マルバが頭を抱えていると、部屋の扉がノックされる。
『社長、オルガ達が来ましたがどうします?』
扉の向こうから、ハエダの言葉が聞こえてくる。
それを聞いたマルバは、こちらに視線を向けると不満そうにしながらも口を開く。
「入れろ。ハエダも入ってこい」
その言葉に扉が開き、オルガ、ビスケット、ユージン、三日月、昭弘の5人が姿を現す。
あれ? 呼ばれていた中に三日月と昭弘はいなかった筈だ。
……まぁ、マルバが特に何も言わないところを見ると、特に問題はないのだろう。
ただ、少し気になったのが昭弘の頬が赤く腫れている事か。
恐らく、ハエダの鬱憤晴らしでやられたのだろう。
もっとも、昭弘はそんなのは慣れているといった様子で、全く痛そうにはしていなかったが。
「社長、連れてきましたが……」
「オルガ、そこのお嬢さんを知ってるか?」
「え? ……いえ。申し訳ないですが分かりません」
マルバの言葉に、オルガはクーデリアを見るが、すぐに首を横に振る。
まぁ、参番組の場合はTVを見るとかそういう機会は滅多にないだろうし、仕方がないのだろう。
マルバもTVくらいは与えればいいのにな。
TVの1台程度なら、そんなに高くない……どころか、場合によっては廃棄品とかそういうのを貰ってくれば無料だし。
あるいはTVとかはあるが、オルガは見ていないだけとか?
「そうか。そのお嬢さんはハーフメタルの貿易についてお偉いさんと交渉する為に地球に行くらしい。その護衛を俺達に……正確にはシャドウミラーと合同で行うこの依頼を受ける事になった。そしてCGSから出すのは参番組だ」
「え? いや、ちょ……けど、それは……地球に行くんですよね? 俺達、そんな場所に行った事もないですけど」
「分かっている。だが、地球に向かう為の航路はシャドウミラーの方で問題なく出来るって話だ。それに、宇宙船も……」
「ちょっと待った。現在俺達に使える宇宙船はない。3隻ある中で2隻は高密度デブリ帯にエイハブ・リアクターを手に入れる為に行ってるし、もう1隻は大規模なメンテ中だ」
「はぁ? ……じゃあ、どうしろってんだ」
「俺が聞いた話だと、CGSにも宇宙船が1隻あるって話だが?」
「……それをうちに出せ、と?」
「戦力はこっちが出すんだ。高密度デブリ帯を通る以上、海賊と遭遇する可能性が高い。その時、MSがなければ意味はない。そしてこっちには宇宙で使えるMSが結構な数ある」
ガンダム・グシオンやマン・ロディ、ガルム・ロディがある。
もっとも、ガンダム・グシオンとガルム・ロディはそれぞれ1機ずつだけだが。
そう言えば、テイワズに送ったあの未知のフレームについてはどうなったんだろうな。
とはいえ、テイワズは木星、俺達が行くのは地球……正反対なんだよな。
原作の流れだと、どうなっていたんだろう。
地球に向かうのに、わざわざ木星に行く必要は……まぁ、原作ではそういう事をしないといけない理由とかも、普通にありそうだけど。
「どうだ? CGSには宇宙用のMSがあるのか?」
その問いに、マルバは黙り込む。
宇宙用……どころか、地上で使えるMSもないのだろう。
そう思っていたのだが、こっちを見ているオルガが、何か言いたそうな様子を見せていた。
何だ? 何かあるのか?
「ない」
するとそんな俺の考えを読んだかのように、マルバは断言する。
「なら、MSと案内役はこっちから出す以上、宇宙船くらいはそっちで出してもいいんじゃないか?」
「……少し考えさせて欲しい、今回の仕事は幾ら何でも大きすぎる。ここでそう簡単に判断出来ないくらいにはな」
「それもそうか」
実際、今回の依頼は普通に考えれば出来たばかりのPMCや、いいところ中堅といった規模のCGSに任されるような依頼ではない。
それこそ、もっと大きな……それこそノブリス直下の組織であったり、あるいはノブリスに対しても明確にNoと言えるような大きな組織だったりが受けるような仕事なのだ。
マルバがこうして迷うのは、俺にも理解出来る。
「なら、どのくらいの時間が必要だ? お前がどういう風に考えるのかは分からないが、いつまでも時間を与えるといった訳にはいかない」
ニーズヘッグが使えるのなら、システムXNを使って火星から地球まで一瞬にして転移する事も可能だ。
だが、今の俺は呪いによってニーズヘッグを使う事もろくに出来ない。
毎日のように魔力を使って呪いに対抗してるんだがな。
それこそ、解呪の痛みに耐えるのに多少なりとも慣れるくらいには。
それにシーラから聞いた話だと、実際に俺の毎日の行動によって呪いが次第に弱まってきているというのは間違いないらしい。
問題なのは、弱っているのは事実だが、それが具体的にいつくらいになったら解呪されるのかの目処がまだ立たないというところか。
ともあれ、ニーズヘッグを使えない以上、地球に行くまで相応に時間が掛かるのは間違いない。
……ジャンマルコがいれば、タントテンポの力を借りるという事も……いや、駄目だな。
ジャンマルコ個人なら、気の合う奴と思える。
だが、それはあくまでもジャンマルコ個人での話だ。
ジャンマルコが所属するタントテンポが関係してくれば、ジャンマルコも好き勝手には出来ないのだから。
そもそも俺とジャンマルコは別にそこまで親しい訳ではない。
実際に会った回数も少ないのだし。
そう考えると、タントテンポに頼るというのは不味いだろう。
「分かっている。今日中……は無理だが、明日中には決めよう」
そう言うマルバだったが、さてその言葉をどこまで信じていいものやら。
とはいえ、マルバが決めないとどうにもならないのも事実。
「そういう事らしいが、どうする?」
「仕方がありません。今回の依頼はそれだけ厳しいものになるのでしょうから。ですが……そうですね。どうせなら今日はここに泊まりたいと思うのですが、構いませんか?」
「は? ……一体なぜうちに?」
マルバにしてみれば、クーデリアが口にしたのは予想外の言葉だったのだろう。
驚きの視線を向ける。
いや、それはクーデリアだけではない。
この部屋の中にいる多くの者達がクーデリアに疑問の視線を向けていた。
それは俺も同じで……
「どうせ泊まるのなら、ここじゃなくて俺達の場所でもいいんじゃないか?」
「いえ。クーデリアの決めた事である以上、その意思を尊重した方がいいかと」
今までは黙って話を聞いていたシーラだったが、いきなりそう口に出す。
「シーラ?」
「クーデリアは、やるべき事があり、それに向かって進んでいます。そうである以上、それを邪魔するようなことはするべきではないでしょう」
「いや、けど……」
「アクセル様、お嬢様の希望を叶えて貰えないでしょうか?」
シーラに続き、フミタンまでもがそう言ってくる。
これは……俺が不利だな。
この状況ではどう言ってもクーデリアが考えを翻すつもりはないだろう。
だとすれば……
「分かった。なら、俺も泊まろう。何かあった時、俺がいた方がいいだろう?」
そう言う。
そんな俺の言葉に真っ先に反応したのは、クーデリア……ではなく、ハエダ。
忌々しげな様子で俺を睨み付けてくる。
そういう態度だから、俺も安心してクーデリアとフミタンをここに残すつもりにはなれないんだよ。
もし俺達がいなかったら、ハエダはどんな行動に出ていたのやら。
オルガとかはそういう事はしないだろうが、それでも参番組である以上、ハエダ達に表立って逆らったりするのは難しいだろうし。
やっぱりここは俺も一緒にいた方がいいのは間違いない。
マルバならそういう行為をさせないだろうが、ハエダがマルバの完全な制御下にあるかと聞かれれば、正直微妙なところだろうし。
特に性欲による暴走なんてのは、よく聞く話だ。
そしてハエダはこのCGSで実質的なNo.2であり、逆らえる者はほぼいない。
「いいのですか?」
「まぁ、今回の依頼について色々と話したりする必要もあるしな。それに、参番組とは地球まで一緒に行動するんだし、意思疎通がしっかり出来るようになっておいた方がいい」
CGSの中で俺……というか、俺達シャドウミラーと一番関係が深いのは、参番組なのは間違いない。
だが、参番組にはかなりの人数がいて、まだ一度も話した事がない奴も多い。
地球まではそれなりに時間が掛かる。
その時、船の中で問題が起きたりしないように、ある程度話をしてお互いを理解しておいた方がいいだろうし。
「おい、ちょっと待て。そんなに簡単に決められても困るぞ」
「マルバが何を言いたいのかは分かるが、女っ気のない場所に依頼人とはいえ、クーデリアやフミタンを置いていくのは問題がある。それなら、第三者的な立場にある俺がいた方がいいと思うが?」
まぁ、思い切り関係者である俺が第三者的な立場という表現に相応しいかどうかは、正直微妙なところだが。
とはいえ、それはあくまでも表向きの話でしかない。
結局のところ、ハエダが……あるいはハエダ以外にも妙な考えを抱く連中に対しての牽制でしかないのだから。
「……分かった」
「社長!? いいんですか、部外者を泊めるようなことをして!」
マルバが俺がCGSに泊まるというのを受け入れるが、ハエダが不満そうに叫ぶ。
これは……もし俺がいなければ、やっぱり何かをやらかしていたな。
「俺が決めたんだ。それに文句があるのか?」
「……いえ」
不承不承、本当に不承不承といった様子だったが、ハエダはマルバの言葉に頷く。
その表情を見れば、納得しているとはとてもいえない様子だったが。
そして何故か……ある意味当然かもしれないが、俺を睨むハエダ。
自分の欲望を果たすのを邪魔したのが、面白くなかったのだろう。
いっそ、ここで妙な動きをしてくれれば、こっちも手出し出来るんだけどな。
そうなればCGSに抱く不信感を少しは減らす事が出来るんだが。
とはいえ、この様子を見る限りではマルバがハエダを排除するつもりはないらしい。
「では、クーデリアさん。部屋の案内はオルガ達にさせますので。それでよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。ただ、その後で子供達から色々と話を聞かせて欲しいと思ってますけど、どうでしょう?」
「構いませんよ。……いいな、オルガ?」
「はい」
壁の側に立って待機しているオルガは、マルバの言葉にすぐに返事をする。
実際、オルガにしてみればクーデリアが子供達から話を聞くのは問題ないと判断したのだろう。
そんな訳で、今回の依頼についての話はここまでとなり、一旦解散することになるのだった。
「ねえ、貴方。少し話を聞かせて貰える?」
社長室から出て、オルガに泊まる部屋に案内されていると、不意にクーデリアが三日月に声を掛けていた。
よりによって三日月か。
それこそ他の奴に話を聞いてもいいと思うんだが。
特に昭弘は、その巨体から威圧感があるかもしれないが、昌弘がそれなりにクーデリアに懐いているという事もあり、それなりに友好な関係を築けると思うが。
「何?」
「三日月」
「……何でしょう?」
オルガが言葉遣いを注意すると、三日月は若干不満そうにしつつ、そうクーデリアに尋ねる。
「いえ、言葉遣いは特に気にしなくても構いませんよ。そちらの方が率直な意見を聞けるでしょうし」
「……オルガ、どうすればいい?」
「依頼人がそう言ってるんだ、失礼にならない程度にな」
オルガの言葉に三日月は頷く。
そんな2人の関係を、不思議そうに見るクーデリア。
恐らく、クーデリアの目から見て友好的な関係なのだと思えたのだろう。
「貴方達の今までについて、色々と教えて欲しいの」
「ふーん。変な事を聞きたがるんだね」
「これからの私の活動に必要なのよ。それに……単純に私が知りたいと思っていることでもあるわ」
「まぁ、いいけど。じゃあ、取りあえず建物の中でも案内する? 格納庫に行けば、色々と聞けると思うけど」
「そうね。お願い出来る?」
「オルガが言ったんだから、問題ないよ」
「ありがとう。……じゃあ、アクセル。私はちょっとこの子に案内して貰ってくるわね」
「お嬢様、私も行きます」
今まで黙って話を聞いていたフミタンが、不意にそう言う。
だが、これは特におかしな事ではない。
フミタンはクーデリアのお付きのメイドである以上、クーデリアだけで行動させるのは不味いと判断したのだろう。
……実際、ハエダの件があったのを考えると、フミタンの心配はそうおかしなものではないと思う。
もしここでフミタンがいかず、クーデリアだけが行った場合……参番組の子供達は何もしないだろうが、そこにハエダとかがやってきてちょっかいを出すという可能性は十分にあるのだから。
もっとも、フミタンは結局のところメイドでしかない。
俺の認識だと、メイドというのは武装メイドとかそういうのがあるんだが、フミタンの場合は本当に普通のメイドだ。
ハエダとかが何かしようとした場合、フミタンが止めるのは難しいだろう。
仕方がない。取りあえず俺も一緒に行くか。
そう判断し、オルガに声を掛けるのだった。