エイハブ・リアクターを見つけた場所での戦い。
その結果は、俺達の完勝に終わった。
誰1人死んだり、怪我をしたりしていない……どころか、MSの装甲に傷すら負わない、本当の意味での完勝。
まぁ、無理もないか。
夜明けの地平線団の連中にしてみれば、間違った情報……あるいは単にそのように理解しただけなのかもしれないが、まさか俺達が反撃をしてくるとは思っていなかったらしいし。
それだけに、相手は完全に意表を突かれてしまった。
ましてや、俺は例外としても昌弘達は阿頼耶識を使ってMSを操縦しているのだ。
夜明けの地平線団では大人がMSの操縦をしていたみたいだったが、阿頼耶識の有無の差は大きい。
クダルのような例を見ると、必ずしも普通に操縦して阿頼耶識を使っている相手に勝てないという訳ではないのだろうが。
もっとも、そうなるには相応の腕利きである必要があり、その点では夜明けの地平線団のMSパイロット達はそこまでの腕ではなかった訳だ。
「皆、よくやった。ここにあったという3機のエイハブ・リアクターと、5機のMS。合計8基のエイハブ・リアクターを入手出来たのは大きい。もっとも、最後に自滅した1機はそのまま使えそうなので、入手したエイハブ・リアクターは7基だが」
ちなみにデブリにぶつかったMSのパイロット。
気絶しているのだろうと思っていたのだが、戦闘終了後に調べてみたところ、死んでいた。
どうやら全速力でこの戦場を離脱しようとしていたところでデブリにぶつかり、その衝撃で首の骨を折ってしまったらしい。
……それでいながら、俺のステータスに表記されている撃墜数で増えていたのは2機でしかなかったが。
どうやらステータス的にはあのMSは俺が倒したのではなく、自滅したという扱いだったらしい。
実際、90mmサブマシンガンを使った攻撃ではダメージらしいダメージを与えられていなかったし、そう考えるとそれも仕方がないのかもしれないが。
それに何より大きいのは、やはりMSにダメージらしいダメージがないまま、新しいMSを入手出来た事だろう。
何より、あのMSは阿頼耶識ではない。
つまりマーベルも乗る事が出来るのだ。
サラマンダーやミロンガ改を使わせるという事も考えていたが、現在の状況を考えるとある程度戦力を整えるまでは目立ちたくない。
そんな中で、サラマンダーのように変形するタイプの機体を使わせれば絶対に悪目立ちする。
ミロンガ改なら人型なので詳しくない者達ならMSと認識するかもしれないけど。
ただし、それでも知識のある奴には分かってしまうだろうから、やはりMSがあるのならMSを使った方がいい。
それを使わないとどうしようも出来ないという状況なら、サラマンダーやミロンガ改を使っても構わないが、今のところそんな感じではない。
「戦いが終わって安堵しているところを悪いが、すぐに戻るぞ。いつまでもここにいて、夜明けの地平線団の援軍が来たら面倒な事になるし」
俺達が倒した夜明けの地平線団のMS隊は、自分達が入手した情報によって手柄を独り占め……いや、MS部隊だったので、部隊占めという表現が正しいのかもしれないが、とにかくそんな訳で独断専行をした。
結果として、あのMS隊が俺達とぶつかった件は夜明けの地平線団の本隊には知られていない筈だ。
だが、5機ものMSからの連絡が途絶すれば、何があったのかと様子を見にくるくらいはするだろう。
その時、ここに俺達が残っていれば不味い。
夜明けの地平線団の戦力を削るという意味では、もう1回くらい戦ってもいいとは思うが……やはり今は少しでも隠密行動を優先させる方がいい。
そんな訳で、俺達は破壊されたMSや発見したエイハブ・リアクターを確保し、母艦に戻るのだった。
「凄いな、アクセルさん。夜明けの地平線団のガルム・ロディを倒すどころか、1機は殆ど無傷のまま持ってくるなんて」
メカニックの男が、そう俺に声を掛けてくる。
どうやら向こうにしてみれば、今回の一件は大戦果だったらしい。
夜明けの地平線団の規模を考えれば、そんな風に思ってもおかしくはないんだが。
「このMSもロディとついているという事は、ロディ・フレームなのか?」
「そうですよ。ただ、うちのマン・ロディとは違って防御力よりも機動性を重視した機体になっています。……あくまでもマン・ロディと比較しての話ですから。ガルム・ロディもそれなりに重装甲ではあるんですけどね」
「そうか。あの入手した1機はコックピットの中を綺麗にして整備をしておいてくれ」
「あ、コックピットの方は大丈夫でしたよ。綺麗に首の骨が折れただけなので、特に汚れたりはしてなかったですし。……もっとも、ピンナップとかが貼っていたりはしましたが」
「そういうのも含めて、綺麗にだ。あれには恐らくマーベルが乗るからな」
「……は?」
メカニックが完全に思いもしなかったといった様子でそう口にする。
どうやらマーベルは俺の恋人や愛人、情婦といった存在でMSに乗って戦うとは思っていなかったらしい。
「勘違いしているようだが、マーベルは凄腕のパイロットだぞ」
もっとも、それはあくまでもオーラバトラーのパイロット、聖戦士としての話だが。
マーベルがMSのパイロットとしてどの程度の技量があるのかは、実際に乗ってみないと何とも言えない。
言えないが、それでも恐らく問題はないだろうと思っている。
特に何らかの理由がある訳ではなく、単純に俺の勘としての話だが。
「あの女が……?」
かなり意外そうな様子を見せる男。
何だ、このオルフェンズ世界だと、女がMSに乗るのはおかしいのか?
あるいは、男女差別とかがあるのかもしれないな。
……とはいえ、それもこの世界の風潮であるなら仕方がない。
後はマーベルがその風潮を自分の活躍でどうにかしていけばいいだけの話だ。
「おかしいか? 言っておくが、マーベルにしろシーラにしろ、俺の恋人ではあるが、それ以上に有能な女だ」
実際、シーラはこの艦の艦長にしようと思っているくらいだし。
「あ、いや。別にそんな事は。とにかく話は分かりました。ガルム・ロディは1機だけ補給と整備をして、残りはバラします。エイハブ・リアクターはともかく、パーツの部分はマン・ロディに流用出来る部分もあるんで、予備パーツが増えるのは助かります」
「予備パーツ……使えるのか? マン・ロディとガルム・ロディは同じロディ・フレームであっても、外見は思い切り違うか」
「全てのパーツをそのまま流用出来るって訳じゃないですけどね」
それでもマン・ロディとガルム・ロディの外見は大きく違う。
多分、流用出来る部品は内部パーツとかそういう感じなんだろうが。
「分かった。その辺はお前に任せる。俺はブリッジに行くから、いいようにやってくれ」
そう言い、俺はブリッジに向かうのだった。
「火星へ出発ですか。分かりました」
俺の言葉に、男は特に異論がないといった様子でそう言ってくる。
「意外だな。てっきり何か言うかと思ったんだが」
「夜明けの地平線団に喧嘩を売った以上、暫くここからは消えた方がいいですからね。アクセル様もそのつもりだったのでは?」
「それは否定しない。とはいえ、火星に行ってもどうやってエイハブ・リアクターを売る伝手を作るかだな」
「いえ、それよりも前に、どうやって火星に降りるかを考えないといけません。一応火星にもギャラルホルンがいますから。そして私達は今は海賊を止めたとはいえ、元ブルワーズです。向こうもこちらの情報は持ってるでしょう」
なるほど、夜明けの地平線団程ではないにしろ、ブルワーズもギャラルホルンからは目を付けられていた訳か。
ブルックやクダルの性格を考えれば、それも無理はないのかもしれないな。
とはいえ、だからといって火星に行かないという選択肢はない。
……いや、あるいはいっそテイワズに向かうか?
以前の予定ではエイハブ・リアクターを5基だったが、今はそれにプラスしてガルム・ロディ4機のエイハブ・リアクターも追加出来る。
また、売るつもりは今のところないが、俺が偶然見つけた未知のフレーム……グレイズ・フレームと何らかの関係があるだろうフレームもある。
その辺の諸々を考えると、それこそ真っ直ぐ木星にあるテイワズに直接行っても相応の扱いを受けられるのではないかと思う。
それに聞いた話によると、火星にはギャラルホルンがいるものの、木星にはギャラルホルンはいないらしいし。
これはつまり、火星は一応ギャラルホルンの領土――というのは若干違うかもしれないが――であるのに対して、木星は完全にテイワズの支配下にあるという事だろう。
より正確には、ギャラルホルンが木星を気にしていないだけなのかもしれないが。
火星も木星も、双方共に圏外圏と呼ばれているのにこの違いは……普通に考えれば、やっぱり火星までと木星までの距離か。
「やっぱり直接木星にいかないか? 火星に行くと面倒な事になるのなら、そっちの方がいいと思うが」
「アクセル様の考えは分かりましたが、やれるだけやってみませんか?」
「……そこまで言うという事は、何か勝算があるのか?」
「勝算という程に確かなものではありませんが、火星には武器商人として名高いノブリス・ゴルドンという男がいます。この人物は火星において非常に大きな影響力を持っており、当然ながらテイワズとも繋がりがあります」
「つまり、そのノブリスという奴を通してテイワズに?」
「はい、幸いにもノブリスの影響力は火星のギャラルホルンに対しても影響力があり、その力を借りれば私達も火星に降りる事が出来るかと」
話を聞く限り、ノブリスという人物はかなり大物の武器商人らしい。
男の言うように、テイワズに対する伝手を持っているというのも決して間違いではないだろう。
だが……そのような人物であれば、そう簡単に接触出来るのかという問題がある。
「そんな相手と面識はあるのか? ブルワーズ時代に付き合いがあったとか?」
「いえ」
男は俺の問いにあっさりと首を横に振る。
おい?
「面識もない相手に、テイワズを紹介して欲しいと言うのか? それを素直に聞くのか?」
「話を聞く限りでは、どことなくドレイク・ルフトを思い起こさせる相手ですね」
俺と男の話を聞いていたシーラが、そう口を挟む。
ちなみにシーラは現在、この艦の艦長として働けるようになるべく勉強中の身だった。
とはいえ、この艦に乗っているのは海賊なので、恐らくギャラルホルンにはあるのだろう士官学校を出たような者はいない。
つまり経験を聞くといった感じで習っていく訳だ。
シーラの場合頭も良いので、自分ならそういう時にどうするのかとか、ブリッジクルーと話をしたりもしていたが。
そんなシーラの耳にも入ったノブリスという男の様子はあまり好ましくないものらしかった。
「どうだろうな。けど、実際に会ってみないと何とも言えないだろう? 噂だけで人を判断するのはどうかと思うし」
「その、アクセル様。ドレイク・ルフトというのは?」
男が全く聞き覚えのない名前に聞いてくる。
さて、どう説明したものか。
俺達が普通ではないのは、既に魔法を見て分かっているだろうが……異世界から来たとか、その辺についてはまだ話してないんだよな。
「野心家の男で、武器を色々な勢力に売って力を蓄えていた男だ」
実際には色々と違うが、大まかには合っているだろう。
「では、そのドレイクという人物に売っては?」
当然のように、男はドレイクをこの世界の人物だと判断したらしく、そう言ってくる。
「残念ながら、もういない」
そう言っておく。
これはこの世界にいないという意味でもあるし、ダンバイン世界でも死んだという意味でもある。
男は俺の言葉から何かを感じたのか、残念そうに頷く。
「そうですか。そうなると、やはりノブリスに頼るしかないですね」
「特に顔見知りって訳でもないんだろう? なのに、そのノブリスという相手がこっちの話を聞いてくれるのか?」
「普通なら難しいと思います。一応、ここでエイハブ・リアクターを探している間に何とか火星でノブリスと接触出来るように手を回しておきましたが……ノブリスにしてみれば、わざわざ怪しいこちらと接触しなくても、幾らでも商売の相手はいるでしょうし」
「普通ならとわざわざ付け加えるという事は、普通じゃない何かがある訳だな」
「はい。何しろエイハブ・リアクターが大量にありますから。ノブリスにしてみれば多少の危険は覚悟の上でこちらの話に乗ってくるかと」
「……とはいえ、別にノブリスに直接エイハブ・リアクターを売る訳でもないだろう? いや、ノブリスが購入してくれるのなら、それはそれでこちらとしても問題はないけど」
俺達が望むのは、テイワズとの橋渡し役だ。
その際にマージンとして多少は支払う必要はあるが、それでも危険を冒してまでこっちの話に乗ってくるかどうかは……正直微妙なところだろう。
俺はそう思ったのだが、男は問題ないと断言するのだった。