エイハブ・リアクターを探し始めてから、数日……俺が見つけた謎のフレームの正体はまだ正確には分かっていなかったが、取りあえずギャラルホルン製という事ははっきりした。
何だかそれを示すマーク的なものがあったらしい。
とはいえ、元々それは予想出来ていた事だ。
半壊……どころか、半ば全壊しているMSの状況から、10年20年といった程度の物ではないと判断されている。
つまり、最近開発されたというテイワズフレームでないのは明らかで、そうなると当然ながらそのフレームはギャラルホルンの物となるのだから。
そんな訳で、ギャラルホルン製のフレームだというのははっきりとしたが、それ以上の事はまだ殆ど分かっていない。
ただし、現在ギャラルホルンで使用されているMSはグレイズというMSで、そのフレーム……グレイズ・フレームとの類似性がある。
それも少しではなく、かなりの部分で。
そんなところから、もしかしたらグレイズ・フレームの試作品ではないかという意見もあるが……そこでも時間的な問題が関係してくる。
俺が見つけたフレームは100年単位で宇宙にあったものだ。
そしてグレイズは最新鋭のギャラルホルンのMS。
そうなると、その時間差はどうなるのかと。
結局まだ大部分がまだ分からない状況なのは間違いない。
それとエイハブ・リアクターだが……
「アクセルさん、次も見つけてきますね!」
子供達の1人、デルマが俺を見て嬉しそうに言う。
得意そうな様子なのは、デルマがエイハブ・リアクターを1基見つけたからだろう。
他にもビトーが1基、ペドロが1基見つけており、現在合計3基のエイハブ・リアクターが見つかっているので、目標の5基までは残り2基だ。
俺が見つけたMSは、フレームの件もあってMSにリペア? リメイク? 取りあえずそんな感じにする予定なので、数に入れていない。
「ああ、頼む。残り2基……賞品はたっぷりとあるから、頑張ってくれ」
『うおおおおおっ!』
俺の言葉に喜びの声を上げる子供達。
その理由は、俺が口にした賞品だ。
ヒューマンデブリとして使われていた時の食事は、スティック状の栄養はきちんと考えられているが味は考えられていない……マブラヴ世界の合成食よりはマシな物だった。
今は俺の指示によって普通に食堂で他の面々と同じ食事を食べられるが、元々が海賊だ。
料理は決して美味い訳ではない。
そんな中、俺が空間倉庫に収納しているあんパンやクリームパン、チョコパン、ジャムパンの詰め合わせを賞品として出したのだ。
子供達が喜ぶのは当然だった。
ちなみにこれらのパンはパン屋で特別に購入したとかそういうのではなく、スーパーで購入した物だ。
中にはジュネスで購入した高級食パンを売っていた店から買った、高級あんぱん、高級クリームパン、高級チョコパン、高級ジャムパンとかもあるが。
ちなみにちょっとした変わり種として、うぐいす餡のパンであったり、ずんだ餡のパンもあったりしたが、こちらはあまり俺の好みではなかったので購入していない。
決して嫌いだったり、食べられないとかじゃないんだが、純粋に好みではないのだ。
ちなみにどのパンが美味いかというので、それぞれに派閥……というのはちょっと大袈裟だったが、人によって自分の好きなパンが最高だと主張していたりもする。
その辺については、正直なところ俺は特に気にしていない。
唐揚げにレモンを掛けるか、目玉焼きに何を掛けるか、たこ焼きや冷やし中華にマヨネーズを掛けるか、鯛焼きの中身の論争……キノコとタケノコの戦い等々。
その手の話題というのは様々あり、それに関われば間違いなく面倒な事になるのだから。
「じゃあ、早速行ってきます!」
昌弘がそう言うと、俺の使っている部屋を出ていく。
一応ここは艦長室……いや、俺は艦長じゃないな。社長? 会長? お頭? ……お頭はないか。とにかくそんな部屋だ。
とはいえ、俺がブルックを殺してから使っている応接室なんだが。
「あ、ちょっと待てよ昌弘! アクセルさん、俺達も失礼します!」
そう言い、デルマが頭を下げて昌弘を追う。
他の子供達もそんなデルマを追って部屋から去っていった。
「随分と子供達に好かれるようになったわね」
ソファに座って紅茶を飲んでいたマーベルが、笑みを浮かべて言う。
ちなみにこの紅茶も当然ながら俺の空間倉庫から出した物だ。
ブルワーズとして海賊をしていたこの艦に、紅茶がある筈がない。
紅茶のカップも、W世界でデルマイユの家から盗んだ高級品だ。
デルマイユは性格には問題あったが、芸術品や美術品を見る目に関しては間違いなく一級品だった。
実際、デルマイユから盗んだ家具の類は、どれもがかなりの価値がある物だったのだから。
そういう訳で、マーベルとシーラが飲んでいる紅茶のカップも当然ながらかなりの品だ。
それ以外に紅茶を淹れる道具とかそっちも。
……ただし、俺は紅茶派だが紅茶を淹れるのは……やってやれない事はないが、それでも決して美味く、そして上手くはない。
そんな中で誰が紅茶を淹れたのか。
それはシーラだ。
最初に話を聞いた時、え? と思ったのは間違いない。
何しろ、シーラはナの国の女王だった人物だ。
誰かが淹れる紅茶を飲むのならともかく、まさか自分で紅茶を淹れるというのは少し……いや、かなり予想外だった。
とはいえ、話を聞いてみれば俺がダンバイン世界にいる時に、紅茶好きだというのをマーベルと共に聞いていて、その為に俺と別れてからマーベルと共に紅茶の淹れ方を勉強したらしい。
……そう言えば、セイラも何気に紅茶を淹れるのが上手かったな。
普通なら上流階級の者というのは自分で紅茶を淹れるのではなく、メイドとかに紅茶を淹れさせるんだが……まぁ、その辺は特に考えなくてもいいか。
「昌弘達にしてみれば、自分達をヒューマンデブリという境遇から救ってくれた相手なんだから、というのもあるんだろうな。それと、書類を目の前で燃やしてみせたのも大きかった」
ブルックの部屋、船長室の金庫には昌弘達をヒューマンデブリとして買った書類があった。
海賊達にとってその書類が本当に効果があるのかどうかは分からない。
だが、昌弘達にしてみれば、その書類こそが自分達がヒューマンデブリであるという事の証明なのだ。
もっとも、他の海賊達から聞いた話だとブルワーズにおけるヒューマンデブリの扱いは特段悪いという訳ではないらしいが。
決して良くもないが、悪くもない。
ちょうどこれが平均といったところらしい。
その言葉にヒューマンデブリがどう扱われているのかがよく示されている。
この世界をオルフェンズ世界と名付けた俺の考えは間違っていなかったらしい。
「そう言えば、アクセル。あの部屋はどうするのです?」
シーラの言うあの部屋というのは、話の流れからブルックの部屋なのは間違いない。
「俺が使おうとは思わないし、かといって誰かに使わせるのもな」
ブルックの部屋、そしてNO.2のクダルの部屋は他の部屋に比べると広いし設備も整っている。
そんな部屋だが、その2人が使っていたと思えば俺が自分で使いたいとは思わないし、かといって他の誰かに使わせるのも、1人や2人だけ特別扱いをされると組織内部に不和をもたらす。
おまけに、ブルックとクダルの部屋だ。
どこかに隠し金庫とかそういうのがあってもおかしくはない。
だからこそ、あの部屋は一度徹底的に調べる必要があった。
スライムを使って調べればいいのかもしれないので、後で調べてみてもいいだろう。
「そうですか。ですが、それはそれで色々と問題もあるのでは?」
「それは否定しない。けど、そうなると無駄に空間を遊ばせておく事になるんだよな」
現在のシャドウミラーは組織を離れた奴が結構いるので、空間的な余裕はある。
もっともその分、結構な人数が抜けたので組織運営にちょっと問題も出ているんだが。
ただ、海賊行為は行っていないので、まだ何とかなっている。
海賊行為をやっていれば、実際に前線で戦うのはクダルとヒューマンデブリに任せて強襲装甲艦2隻は後方からの援護とかだが、それにもそれなりに人手はいるし、何より海賊として敵の船から荷物とかを運び出したり、ヒューマンデブリとして子供を連れ出したり、強奪した荷物の整理をしたり……そんな風に忙しいのだが、今はそれも必要ない。
そんな訳で、人数が少ないながらも特に不便はなく……いや、人数が減った事でやっぱり多少は仕事が増えたりもしたが、とにかくそこまで人手不足という程ではなかった。
これは正直なところ、俺にとっても予想外だった。
何しろ俺に従えないとかなりの人数がいなくなった訳で……そう考えると、もっと忙しくなると思っていたのだが。
それこそ人手が足りなくててんてこ舞いになるといったように。
「まずは、エイハブ・リアクターを見つけるのが……」
そう言う俺の言葉を遮るように、通信機が鳴る。
何かあったのか?
そう思って通信を受けると、そこには俺の副官的な役割をしている男が深刻そうな表情で映し出される。
「どうした?」
『良い報告が1つ。それと悪い報告が1つありますが、どちらから聞きますか?』
「なら、良い報告で頼む」
『エイハブ・リアクターが見つかりました。それも3基纏めて』
「それは確かに良い報告だな」
元々俺が欲していたのは、5基のエイハブ・リアクターだ。
それが1基多く見つけたというのは、俺にとって悪い話ではない。
これで目的を達成出来たのだから、万々歳だろう。
ただ……良い報告以外に悪い報告もあるということだったのを考えると、素直に喜んでばかりもいられない。
「で、悪い報告というのは?」
『エイハブ・リアクターを発見した場所には他の海賊から派遣された者達もいて、睨み合いになっているようです』
「他の海賊……? 確か、この高密度デブリ帯でエイハブ・リアクターを見つけるのは他の組織とかから睨まれるとか、そんな風に言ってなかったか?」
だからこそ俺は、5基と限定してエイハブ・リアクターを探したのだ。
もっとも、俺が見つけた未知のフレームと今回3基見つけたことで当初の予定よりも2基多くエイハブ・リアクターを確保する事になったが。
『はい。なので、普通はやるにしても大々的にはやりません。ですが、連中……夜明けの地平線団は違います』
「夜明けの地平線団?」
何だか妙に仰々しい名前だな。
まぁ、シャドウミラーという国を率いている俺が言うべき事じゃないが。
『夜明けの地平線団はこの火星と地球を結ぶ高密度デブリ帯の中でも最大規模の勢力を持つ海賊です。いえ、正確にはこの高密度デブリ帯以外でも色々と活動をしているのですが』
「なるほど。そんな連中だけに、エイハブ・リアクターの捜索をこっそりとやる必要はなく、堂々と手を出せる訳か」
『そうなります。とはいえ、この高密度デブリ帯はエイハブ・リアクターあってのもの。ここで活動をすることを考えれば、やりすぎると海賊行為そのものに支障が出て来る筈なのですが……』
「つまり、何かがある、と。それで、現地の状況は?」
『分かりません。MS隊から1機戻ってきて、そう報告してきただけなので』
まぁ、無理もないか。
MS隊は昌弘を始めとした子供達だけだ。
自分達だけで戦いを始めてもいいのかどうか……何より、相手がこの辺りの海賊の中でもブルワーズよりも大きな勢力を持つ夜明けの地平線団だけに、迂闊に攻撃出来る筈もない。
これが通信が普通に出来るのなら、こっちで対処も出来るだろうが。
エイハブ・リアクターの影響で基本的に長距離の通信は難しい。
なるほど、クダルがMS部隊を率いていたのは、こういう時に対処する為というのもあったのかもしれないな。
もっとも、短いながらも接したり、あるいは他の面々から話を聞いた限りだと、クダルにそういう判断が出来るかどうかは微妙なところだと思うけど。
ともあれ、向こうにいるのが昌弘達だけとなると、どうすればいいのか分からないだろう。
最悪、自分達の判断で夜明けの地平線団に攻撃をしてもおかしくはない。
いやまぁ、相手が海賊である以上、こちらとしてもそれは構わないんだが。
「分かった。俺が出る。……ちなみに聞いておくが、MS隊と遭遇したのは夜明けの地平線団の本隊か? それとも少数で派遣されている者達か?」
『聞いた話によると、後者です』
「そうか」
その報告は悪くない。
MS隊が報告のために戻ってきたのと同様、昌弘達と遭遇した夜明けの地平線団の連中もエイハブ・リアクターの影響で本隊とは連絡出来ていない筈だ。
あるいは俺達のようにMSを連絡役として戻している可能性もあるが……多分、本当に多分だが、その可能性は低い。
何しろ相手はこの辺りでは強い影響力を持つ夜明けの地平線団だ。
ブルワーズも少しは有名だろうが、それでも中堅。
普通に考えれば、ここはブルワーズが退くところだと判断してもおかしくはない。
ましてや、本隊を呼べば自分達だけの手柄とはならない。
だとすれば……
「上手くいくかもしれないな」
そう言い、俺は笑みを浮かべるのだった。