「ぐぅ……くそ、マジか……」
体内から生まれた激痛に、何とか耐える。
現在、俺がいるのは拠点となる倉庫の中。
正確には、倉庫の中で俺が空間倉庫から取り出したニーズヘッグの中だ。
世界を移動する行動……あるいはそれに関係する行動で、呪いが発動する。
後者については、ゲートではなくマーカーを設置しようとしただけで明らかとなった。
そんな訳で、当然ながらニーズヘッグのシステムXNを使っても呪いが発動するとは思っていた。
思っていたが、まさかニーズヘッグを起動させる……具体的にはT-LINKシステムを使っただけで呪いが発動するというのは予想外だ。
呪いが具体的にどのように発動するか否かを判断しているのかは分からない。
分からないが、とにかく呪いはT-LINKシステムが転移に強く関係していると判断したのだろう。
T-LINKシステムを切断すると、予想通り呪いによる激痛は瞬時に消えた。
実際にシステムXNを使う際にはT-LINKシステムを使って発動するのは事実だ。
そういう風に考えると、ある意味呪いが発動するのは間違っていないのかもしれないが……何より痛いのは、これはつまり呪いがどうにかなるまで、ニーズヘッグをシステムXNの運用機としてではなく、兵器としても使えないという事を意味している。
何しろニーズヘッグは、基本的にT-LINKシステムを使った操作をする事が前提に開発された機体なのだから。
オーラバトラーが基本的にオーラ力で動き、操縦桿の類は補助に近いのと変わらない。
あるいはそれ以上にT-LINKシステムによって操縦する方を重視しているとすら言ってもいい。
何しろ、ニーズヘッグを起動した時点でT-LINKシステムによってコックピットにいるのが俺なのかどうか、色々な方法でサーチされる。
色々であっても瞬時に終わるのだが……それについても、T-LINKシステムが影響している。
そして調べる内容には俺の念動力かどうかというのも入っている。
つまり、ニーズヘッグを起動した時点で俺は呪いによって激痛に襲われる事になる。
初めて呪いを受けた時と違い、そういうのが来ると分かっていたので、耐える事が出来た。
もしこのコックピットの中で、最初に呪いを受けた時のように暴れれば、それこそコックピットが破壊されてもおかしくない。
ホワイトスターと行き来が出来るのなら、技術班に頼んでコックピットの換装とかも出来るだろう。
しかし、今はそもそもホワイトスターに戻る事が出来ないのだ。
これはつまり、迂闊にニーズヘッグを動かせないという事を意味している。
呪いをどうにか出来たら、問題なくニーズヘッグを動かせるんだが。
狛治を召喚で戻してから、PPのほぼ全てをSPに割り振った。
これによって、俺のSPはかなり……というか、圧倒的に増えている。
増大したSP……魔力によって、呪いの解呪……えっと、これも解呪と評していいのか?
とにかく、俺の魔力によって呪いを食い潰すといった事を可能な限り早く出来ればいいんだが。
ともあれ、生憎と今のところは何があってもニーズヘッグは使えない、と。
コックピットから降りると、機体を空間倉庫に収納する。
ニーズヘッグは魔力属性を持っているので、もしかしたら呪いに抵抗出来るんじゃないかと、そんな風にも思っていたんだが、残念ながらそういう事はなかったしい。
「となると……こっちはどうだ? T-LINKシステムとかを使ってないだろうし、多分大丈夫だとは思うんだが」
そう言い、空間倉庫からニーズヘッグ以外に俺が持っている機体……サラマンダーとミロンガ改を取り出す。
この2機は、場合によっては俺やマーベルが使うという事にもなりかねないので、機体が起動するかどうか試してみたんだが……
「こっちは2機とも問題なし、と」
幸いにも、この2機は特に問題なく使える。
どちらの機体も、現時点では唯一地上で使える機体だ。
……いっそ、これは格納庫に出しておくか?
そうも思ったが、この拠点の整備はまだ終わっていない。
明日にもノブリスの部下の男や、色々な者達がやって来る以上、出しっぱなしにしておくのは不味いか。
とはいえ、MSを……それも地上で使えるMSを入手するのが難しい以上、何かあった時は使う必要がある。
MWも購入はしたいが、こちらも難しいしな。
何よりも厄介なのは、このオルフェンズ世界においてエイハブ・リアクターはそれぞれ個別の反応があり、それを調べればどういう由来の物かが分かる事だろう。
例えば、俺がギャラルホルンの拠点……火星の側にあるという場所に行って、MSを盗んだとする。
ギャラルホルンが使っているMSはグレイズというMSで、オルフェンズ世界においては最新鋭の機体だ。
もしその機体を奪っても、エイハブ・リアクターの反応でそれがギャラルホルンの所有物だったという事が容易に理解出来てしまうのだ。
これがそういうのがなければ、どこか別の場所で入手したMSですといった誤魔化しも出来るのだが。
ギャラルホルンと本格的に敵対をしたのならともかく、ニーズヘッグを使えない現在は大人しくしている必要がある。
そうなると、やっぱり海賊とかそういう連中からMSを奪うか、高密度デブリ帯でエイハブ・リアクターやMSフレームを見つけて修理して使うか。
どのみち、そういう技術者はいないので、今のところはそういう事をするにしてもテイワズに頼るしかないが。
その辺をどうするのか考えつつ、2機を空間倉庫に収納して俺は部屋に戻るのだった。
「アクセル、どうだったの?」
部屋に戻ると、マーベルがそう聞いてくる。
この部屋に用意された家具を興味深そうに見ていたシーラも、こちらに視線を向けていた。
ちなみにこの部屋の家具もノブリスの手配で入手した物だが……うん、ノブリスの奴、センスはいいんだよな。
あるいはノブリスが任せた相手がそういうセンスがよかったのか。
とにかく、この部屋に運び込まれた家具……ベッド、ソファ、テーブル、化粧台、タンス……その他諸々は、突出した高級品という訳ではなく、そこそこの値段でありながら十分センスの良い家具なのは間違いなかった。
「取りあえず狛治を召喚して事情を話した。後は……向こうでどうにかこの世界を見つけてくれるように祈るだけだな」
ここで口には出さなかったが、もしレモンがマーカーも何もなしでこのオルフェンズ世界を見つけたとして、ホワイトスターとこのオルフェンズ世界との間で転移出来るようにした場合、俺の呪いがどうなるのかは少し心配ではある。
俺が関与した訳ではないので、呪いは発動しないのか。
それとも俺が関与していなくても、このオルフェンズ世界とホワイトスターの間を行き来が出来るようになるという時点で呪いは発動してしまうのか。
その辺は分からない。分からないが……出来れば、発動して欲しくはない。
あるいは呪いが発動するのなら、その時までに呪いを解除出来ていればいいんだが。
「そう。そうなると問題なのは、具体的にいつアクセルの国に行けるかよね」
「それまでは、この地で仕事をする必要がある訳ですが……アクセル、どのような仕事をするのか決めたのですか?」
マーベルの言葉を聞き、シーラがそう聞いてくる。
その点については俺も色々と考えてはいた。考えてはいたのだが……
「やっぱり、基本的にはPMCとしての活動だろうな。幸い……という表現はどうかと思うけど、火星は圏外圏だ。武力を使う機会は多いだろうし」
「PMCというのは、傭兵でしたね」
「正確には傭兵団だな。もっと正確には会社として傭兵をやるって感じだ。もっとも、やるのは傭兵だけではなくて、それこそ軍事訓練であったり、アドバイスであったり、警備であったり、他にも色々とある。後は……高密度デブリ帯でのエイハブ・リアクターの回収も進めたいところだ」
「いいの? エイハブ・リアクターの回収をやると、他の海賊やそれ以外にもあそこを利用していた人達に目を付けられるとか言ってなかった?」
「そうだな。それは間違いない。けど、以前と今では状況が違う」
この場合、良いのと悪いの両方での意味がある。
良い意味……いや、個人的には出来るだけ早く手を切った方がいいと思うのだが、ノブリスが明確に俺達の後ろ盾になったというのがあった。
少し調べた限りだが、ノブリスの影響力は火星だけではなく、圏外圏……どころか、一部は地球にも届いているらしい。
それだけに、ノブリスの後ろ盾があるのは大きい。
夜明けの地平線団のような大きな海賊団であれば、ノブリスの後ろ盾があってもそう意味はないだろうが、小さな海賊団に対しては大きな意味を持つ。
もしこっちがエイハブ・リアクターの採掘……採掘って表現はこの場合正しいのか? とにかく高密度デブリ帯でエイハブ・リアクターを探している時に、エイハブ・リアクターがなくなって地形が変わるのを面白く思わない連中がいても、ノブリスの後ろ盾があると言えば大抵は下がるだろう。
勿論、夜明けの地平線団のように大きくなくても、気に入らないという理由だけで襲ってくる者達がいないとも限らないが。
そして悪い意味というのは、やはりホワイトスターと繋がらない事だ。
いざとなったら、ホワイトスターから戦力を持ってこられる。
俺の中にそのような思いがあったのは否定出来ない。
もしそうなっていれば、それこそメギロートやイルメヤ、バッタといった無人機や、量産型Wの操るシャドウを使える。
……もっとも、ナノラミネートアーマーというPS装甲の上位互換のような性能の装甲を標準的に持つこのオルフェンズ世界のMSを相手に、メギロートやバッタ、イルメヤのような無人機でどうにかするのは少し難しいが。
ただ、エネルギー切れでPS装甲が使えなくなるように、塗料のナノラミネートアーマーも攻撃が命中すれば剥離する。
そういう意味では無人機で対処するのは難しいのは事実だが、数で押せばどうとでもなるのも事実。
とにかくそういうのが出来ない以上、オルフェンズ世界において早急に戦力を充実させる必要がある。
マーベルが使っている夜明けの地平線団から奪ったガルム・ロディも、エイハブ・リアクターの固有周波数の問題を考えるとそう簡単に使えないしな。
出来れば高密度デブリ帯からエイハブ・リアクターを見つけて、それと入れ替えたい。
そして何より、現状において俺達が出来る仕事で一番儲かるのは、間違いなくエイハブ・リアクターの売買だ。
……ノブリスを通してテイワズに接触するしかない以上、手数料のピンハネは痛いが。
いっそギャラルホルンに売る……というのも少し考えたが、そもそもギャラルホルンとの伝手がないし、何よりギャラルホルンはこのオルフェンズ世界で唯一エイハブ・リアクターを作れる組織だ。
俺達からエイハブ・リアクターを買うよりも、普通に作った方が手っ取り早いだろう。
勿論、エイハブ・リアクターを作るには相応の時間やコストが必要なのに対し、俺達から購入すればそれを整備するだけでいいので、手っ取り早いが。
「エイハブ・リアクターの収集以外にも、護衛とかがあるな。もっとも、アリアドネの航路以外を通るのは基本的に何らかの理由で後ろ暗いところのある者達だ。そうなると、自分達で護衛を用意している可能性が高いが」
「でも、ここが拠点となるからには宇宙だけではなくて火星で仕事をする事も考えているんでしょう?」
「そうだな。火星も平穏無事って訳じゃないし」
地球からの搾取の影響によって、火星はかなり貧乏だ。
しかも地球にある4つの国……経済圏から分割支配を受けている関係で、それによる対立もあったりする。
火星で必要な警備とかは、そっちも関係しているだろう。
何をするにしても、やはり戦力が……MSとはいかないまでも、MWが必要だ。
やっぱりこの辺はノブリスに頼むしかないんだろうな。
もしノブリス以外の者にMWの購入を持ち掛けても、火星で武器を取り扱っている以上はノブリスの影響下にある可能性が高い。
中には反骨心からノブリスに逆らうという者もいるかもしれないが……正直、微妙だろう。
そういうのがいても、接触出来るとは限らないし。
やっぱり、ギャラルホルンから盗むのが出来ないのが痛いな。
「そう。……火星にはハーフメタルという希少な鉱石もあるんでしょう? そっちには手を出せないの?」
「難しいと思う。ハーフメタルは、現在の火星において唯一の輸出資源だ。それに手を出そうとすれば、それこそよってたかって潰そうとしてくるだろうし」
それこそ、ノブリスの後ろ盾があっても効果はない程の攻撃に晒されるだろう。
寧ろそういう事になったら、ノブリスが率先してこっちを切り捨てそうだし。
今の状態でそれは不味いので、取りあえずはそっちには手を出さず、ある程度力を溜め込む必要があるのは間違いない。
そんな風に考えつつ、俺はマーベルとシーラの2人と話を続けるのだった。