俺とジャンマルコの話し合いは、当然だがしっかりと中継されていたらしい。
まぁ、無理もないか。
これから行われるのは、MWの模擬戦を行う大会の決勝だ。
その決勝が始まる前に、双方のチームの代表がMWから降りて、何かの会話をしていたのだから、少しでも決勝を盛り上げたいと考える運営側がそれを見逃す筈がない。
もっとも会話の内容までは中継しなかったようだが。
プライバシーを考えたのか、それとも単純に機器の性能で無理だったのか、その辺は俺にも分からなかったが。
ともあれ、運営から自分の機体に戻るように注意されたので、お馴染みとなった赤いMWに乗り込み、マーベル達のいる場所まで戻る。
こっちは5機。そして向こうは7機。
ジャンマルコは見たところ腕が立ちそうだったが、それ以外が具体的にどのくらいの技量か、だよな。
相手がそこまで強くなければ、マーベルがいるので安心出来る。
俺がジャンマルコと戦っている間、マーベルは他の三人を率いてジャンマルコ以外と戦って貰えばいい。
「恐らくだが、俺が離れればジャンマルコ……敵の大将が俺を目当てに向かってくる。そうなったら、マーベルは他の連中を率いて敵の残りを頼む」
普通ならMWに乗っている個人を特定するのは難しい。
だが、俺の場合は乗っているMWが赤く染められているので、誰が乗っているのか一目瞭然だ。
そういう意味でも、パーソナルカラーに塗っておいたのはよかったな。
『アクセルが言うのなら大丈夫でしょうけど……それでも、気を付けてよ?』
「ああ、油断はしない」
ジャンマルコのような奴は、基本的に強いだろうというのは間違いない。
というか……もしかしたら、原作キャラなのかもしれないな。
タントテンポという組織のお偉いさん。そしてギャラルホルンの最精鋭のアリアンロッド艦隊がいる月。
普通に考えれば、原作キャラで間違いないと思う。
そんな風に考えていると、運営から模擬戦の開始が宣言される。
「じゃあ、当初の予定通りにな。まずは俺がジャンマルコを惹き付けるから」
そう言い、タントテンポ……というか、ジャンマルコのいる方に向かって移動を始める。
街中ということで、敵も当然ながら建物を利用して隠れているのだろうが……
「甘い」
こちらに飛んでいた弾丸を回避し、そうしながらも俺の操縦するMWの速度が緩む事はない。
すると、まるでそれを待っていたかのように……いや、実際に待っていたのだろうが、1機のMWが姿を現す。
来たな。
このタイミングで姿を現すという事は、ジャンマルコの機体で間違いないだろう。
ジャンマルコの前でこれ見よがしに移動しつつ、その場から離れる。
すると当然のように向こうもこっちを追ってきた。
ジャンマルコも、俺と1対1で戦うのを希望してるのだろう。
あるいは、最初から向こうも俺と同じように1対1で戦おうとしていた可能性が高い。
相手が撃ってくる弾丸を回避しつつ、街中を進む。
俺のMWが回避した結果、その射線軸上にある建物にペイントの花が広がる。
そのまま狭い道――MWにとってだが――に入り、相手の動きを混乱させる。
ただし、ジャンマルコの乗っているMWはシャドウミラーが使っているMWよりも小型なので、狭い道であってもそこまで通るのは難しくないのだが。
ギャラルホルンの使っているMWは、高性能だがその分だけ大きい。
大きい=強いというのもあるのだが、全てにおいて大きい方が勝っている訳ではなかった。
「おっと惜しい」
背後から飛んできた弾丸を、機体を動かすことで回避する。
同時に直角に曲がる道があり……機体の操作と体重移動によって半ば強引に曲がった。
それでも壁に装甲を擦らないのは、操縦技術のお陰といったところか。
そして、俺の行動はまだそれだけでは終わらない。
直角を曲がったところで機体を意図的に滑らせ、その動きを利用して背後を向く。
当然ながら半ば回転している状態なので、俺のMWが目的の方向……丁度俺が曲がった直角のカーブを正面に捉えられるのは一瞬だったが、俺にとってはその一瞬で十分だった。
俺の後ろを追ってきたジャンマルコのMWが姿を現すタイミングは、予想通りで……それだけに、ジャンマルコにとっては道を曲がったところで自分に銃口が向いているとは思わなかったのだろう。
動揺し、その動揺を突くようにトリガーを引く。
あるいはジャンマルコが狙われていると気が付いても、動揺せずにトリガーを引いていれば、もしかしたらこっちの攻撃は命中するが、向こうの攻撃もこちらに命中したかもしれない。
もっとも、そうなればこっちもMWを跳躍させていたが。
回転しながら跳躍するというのは、普通なら難しい。
いや、やろうと思えば出来るかもしれないが、空中でバランスを崩して着地に失敗し、撃墜判定を受けてもおかしくはない。
だが、俺の場合はそれに対処出来る自信があった。
ともあれ、俺のMWから発射された弾丸は、ジャンマルコの乗っているMWに複数命中し……それによって撃墜判定となる。
それを確認しつつ、俺はマーベルに通信を送る。
「マーベル、こっちは片付いた。応援はいるか?」
『いいえ。こっちもちょうど……片付いたわ』
向こうでは4対6の戦いだったのだが、どうやら片付いたらしい。
マーベルはそれなり以上に大変だったのだろうが、それでもどうにか出来たのは……それだけマーベルの技量が高かったからだろう。
タントテンポ側も、それなりに腕利きが揃っていたのだろうし。
ともあれ、これでユーゴーが2機と、賭け金ゲット。そしてジャンマルコとのMSでの模擬戦が終わったら、ゲイレールを1機更にゲット……だな。
この大会に参加した事のメリットが非常に大きいのは間違いない。
出来ればこれからも、こういう大会が多くあって欲しいとは思うけど……まぁ、今回のように楽に優勝するのは難しいだろうな。
今回に限っては、俺達が出来たばかりのPMCという事で他の連中が油断していた一面もあるんだし。
次から同じような大会があったら、シャドウミラーは間違いなく警戒されるだろう。
とはいえ、警戒されたからといって対処出来ない訳でもない。
やろうと思えば相応に対処出来るのは事実。
そんな風に思いながら、俺はマーベル達の待ってる場所に向かうのだった。
『優勝は……シャドウミラー!』
司会がマイクで喋る声が、周囲に響く。
そして俺達シャドウミラーは、前に出る。
大会の運営委員が用意した台の上に立つ。
そしてお偉いさん……この大会の中でも最も偉いのだろう初老の男が、俺に向かって笑みを浮かべた表情を見せる。
もっとも、その目は笑っていなかったが。
多分……本当に多分だけど、この男が優勝して欲しいチームは他にあったのだろう。
だからといって、俺達がそれに忖度をする必要はなかったが。
それにトーナメントである以上、この男が優勝して欲しかったチームを俺達が倒したとは限らない訳で。
何しろ結構な数のチームが出場していたし。
「優勝、おめでとう」
「ありがとう」
男の言葉にそう返す。
それがまた気に食わなかったのか、一瞬だけ男の俺を見る目が厳しくなる。
あるいは……本当にあるいはの話だが、俺の後ろにノブリスがいなければ、何らかの無理矢理な理由によって優勝を剥奪されていた可能性もあるな。
火星の治安とかそういうのを考えると、そういう風になってもおかしくはないのだから。
だが、ノブリスが後ろ盾にいる俺達にそのようなことをすれば、どうなるか。
それは考えるまでもなく、悪手だった。
そんな訳で、大会の運営陣は大人しく俺にユーゴーを2機、譲渡することになる。
「賞品のMSについては、書類に書いてある住所に送るということでいいのかな?」
「ああ、そうして欲しい。近くにCGSという俺達とは別の警備会社があるから、間違わないようにしてくれ」
「気を付けるように言っておこう」
そうして俺達の表彰が終わる。
続いて、2位、3位が発表されていく。
2位は当然ながらジャンマルコ達、タントテンポ。
そして3位は、準決勝でジャンマルコ達と戦った会社だった。
まぁ、俺達と戦ったチームは、怪我とかそういうので3位決定戦に参加出来なかったらしいし。
あるいは3位が2チームという事もあったのかもしれないが、それも怪我とかそういうので無理だったらしい。
そうして表彰が終わると、その後はお偉いさんの演説となる。
……もしかして、この大会を開いた理由はこの演説を行いたかったからとか、そういう事はないよな?
そんな疑問を抱くが、まさかそんな事はないだろう。
「おい、アクセル」
お偉いさんの演説を聞き流していると、ジャンマルコが小声でそう声を掛けてくる。
「何だ?」
「MSでの模擬戦の件だ。……いつやる?」
「俺はいつでもいい」
ただ、この大会が終わったら、また高密度デブリ帯にエイハブ・リアクターを手に入れる為に行く事になっている。
それは俺が行く訳ではないし、強襲装甲艦も1隻は残していくので、それを使えばMSの模擬戦は普通に出来るとは思うが。
「そうか、それは俺も助かる。こう見えて、俺も暇じゃなくてな。いつまでも火星にいる訳にはいかないんだ」
「……この大会に出ているのにか?」
そう言うと、ジャンマルコは苦笑を浮かべる。
「この大会は時間があったからだよ。……それはともかくとして、数日中に模擬戦をやるという事でいいか?」
「ああ。正式な宙域については後で連絡を……」
「ごほん」
俺とジャンマルコの会話に、近くに待機していた運営委員の一人がわざとらしい咳払いをする。
どうやら俺とジャンマルコの会話に対する注意らしい。
別にそこまで大きな声で話していた訳ではないし、マイクに会話が拾われていた訳でもないんだが。
ともあれ、それ以降は俺とジャンマルコも黙り込み……やがて表彰式は終わるのだった。
「さて、優勝祝いだ。今日は思う存分、食って飲め! 乾杯!」
『乾杯!』
拠点に戻ってきてやる事は、当然ながら宴会だ。
優勝祝いなのだが……何だか火星に来てから頻繁に宴会を行っているような気がするな。
まぁ、皆が喜んでるんだからいいけど。
「その、アクセル。私達も優勝祝いに参加してよかったのでしょうか?」
ウーロン茶を手に、クーデリアがそう聞いてくる。
「別に構わない。クーデリアは、もう身内みたいなものだしな」
「身内……ですか」
「嫌だったのか?」
「いえ、そんな事はありません。ただ、そのように言われた事がなかったので、戸惑っただけです」
家族仲はそんなに悪くない筈だし、革命の乙女としての活動でも多くの者達と行動を共にしてる筈なんだがな。
そんな中には、クーデリアを取り込みたいと身内扱いをしたり……場合によっては、自分の女にしようと考えてもおかしくはない。
何しろクーデリアは、美貌と女らしい身体を持っている。
それだけに、クーデリアを自分の女に……と考えるものはいるだろう。
多分だが、その辺りはフミタンがさり気なくフォローしてるんだろうな。
「そうか。なら、存分に楽しんでくれ。とはいえ、クーデリアの忙しさを考えれば、そう遅くまではここにいられないのか?」
「いえ、明日は特に何か用事がある訳ではないので、ゆっくりと出来ます」
ゆっくり出来るのなら、ここではなく家の方がいいのでは?
そう思ったが、クーデリアの様子を見るとそれは言わない方がいいようにした。
そんな俺の様子に、少し離れた場所で子供組の世話をしていたフミタンが、感謝の視線をむけてくる。
「そうか。なら、ゆっくりとしていくといい。……それで、今日の大会はどうだった? クーデリアなら、ああいうのを見る機会はそうないだろ?」
何だかんだと、クーデリアはお嬢様育ちだ。
ああいう乱暴なのを見る機会は、決して多くはない。
「そうですね。ただ……思ったよりも怖くなかったのは少し驚きました」
「そうなのか?」
「はい。やっぱり、実際に命を狙われた経験があるかどうかというのが、大きく影響しているんだろうと思います」
なるほど。実際に命を狙われたことがあるクーデリアにしてみれば、モニタ越しに見るMWの模擬戦は恐怖を感じなかったのか。
それにペイント弾を使った模擬戦だったしな。
その辺も、模擬戦を見ていても大きなショックを受けなかった理由の1つなのだろう。
「そう言えば……」
不意にクーデリアが、聞きたそうな、それでいて聞いてもいいのかどうかといったような、そんな表情でこちらを見てくる。
「どうした?」
「いえ、その……アクセルが賭けた件はどうなったのかと」
「ああ、それか。問題なく入金されていた」
シャドウミラーの勝利を賭け続けた結果、その金額はちょっとしたものになっていた。
具体的には、暫く運営資金の心配をしなくてもいいくらいには。
多分だけど、胴元は結構な損をしたと思う。
ノブリスの後ろ盾がないと、間違いなく面倒な事になっていたと思う。
そんな風に思いながら、俺は優勝祝いを楽しむのだった。