ホテルに泊まった翌日、俺達はノブリスの部下の男と合流し、再度拠点となる建物に向かっていた。
ちなみに夜の街に繰り出した護衛の男2人は、特に問題らしい問題を起こしたりはせず、二日酔いにもなっていない。
これが今日の件があるので二日酔いになる程に飲まなかったのか、それとも単純に酒に強いだけなのかは分からない。
まぁ、酒と俺は色々な意味で相性が悪いから、俺は酒の事については考えない方がいいのかもしれないが。
また、子供組は元気一杯といった様子だ。
昨日、ルームサービスで色々な料理を頼んでそれを食べたらしい。
食いすぎで腹を壊すとか、そういうのがないのは悪くない結果だった。
そしてマーベルとシーラは……うん。昨日はホテルに泊まったものの、そういう行為はしていない。
何しろあのホテルはノブリスが用意したホテルなのだから、安心しろという方が無理だろう。
……実際、スライムでこっそりと調べてみたところ、盗聴器の類が何個かあったし。
これが以前から部屋にあった物なのか、あるいは俺達が泊まるから用意されたものなのかは分からない。
あるいはノブリスは何も知らず、部下の男が勝手にやったとか、ノブリスに恩を売りたいホテルの関係者が勝手にやったという可能性も否定は出来ないだろう。
取りあえず俺の部屋だけではなく護衛の2人や子供組の部屋の盗聴器も全て破壊しておいた。
正直なところ、盗聴器の類は放っておいた方がノブリスを油断させるという意味ではそのままにしておいた方がよかったのだろうが……護衛の男達や子供組が俺の魔法とかについて喋ったりするのを聞かれると困るんだよな。
そんな訳で、盗聴器は全部破壊した。
今朝やってきたノブリスの部下の男の態度が昨日と全く変わらなかったのは、盗聴器の件には全く関わっていないからか、あるいはそれを知った上で誤魔化せているのか。
ともあれ、俺達は全員が万全のまま昨日の拠点に再び到着する。
「へぇ、もう仕事をしてるのか」
拠点の前には既に複数の車が停まっていた。
その大半がトラックの類で、何人もの男が荷台から荷物を運び出しては建物の中に運び込んでいる。
本職……なのか、あるいは臨時雇いなのかは分からないが、真面目に仕事をしているのであれば、俺は特に気にしない。
もっとも、この仕事を受けた者達にとってもノブリスという……火星において、大きな影響力を持っている者からの仕事なのだ。
きちんと丁寧に仕事をしなければ、最悪の結末を迎える事にもなりかねない。
「うわぁ……あの家具って、全部新品だよ!?」
子供組の1人が驚きながら言う。
ブルワーズで使い捨ての消耗品として使われていた時は、新品の家具など使えなかったのだろう。
……というか、それこそ船長のブルックやMS隊の隊長にして実質的にNo.2のクダルでもなければ、新品の家具など使う機会はなかっただろうが。
この拠点の値段を安くすませるのなら、それこそ中古の家具を集めるといった手段もあった。
だが、この拠点は俺達シャドウミラーのオルフェンズ世界における拠点だ。
そうである以上、金がないのならともかく、金がある――エイハブ・リアクターの取引が無事に纏まればだが――のに、無理に節約をしなくてもいい。
俺達が具体的にどのような仕事をするのかは、まだ決まっていない。
だが仕事の依頼をするとなると、その相手とは拠点で話す事もあるだろう。
通信を使った会話も勿論あるだろうが。
ともあれ、拠点で仕事の話をする時に活動を開始したばかりなのに、家具が古臭い物だと、それが理由で侮られたりもする。
そういうのを回避する為には、活動を始めた時に使う家具はやはり新品の方がいい。
「シャドウミラーとして活動していく以上、このくらいの見栄は必要なんだよ」
そう言うと、子供組は納得したように頷いていた。
……護衛の2人もそんな言葉に納得しているのはどうかと思うが。
そんな面々とは違い、元女王のシーラは平然としているし、そのシーラとの付き合いが長いマーベルも同様。そしてノブリスの部下の男もその点では同様だった。
「ともあれ、こうして準備が整えばここが俺達の拠点となる。今は宇宙港にいる連中も、最低限を残してこっちに呼び寄せる事になるだろうな。……人数をどうにかしないといけないが」
ブルワーズからシャドウミラーに変わった事によって、逃げ出した者は結構多い。
そんな中で輸送艦も含めて3隻も所有しているのは、人数的にちょっと問題なんだよな。
そうなるといっそ船を処分……するのは勿体ないから、ゴキブリやネズミがいないようにスライムで掃除してから空間倉庫に収納しておいた方がいいような気がする。
幸いな事に、空間倉庫に収納しておけば劣化したりとかはしないし。
必要な時に出せば、すぐにそのまま使えるというのも大きい。
難点としては、当然ながら空間倉庫という能力を持っているのを他人に知られるのは面倒だという事か。
特にノブリス辺りに見つかったら、一体どうなるのやら。
……いや、あるいはこっちの価値が高まって本格的に取り込みに来るか?
ノブリスにしてみれば、空間倉庫なんていうのは幾らでも使い道があるのだから。
とはいえ、こっちがそれを受け入れるかと言われれば微妙なところだろうが。
「アクセルさん、ちょっと見てきていいですか?」
子供組からそんな意見が出る。
「どうだ?」
俺としては問題ないと思うが、家具の搬入とかをしているのはノブリスだ。
実際にはノブリス本人ではなく、ノブリスの指示を受けた者がやっているのだろうが。
ともあれ、ノブリスによって行われている以上は勝手に判断する訳にいかないのも事実。
もしそのような事をして邪魔になってトラブルになっても面白くはないし。
だからこそ念の為に聞いたのだが、ノブリスの部下の男はすぐに頷く。
「構わない。ただ、分かっていると思うが邪魔にならないようにはしてくれ」
「との事だ。邪魔にならないようにするなら行ってもいいぞ」
俺が許可を出すと、子供組は建物の中に向かって走り始める。
そんな後ろ姿を見ていると……
「アクセル、念の為に私が一緒に行ってくるわ」
マーベルがそう言ってくる。
子供達だけだと、阿頼耶識の件もあってトラブルになるかもしれないが、マーベルがいればそういう問題も起きないか。
マーベルが相手という事で、別の問題が起きる可能性もあるが……ノブリスの客という扱いの俺達に、そんな風に絡む奴がいるかどうかは微妙なところだろう。
もっとも、世の中にはそういうのを全く無視して行動する奴もいる。
さすがに今日ここにいる中にはそういう連中がいないと思いたいが……それも絶対ではない。
それでも戦闘が本職の海賊とかじゃなくて、喧嘩が得意といったくらいの相手なら、聖戦士として多数の戦いを潜り抜けてきたマーベルに勝てるとは思えないが。
「シーラはどうする?」
「私は子供達とは別行動を取ります。周辺を見て回りたいので」
「そうか。なら、俺もそっちに行くよ」
「……いいのですか?」
まさか俺の口からそのような言葉が出るとは思わなかったのか、シーラは驚きの表情でそう聞いてくる。
別にそこまで驚くような事ではないと思うんだが。
俺にしてみれば、それこそこのままここにいても特にやるべき事はないんだし。
「このままここで仕事ぶりを眺めているくらいしかやる事はないし。それに……ここは今日から俺達の拠点だ。周辺の状況を確認しておくのは悪い話じゃない」
それ以外にも、ゲートを設置出来る場所を確認しておきたいというのもあるし。
「分かりました。では、一緒に行きましょう」
シーラが笑みを浮かべ、そう言ってくる。
俺はそんなシーラと共に歩き出し……そこで止まり、ノブリスの部下に言う。
「そんな訳で、俺はちょっとシーラと一緒に適当に見てくるけど、ここでの件は任せてもいいか?」
「ああ、構わない。好きにしてくれ」
呆れたといった様子で言ってくる男。
まぁ、この状況で半ばデートをすると言ってるようなものなのだから、そんな風に思ってもおかしくはないか。
そんな男をその場に残し、俺はシーラと共に見て回る。
「このような場所を拠点とするのですね」
「不満か?」
「いえ、そのようには思いません。ただ……何度も言うようですが、ノブリスという男は悪しきオーラ力の持ち主です。あまり親しくするのは問題があるかと」
「それは俺も理解している」
俺にはシーラのように悪しきオーラ力を見極める目のようなものはない。
だが、それでもこれまで多くの者に会ってきたのだ。
そんな俺の目から見ても、ノブリスは決して善意の人という訳ではない。
自分の利益の為なら、人を使い捨てても何とも思わない。
そんな性格だろう。
だが……そのような性格だからこそ、こちらが利益になると思えば、簡単に切り捨てないのも事実。
実際、元ブルワーズの俺達がこうして火星に降りる事が出来たのは、ノブリスが火星のギャラルホルンに手を回したからだ。
それ以外にも、エイハブ・リアクターを売った金から天引きされるが、こうして拠点の用意をしたり、その拠点を使えるように準備をしたりといった事をしているのは、全て俺達が金になる、あるいは直接金にはならなくても、自分にとって利益になると考えているからだろう。
だからこそ、その辺について考えればノブリスの動きはそれなりに予想出来る。
そういう意味では、ノブリスは信頼も信用も出来ないが、利用は出来る相手なのだ。
とはいえ、今まで何度も思っているようにずっと手を組むといった事は難しいだろう。
丁度いいところで手を切る必要があるだろうな。
「けど、俺達はまだこのオルフェンズ世界において地盤がない。今はノブリスに頼るしかないのも事実だ。……とはいえ、この拠点を使えるようになれば、ゲートを設置してホワイトスターと自由に行き来出来るようになる」
「なら、早くそうした方がよかったのでは? 昨夜のホテルのように、盗聴器でしたか。それらが仕掛けられる可能性を考えれば、ホワイトスターとやらから日用品の類を持ってきてもよかったと思うのですが」
「それだと、ノブリスに怪しまれるだろ」
拠点を用意したが、ノブリスの事だ。
もし俺達が自分で家具とかそういうのを用意したとなると、どこからそれを入手したのかと疑問に思うだろう。
まぁ、ゲートを設置してしまえば戦力も好きなだけ持ってくる事が出来るので、ノブリスが怪しんでももう問題はないんだが。
それでも怪しまれるのが遅ければ遅い方がいいのも事実。
こっちがノブリスに頼らないといけないと向こうに思わせておくというのは、悪い話じゃないと思う。
「ゲートは今日来ている連中が帰ったら設置する。その為にも、どこにゲートを設置すればいいのか、シーラも考えてみてくれ」
「私がですか?」
「ああ。もっとも、別にシーラじゃないとゲートを設置する場所を見つけられないという訳でもないから、気楽にやってくれ」
ぶっちゃけた話、ゲートを設置するだけならどこでもいい。
場所によってゲートが誤動作を起こすという事はないのだから。
いや、正確には何らかの方法でゲートに内蔵されているシステムXNに対するジャミングをするといった事はあるかもしれないが、俺が知ってる限りこのオルフェンズ世界に転移機能とかそういうのは存在しない。
なら、ここでどこにゲートを設置しても問題はない。
問題はないが……例えば外からあっさりと見つかるような場所にゲートを設置するのは、悪目立ちするという意味でそれはそれで問題だろう。
まぁ、ゲートを設置してホワイトスターと繋がればゲートが周囲から見えないように壁で覆うなりなんなりして、警備については量産型Wに任せればいいんだが。
ああ、宇宙艦が3隻あって人手が足りないというのも、量産型Wやコバッタを使えば対処は可能か。
「分かりました。アクセルがそう言うのなら。……それにしても……」
シーラは周辺の様子を見て、何とも言えない表情を浮かべる。
無理もないか。
ナの国……というか、バイストン・ウェルは恐獣が大量にいたのもそうだったが、自然が豊かだった。
それに比べると、火星は……いや、より正確にはこの辺は、周囲にあるのは荒れ地だけだ。
これはCGSもそうだったから、火星において警備員や傭兵、PMCといった武力を使う者達が使う場所というのは、こういう場所という認識なのかもしれないな。
それにMSに使われているエイハブ・リアクターは街中で使うのは不可能だし。
ん? けどそうなると、CGSもMSがあるという事になるのか?
けど、昨日見た限りだとMWしかなかったが。
あるいは奥の手としてどこかに隠してあるのかもしれないな。
俺達も俺達で、入手したMSをどうにかして地上用に変えたいところだが……それはそれで少し難しいんだよな。
それこそテイワズと接触するまで待つ必要があるし。
そんな風に思いながら、俺はシーラと共に拠点の周囲を散策するのだった。