俺の言葉に我に返ったクーデリアは、何を言えばいいのか分からない様子だった。
無理もないか。
現在においても、火星は地球にある4つの経済圏によって植民地となっているのだ。
そのような状況である以上、火星を1つの国にするというのは……まぁ、こっちはもしかしたら、本当にもしかしたらどうにかなるかもしれない。
だが、その次。
ギャラルホルンが無視出来ない戦力とするのは……現状では不可能に近いだろう。
何しろギャラルホルンは300年もこのオルフェンズ世界を支配してきたのだから。
そんなギャラルホルンと互角の戦力というのは……それこそ、テイワズをそのまま傘下に収めても無理だろう。
海賊達も含めてなら、何とかなるか? ……無理だな。
「アクセル、そのような事が本当に出来ると思っているのですか?」
「だから言っただろう? 不可能に近いって」
ゲートが動けば戦力的な問題はどうにかなるかもしれないが……呪いの解呪が具体的にいつになるか分からない以上、俺としては何とも言えない。
「ただ、戦力云々は置いておくとして、火星を全て纏めるという事が出来れば1歩前進なのは間違いないと思う」
「それも不可能に近いですよ」
呆れた様子のクーデリア。
そうだろうとは思っていたが、やっぱりそういうのは難しいんだろうな。
「だろうな。とはいえ、今は無理でも将来的にはどうなるか分からないだろう?」
「それは……」
クーデリアがすぐに否定しないのは、もしかしたら……本当にもしかしたらと思っているのかもしれない。
だからこそ、俺の言葉を完全に否定出来ないのだろう。
「まぁ、その辺についてはおいおい考えていけばいい」
クーデリアは一種のカリスマ性がある。
しかし、今の時点でのクーデリアは、まだただの人でしかないのも事実。
あるいはこの先、クーデリアがもっと存在感を高めていけば……もしかしたらもしかするかもしれないが。
「そう、ですか」
「クーデリア、でしたね?」
「え? あ、はい」
俺の言葉に何と答えればいいのか微妙な表情を浮かべたクーデリアだったが、今まで俺達の話を聞いていたシーラがクーデリアにそう声を掛ける。
「貴方の行っている事、やろうとしている事は、決して悪い事でありません。ですが、何をするにも力が必要となります。特に、この世界においてそれは顕著でしょう」
この世界という表現を使うのはどうかと思ったが、幸いクーデリアはその辺については特に気にした様子もなく、シーラの言葉に聞き入っていた。
「力というのは……その、いわゆる暴力でしょうか?」
「それが一番に思いつくけど、力というのはそれだけではないわ。権力、人脈、カリスマ性……それ以外にも多数あるでしょう」
シーラの言葉に、クーデリアは納得したような、出来ないような、そんな微妙な表情を浮かべる。
何だかんだと、クーデリアもこのオルフェンズ世界の生まれだ。
どうしても力を言われて思い浮かぶのは、暴力なのだろう。
暴力という表現が悪ければ、戦闘力か。
「少し……考えてみます」
「そうしてみなさい。それで自分に何が出来るのかを考える方がいいでしょう」
そんなシーラの言葉に、クーデリアは頷くのだった。
「では、失礼します。今日は色々と話を聞かせて貰い、ありがとうございました」
車の中から、窓を開けてそう言ってくるクーデリア。
「気にするな。ヒューマンデブリについては、俺も思うところがある。そういう意味では、クーデリアの活動を応援してるよ」
もっとも、クーデリアだけが頑張ってどうにかなるような事でもないのも、また間違いないのだが。
もし本当にクーデリアがヒューマンデブリをどうにかしたいのなら、それこそ大きな動きを巻き起こすような行動をする必要がある。
それが具体的に何なのかは俺にも分からない。
だが……今度行われる会議で、その何かが見つかるといいんだが。
「はい。では、また会議の時に」
クーデリアが頭を下げると同時に、車の窓が閉まる。
そして車が進み始めた。
徐々に離れていく車を見送っていたのだが、その車が見えなくなったところで俺はシーラに声を掛ける。
「シーラにしては、随分とクーデリアを気に入ったようだな?」
「そのような事は……いえ、そうかもしれませんね。私も幼い時にナの国の女王となりましたが、最初は色々と失敗したのも事実です。彼女を見ていると、その時の事を思いだしてしまったのでしょう」
俺がシーラと会った時は、既にシーラは立派に女王として活動していた。
だが、この様子を見る限りだと、女王になったばかりの時は色々と失敗もあったのだろう。
だからこそ、今のクーデリアを……火星を、そしてヒューマンデブリを何とかしたいと思っているのを見て、手を貸してやりたいと思ったといったところか。
ある意味、これはクーデリアにとって幸運だろう。
先程言っていたように、クーデリアは現状を何とかしようと考えてはいても、それで具体的にどうすればいいのか分からない。
俺が護衛を行う会議に参加するのも、その辺が理由だろう。
だが、そこにシーラが……バイストン・ウェルにあったので、半ばファンタジー世界だったが、それでも大国のナの国を治めていたシーラが興味を持ったのだ。
これはクーデリアにとって、かなりのチャンスなのかもしれない。
もっとも、本当にそうなのかどうかは俺にもちょっと分からないが。
あくまでもそう思っているだけで、実際にシーラが色々と教えたとしても、それがクーデリアにとって意味を持つのかどうかは分からないし。
お互いの状況を考えると、それこそマイナスの動きになる可能性もあるのだから。
その辺は、実際に色々と試してみないと何とも言えないが。
「なら、これからも彼女にアドバイスをするの?」
「分かりません」
マーベルの言葉に、シーラはそう言い、首を横に振る。
これは照れ隠しとかそういうのではなく、本当にそのように思っているのだろう。
個人的には、これから俺達が火星で上手くやっていく為に、クーデリアには色々と頑張って欲しいとは思っているのだが。
「分からないのか?」
「ええ。そもそも、彼女が私に教えを請いたいと思うかどうかも不明でしょう」
そう言うシーラに言葉だったのが、何となく……本当に何となくだが、シーラ本人は恐らくクーデリアがまたここに来るのだろうと、そのように思っているように思えた。
ちなみに……本当にちなみにの話なんだが、ナの国の元女王だったシーラだが、俺もまたシャドウミラーという国を率いているんだが。
しかも俺の場合は、元ではなく現在進行形で。
……そう言おうかと思ったが、俺が国を率いているのはあくまでも名目上に近いし、国の運営そのものは政治班であったり、レモンであったりに任せている以上、俺の意見がクーデリアの参考になるかどうかは非常に微妙なところだと判断し、黙り込むのだった。
時は流れ、いよいよ会議が行われる日がやってきた。
「こういうのはあまり好みじゃないんだけどな」
そう呟き、鏡を見る。
そこにはいつもの服装ではなく、黒いスーツを着てサングラスを掛けた……それこそ、ザ・SPといったような感じの俺の姿があった。
今の俺の状況をムウ辺りが見たらどうするか。
何となく爆笑するような気がするんだが。
ちなみに、この黒スーツやサングラスもノブリスが用意した物だったりする。
生地とかがかなり上質な物らしいが……これ、会議が終わった後でエイハブ・リアクターの取引を行った後、その料金から天引きされるんだが、その時に少しでも多く金を入手しようとして、無意味に高級品を使っていたりはしないよな?
何となく……本当に何となくだが、ノブリスならそういう事をしそうな気がする。
「あら……お似合いですよ」
そう俺に言ったのは、クーデリア。
護衛を拾う為に、わざわざ護衛対象が護衛を迎えに来るというのは……正直どうかと思うんだが。
とはいえ、そうした方が手っ取り早いと思ったのは間違いないらしい。
それにここまでやって来るのは、クーデリアもそれなりに慣れてるし。
何しろ初めて俺達の拠点にやってきてから今日まで、クーデリアはそれなりにここに来ているのだから。
その理由は、当然ながらシーラから話を聞きにだ。
予想通り、クーデリアはシーラから色々と教えて貰っているらしい。
具体的にどのような話をしているのかは、俺にも分からないが。
ただ、この2人の関係が良好なのは間違いなかった。
「そう言って貰えると嬉しいよ……と返せばいいのか?」
「さぁ、どうかしら。ただ、今のアクセルなら頼もしいから、一緒にいても護衛として見られるのは間違いないわね」
それは、普段は護衛に見えないとでも言うのか?
いやまぁ、実際に護衛とかSPと言われると、こういう黒服にサングラスというのがそれっぽいとは俺も思う。
外見というのは大事だしな。
よく人は外見ではなく中身だと言われる事も多いが、最初に会った時に重要な意味を持つのが外見なのは間違いない。
……今の俺の状況とでは、ちょっと違うか?
「それで、私の格好はどうでしょう? フミタンからは問題ないと言われているのですが」
そう言い、クーデリアは自分の服装を見せる。
クーデリアが着ている服は、そこまで華美なものではない。
しかし、それがクーデリアの持つ凛とした雰囲気と合っていた。
不思議と、今のクーデリアを見れば強い印象を受けてしまうだろう。
多分、そういう風に狙ってこの服装にしたんだろうな。
今回の会議でクーデリアが周囲に強い印象を与えるようにする為に。
クーデリアが自分で選んだのか、あるいはメイドのフミタンが選んだのか。
それは俺にも分からなかったが、とにかく会議に参加して何らかの発言をする身としては、これ以上ない服装なのは間違いない。
「そうだな。似合っていると思う」
「ありがとうございます。フミタンからもそのように言われていたのですが、アクセルにもそう言って貰えると嬉しいですね」
フミタンの事を口にする時、クーデリアは少し自慢げな様子を見せる。
それだけクーデリアにとってフミタンという人物は頼りになる相手なのだろう。
それこそ、ただの自分付きのメイドではなく、姉のような。
ただ、ちょっと気になるのはフミタンがどこかクーデリアに対して1歩退いた位置にいる……あるいはどこか自分から積極的に関わらないようにしている。そんな風に見える事か。
それがフミタンの性格だと言われればそれまでなのだが。
この2人については、俺が自分から関わる必要もないか。
2人の問題だけに、それこそ2人で解決すればいいだけだし。
「じゃあ、行ってくる。……こっちの方は頼んだ」
「任せておいて。……とはいえ、何かあるとは思えないけど」
マーベルのその言葉に、だろうなと納得する。
現在のシャドウミラーは、まだ特に名前を知られてはいないのだから。
一応起業をするに当たって届け出は出している――ノブリスにやって貰ったのだが――ので、調べればシャドウミラーがPMCだというのは分かるだろうし、もっと調べればノブリスが後ろ盾になっているというのも分かるだろう。
だが、そこまで調べる者がいるのか? と言われれば、正直微妙なところなのは間違いない。
未だに無名なのは間違いないのだから。
今回の会議の後なら、クーデリアの護衛をしていたという事で、多少名前が知られるようになるかもしれないが。
ああ、でもそういう意味なら今日の会議が終わったら大きな仕事が舞い込んでくるかもしれないな。
ちなみにクーデリアだが、実は大学生らしいというのをちょっと前に聞いて驚いた。
それももう少しで卒業するらしい。
飛び級そのものは、そこまで珍しい話ではない。
とにかく、クーデリアが優秀なのは間違いのない事だった。
そうして大学に通いながら、シーラから色々と話を聞き、あるいは昌弘を含めた子供組からヒューマンデブリについて話を聞き、またあるいは大人組から海賊についての話を聞き……といったように、この拠点に入り浸っているのだ。
いやまぁ、実際には入り浸るとまではいかないのだろうが。
「では、行きましょうか」
クーデリアの言葉に頷き、俺達は会議を行う場所に向かって出発するのだった。
「ここか。……見る限り、警備はそれなりに厳重だな」
街中を走る車の中から、外を見てそう言う。
大規模な会議が行われる為だろう。
街中にはMWが結構な数、存在していた。
この警備をしているのは、一体どういう連中なんだろうな。
もしかして、CGSとかもいたりするのか?
そんな風に思いつつ、MWを観察する。
武器は基本的にミサイルとかの周囲に大きな被害が出るようなのではなく、機銃の類だ。
これは何かあった時でも、街中の被害を大きくしないようにする為なのだろう。
基本的にオルフェンズ世界においてはMSは街中に入ってこないので、敵もMWか……あるいはテロリストだ。
そう考えると、ミサイルよりも機銃とかの方がいいと判断したらしい。
いやまぁ、敵がMWだったらミサイルの方が威力は高いだけにいいと思うんだが。