「アクセルさん、その……本当に俺達が行かなくてもよかったんですか?」
これからのシャドウミラーについての会議が終わり、現在は拠点となる場所でパーティの真っ最中。
この拠点がこれからシャドウミラーの本拠地になるという事で、他の面々はかなり興味津々な様子で建物の中を見て回ったり、自分の部屋をどこにするのかを決めたりといった事をしている。
ちなみに話を聞いてみたところ、ブルワーズ時代は特に拠点らしい拠点はなかったらしい。
強襲装甲艦や輸送艦が拠点だったとか。
勿論、補給や整備、あるいは海賊として入手した物資やヒューマンデブリの売買といった事をする為に、どこかのコロニーとかそういう場所には行っていたりしたらしいが……それでもやはり基本的には船の中が拠点だったらしい。
そんな訳で、こうして明確に拠点があり、その部屋を自分達で好きに決めてもいいというのは、嬉しかったのだろう。
ちなみに船に残っている面々は、優先的に自分の部屋を決めて貰っている。
そのくらいの役得は必要だろう。
また、パーティの料理も別に用意してあるので、それも持っていって貰うつもりだ。
そんな中で、パーティを楽しんでいる面々を眺めていると、昌弘がそう聞いてきたのだ。
「高密度デブリ帯の件か?」
「はい。エイハブ・リアクターを探していると、それを邪魔してくる……もしくは横から奪い取ろうと考える連中がいるかもしれません。そういう連中の対処を、他の連中に出来るかどうか……」
「別にお前達以外の子供組が決してMSの操縦が出来ない訳ではないだろう?」
昌弘を含めた5人は子供組のトップといった扱いになってはいるが、それは別にMSの操縦技術で選ばれた訳ではない。
単純に、俺とマーベルとシーラがこのオルフェンズ世界に来た時、最初に接触した5人だから、それによって子供組を纏めるような立場になっているだけだ。
とはいえ、昌弘やアストンは阿頼耶識を使ったMSの操縦能力は子供組の中でも最高峰の技量なのは間違いない。
「それはそうですけど……でも、やっぱり心配なところはあるんですよね」
「となると……分かった。そうだな。全員とは言わないが、何人かは向かわせるか」
操縦技術という点では、マーベルは何気に俺に次ぐ2番目の技量なのだが、それ以外にも英語が共通語のこの世界では読み書きが出来るという点で非常に大きな力となる。
今の状況でマーベルを手放す訳にはいかない。
ちなみにシーラもマーベルに教わったのか、普通に英語の読み書きは可能だ。
「ビトーとペドロの2人でどうでしょう?」
「昌弘がそれでいいと思うのなら、それでいい」
特に誰を向かわせるのかという事は決めていなかったので、昌弘が選んだ2人で特に問題がないのなら、それで構わない。
実際、火星ではどうしてもすぐに依頼を受けるとか、そういう事は難しいだろうしな。
そんな風に思いながら、俺はパーティを楽しむのだった。
「は? 生身? 本気か?」
『本気だとも。聞いた話では、アクセルは生身でもかなり強いらしいじゃないか。来月、ノアキスで開かれる会議の人物の護衛だ。これで上手くいけば、そちらにとっても仕事に困る事はなくなるだろう』
パーティが終わってから10日程。
当然の事ながら、現在は特に依頼らしい依頼はない。
数日後にCGSと生身での訓練を共にするという話が出ていたが、それ以外は訓練、訓練、訓練だ。
これについては、大人もかなり真剣にやらせている。
何しろ子供組は阿頼耶識があるので、MSなりMWなりを使うにしても、阿頼耶識を使えばかなりの戦力となる。
大人は、ブルワーズ時代にもMSを使った戦闘はヒューマンデブリやクダルに任せていたので、そっち方面ではそれこそ1から勉強する必要がある。
そんな諸々を考えれば、やはり大人には歩兵としての役割を期待する事になるのはおかしな話ではない。
ただの歩兵ではなく、普通のMWとかが入手出来たらそっちを使わせてもいいんだが。
「それはありがたいけどな。そもそもテイワズにエイハブ・リアクターを売るって話はどうなってるんだ?」
そう、何だかんだとノブリスにその話を持ち込んでからそれなりに時間が経つが、それでも未だにその話はない。
ちなみに再度高密度デブリ帯にエイハブ・リアクターの回収に向かった者達はまだ戻ってきてはいないが、報告では数個のエイハブ・リアクターを見つけているらしい。
それ以外にも、ロディ・フレームを2個見つけたという話だった。
結構な収穫なのは間違いない。
懸念した、他の海賊……夜明けの地平線団の襲撃とかも今のところはないようだし。
そんな訳で、まだテイワズとの取引は終わっていないものの、こっちが所有するエイハブ・リアクターやMSのフレームは多くなってるんだよな。
『ああ、その件についての話はまだしていなかったか。テイワズとは無事に話がついた。向こうとしても今回の話については興味を持っていてな。今回依頼するノアキスでの会議が終わった後になるが、テイワズのNo.2……正確には本人ではなく、その部下がエイハブ・リアクターを受け取りに来るらしい』
「なるほど。ようやくか。……けど、それはつまり、その護衛をやるのが条件とか言わないよな?」
『勿論だとも。ただ……生身での護衛をやる上で、アクセルが具体的にどの程度の実力があるのかを見ておきたい。ちょうど今度CGSと生身での訓練を行うのだろう? その時、模擬戦をやって欲しい』
「その模擬戦に勝てないと、その依頼はなしになると思っていいのか?」
『どうだろうな。ただし、全面的にアクセルを信用するといった事は出来なくなるかもしれん。どうだ?』
「構わない。どうせ今のところは受けるべき仕事もないし、会社としての体制もまだ完全じゃないんだ。そんな状況でもやれる仕事があるのなら、受けるさ」
ノブリスにいいように使われているが、護衛程度であれば問題はない。
……あるいは、俺の護衛する人物が誰かに狙われているとか、そういう事があった場合は少し守るのが大変かもしれないが。
そもそも、俺を相手に生身で勝つのは……うん。ここがガンダム系の世界である以上、魔力や気は恐らく存在しないので、まず無理だろう。
ましてや、CGSの連中はこの前見た時、敵ではない……それこそ雑魚だと判断したし。
参番組の連中も、MSやMWを使っての戦闘なら阿頼耶識の力を発揮出来るが、生身でとなるとそれも無理だ。
だとすれば、それこそ俺にとっては容易に倒せる相手でしかない。
昌弘の兄の昭弘は、見るからに身体を鍛えてはいたので、ハエダ達よりはマシだと思うが。
『そうか、そう言って貰えてこちらも助かるよ。模擬戦の際にはこちらから人を送って見学させて貰うから、そのつもりで』
そう言うと、ノブリスからの通信が切れる。
自分の用事が済んだらこれか。
明らかに軽く見られているな。
もっとも、ノブリスにしてみれば俺達はあくまでも便利に使える手駒……ですら今はないか。便利に使える手駒になるかもしれない相手という認識だ。
元ブルワーズ……つまり、元海賊という事で戦闘力についてはある程度認めているだろうし、エイハブ・リアクターの取引もある。
その辺も影響して、こうしてそれなりに援助をしてはいるのだろうが……この先の事を思うと、やっぱり早めに縁を切った方がいいんだよな。
ともあれ、まずはCGSとの合同訓練、そして模擬戦だ。
これで実力を見せつければ、護衛の仕事も俺達が受ける事になるだろう。
ただ……俺が言うのもなんだが、個人の強さというのは護衛にそこまで関係しないと思うんだが。
いや、勿論何かあった時に護衛対象を守って戦うという意味では、個人の強さも重要だろう。
だが実際には護衛をする場合、強さよりもどうやって護衛を守るかという方が重要な意味を持つ。
例えばどこから狙われるかと警戒したり、あるいは何かあった時、すぐに護衛対象を連れて避難したりといったように。
そういう意味では、ノブリスが見たいという俺個人の強さは……いや、それはつまり、ノブリスの性格から考えると、俺が護衛するべき相手が狙われるのはほぼ確定だったりするのか?
それなら襲ってきた相手を俺が倒すという意味で、個人の強さも重要になるかもしれないが。
その辺は色々と気になるが……ともあれ、まずはCGSとの合同訓練か。
合同訓練の時に恥を掻かないよう、少し厳しく訓練しておくとしよう。
そう考え、俺も訓練に参加するのだった。
「よろしくお願いする」
マルバが嫌々といった様子で俺に向かってそう言ってくる。
その表情には、何でこんな面倒な事をといった思いが如実に表れていた。
マルバにしてみれば、本来なら合同訓練については自分が参加するような事はないと、PMCとして活動したばかりの俺達に胸を貸してやろう、あるいは上下関係を叩き込もうといったように考えていたのかもしれないが、それについては他の面々に任せて自分が合同訓練に参加する気は全くなかったのだろう。
だが、ノブリスの部下が来ると聞けば、マルバが訓練に参加しない訳にもいかないといったところなのだろう。
マルバにとって、ノブリスという存在は、とてもではないが無視したり、軽く扱ったり出来る相手ではないのだから。
「ああ、頼む。……そっちも大変だな」
マルバに返事をし、ノブリスから派遣されてきた男に向かってそう言う。
俺にとっては、顔見知りの男だ。
拠点の準備を整える際、一緒に行動していた男だ。
マルバにしてみれば、全く知らない相手を派遣するよりも顔見知りを派遣した方が色々と話が通りやすいと思ったのだろう。
実際、こうしてマルバが出て来ているし。
「俺の事は気にしないでくれ。あくまでもアクセルの実力を見る為にやって来たのだから」
そう言う男だったが、俺はともかくマルバは気にしない訳にはいかないだろう。
「ん、ごほん。……それで、今回の模擬戦はMWとかはなしで、生身の訓練に限るという話だったな?」
男の言葉を律儀に実行しようとしたのか、マルバがそう聞いてくる。
ただし、その言葉には微かに優越感があった。
ノブリスの後ろ盾を持つ俺達が、MSは勿論MWも持っていない事に対するものなのだろう。
実際にはMSもMWも……それどころか、オルフェンズ世界全体で見てもかなり貴重なガンダム・フレームですら所持してるんだが。
ただ、それはあくまでも宇宙用なので地上にはないだけで。
……もっとも、重装甲のガンダム・グシオンは今のところ使っているが、あまり好みではないのも事実。
使えない事はないし、高性能なのは間違いないので今は使っているが、テイワズとの交渉が上手くいったらガンダム・グシオンも改修して欲しいところだよな。
幸い、エイハブ・リアクターとかを受け取りに来るのはテイワズのNo.2……正確にはその部下らしいし、上手い具合に交渉出来れば……
その辺をどうにかする為にも、まずは護衛の仕事をきちんと受ける必要があり、それを示す為にも今回の合同訓練で俺の力をしっかりとノブリスの部下に見せる必要がある。
「まずは準備運動代わりに走るという事でいいか?」
「構わんよ。今回の合同訓練はシャドウミラーの仕切りだ」
マルバの言葉に、俺は頷いてCGSを見る。
俺達の仕切りである以上、本来なら俺達の拠点で訓練をした方がいいのだろうが、CGSの方が施設とかは充実してるので、こっちでやってるんだよな。
「じゃあ、そういう事で。いつものようにジョギングからだ」
そう言うと、話を聞いていたシャドウミラーの面々は微妙な表情を浮かべる。
CGS組の方は、壱番組、弐番組、参番組揃って不思議そうな表情を浮かべていたが。
こう見えて、俺は士官学校を卒業しているし、多くの戦場を潜り抜けてきた。
勿論、基本的にはPTを始めとした人型機動兵器に乗っていたが、だからといって兵士の基本が分からない訳ではない。
……まぁ、CGSは警備会社である以上、兵士ではないという突っ込みもあるかもしれないが。
それでも表向きはともかく、MWとかがある以上は兵士として扱っても間違いではないだろう。
そんな訳で……兵士にとって何よりの基本なのが走る事だ。
1にも2にも、とにかく兵士というのは走る必要がある。
体力増強目的という意味でも。
そんな訳で、俺はPMCとして活動を始めてから部下達にはとにかく走らせてきた。
だからこそ俺の言葉の意味を理解していないCGSの面々は、どうなるのか……きちんと鍛えられているのかどうか、それを確認する意味でも走らせる。
さすがに俺達……シャドウミラーよりも走るのが遅かったり、すぐに息を切らせるといったことにはならないと思うが。
その辺は実際に走っているのを見ないと何とも言えないのは間違いなかった。