転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3844話

「美味いな、これ」

 

 そんな俺の言葉に、ノブリスは自慢げな表情を浮かべる。

 応接室に入った俺とマーベルの前には、ノブリスが食べていたのと同じプリン・ア・ラ・モードが用意されていた。

 俺の口から出たのは、お世辞でも何でもない。

 ペルソナ世界やネギま世界といった日本のスーパーやコンビニで売られているスイーツは、世界的に見ても明らかに高レベルだ。

 だが、このプリン・ア・ラ・モードは明らかにそれ以上だ。

 日本で売られているスイーツは、幾らレベルが高いとはいえ、それは結局工場生産品でしかない。

 それに比べて、このプリン・ア・ラ・モードはそういうのではなく、パティシエだったか? そういう本職のお菓子職人が作ったスイーツだった。

 幾ら俺の空間倉庫に日本のスーパーやコンビニで売ってるスイーツが入っているとはいえ、本職が作った物には及ばない。

 ……いやまぁ、本職と一口に言っても技量の差は大きいが。

 このプリン・ア・ラ・モードを作ったような腕利きのパティシエもいれば、それこそスーパーやコンビニで売ってるスイーツにも及ばないパティシエもいる。

 同じスイーツであっても、比べる土俵が違うという事なのだろう。

 

「喜んで貰えて何よりだよ。マーベルだったか。君もお気に召したかな?」

「ええ。美味しいです」

 

 マーベルの言葉に、ノブリスは満足そうな様子で頷く。

 基本的に、火星というのは植民地で多くの者が貧乏だ。

 そんな中でこんなプリン・ア・ラ・モードを用意出来るというのは、多分俺が思っているよりもかなり贅沢な事なんだろうな。

 

「それで、このプリン・ア・ラ・モードが美味いのは分かったけど、これを食べさせる為に俺を呼んだ訳ではないだろう? 護衛の件についてだった筈だが。……ん? どうした?」

 

 護衛の件について話せと、そう言ったのだが、何故かノブリスはその動きを止めていた。

 そしてじっと俺を見ている。

 男に見つめられて喜ぶ趣味はないんだが。

 これがマーベルやシーラならともかく。

 そんな風に思っていると、ノブリスが口を開く。

 

「何故、これをプリンではなく、プリン・ア・ラ・モードと?」

「……は?」

 

 まさかそんな事を聞かれるとは思っていなかっただけに、意表を突かれる。

 だが、ノブリスの表情は冗談でも何でもない。

 真剣な表情でこっちを見ている。

 何だ? 今の言葉のどこに……いや、プリン・ア・ラ・モードか。

 これがプリンと答えたのなら、ノブリスもそこまで気にはしなかっただろう。

 だが、プリン・ア・ラ・モードという名称を、この火星にいる者達で知っているのがおかしいと、そう思ったのかもしれない。

 ただ、考えてみればこれはそこまでおかしな話でもない。

 火星というのは地球の植民地で、貧乏な者が大半だ。

 そういう者達が、プリンはともかくプリン・ア・ラ・モードについて知っているというのは、ノブリスにとって驚きだったのだろう。

 そしてどこでプリン・ア・ラ・モードについて知ったのか疑問に思ってもおかしくはない……か?

 

「火星の住人ならプリン・ア・ラ・モードについて知らなくてもおかしくはないが、俺達は元ブルワーズだぞ?」

 

 取りあえずそう言って誤魔化しておく。

 実際にブルワーズの中にプリン・ア・ラ・モードについて知っている者がいるかどうかは分からないが。

 俺の言葉を聞いてもノブリスは表情を変えなかったものの、それでもある程度は納得したのか、その表情を緩める。

 

「そうか、そう言えばそうだったな。元海賊ならプリン・ア・ラ・モードについて知る機会もあるか」

 

 あるか?

 自分で誤魔化しておいてなんだが、素直にそう思ってしまう。

 何をどうすれば、海賊がプリン・ア・ラ・モードについて知るんだ?

 いやまぁ、オルフェンズ世界にはかなり海賊とかがいるらしいし、そう考えればプリン・ア・ラ・モードとかに詳しい海賊がいてもおかしくはない……のか。

 うん、取りあえずそれで問題はないという事にしておこう。

 

「それで、プリン・ア・ラ・モードの件はいいとして。護衛の件だ」

「ああ、そうだったな。しかし……まさか20人以上を相手に、傷らしい傷も負わずに圧勝するとは思わなかった。報告を聞いた時、部下が正気かどうか疑ったよ」

 

 だろうな。

 普通の人間として考えれば、そんなのはまず有り得ない事なのだから。

 

「ブルワーズを乗っ取ったんだ。このくらいの実力は必要だろう?」

「まぁ、生身での戦いに強いに越した事はないか」

「護衛をする上でもか?」

 

 その問いに、ノブリスが頷く。

 実際、生身で護衛をする以上、必要なのは生身での強さだ。

 拳銃とかを使った戦いも、生身での戦いではあるけど。

 

「その通りだ。正直なところ、アクセルの強さは予想外だったが、それは良い意味での予想外だ」

「そう言って貰えて、こっちとしても嬉しいよ」

 

 ノブリスが何を思って護衛の仕事を俺に紹介したのかは分からない。

 分からないが、それでも俺にとってチャンスなのは間違いないのも事実。

 それにこの護衛が終わればエイハブ・リアクターの売買についての話も纏まって、資金的に余裕も出来る。

 

「そう言えば、MWの件はどうなったんだ? 護衛の件とは関係ないけど、その辺についても聞いておきたい。場合によっては、護衛にMWを使うかもしれないし」

 

 エイハブ・リアクターを動力源としている訳ではないMWは出力が弱いし、MSを相手にすると圧倒的に不利だ。

 だが、MSは市街地で使えないのに対して、MWは普通に市街地で使えるのは大きい。

 護衛をする上でも、直接護衛をするのは俺がやるが、会議を行う場所の護衛をやるのにMWはあった方がいいだろう。

 今回俺が護衛するのは1人だけである以上、会場の警備そのものはどこか別の警備会社が行うのだろう。

 CGSとか?

 いや、けど模擬戦を結果を知ったノブリスの中では、どうやらCGSの評価がかなり落ちているっぽいし、CGSではない別の警備会社とかか?

 ともあれ、別に俺達シャドウミラーが会場の警備そのものを任されている訳ではない以上、その辺については気にする事はないだろう。

 ただ、これからPMCとして活動していく以上、MWは必須だ。

 出来れば地上用のMSも欲しいのだが……こっちはテイワズとの交渉次第か?

 そんな風に思いつつ、俺はノブリスの返事を待つ。

 するとノブリスはたっぷりと1分程沈黙した後で口を開く。

 

「MWについては、20機程確保した。ただし、MWの金額を考えると、支払いが行ってからの譲渡となる」

「……分かった」

 

 MWを用意して貰って言うのはなんだが、まさか20機も用意するとは思わなかった。

 エイハブ・リアクターの取引でどれだけ金が動くのかの証明でもあるんだろうな。

 

「それで、具体的にどんなMWなんだ? 数だけ揃えても、性能が低いとかじゃないよな?」

「そのような事はない。最新型とは言えんが、性能に関しては文句なく優秀だよ。何しろ、ギャラルホルンが現在使っているMWの1世代前のMWなのだから」

「それは……また……」

 

 ノブリスがギャラルホルンと関係があるのは、分かっていた。

 俺がブルワーズを乗っ取り、火星に来た時……普通ならブルワーズの艦と判断され、ギャラルホルンによって攻撃されてもおかしくはなかったのだから。

 だが、先行して火星に行っていた者達がノブリスと接触した事によって、俺達はギャラルホルンに攻撃されず、無事に火星に降下出来た。

 それを行ったのが、ノブリスだ。

 具体的にどのくらいノブリスがギャラルホルンに対して影響力があるのかは分からなかったが、今回の件は俺達が火星に来た時とは話が違う。

 何しろ1世代前とはいえ、ギャラルホルンが使っていたMWを20機も用意したのだから。

 一体どれだけギャラルホルンに影響力があればそんな事が出来るのか。

 まぁ、それでも現役のMWではないのは……仕方がないのだろう。

 

「MWの件は分かった。それで、阿頼耶識の対応は?」

 

 その問いにノブリスは首を横に振る。

 

「ギャラルホルンにおいて、阿頼耶識は嫌悪すべき存在だ。儂としては、使える物は使えばいいと思うが。とにかくそのような訳で、ギャラルホルンはMSにしろMWにしろ、阿頼耶識対応のコックピットはない。どうしても阿頼耶識対応のコックピットにするのなら、改修する必要があるな。どうする? そのくらいの手筈はこちらでやるが」

「頼む。取りあえず半分ずつにしてくれ」

 

 武器商人のノブリスだ。

 CGSのように阿頼耶識を使っている者達が使うように改修作業をするくらいは問題なく出来るのだろう。

 

「任せて貰おうか。アクセル達には期待しているよ」

 

 そう言い、笑みを浮かべるノブリス。

 ただし、その目は笑っていない。

 あくまでも俺達を利用し、それを自分の利益にしようと考えているのだろう。

 マーベルもそれが分かっているのか、表面上はともかく、実際には警戒している。

 もっとも、ノブリスも自分が信用も信頼もされているとは思っていないだろう。

 だが、その上でシャドウミラーとしては、現在のところノブリスという後ろ盾に頼るしかない。

 それが分かっているから、こっちがどう思っていようとも気にしていないのだろう。

 食えない爺さんだ。

 そんな風に思っていると、この応接室に近付いてくる気配を感じる。

 

「誰か来る予定があるのか?」

「うん? 突然どうした? ……まぁ、そうだな。呼んだ時に護衛の件で話があると伝えたと思うが」

「そうか。なら、その件だな」

 

 俺のそんな言葉にノブリスが不思議そうな表情を浮かべ……次の瞬間、部屋の扉がノックされる。

 

『ノブリス様、クーデリア様をお連れしました』

「何? ……入って貰え」

 

 タイミングの問題から、ノブリスは先程の俺の言動が気になったらしい。

 だが、今はそれを考えるべきではないと思ったのか、中に入るように言う。

 けど、クーデリア? ノブリスの態度やこれまでの話の流れからすると、恐らくそれが俺の護衛する相手、もしくはその関係者といったところだろう。

 マーベルも、俺と同じ結論になったのか扉の方に興味深そうな視線を向けている。

 やがて扉が開き、最初にメイドが。そしてメイドに続くようにして1人の女が姿を現す。

 へぇ。

 年齢的には10代半ば……いや、もう少し上か?

 顔立ちは整っており、見た者は余程特殊な趣味をしていない限り、美人と評するだろう。

 ボリュームのある金髪が特徴的だ。

 ノブリスという存在と会うからか、その美貌も少し緊張した様子を見せているが。

 ただ。それでも目の中には強い意志がある。

 

「失礼します、ノブリス・ゴルドン様。クーデリア・藍那・バーンスタインと申します。今回は会議に初めて参加する私の為にお力添えをしていただき、ありがとうございます」

 

 その女……クーデリアと名乗った女が、ノブリスに向かって一礼する。

 その所作も洗練されており、クーデリアが相応の礼儀作法を身に付けているのは明らかだ。

 まぁ、ノブリスがわざわざ俺に護衛を依頼する相手だ。

 色々と訳ありであっても、俺は特に驚いたりはしない。

 クーデリアは下げていた頭を上げると、俺とマーベルの存在に気が付いたのだろう。

 少しだけ眉を動かす。

 

「クーデリア・藍那・バーンスタイン。何もそこまで丁寧な挨拶はしなくても構わんよ。別に初対面という訳でもないのだから」

 

 初対面ではない?

 いや、当然か。

 クーデリアの仕草を見れば、相応の育ちなのは明らかだ。

 そしてノブリスはこの火星では強い影響力を持つ。

 そんな2人である以上。例えば何らかのパーティとかで会ったことがあってもおかしくはない。

 それでもこの2人の様子を見る限りだと、親しい関係って訳でもないように思えるし。

 ……何より、ノブリスがクーデリアに向ける視線には俺達と同じ色がある。

 具体的には、クーデリアの存在をどうやって自分の利益に使おうかという、そんな色が。

 

「ですが、ノブリス様と私では、立場が違いますから」

「何、立場の違いというのであれば、そちらはクリュセの代表首相の1人娘だ。しがない商人の儂の方が、立場としては下だろうに」

 

 代表首相……また、微妙な肩書きだな。

 火星は四つに分割されて植民地支配されている。

 その中の1つの代表といった感じなんだろうが。

 ともあれ、その後もクーデリアとノブリスの間で上辺だけの会話が行われる。

 これを見る限り、クーデリアもそれなりの性格をしているという事か。

 

「それで、今日は一体どのような?」

 

 会話から数分経過したところで、クーデリアがノブリスに向かって尋ねる。

 どうやらようやく前置きが終わったらしい。

 ノブリスの方も、ここでようやく俺に視線をむける。

 するとクーデリアもまた、それに釣られるようにこちらに視線を向けてきた。

 もっとも、クーデリアにしてみれば俺達の存在が気になっていたのは間違いないのだろうが。

 

「来月の会議において、君の護衛を任せようと思ってこの2人を呼んだんだ」

 

 ノブリスの言葉に、クーデリアは驚きに目を大きく見開くのだった。

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