俺の目の前には、昨日の大会で戦ったジャンマルコの姿があった。
「幾ら何でも、昨日の今日で急すぎないか?」
「そう言っても、アクセルがいつでもいいと言ったんだろう? それに、俺に勝てばMS……ゲイレールが手に入るんだ。なら、このくらいの事はやってもいいと思わないか?」
そう言われると、俺も否定は出来ない。
MSというのは結構な値段がする。
それを貰える――あくまでも俺がジャンマルコに勝てばだが――のだから、少しくらいこっちにとっても不利な状況になるのはおかしな話ではない……のだろう。
実際にここで何か言って、約束の賞品付きの模擬戦がなくなるのが嫌なのも事実。
「分かったよ。とはいえ、模擬戦用に武器とかを変えるとなると、それなりに時間が掛かるぞ。射撃武器のペイント弾ならそう難しくはないけど」
「なら、普通の武器でやればいいだろ」
「……本気か?」
ペイント弾とかそういうのを使わないで行う戦い。
それは模擬戦ではなく、実戦と呼ぶのだと思うが。
「当然だ。射撃兵装はペイント弾を使えばいいけど、近接用の武装はそれでいい」
「本気か? MS戦の場合、近接攻撃が一番危ないだろうに」
他の世界ならともかく、このオルフェンズ世界において射撃というのは基本的に牽制くらいにしかならない。
戦いの決着は、コックピットを潰すという意味で近接用の戦い……それも大質量の武器を使ってのものが多くなる。
だからこそ、今回の模擬戦において近接用の武装は本物を使うというのは、半ば自殺行為に等しい。
「ふんっ、MWとは違うんだ。MSで模擬戦をやる以上、そのくらいのスリルは必要だろ」
「分かった」
ジャンマルコの様子を見る限り、とてもではないが模擬戦を延期するつもりはない。
そうなると、俺がガンダム・グシオンで使うのはグシオンハンマーのような巨大な……それだけ威力は高いが、だからこそ寸止めが難しいのではなく、ポールアックス的な武器のグシオンアックスでも使うか。
あの武器はハンマーの部位が射出可能な複合兵装だったりして、俺との相性もいいし。
グシオンアックスなら、グシオンハンマーと違って寸止めとかは普通に出来るだろう。
「よし、じゃあ決まりだな。模擬戦をするのは、少し離れた場所になるけど、いいよな?」
「まさか火星のすぐ側でやる訳にはいかないしな」
そんな事をすれば、それこそすぐにギャラルホルンが飛んでくる。
勿論、ギャラルホルンと戦っても勝利は出来ると思う。
思うが、それでも最終的にかなり面倒な事になってしまうのは無理もない。
これでホワイトスターと繋がっていれば、どうとでも出来るとは思う。
しかし、今のところまだ呪いの為にホワイトスターと繋がってはいない。
PPを使ってSP……魔力を上げて、それによってそれなりに解呪を試してはいるんだが。
これが具体的にいつくらいになったら俺の魔力で解呪……というか、無理矢理呪いを破壊出来るのか。ちょっと分からない。
「そういう事だ。特に俺はギャラルホルンに目を付けられる訳にはいかないしな」
「……だろうな」
タントテンポの拠点がある月には、ギャラルホルンの中でも最精鋭のアリアンロッド艦隊がいる。
そんなタントテンポに所属しているジャンマルコが、火星のとはいえギャラルホルンに目を付けられるのは悪手でしかない。
というか、そんな状況でも模擬戦をやろうと言ってくるのは……まぁ、その辺はある意味で仕方がないのか。
ジャンマルコと話した回数は少ないが、それでも何となく性格については分かる。
戦闘狂……とまではいかないが、それでも戦闘をこよなく愛するといったような感じなのは間違いない。
MWの大会のあった次の日に、こうしてMSの模擬戦をやろうと言ってきてるのが、その証拠だろう。
もしくは、表彰式の時に言っていたようにいつまでも火星にいられないからなのかもしれないが。
「とにかく、話は分かった。諸々と準備をして……今が8時くらいだから、10時くらいに宇宙で合流って事でどうだ? それからギャラルホルンに見つからない場所まで移動して、そこで模擬戦をやる。そして模擬戦が終わったら俺がゲイレールを受け取って終わり、と」
「おい、言っておくがゲイレールは俺に勝ったらだぞ?」
「ああ。だからもうそのゲイレールは俺の物になると決まってるだろう?」
「ほう……面白い事を言うな。昨日のMWでの戦闘では負けたが、MSとMWは違うぞ?」
「だろうな。それでも……俺の本職はMSのパイロットだ」
いやまぁ、正確にはMSではなくニーズヘッグ……PTのパイロットなのだが。
その辺については、説明しても理解出来ないだろうからやめておく。
「よし。なら、その実力を見せて貰おうか。そこまで言っておいて、実はあっさり負けたりしたら、みっともないぞ?」
「そうならないだけの実力は持ってるつもりだよ」
そうして、俺達は昨日の今日でMSによる模擬戦を行う事になるのだった。
「MSの整備はどうだ?」
「問題ありません。射撃武器の類も全てペイント弾にしてあります。けど……その、本当にいいんですか? 武器はそのままって話でしたが」
宇宙港にある強襲装甲艦の格納庫。
そこで俺はメカニックと話をしていた。
ここに来る前にガンダム・グシオンの射撃武器はペイント弾にするように言っておいたので、そちらについては問題はないらしい。
いっそシミュレータで決着を付けた方が、色々と面倒臭くなくていいんだが。
とはいえ、ジャンマルコの性格を思えば実機での模擬戦でなければ満足しないか。
「ああ、そのままでいい。寸止めって事になってるしな」
「阿頼耶識なら、その辺も感覚的に出来るんでしょうが……」
メカニックの心配そうな言葉。
実際、阿頼耶識ならその辺はかなり便利なのは間違いない。
とはいえ、だからといって普通に操縦してそういう事が出来ない訳でもない訳で。
「その辺については、俺の操縦技術を信用して貰うしかないな」
その言葉に、メカニックは反論出来なくなる。
メカニックは実際に俺がどれだけの操縦技術を持っているのか、十分に知っているからだろう。
やがて、大きく息を吐く。
「分かりました。アクセルさんのやる事ですし、信じます。……ただ、相手はタントテンポの中でも相応の地位にある人なんですよね? 勝っても大丈夫なんですか?」
「その辺は問題ないだろ。あれは寧ろ手を抜かれて勝利を譲られるのを嫌うタイプだ」
でなければ、ゲイレールを用意したりとかはしないだろうし。
俺にとっては、それは寧ろありがたい事だったが。
何しろMWの模擬戦の大会で優勝して2機、それに追加してプラスで1機のMSを入手出来るのだから。
「だといいんですけどね。……ともあれ、こちらはこちらで最善をつくします。アクセルさんは、模擬戦をやる宙域に到着するまでゆっくりとしていて下さい」
そうメカニックに言われ、俺は強襲装甲艦に用意されている部屋に戻るのだった。
『さて、アクセル。そちらの準備はいいのか?』
目的の座標に到着すると、既にそこには船が1隻待っていた。
それは俺が乗ってる強襲装甲艦と同じように武装されている。
一応すぐに宇宙港を出発したのだが、向こうの方が先に到着してるとは思わなかった。
この辺は、さすがタントテンポといったところか。
これが例えば、高密度デブリ帯であればそこを拠点として活動していた元ブルワーズだけに、こっちもそれなりに……いや、それなり以上に素早く行動が出来るのだが。
「ああ、問題ない。そっちの様子はどうなんだ?」
ガンダム・グシオンのコックピットで、俺はジャンマルコにそう返す。
ジャンマルコはそんな俺の言葉に獰猛な笑みを浮かべる。
『こっちの準備は問題ない。昨日のMWでの模擬戦が俺の実力ではないと思って貰うぞ』
「なら、その実力を見せて貰おうか」
そう言い、通信を切る。
「アクセル・アルマー、ガンダム・グシオン、出るぞ!」
そう言い、俺はガンダム・グシオンを出撃させる。
ほぼ同時に、向こうからもMSが出撃してきた。
ゲイレールか。
もしかしたら、この戦いで勝利したら俺達が貰うというゲイレールはあのMS、ジャンマルコが使っているMSじゃないよな?
いやまぁ、それでいいのならこっちとしては構わないのだが。
『ちょっと待て。お前、それ……ガンダム・フレームか!?』
「正解だ。ジャンマルコなら、タントテンポの情報網でシャドウミラーが元ブルワーズだというのは知ってるんだろう? なら、俺がブルワーズの持っていたガンダム・グシオンを使っていてもおかしくはないと思う。……違うか?」
『ふんっ、ガンダム・フレームは確かに性能は高い。けどな、それでも最終的には作られなくなっていったフレームだぞ?』
「だろうな。まぁ、その辺については腕次第だ」
そう返すが、ガンダム・フレーム特有の大きなメリットもある。
具体的には、エイハブ・リアクターを2基使えるという事だ。
1基しかエイハブ・リアクターを使っていないフレームよりは、出力に余裕がある。
そしてオルフェンズ世界のMS戦では、射撃よりも近接攻撃が重要だ。
だからこそ、エイハブ・リアクターが2基あるというのはMSでの戦いにおいて大きなメリットがあるのも事実。
『腕か。なら、その腕を見せて貰おうか。……ルールについては、火星で話した時のものでいいな?』
「ああ、構わない」
『よし。じゃあ……始めるとしようか!』
その言葉と共に、ジャンマルコの操縦するゲイレールがこちらにライフルの銃口を向けてくる。
そこから発射されるペイント弾。
俺はそれを回避しながら、対抗するように90mmサブマシンガンを撃つ。
そこからも発射されるのは、ペイント弾だ。
それを回避するゲイレール。
こちらも今の一撃はあくまでも牽制の一撃でしかないので、命中すればラッキー程度の気持ちだった。
そうしてお互いが射撃武器を使った牽制を行い……
「なるほど、確かに腕はいい」
ゲイレールのペイント弾を回避しながら、感心したように呟く。
ジャンマルコの射撃の腕は、一流には少し及ばない程度……一流半といった感じか?
俺にとっては、それなりに高評価なのは間違いない。
とはいえ、だからといってその攻撃にわざわざ当たってやるような事は出来ないが。
「ほら」
反撃として放ったペイント弾が、ゲイレールの持っているライフルに命中し、ペイントを撒き散らかす。
それを見ながら、俺は手榴弾を投擲する。
当然ながらこの手榴弾もペイント弾だが、威力……この場合はペイントの広がる範囲が広い。
ジャンマルコはペイントで汚れたライフルを放り捨て、その場から素早く移動する。
今の場所にいたままだと、すぐに手榴弾によってペイントが機体に付着すると判断したのだろう。
だが……そっちに逃げてくるのは、予想通り。
ゲイレールの逃げた方には、グシオンアックスを手にしたガンダム・グシオンの姿。
恐らくこちらに逃げるだろうと判断し、待ち伏せていたのだ。
ジャンマルコも、俺の存在に気が付いたのだろう。
一瞬……本当に一瞬だけ焦った様子を見せ……
「その一瞬が命取り」
グシオンアックスを手に、ガンダム・グシオンのスラスターを全開にして一気にゲイレールとの間合いを詰める。
向こうもそれに対応するように斧を手にしたが……
「っと」
コックピットで振り下ろすグシオンアックスの軌道を無理矢理変化させ、ゲイレールの斧をすり抜けるようにして……次の瞬間には、ゲイレールのコックピットにグシオンアックスを突きつけるのだった。
「俺の勝ちでいいな?」
『……ああ、それでいい』
不満そうな様子のジャンマルコだったが、大人しく負けを認めるのだった。
「てっきり、お前が乗っていたゲイレールを貰うんだと思ってたんだけどな」
強襲装甲艦に運び込まれたゲイレールを見て、俺の隣に立つジャンマルコにそう声を掛ける。
「ふん、あの機体は俺用に調整されてるんだ。それをやるつもりはねえよ」
「なら、あのゲイレールはそういう調整とかはしてないって事でいいのか?」
「そうだ。装甲とかもきちんと磨いてあるから、新品同然だ」
「ゲイレールって時点で新品じゃないだろうに」
ギャラルホルンの1世代前の主力MSがゲイレールだ。
それだけに、新品というのは……まぁ、ないとは言わないが、可能性は低いだろう。
世の中には、いわゆる新古品というのもあるが。
「そりゃあそうだ。あれはギャラルホルンからの横流し品だしな」
「おいおい、それはマジか?」
「ああ。こう言っちゃなんだが、ギャラルホルンは腐敗の温床だぞ? まぁ、それでも限度があるから、グレイズを横流しするような事はないが。出来れば欲しいんだよな、グレイズ」
「性能は間違いなくいいしな」
ギャラルホルンの現役主力MSだ。
性能が悪い訳がない。
とはいえ、だからこそそう簡単に入手出来ないのも事実。
これで、エイハブ・リアクターの固有周波数による特定が出来ないのなら、ある程度どうにか出来るんだが。
そんな風に思いつつ、俺はジャンマルコとの会話を続けるのだった。