦があるのを見れば分かるように、このオルフェンズ世界においてエイハブ・リアクターの通信障害機能はかなり強い。
特にここは複数のエイハブ・リアクターが存在する高密度デブリ帯だけに、それによって通信は更に使いにくくなっていた。
そんなこのオルフェンズ世界において、通信方法は幾つかあるが、その中の1つにLCSというのがある。
これはレーザーを使った通信で、エイハブ・リアクターの通信障害があっても問題なく使えるのだが、代わりに通信をするお互いの間に何らかの障害物があった場合、通信が大きく乱れるという欠点がある。
分かりやすく言えば、無線の糸電話といったところか。……若干矛盾しているようにも思えるが。
ともあれ、そのような欠点がある以上は遠く離れた場所同士で通信をするのは難しい。
特にここは高密度デブリ帯なので、多数のデブリが浮いており、LCSを使うのに向いていないのだが……こうして近くまで来れば、問題はない。
「もう少し待ってくれ。ガンダム・グシオンを使いこなせそうなんだ」
『……分かりました。こうして近くにいるので、ガンダム・グシオンが推進剤切れになっても問題はないでしょうし』
「そうしてくれ。そんな訳で、最後は……うん?」
何となく、本当に何となく気になった場所。
念動力が教えたといった訳ではなく、それでも何らかの理由で気になったのは事実。
それが一体何なのかは分からない。
あるいは念動力ではない以上、ただの気のせいといった可能性もある。
あるのだが、どのみち次にグシオンハンマーでどこを狙うのかといったことは決めてない以上、その勘に従って行動をしても構わないだろう。
そう判断し……俺は最後の目標に向かってグシオンハンマーを振るう。
グシオンハンマーを振るうタイミング、グシオンハンマーの反対側にあるスラスターの使用のタイミングが合わさり……これ以上ないと自分でも思える程に完璧な一撃がデブリ帯に命中し、そこに浮かんでいた岩塊が砕ける。
その一撃の威力は、タイミングがこれまでよりも間違いなく合っており、それだけに強烈な威力を持っていた。
そうして破壊されたデブリは、他のデブリとぶつかってそれぞれビリヤードか何かのように急速に弾かれていく。
それ自体はこれまでガンダム・グシオンの操縦訓練を含めて何度も見てきた光景なのは間違いない。
間違いないが……今までと違うのは、破壊されて弾けたデブリの中に人型の何かがあった事だろう。
それが何なのかは、このオルフェンズ世界を思えば考えるまでもない。
MSだ。
……ただし、当然ながらそのMSは普通のMSではない。
いや、既にMSの残骸という表現の方が相応しいだろうくらいに破壊されていた。
装甲部分で残っているのは本当に一部だけで、フレーム部分が剥き出しになっている。
頭部なんかは装甲部分が完全に何もなく、フレーム部分だけが分かる感じだ。
コックピットも剥き出しになっているのを思えば、このMSを操縦していたパイロットは死んだか、あるいは無事に脱出したか。
コックピットの中には死体がないようだし、恐らくだが脱出したんだろう。
そして何より俺にとって驚きだったのは、フレームにエイハブ・リアクターが残っているという事だった。
つまりこれは、俺達が目的としていたエイハブ・リアクターの1基を見つけた事を意味していた。
「お宝発見だ」
俺はそう強襲装甲艦に通信を送るのだった。