「さて、と」
俺はそう呟き、目の前にいるシノを見る。
こちらに強い視線を向けてくるシノ。
なお、クーデリアとフミタンは客室で休ませており、昭弘は現在弟の昌弘の話をしている。
他の面々も、いつもより少し警戒を厳しくしながら日常生活に戻っていた。
そんな中、俺はこうしてシノと向き合ってる訳だ。
「で? 話を聞かせてくれるんだろう?」
「そうだな。そういう約束だったし。……とはいえ、言っておくが話を聞いたからってそれでお前が満足するかどうかは別の話だぞ?」
「何だそりゃ。とにかく、今はしっかりと話を聞かせて貰う必要があるのは間違いないんだ。それで、何で俺に重要な任務は任せられないとか、そういう風に思ったんだ?」
「そうだな。シノが納得出来るかどうかは分からないが……最大の理由は俺の印象だ」
「はぁ? 印象だぁ?」
「そう。お前が射撃訓練をしているのを見てそんな風に感じたというのもあるが、やはり一番大きいのは印象だ」
「ちょっと待てよ。じゃあ、何か? 俺は特に何か明確な理由がある訳でもなく、あんたの印象だけで重要な任務を任せられないと言われたのかよ?」
「正解だ。とはいえ、俺の印象……というか、人を見る目というのは、そう馬鹿にしたものじゃないぞ?」
実際、これまで俺は多くの……それこそ、数え切れない程の者達と会ってきた。
幾つもの世界を渡り歩いただけに、会った相手の数も膨大なものとなる。
それだけに、俺にとってその相手の印象というのは大きな意味を持つのも、また事実。
特に戦場を渡り歩く事が多かったので、戦闘関係については特にその印象……というか、勘が働く。
そんな俺の勘だけに、恐らく間違ってはいない筈だ。
「それで納得しろって方が無理だろ!」
「だろうな。俺もそう思う」
俺は自分の勘について大きな信頼を抱いているが、それはあくまでも俺の勘がどういうものかなのかを知っているからだ。
それを知らない者にしてみれば、勘で自分の能力を疑われるのは許容出来ないだろう。
「とはいえ、一応勘違いしてるみたいだから言っておく。確かに俺は重要な……それこそ場合によっては組織の運命に関わっていたりするような任務をお前に任せようとは思わない。思わないが……考えてみろ。そんな大きな任務なんて、それこそ人生に1回、あるかどうかだろう?」
「それは……まぁ、そうかもしれねえけどよ」
俺の言葉を不承不承といった様子だったが、認めるシノ。
「だろう? それはつまり、そんな任務以外の普通の任務なら、シノにも頼めるという事になる」
「そうなる……のか?」
「そうなるんだよ。例えば普通の任務とかなら、シノに頼んでも問題はない。あくまでシノに頼むのを俺が避けたいと思うのは、そういう……本当に一生に一度あるかどうかといったようなものだけだ」
これはお世辞でも何でもなく、純粋にそう思っての言葉だ。
シノが具体的にどういう性格をしているのかとかは、俺にはまだよく分からない。
だが、合同訓練の時に三日月と話した限りだと、決して嫌われているようには思えなかった。
寧ろ、参番組の者達にはかなり好かれているようにすら思えた。
そんなシノだけの、何らかの任務を与えるにしても、普通の難易度なら特に問題なく対処出来るだろう。
「けど……それでもアクセルは俺に難しい任務を任せる気はないんだろう?」
「あくまでも重要な任務を、だ。普通の任務なら、シノに任せてもいいと思うぞ?」
そう言うと、シノは少し考え……やがて数分が経過したところで、大きく笑みを浮かべる。
「何だよ、あんたは別にそこまで悪い奴じゃなねえな!」
シノの中でこの話題の件は解決したのだろう。
豪快に笑って、激しく俺の肩を叩いてくる。
いや、俺は構わないんだが……一応、お前の立場的にそういう態度はどうなんだ?
そう思わないでもなかったが、俺の言葉……重要な任務は任せられないというのを、どうやらシノはかなり気にしていたらしい。
だとすれば、それが解決して良い気分になるのも仕方がない事なのだろう。
「それに、今はそうでも将来的にはどうにかなる可能性もあるんだろう? なら、俺はそうなれるように頑張るよ」
「そうだな。まぁ、頑張ってくれ」
本当にその辺を変えられるのかどうかは、俺にも分からない。
何しろこれは、本人の技量がどうとか、そういう問題ではないのだから。
とはいえ、本人がやる気になっている以上は俺がどうこう言える問題ではない。
実際、訓練を積む事によってその辺が……俺の勘でしか判断出来ない何かが解決出来る可能性も否定は出来ないのだから。
「おう、任せてくれ。……それより、ちょっと聞きたいんだけど。ここにいる、あの美人2人はアクセルの女なのか?」
そう言い小指を立てるシノ。
それが何を意味してるのかは明らかだったが……
「2人? 4人だろう?」
現在この拠点にいる女は、マーベル、シーラ、クーデリア、フミタンの4人だ。
その上、4人全員が美人と呼ぶに相応しい女達。
とはいえ、シノが言いたいのを考えると、多分マーベルとシーラなのだろうというのは予想出来るが。
「あ……そう言えばそうだった。アクセルが護衛をしたっていう2人も美人だったよな。特にあの年上の方の胸とか」
どうやらシノはいわゆるおっぱい星人だったらしい。
……まぁ、俺もどちらかといえばその気があるので、シノの言葉には素直に頷くが。
「クーデリアはいわゆる高貴な家の出だから無理だろうが、フミタンならあるいはチャンスがあるかもしれないぞ?」
「え? マジ!?」
嬉しそうな様子を見せるシノ。
とはいえ、実際にクーデリアとフミタンなら、フミタンの方にチャンスがあるのは間違いないものの、だからといってフミタンを本当に口説き落とせるのかと言われれば、正直微妙なところだろう。
そもそも、俺とフミタンはまだそこまで親しい訳じゃない。
となると、実は俺が知らないだけでフミタンには恋人がいるという可能性も十分にあるのだ。
そうなれば、フミタンに言い寄っても無駄だろう。
シノがフミタンの恋人――あくまでもいればだが――よりも魅力があり、フミタンを口説き落とせるのなら、もしかしたらもしかするかもしれないが。
「それと、マーベルとシーラには手を出すなよ」
「えー……やっぱりあの2人って、アクセルと付き合ってるのか?」
「そうなるな。2人共俺の恋人だ」
「羨ましいな、それ」
テンションが高い状態で叫ぶのではなく、真剣な表情でそう言われると、どう反応したらいいのか困るな。
「今は無理でも、将来的にはシノも複数の恋人が出来るかもな」
オルフェンズ世界における火星では、一夫多妻はそこまで珍しい事ではない。
……もしホワイトスターに繋がったら、SEED世界のキラ辺りに連絡をしてみてもいいかもしれないな。
キラはフレイとラクスの2人と付き合っているが、そろそろ結婚を考えていると以前何かで聞いた覚えがある。
だが、オーブでは一夫多妻は出来ない。
あるいはフレイやラクスのどちらかと結婚し、もう1人は愛人という扱いにするか。
とはいえ、そうなると愛人になった方は面白くないだろう。
それに比べると、オルフェンズ世界でなら普通に2人と結婚出来る。
……まぁ、違う国に移住するのではなく、違う世界に移住ということを考えると……色々とちょっと厳しいところがあるのも事実だろうが。
「え? マジか!?」
「あくまでも頑張ればだがな。まずは、CGSの参番組の評判を上げるとか、そういう事を考えるんだな」
「それは……」
俺の言葉に、シノは難しい表情を浮かべる。
その気持ちは分からないでもない。
CGSにおいて、参番組は精鋭部隊であると同時に、使い捨ての存在でもあるからだ。
……いや、違うな。正確には使い捨ての存在として常に死地に向かわされていたから、精鋭になるしかなかったというのが正しい。
元ブルワーズの昌弘を始めとした子供組とかもそんな感じだし。
だが、そういう立場だからこそ、参番組がCGSにおいて大きな影響力を手に入れるという事は難しいのだろう。
「難しいのは分かるから、絶対にそうだとは言わないけどな」
ぶっちゃけ、個人的にはCGSから参番組を引き抜きたいとは思う。
子供組の件もあるので、俺達は参番組を酷使したりという事はしない。
戦力は十分に手に入るというのも、こっちにとっては大きい。
ましてや、もうすぐ旧式だがギャラルホルンが使っていたMWを入手出来る。
MWは多種多様な種類があるものの、ギャラルホルンの使っていた物が高性能な機体なのは間違いない。
そんな訳で、MWを操縦出来る者は多ければ多い程にいい。
もっとも、ギャラルホルンで使っていたMWだけに、操縦方法は阿頼耶識じゃなくて普通の操縦なのだが。
その辺についてはノブリスの伝手で改修して貰う予定なので、阿頼耶識を使える奴が増えるのは問題ない。
ただ……間違いなく、マルバはそれを却下するだろう。
CGSにとって、参番組というのは間違いなく最精鋭なのだから。
ハエダ達もいるが、あの連中は……うん。まぁ、ちょっとな。
「参番組をシャドウミラーに引き抜ければ、俺達とお前達にとってはいい話なんだけどな」
「あー……そうなったらいいとは思うけど、多分無理だ。それにもし上手くいっても、俺達の代わりに他のガキ共が連れて来られるだろうし。そうなると……」
一瞬、本当に一瞬だったがシノの目には暗い色が宿る。
シノにしてみれば、自分達が楽になる為に見知らぬ子供達を犠牲にするという事は出来ないのだろう。
この点は俺にとっても好印象だ。
仲間思いというのは、こういう仕事をする上で非常に大きなプラスになるのだから。
……もっとも、場合によってはその仲間思いな性格が足を引っ張って自分や仲間を危険に晒したりもするのだが。
ただ、その気持ちによって実力以上の力を発揮出来たりもする。
「そうか。なら、仕方がないな」
もしどうしても参番組をこちらに引き込むとなると、それこそCGSを潰す必要がある。
やろうと思えば恐らく出来るだろうが、わざわざそこまでする必要があるかと考えると……ただ、俺の予想では多分参番組にこの世界の主人公がいると思うんだよな。
最初は、もしかしたら昌弘が主人公なのかもしれないとも思った。
何しろヒューマンデブリという身分で、MSのパイロット。それも元ブルワーズのヒューマンデブリの中では一番腕が立つのだから。
だとすれば、この世界の原作の主人公かもしれないと思ってもおかしくはなかった。
クダルという、分かりやすい悪役もいたし。
だが……参番組の面々と顔を合わせたところ、そちらの方が可能性が高いと思ったのだ。
今のところ一番可能性が高いのはオルガ。
次点で三日月や昭弘だろう。
シノは……多分ないと思う。
そんな訳で、この世界の主人公やその仲間達を味方に引き入れるというのは非常に大きな意味を持つ。
そういう意味では、やっぱり俺がCGSを潰してもいいんだが……ゲートが使えず、ホワイトスターから援軍を呼べない今の状況で、そこまで大きな騒動を起こすのは、ちょっとどうかと思う。
それに俺が原作に介入した事によって本来の歴史の流れと大きく変わる可能性も……いやまぁ、その件に関しては今更の話か。
既に参番組に接触してるし、恐らく原作でも重要なキャラだろうクーデリアやフミタンにも接触してる。
そう考えれば、本当に今更の話だろう。
「それより、今度いい店を教えるから一緒に行こうぜ。ボインちゃんが揃ってる店があるんだよ」
「お前……今の会話の流れで、よくそんな事を言えるな」
少しだけシノを見直したのだが、まさかいきなりそんな事を口にするというのは、俺にとっても予想外だった。
俺の予想を外してくる辺り、シノって何気に大物なのかもしれないな。
「いや、だってよ。やっぱりこう……女っていいじゃん?」
「それは否定しないけど、俺は止めておくよ」
「何でだよ。アクセルも女は好きなんだろ?」
「それは否定しないが、マーベルとシーラは鋭いしな」
特にシーラは、オーラ力によって……というか、女の勘によってその辺について鋭そうだ。
2人の恋人がいて、毎晩のように抱いているのに、それでも不満なのかと責められそうな。
……まぁ、実際。ホワイトスターにいた時のことを思えば、ちょっと不満というか、そういうのはあるんだけどな。
ただ、さすがにそのような状況でそういう店に行くのは、マーベルやシーラの女としてのプライドにダメージを与えてしまいそうなので、止めておく。
それに……そういう店に行けば酒を飲むのは普通だろうし。
そうなると、それこそ最悪クリュセが滅んでしまいかねない以上、止めておいた方がいいだろう。
……あ、でも酒を飲んだ影響で呪いをどうにか出来たりする可能性もあるのか?
将来的に、俺の魔力を使っても呪いをどうにか出来なかったら、最後の手段としてやってみてもいいのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺はシノとの会話を続けるのだった。