MWを使った大会の参加申請は無事に終わり、いよいよ大会の時がやってきた。
結局今日の大会で参加するのは、俺、マーベル、子供組のトップ5人と大人組から3人となる。
とはいえ、応援も兼ねて結構な人数がこの会場にはやって来ているが。
「いやぁ……火星でも祭りとかあるんだな」
大会が行われる場所では、それこそ祭りという表現が相応しいくらいに、屋台が集まっていた。
また、ペイント弾とかを使った模擬戦だが、MWが暴れ回っているとなると、事故があれば危ないので、基本的に見るのは会場にあるスクリーンでだ。
そのスクリーンも、人が集まりすぎないようにだろう。二十枚以上が用意されている。
勿論、スクリーンごとに大きさの違いはあるので、一番大きなスクリーンの前に多くの者達がいたが。
「アーブラウ以外からも人が来ているみたいだし、人が多くなるのは仕方がないんでしょうね。……アクセルにとっては予想外だったみたいだけど」
俺の言葉を聞いて、マーベルがそう言う。
そうか、そうだよな。マーベルが言うように、アーブラウ以外からも集まってるのを考えると、このくらいの人数になってもおかしくはないのか。
俺達のように参加する同僚を応援に来た奴であったり、あるいは単純に何かイベントをやってると思って見に来た奴もいるだろうし。
そんな諸々を考えると、ここまでの人数になってもおかしくはない。
いや、火星だから……実質的な植民地だから生活に余裕がある者は少なく、結果として純粋な客はそこまで多くはない……のか?
もしこれを地球とかでやっていれば、もっと客が多かった可能性はある。
そう考えたが、すぐにそれを却下した。
地球において、武力はギャラルホルンの占有事項だ。
アーブラウを始めとした場所においては、簡単な拳銃とかそういうのは持っているかもしれないが、MWやMSは持っていない筈。
勿論、本当に誰もがそれらを持っていないとは限らない。
例えば傭兵部隊とかそういうのはあればMWやMSを持っていてもおかしくはないだろうし、あるいは秘密裏にそういうのを持っている者達がいてもおかしくはない。
ただし、こうして公の場でMWのトーナメントを行い、しかもMSを賞品にするというのは、まず有り得ないだろう。
もっとも、本来なら火星でもそういうのは禁止されてはいるのだろうが……圏外圏という事で、ギャラルホルンの威光も完全には及んでいないという事か。
「アクセル? どうしたの?」
「いや、ここが地球なら、こういう大会を開く事も不可能だっただろうなと思って」
「そうね。ギャラルホルンがいるのだから無理だったでしょうね。出来ても……そう、オリンピックのような大会かしら」
「それはそれで面白そうではあるけどな」
この時代、オリンピックなどというものは既にない。
だが、地球である以上はオリンピックも存在していたのは間違いのない事実。
だからこそ、それを復活させるのは悪くないだろう。
幸い……という表現はどうかと思うが、現在の地球の国は再編されて4つしかないし。
「国が4つしかないから、俺達が知ってるオリンピックとはかなり違う感じになりそうだけど」
「ふふっ、そうかもしれないわね」
そんな風に話しながら、俺達はシャドウミラーに割り当てられた場所に行く。
その途中、他の出場チームが割り当てられた場所とかを見る機会もあったのだが、使われているMWは俺達が使っているギャラルホルンの旧式の物よりも更に性能が低そうだった。
勿論、結構な数の参加チームがいる以上、中には俺達と同じようにギャラルホルンの旧式を……いや、それどころか現在ギャラルホルンで使われているMWを使っている者達もいるかもしれない。
ノブリスの件もそうだが、火星のギャラルホルンは圏外圏という事もあって賄賂とかでグダグダらしいし。
……そうなると、俺達も場合によっては現役のギャラルホルンのMWを入手出来たのかもしれないな。
もっとも、実際にそうなったら数をどれだけ揃えられたのかは微妙なところだったが。
「お、あそこだな」
視線の先に、見覚えのあるMWや、見覚えのある者達……メカニック達がMWの整備をしているのが見える。
しっかりと拠点で整備はしてきたのだが、それでもやはり現地に到着してから必要な設定の調整とか、そういうのもあるのだろう。
「アクセルさん、向こうを見て下さい」
俺の近くにやってきた昌弘が、とある方向……俺達のMWが置いてある場所の隣を見ながら言う。
そちらに視線を向けると、そこには今回のトーナメントに参加するのだろう他の会社があった。
そして、阿頼耶識を持つ子供の姿も。
昌弘の表情には、何とも言えないものがある。
いや、昌弘だけではなく他の子供組も同様か。
阿頼耶識の手術を受けたという事は、それはつまり生きるか死ぬかといったものを潜り抜けてきた者達だ。
そして普通ならそういう手術は受けない。
阿頼耶識の手術を受けるのは、ヒューマンデブリやスラム街の子供達のように、他に行くべき場所がない者、あるいはその命令に従わなければならない者達だ。
……ちなみにこの阿頼耶識。俺はちょっと勘違いしていたんだけど、ナノマシンを使ったものらしいんだよな。
手術という事から、ナノマシンとかは関係ないと思っていたんだが。
個人的にはナノマシン系はどうしてもマシンセルを思い浮かべてしまうので、好ましくない。
ましてや、聞いた話によると現在の阿頼耶識は厄祭戦の時と比べるとかなり技術的に劣っているらしい。
実際、阿頼耶識の手術の失敗で最悪死んだり、そこまでいかなくても下半身麻痺とか、上半身麻痺とか、意識不明になったりだとかするらしいし。
この辺も、ホワイトスターに戻る事が出来れば、木乃香の治療……はちょっと難しいか? ただ、そっちが無理でもレモンの治療ならどうにかなる可能性はある。
とはいえ、ブルワーズでは阿頼耶識の手術が失敗した連中は即座に殺されていたので、生き残りはいない。
昌弘が昭弘から聞いた話によると、火星のスラム街には阿頼耶識の手術に失敗した奴がいるらしい。
スラム街で身体が麻痺したりしてるんだから、まだ生きているかどうかは分からないが。
「阿頼耶識を使える奴を出してくるという事は、本気で勝利を狙っている連中だろうな。……CGSと違って強敵だぞ」
CGSに用意された場所と俺達の用意された場所はかなり離れているので、CGSがどうなっているのかは分からない。
だが、マルバと話した限りでは壱番組を出すという話だった。
そうなると、恐らくは初戦で負けるだろう。
マルバにしてみれば、優勝の栄光であったり、MSであったりはそこまで欲しくはないらしい。
……だよな? まさか、ハエダ達で本当に優勝出来るとは思っていないよな?
マルバもCGSを運営している以上、決して無能という訳ではない筈だ。
そうなると、やはりマルバは優勝するつもりはないと思ってもいい。
だとすれば、一体何を考えてこの大会に出場するのかだが……単純に、同業者達との間で情報交換をするとか、そういうのが目的か?
大会に参加はするが、あくまでも参加が目的だけとか。
参加する事に意味があるとか? ……ないな。
まぁ、CGSがどうなっても俺は別に問題ない。
そういうものだと納得するだけだ。
「ほら、アクセル。昌弘も。他のチームの様子だけを見ていないで、自分達が乗るMWのチェックをするわよ。メカニックの人達がきちんと整備しているとはいえ、それでも何があるのか分からないんだから」
マーベルの言葉に、俺と昌弘は自分のMWに向かう。
実際、賞品がMS2機となれば、それを欲して多少は汚い手段を使う者がいてもおかしくはない。
メカニック達がいるから、露骨に何かを仕掛ける事は出来ないが、それでも気が付かれないうちに何か仕掛けていてもおかしくはない。
そんな訳で、俺は自分が乗るMWを見る。
俺のパーソナルカラーである、赤に塗られた機体。
これがUC世界なら、赤い彗星のシャアや真紅の稲妻ジョニー・ライデンのように、赤のパーソナルカラーを持ってる者がそれなりにいる。
だが、このオルフェンズ世界においては、赤のパーソナルカラーを持つ者はいない。
……いや、これはあくまでも俺が知ってる限りでの話だが。
そして俺の知ってる情報は、かなり少ない。
このオルフェンズ世界のどこかには、赤をパーソナルカラーとしている者がいる可能性は十分にあった。
「機体の調子は?」
「問題ありません」
メカニックは俺の言葉にすぐにそう返事をしてくる。
当然ながら、トーナメントで使う武器はペイント弾だ。
MSとかと違うのは、近接用の武器……グシオンハンマーのような、模擬戦で使うのが難しいような武器の類がなく、全てが弾丸やミサイルの類である事だ。
つまり、ペイント弾とかで使いやすい訳だ。
「そうか。なら、一応機体の調整をするから頼む」
これが宇宙なら、機体の調整そのものはそこまで神経質になる事はない。
だが、地上で行うとなれば場所によって調整が微妙に違うのも事実。
具体的には、湿度とか温度とか風向きとか風量とか、そんな諸々によっての感じで。
とはいえ、当然ながらその手の調整はそこまで大きなものではない。
それこそ99の力が出るか、100の力が出るかといった感じだろう。
違うな。90の力を出せるか100の力を出せるかといった程度か?
もっと極端な気候の場所……例えば砂漠とか湿地帯とかなら、その辺はもっと変わるだろう。
ただ、模擬戦が行われる場所は荒野なので、そこまで影響は出ない。
そんな風に考えている間にも調整は進んでいき……
『アクセル、少しいいでしょうか?』
「シーラ? 何かあったのか?」
コックピットに通信が入る。
シーラからの通信という事でもしかしたら何かあったのか?
そんな疑問を抱く。
この場合の何かというのは、例えばシャドウミラーに絡んできた他の会社の奴がいるとか、そんな感じだ。
何しろここに集まってるのは、警備会社やPMCといったように普段からMWを使うような者達なのだから。
そのような者達である以上、荒っぽい性格の持ち主が多いとも限らない。
……CGSのハエダなんか、まさにそんな感じだよな。
そして荒っぽい性格をしている上で、女好きだったら……そして、そのような男がシーラを見たらどうなるか。
ましてや、シーラが所属しているのはシャドウミラーという、火星では知名度が全くないPMCだ。
どういう事になるのかは容易に想像出来る。
そう思ったのだが……
『CGSが負けました』
「……そうか」
シーラの口から出たのは、ある意味で予想通りの内容だった。
それにしても、負けるのが早すぎると思うが。
「一体、CGSは何の為に出て来たのやら」
『何か考えがあるのでしょう。それで連絡をしたのは、CGSが負けたという報告もそうですが、もう1つ情報があるからです』
「情報? 一体何だ?」
『CGSが負けたという情報を知った時、何人かがこう言っていました。『何で自分はCGSなんかに賭けたんだろう』と』
「それは……いや、考えてみれば当然か」
火星は決して治安が良いとは言えない。
そして模擬戦とはいえ、双方共に10機のMWを出しての戦いとなると、そこで賭けをやろうと考える者が出てくるのはそうおかしな話ではなかった。
だが……賭けか。
こういう場合、どうなるんだろうな。
俺としてはシャドウミラーの勝利に……優勝に賭けたいと思う。
しかし、参加するチームが賭けられるのかという問題がある。
実際、もし自分のチームに賭ける場合、相手の勝利に賭けておいて模擬戦で手を抜いて負けて、賭けで儲けるといった事を考えてもおかしくはない。
……あ、まてよ? もしかしてCGSがこの大会に出たのはその辺が理由だったりしないよな?
もしそうなら、それはそれで面倒な事になりそうだが。
「シーラ、取りあえず賭けをやってる相手に……いや、シーラが行くとトラブルが起きやすいか。俺達の試合まではまだ結構な時間がある。どうせなら俺が直接行くか」
自分達の負けには賭けず、勝利には賭ける。
それもただの勝利ではなく、優勝に。
普通に考えれば自殺行為のように思えるかもしれないが、勝算は十分に……十分以上にあった。
ブルワーズのMS隊という過酷な環境の中で生き残ってきた、昌弘を始めとする子供組。
そんな昌弘達を相手に、MSの模擬戦で勝利するだけの実力を持つマーベル。
そして今まで数え切れない程の戦場を潜り抜けてきた俺。
……大人組は戦いを経験するという意味で集めた面子だったが、大人組の中でもMWの操縦が上手い連中が選ばれている以上、全くの足手纏いという訳でもない。
そんな諸々について考えれば、俺達の勝算は十分にある訳で……ここで賭けに参加しないという選択肢は、俺にはなかった。