「どうだ?」
俺の言葉に、近くにいたガルム・ロディからすぐに返事が来る。
『そうね。オーラバトラーに比べると反応が鈍いけど、操縦出来ない程じゃないわね。武器もオーラバトラーと似たようなタイプが多いし』
そう言うマーベルに、なるほどと思う。
オーラバトラーが使っていた武器は、多少の例外はあれど基本的に実弾やビームサーベルとかじゃなく実剣の類が多かった。
このオルフェンズ世界において、MSの武器はビームとかじゃなくて実弾や実剣……いや、剣じゃなくてもハンマーとかそういう質量兵器の類が多い。
その辺は微妙にオーラバトラーと似ている部分なのか。
もっとも、オーラ力を使って操縦するオーラバトラーと、普通に操縦するMSでは違うが。
……あ、でもそうか。それなら阿頼耶識を使った操縦はオーラ力を使った操縦にある意味では似てるのか? ……似てる、のか?
いや、俺はオーラバトラーはマジックコンバータを使って魔力を使って操縦していたし、当然ながら阿頼耶識はないので、比べる事は出来ないのだが。
「それはラッキーだったと思っておけばいい。ともあれ、火星に到着するまでにMSの操縦に慣れておいてくれ」
その言葉に、ガンダム・グシオンの映像モニタにガルム・ロディが手を振るのが分かった。
そう、現在ガルム・ロディに乗って操縦訓練をしているのは、マーベルだ。
このガルム・ロディは、夜明けの地平線団の連中の中でもデブリにぶつかった衝撃でパイロットの首の骨が折れたMS。
機体そのものはナノラミネートアーマーのおかげで損傷らしい損傷はなかったのだが、ぶつかった衝撃は殺せず、パイロットがその衝撃に耐えられなかった形だ。
そのお陰で、他のコックピットを潰されたガルム・ロディとは違い、中にいたパイロットの死体を取り出してコックピットを洗浄するだけで普通に使えるようになった。
そして夜明けの地平線団は……少なくても俺達に絡んで来た連中は大人のパイロットで、阿頼耶識を使った操縦システムではなかったので、マーベルが乗り込むのに丁度よかった訳だ。
ただし、マーベルが乗るのに相応しいのは事実だが、マーベルが上手く操縦出来るかというのはまた別の話だったのだが……さすが聖戦士。ガルム・ロディをかなり乗りこなしている。
勿論、これはマーベルの才能もあるが、前から……俺がブルワーズを乗っ取った時から、MSの操縦についてマーベルが勉強していたのも大きい。
俺の場合はMSだけに限定しても多種多様な機体に乗ってきたので、阿頼耶識専用とかではない限り、基本的に問題なく操縦出来る。
それと比べると、マーベルはオーラバトラーは操縦していたが、MSは初めてだ。
しっかりと勉強するのに越した事はない。
宇宙空間で動き回るガルム・ロディを見ながら、そんな風に思う。
これは結果論だが、マーベルにミロンガ改やサラマンダーといったMSではない機体を渡さなかったのはベストな判断だったな。
ミロンガ改はゲシュタルト……まぁ、PTやAMの亜種的な存在だし、サラマンダーはVFだ。
このオルフェンズ世界で活動する上で必要なのは、やはりMSの操縦技能だろう。
それをガルム・ロディで習得出来たのだから。
そんな訳で、現在シャドウミラーは火星に向かっている最中なのだが、その時間を利用してマーベルのMS操縦訓練が行われていた。
「大分動きには慣れてきたみたいだな。何か問題はないか?」
『問題というか、反応速度がオーラバトラーに比べて劣る事ね』
「あー……うん。それは仕方がない」
これについては俺もマーベルの言葉に強く同意出来る。
あるいは諦めと共に同意するという表現の方が正しいか。
T-LINKシステムを使ったニーズヘッグと比べると、どの機体も反応速度は遅い。
俺はもう何度もそれを経験したので、そういうものだと納得したが、オーラバトラーからMSに乗り換えたばかりのマーベルにしてみれば、反応速度についての差は感じたばかりでより強くそのように思えてしまうのだろう。
『仕方ないって……何とかならないの?』
俺の言葉に不満そうな様子のマーベル。
オーラバトラーに慣れたマーベルにしてみれば、機体の反応速度の差には苛々するのだろう。
「慣れるしかないな。他には……それこそ、阿頼耶識を埋め込む手術をするか」
昌弘達がブルワーズに買い取られて阿頼耶識の手術を受けた以上、当然ながら今もまだ阿頼耶識の手術は出来る。
だが、阿頼耶識の手術は成功率は決して高くなく、それに失敗すれば致命傷だ。
何よりも阿頼耶識の手術は子供が受けてこそだ。
勿論大人でも阿頼耶識の手術は受けられるが、その効果は子供達に比べるとかなり低いらしいし。
『それは止めておくわ』
マーベルも俺と一緒にデータを読んだので、阿頼耶識の欠点については知っているだろう。
そう言ってくる。
阿頼耶識は、純粋なパイロットとして見た場合は決して悪いシステムではないんだが。
……ああ、量産型Wに阿頼耶識の手術をするのはいいかもしれないな。
シャドウも阿頼耶識のコックピットに変える必要があるが、それを含めて考えてもシャドウミラーの戦力は上がるだろうし。
問題なのは、量産型Wに阿頼耶識の手術が出来るかどうかだよな。
例えば、ネギま世界の仮契約。
これは主従のどちらかがネギま世界出身でなければ、仮契約は出来ない。
とはいえ、Fate世界でサーヴァントとして聖杯戦争に召喚されるのは、何者かの介入があったとはいえ、俺にも出来た。
また、W世界のゼロシステムも普通に使える。
となると、阿頼耶識システムは……どうなんだろうな。
量産型Wなら何となく出来そうな気がする。
それにこの手の技術というのは手術を多数すればする程に成功率や効率は上がっていく。
勿論それは、相応の知識がある者がいればの話だが。
決まった手順で手術をやる事しか出来ない者では、手術の成功率や阿頼耶識の効率を上げるといった事は出来ない。
そしてシャドウミラー……ホワイトスターには、幾らでも阿頼耶識の手術をしてもいい量産型Wがいて、その手の技術の専門家とも呼ぶべきレモンもいる。
……いや、レモンの場合は専門家ではなく、その手の技術にも精通しているという表現の方が正しいか。
そんな訳で、レモンなら阿頼耶識の手術をもっと安全に行えるようにしたり、効果をより増大させるなり出来てもおかしくはなかった。
寧ろレモンの能力を考えると、そう出来ない方がおかしいと思えるくらいに。
ちなみに阿頼耶識は手術する回数を増やせば増やす程に性能が上がっていくらしいが、それこそレモンの場合は1回の手術で本来なら3回から5回くらい手術しないと得られないくらいの性能の阿頼耶識を取り付ける事が出来てもおかしくはないと思う。
『アクセル様、マーベルさんの方で問題がないようなら、MSの模擬戦の為にマン・ロディを出したいと思いますが、構いませんか?』
副官役……いや、もう役じゃなくて副官でいいか。とにかく副官の男からそんな通信が届く。
ちなみにどうやら、俺の事は様付けで、マーベルとシーラはさん付けになったらしい。
元ナの国の女王であるシーラはさん付けでいいのかと思ったが、どうやらその辺は構わないらしかった。
本人の意識的に、もう女王ではないという事なのだろう。
「ああ、マーベルの様子を見る限り問題ないと思う。ただ、双方共に武器は模擬戦用の奴でやれよ」
一応コックピットとちょっとしたシステムさえあれば、シミュレータを使った模擬戦も出来る。
しかし、シミュレータと実機を使った模擬戦のどちらがより効率的かと言えば、やはり実機を使った模擬戦なのだ。
それに……シミュレータでは、阿頼耶識が使えないというのも大きな難点だろう。
そんな訳で、こうして模擬戦を実機で行う訳だ。
「マーベル、そんな訳で模擬戦だが……大丈夫だな?」
『ええ。問題ないわ。メカニックの人達に作って貰った武器もあるし』
ちなみに今回模擬戦をやる上で、メカニック達にはかなり頑張って貰った。
具体的には、模擬戦用の武装の製作的な意味で。
何しろ組織がまだブルワーズだった頃は、模擬戦用の武装……具体的には実際に相手に被害を与えず、命中するとペイントが敵の装甲に付着するといったような武器がなかったのだ。
これが例えばビーム兵器とかが使われているのなら、ビームの出力を下げるとかしていたのだが。
しかし、このオルフェンズ世界においてナノラミネートアーマーがある以上、ビーム兵器は基本的に意味がない。
銃弾の類も、基本的には牽制とかそういうのにしか使えないので、ペイント弾を使ってもあまり意味がないし。
そんな訳で、直接攻撃する武器にペイントを使うしかない訳だ。
ちなみにブルワーズ時代の模擬戦はどうなったのかというと、普通に実戦で使う武器で模擬戦を行っていたらしい。
勿論、本当に命中しないように寸止めだったらしいが、何しろMS隊の隊長はクダルだ。
ヒューマンデブリ同士で模擬戦をやる時はそこまで問題ないが、クダルが相手の場合は……間違ってか、それともわざとかは分からないが、寸止めを失敗してヒューマンデブリが何人も死んだらしい。
クダルにしてみれば、ヒューマンデブリは使い捨ての消耗品でしかない。
ちょっと失敗して相手が死んでも、それはそれで構わないと思っていたのだろう。
あるいはストレス解消に意図的に殺すといったことすらしていたかもしれない。
昌弘達から聞いた話だけではなく、他の面々から聞いた話でも、クダルならそういう事をやりかねない……いや、やっていなければおかしいという話を聞いている。
そんなクダルがいなくなった事は、昌弘達のような子供達にとっては悪くないどころか、非常に嬉しい事なのだろう。
「お、昌弘達も出て来たな。……じゃあ、模擬戦を始めてくれ。最初は1対1でだ」
『それは分かりましたけど、その……手加減とかそういうのってした方がいいですか?』
そう聞いてきたのは、デルマ。
デルマ達にも、MSパイロットとしてこれまでやって来たという、一種のプライドがあるのだろう。
「手加減はいらない。言っておくが、マーベルの腕を侮るなよ?」
そう言うと、デルマは素直に頷くのだった。
『嘘だろ……信じられねえ……』
そう呟いたのは、一体誰だったのか。
もっとも、映像モニタにはマン・ロディのコックピットにガルム・ロディのブーストハンマーに用意されたペイントが付着していたのだから、無理もない。
とはいえ、別にこれが最初の模擬戦という訳ではない。
オーラ力があれば操縦桿とかは殆ど使わなくてもいいオーラバトラーの操縦に慣れていたマーベルにとって、MSの操縦はやはり慣れないものだったのだろう。
最初の方は負け、負け、負けと負け続けていた。
それを示すように、ガルム・ロディの装甲には何種類ものペイントが付着している。
だが、マーベルがガルム・ロディの……というか、MSの操縦に慣れてきたのか、やがて負けるまでの時間が延びていき、そのうち相打ちになり、そして何度か勝ったり負けたりを繰り返し……今となっては、もう連戦連勝に近くなった。
信じられないといったことを口にする者がいても、おかしくはない。
とはいえ、これは別におかしな事ではなかった。
例えば、もしこれが全くの素人が多少の勉強はしたものの、それでも初めてMSに乗って次第に勝利するようになっていったという事であれば、信じられないという表現も理解は出来る。
しかし、マーベルはダンバイン世界において、トップクラスの聖戦士だった。
昌弘達も生き残る為に今まで多くの修羅場を潜り抜けてきたのだろうが、それはマーベルも決して負けてはいない。
……いや、純粋に修羅場の量と質の双方共にマーベルの方が勝っていると思う。
そんな修羅場を経験してきただけに、MSの操縦には慣れていなくても戦闘行為そのものには慣れている。
ましてや、マーベルにとって幸いな事に、このオルフェンズ世界における戦闘方法というのは、ビームとかが使われておらず、実剣であったり、ハンマーのような質量兵器とかを使うという、オーラバトラーの戦闘に近い。
その辺も、マーベルが比較的早くオルフェンズ世界の戦闘に慣れた理由だろう。
「お前達から見て、マーベルは強いと思うか?」
『……あ、はい。その、最初はともかく、今はもうクダルよりも腕は上かと』
昌弘の言葉に、他の面々……ヒューマンデブリと評するのも何なので、子供組とでも呼ぶか。
その子供組もそれぞれ映像モニタで頷いている。
取りあえず最低でもクダル以上の実力となったのは間違いないか。
しかもクダルが乗っていたのはガンダム・グシオンなのに対し、マーベルが乗っているのはガルム・ロディだ。
この2つのMSは、まさに量産型MSと高性能MS……UC世界的に言えば、ザクとガンダムくらいの差はある筈だ。
そう考えると、マーベルは完全にクダル以上の操縦技術を持つ事になる。
『ふふっ、どうかしら?』
自慢げにそう言い、笑みを浮かべるマーベルに俺もまた笑みを返すのだった。