シノとの話を終えて他の面々と合流してみるが……
「特に襲撃をしてくるような相手はいないわね。もっとも、この建物の中に避難している今だからかもしれないけど」
マーベルのその言葉に、だろうなと納得する。
車に乗っているところを襲撃されたので、取りあえずという事で俺達の拠点に避難したんだが、だからといっていつまでもこの拠点にいる訳にはいかない。
クーデリアは今日の会議の件で、間違いなく明日から忙しくなるだろうし。
そうして考えていると……
「あの、アクセルさん。CGSから連絡が入ってますけど」
「ん? ああ、そう言えばCGSに連絡をするのを忘れてたな。分かった、すぐに出る」
部下の1人の言葉にそう返す。
オルガ達にはこっちからCGSに連絡をすると話していたんだが、シノとの一件でそれについては後回しになってしまっていた。
マルバにしてみれば、自分のところの社員……いや、参番組だから奴隷か? とにかく自分のところの者達を勝手に使われたのだから、不満を抱くのは当然か。
取りあえず俺は通信機のある場所に向かい……
『おい、アクセル! どういうつもりだ! うちの連中を勝手に使いやがって!』
案の定、怒りと苛立ちを露わにしたマルバが映像モニタに表示された。
「悪いな。ノブリスから頼まれた護衛の依頼をしていたところで、いきなり襲撃されたところで、MWの訓練をしていた参番組と遭遇したから手伝って貰ったんだ」
『ぐぬ……』
ノブリスの名前が出ると、マルバも反論出来なくなる。
CGSという警備会社の社長であるマルバにとって。武器商人として火星に……いや、圏外圏、場合によっては地球にすら影響力を持つノブリスというのは、どうしようもない存在だ。
もしノブリスがその気になれば、それこそその辺のゴミをゴミ箱に捨てる程度の気安さでCGSを潰す事も出来るだろう。
……とはいえ、だからといって俺達もノブリスを味方だと信じる事は出来ないが。
精々が取引相手だろう。
それも、信用の置けない取引相手だ。
とはいえ、向こうがこっちを利用しようとしているのだから、こっちも向こうを利用しようとしてもおかしくはないだろう。
そんな訳で、俺はこうしてノブリスの名前を出すのを躊躇ったりはしない。
マルバにしてみれば、ふざけるなと言いたいだろう。
とはいえ、それを言うような余裕がないのも事実なのだが。
「そんな訳で、もう少し2人は借りておく」
『ふん、MWを破壊したら、弁償はして貰うからな!』
そう言い、俺の返事を聞かずに通信が切れる。
これ以上俺と話しても、不満を抱くだけだと理解したのだろう。
ともあれ、なし崩し的にではあるがマルバから昭弘とシノを借りる事には成功した。
通信が終わったので、皆のいる場所に戻る。
「あ、アクセル、どうでしたか?」
俺の姿を見つけたクーデリアが近付いてくる。
そのクーデリアのお付きのフミタンはどうしたのかと思うと、シノに声を掛けられていた。
うーん、行動が早いな。
さっきシノと話していた時、フミタンなら口説けるかもしれないと、そんな事を言ったが、すぐに行動に移す辺りフットワークが軽いな。
「取りあえず問題はない。CGSの社長も問題ないと言っていた」
「そうですか」
俺の言葉に、クーデリアが安堵した様子を見せる。
クーデリアにしてみれば、自分が狙われた結果が、今のこの状況だ。
現在どうなっているのか気になるのは、そうおかしな話ではないだろう。
「それで、これからだけど……どうする? MWで家まで送って貰うか、あるいはクーデリアの家から新しく車を向かわせて貰うか」
「難しいところですね」
悩ましい様子のクーデリアだが、やっぱり新たに人を呼んで、それが襲われるというのを不安に思っているのだろう。
にしても……まさか本当に襲撃されるとは思わなかったな。
いや、そうでもないのか?
もしかしたら、ノブリスはクーデリアを襲撃するというのを知っていた可能性もあるか。
前もって情報を得ていたからこそ、俺に護衛をするように要請した……とか?
ノブリスの影響力を考えると、その可能性は十分に考えられる。
他には……結局誰が襲ってきたか、だよな。
クーデリアの演説であったり、会議の趣旨を考えると、やはり一番怪しいのはギャラルホルンだ。
現在のこのオルフェンズ世界における支配者とでも言うべき存在なのが、ギャラルホルンだ。
そんなギャラルホルンにしてみれば、現在の状況……地球が火星を植民地としている現状、それを壊す可能性のあるクーデリアの演説は決して面白くなかった筈だ。
だからこそ、もしクーデリアを狙うとすればギャラルホルンの可能性が高いんだが……ただ、もしギャラルホルンが襲うのなら、それこそMWやMSを使ってもおかしくはない。
なのに、今回襲撃してきたのは車に乗った連中だった。
あるいはギャラルホルンの襲撃であっても、それを隠す為にMWやMSを使わなかった可能性も否定は出来ない。
とはいえ、ギャラルホルンにしてみれば火星に住む連中は所詮植民地の住民でしかない。
それこそ大きく隠す事なく暴れても、何の問題もないと考えていてもおかしくはなかった。
というか、俺が知っているギャラルホルンの評判が事実なら、それこそ堂々とMWやMSを使ってると思うんだが。
「アクセル? どうしました?」
「結局誰が襲撃してきたのかと思ってな」
襲撃してきた連中が分かれば、こっちからも反撃出来るんだが。
MWやMSを使わなくても、それこそ俺が生身で敵の拠点に乗り込んでもいいし。
そうなったら、それこそ敵が持っている武器や金目の物、車……それ以外にも手当たり次第に奪ってくる事が出来る。
あるいは、伝手があるのなら捕らえた連中をヒューマンデブリとして売り払ってもいいかもしれないな。
基本的にヒューマンデブリというのは子供が大半だが、大人でも別になれないという訳ではない。
もっとも、奴隷の首輪のようなマジックアイテムの類がある訳でもないので、大人をヒューマンデブリとして使うのは難しいかもしれないが。
ただ、単純に労働力として考えれば、やっぱり子供よりも大人の方が便利なのは間違いない訳で……うん。ノブリス辺りに聞いて、試してみてもいいかもしれないな。
子供を連れ去ってヒューマンデブリとして売るのはどうかと思うが、大人……それも犯罪者とかなら、俺的には問題ないだろうし。
「それは……やはり、私の発言が気に入らない人でしょう」
「ギャラルホルンか」
「いえ、それ以外にもアーブラウの人間もいます」
「……言われてみればそうか」
俺は現状の体制を破壊するという意味で、それを守っているギャラルホルンが今回の襲撃犯の可能性が高いと思った。
だが、今回の会議が行われたのは、アーブラウの植民地だ。
つまり、もしクリュセを含むアーブラウに支配されている場所が独立したら、それで直接的に困るのはアーブラウとなる。
もっとも、火星は既に出涸らしとか言われていて、ハーフメタル以外には特にこれといった資源もない場所だ。
アーブラウにしてみれば、ハーフメタルを入手出来ればそれでいいと、そういう風に思ってもおかしくはなかった。
「ギャラルホルンが怪しいのは間違いありませんが、アーブラウも怪しい。それに……火星の現状をどうにかしようとした場合、困るのは他のSAU、アフリカユニオン、オセアニア連邦も同様です。……可能性はそこまで高くはないですが」
「そこまでになると、それこそ他にも幾らでも出て来そうだな。……世界中から狙われる女というのは、どうだ?」
「どうだって……そんなの、嬉しくありません」
「だろうな。もっとも、今のはあくまでも予想の1つでしかない。場合によっては、それこそその辺のマフィアとかそういう連中に狙われているという可能性も否定は出来ないしな」
「何故そのような事を?」
「さて、何でだろうな。正直なところ、その辺は俺にも分からない。色々と予想は出来るが、どれもこれも予想の上に予想を重ねたような形だし」
そんな俺の言葉に、クーデリアは少し考えてから、決意を込めた表情で口を開く。
「それで構いません。聞かせて下さい」
「……まぁ、聞きたいならいいけど。決して好ましい内容じゃないぞ?」
そう言っても、クーデリアの決意は変わらない。
意思の強さというのも、こういう時は面倒だよなと息を吐いてから口を開く。
「まず、1つ目。これは単純だ。クーデリアの父親の関係だな」
「お父様の?」
「ああ。クリュセの代表首相である、クーデリアの父親だ。クリュセがアーブラウの実質的な植民地なのは間違いないが、それでも代表首相……つまり、クリュセの中で最も偉いのは間違いない。そうである以上、クーデリアを誘拐して、その身柄と引き換えに何らかの要求をするというもの」
その要求が、具体的にどんなんものなのかは分からない。
単純に金を欲してのものなのか、あるいは自分達に都合のいい法律を制定させたいのか。もしくはそれ以外の何かか。
「そして2つ目は……クーデリアもフミタンも、美人と評して間違いない。身体付きも男好きのするものだし」
「……え? ちょっ、アクセル、いきなり何を!?」
まさかそのような事を言われるとは思っていなかったのか、クーデリアは自分の顔や胸、腰を見る俺の視線から自分の身体を庇うように自分の身体を抱きしめる。
……そうする事によってフミタンには及ばなくても平均以上の大きさを持つクーデリアの双丘が強調されるんだが……これ、本人は気が付いているのか、いないのか。
「話を最後まで聞け。そういう2人がいて、この世界にはヒューマンデブリという、実質的な奴隷制度がある。そうなると……これ以上言わなくても分かるだろう?」
「……え?」
俺の言葉が意外だったというか、理解出来なかったのだろう。
クーデリアの口から、間の抜けた声が出る。
しかし、すぐに我に返って驚きの視線を俺に向けてきた。
「そんな……そんな事の為にあんな襲撃を?」
「そんなと言ってもな。お前にも分かりやすく言うのなら、傾国の美女……というのはちょっと違うか? とにかく、男というのは女を欲する。そして高嶺の花という言葉があるように、高貴な生まれの相手を好む者も多い。まぁ、この辺は人それぞれだけど」
高嶺の花を好む者が多いと口にしたが、中にはそういうのは全く興味がなく、もっと別の女を好むという者もいる。
とはいえ、クーデリアを好む男は相応に多いだろう。
それこそ、場合によっては襲撃をしても構わないと思うような者がいるくらいには。
「ちょっと待って。では……もしかして、護衛のアクセルはともかく、フミタンは私のせいで襲撃される事に……?」
クーデリアの視線が、シノに言い寄られているフミタンに向けられている。
普段表情を変えないフミタンが、珍しい事に困った様子を見せていた。
あの様子だと、多分シノは玉砕だな。
「どうだろうな。フミタンは間違いなく美人だし、その身体付きも成熟した女のそれだ。クーデリアと一緒に欲しいと……どうした?」
何故かクーデリアが俺を責めるような視線で見ている事に気が付き、そう尋ねる。
「フミタンに妙な視線を向けないでくれる?」
「いや、別に俺にはそんなつもりはなかったんだが」
「嘘よ。だって、アクセルの視線はフミタンの胸に向けられていたもの!」
「……そんな事はないぞ?」
クーデリアの言葉に、数秒の沈黙の後でそう言う。
即座に断言出来なかったのは、クーデリアの言葉に思い当たるところがない訳でもなかったから。
実際、フミタンの胸はかなり大きい。
巨乳と評しても間違いでもないだろう。
……シノの視線も、本人が意図してるのかどうかはともかくとして、何度も繰り返しフミタンの胸に向けられているくらいだし。
あの胸は男の視線を惹き付けるだけの魅力を持ってるのは間違いない。
だから俺が少し視線を奪われるのも、仕方がない事なのだ、うん。
「シーラさんやマーベルさん達に言いますよ」
「ちょっと待った。それは色々と問題のある行動だぞ」
マーベル達なら、クーデリアが言いつけてもそこまで気にはしないと思う。
思うが、それでも後々までその件について言ってきそうだし。
「でしたら、節度ある行動をお願いします」
「……それを言うのなら、俺じゃなくてシノに言った方がいいんじゃないか?」
そう言い、俺は改めてフミタンに言い寄っているシノを見る。
脈はないと思うんだが、それに気が付かないのか、それでもめげずになのか、頑張っているシノ。
これで例えば無理矢理な行動に出たりしたら、周囲にいる者達も止めるだろう。
それ以前に俺が止めるが。
色々とあったが、今のシノの立場は俺達の……というか、クーデリアやフミタンの護衛だ。
MWから降りているので、阿頼耶識を装備したシノが生身でどこまで役に立つのかは分からないが。
ともあれそのような状況なのに、その護衛対象に無理に言い寄るというのは、どう考えても駄目だろう。
そんな風に思いながら、俺はクーデリアと会話を続けるのだった。