「これは……不味いな」
それがグレイズの出て来た戦場を見た俺の感想だった。
例え相手がギャラルホルンであっても、MWでの戦闘なら参番組がいればある程度互角にやり合える。
壱番組や弐番組の件や、信号弾の件といったように疑問はあったが、それでもとにかく参番組だけでギャラルホルンが相手であっても互角に戦えていたのだ。
だが、それはあくまでもMW同士の戦闘だからでしかない。
そこにMSが加われば、戦局は一瞬にして変化する。
MWとMSの戦力比は、それこそSEED世界のメビウスとジン以上の戦力差なのだから。
何しろ、オルフェンズ世界のMSの装甲に使われているナノラミネートアーマーは、物理攻撃も基本的には無効化する。
ペイントが剥げた場所に正確にもう一度攻撃する事が出来れば話は別だが、動き回っているMSにそんな事はそうそう出来ない。
オルフェンズ世界のMSを倒すには、基本的に重量のある近接戦闘用の武器でコックピットを潰すのが最善だ。
しかし、MWにあるのは射撃武器だけである以上、それに対処するのは難しい。
「アクセル、どうするのです?」
シーラの問いは、幾つかの意味を込められている。
CGSにはMSがなく、MWだけが戦力だ。
そうである以上、MSを倒すのはまず無理だ。
このまま時間が経てば、CGS側は全滅するだろう。
あるいは全滅するよりも前に降伏して、クーデリアを引き渡すか。
とにかくMSがいる時点で……それもギャラルホルンの主力MSであるグレイズがいる時点で、勝負にはならない。
だが……それはあくまでもCGSの話だ。
シャドウミラーには現在地上で使える3機のMSがある。
そして俺は自分で言うのも何だが、非常に高い操縦技術を持つ。
つまり、俺ならこの状況をどうにか出来る訳だが……
クーデリアとフミタンを見る。
俺とシーラの会話は何か重要な意味を持っているのが分かっているのか、黙って話を聞いていたが、俺の視線に気が付いたのかクーデリアがこちらに視線を向けてくる。
「何でしょうか? 何かあるのなら……この現状をどうにか出来るのなら、話して下さい」
「そう言われてもな」
クーデリアは勘違いをしている。
俺がクーデリア達を見たのは、クーデリアが何かを出来るから見た訳ではなく、あくまでもクーデリアに俺の秘密……具体的には魔法の件を知られるのが不味いと思ったからだ。
「アクセル、迷っている場合ではありませんよ」
「何? ……うげ、マジか」
シーラの言葉に戦場となっている場所に視線を向けると、そこは先程見たMS以外にも数機のMSの姿があった。
CGSの戦力を考えれば、ぶっちゃけMS1機でも過剰戦力だ。
なのに、ここまでMSを投入するとは……あるいは、当初はシャドウミラーとCGSのどちらを襲撃するのか決まっていなかったので、MSを持つシャドウミラーを相手にするには、こうして複数のMSを用意する必要があると判断したのか?
それとももっと単純に、獅子は兎を狩るにも……って奴なのか。
ともあれ、こうなっては仕方がない。
「クーデリア、フミタン。これから俺の秘密を見せる。……というか、経験して貰う」
見せるだけなら、影のゲートを見せればいい。
だが、ギャラルホルンの狙いはクーデリアだ。
なら、影のゲートを使うのならそれでクーデリアとフミタンもシャドウミラーの拠点に連れていった方がいい。
そうなれば、もし万が一何かがあってもクーデリアとフミタンは無事だし。
何しろCGSのすぐ側でこうして戦いが行われているのだ。
そうである以上、いつ流れ弾がやって来るのか分かったものではない。
それどころか、MSがいる以上は参番組の防衛線をあっさりと突破し、ここまでやって来る可能性もある。
だからこそ、そんな時の対応の為にクーデリアはここにいない方がいい。
そもそも信号弾のあったほうにギャラルホルンのMWが向かったのも、クーデリアを逃がさない為だし。
「その……何を経験するのですか?」
「口で言っても分からないから、説明は後だ。シーラ、いいな?」
「ええ、仕方がないかと」
シーラは俺の力を知ってるだけに、即座に頷く。
そしてシーラは半ば強引にクーデリアとフミタンを俺の側まで連れてくる。
「危険はないのです?」
フミタンがそう聞いたのは、自分のこともそうだがクーデリアを心配しての事でもあるのだろう。
「基本的には危険はない。人によっては合う合わないがあって、少し気持ち悪くなったりもするが」
影のゲートを利用した者でも、体質的な問題か、あるいは他に何か理由があるのか、ともかく気持ち悪くなる者もいる。
そうである以上、絶対に問題がないとは言えなかった。
「ただ、このままここにいるより安心なのは間違いない」
そう言われると、フミタンもそれ以上は何も言えなくなり……
「行くぞ」
そう言い、影のゲートを生み出す。
「え? ちょ……これは一体!?」
「お嬢様!」
「心配いりません。アクセルの言う通り、これは問題ないですから」
シーラが落ち着かせるように言うが、その間にも俺達の身体は影に沈んでいき、クーデリアやフミタンが戸惑ったような声を上げ……そして完全に影のゲートに沈んだと思った次の瞬間には、俺達はシャドウミラーの格納庫に姿を現していた。
「……え?」
「これは……」
クーデリアとフミタンは、それぞれそんな声を漏らす。
影に沈んだかと思えば、次の瞬間にはシャドウミラーの格納庫にいたのだから、疑問に思うなという方が無理だろう。
「アクセル!」
そんな俺達の姿を素早く見つけて叫ぶのは、マーベル。
ユーゴーの側で、いつでもコックピットに乗れるように準備を整えている辺り、色々と説明しなくても状況に対処出来るようにしてあるのはさすがだよな。
「すぐに出るぞ。ただ、相手はギャラルホルンだ。MSもいる。そしてCGSは壱番組と弐番組、それに恐らくマルバも逃げ出して参番組だけがMWで戦っている」
控え目に言って最悪、絶望、どうしようもない……そんな感じなのは間違いなかった。
「それは厄介ね。それで、移動方法は?」
「影のゲートを使う」
「……そう」
マーベルは影のゲートでこの格納庫に姿を現したクーデリアとフミタン、そして2人に何かを説明しているシーラに向けられている。
本来なら、ここで俺が色々と説明するべきなのだろうが、今はCGSを助けに行く方が最優先だ。
なので、取りあえずの説明はシーラに任せておけばいいだろう。
「大丈夫なのね?」
「クーデリアなら、こっちの秘密をわざわざ話したりはしないだろうし、フミタンはクーデリアが喋るなと言えば恐らく喋らないだろう」
「だといいんだけど。……それより、いつまでもこうしていられないわ。向かいましょう。どの辺まで影のゲートで移動するの? 戦場のど真ん中?」
「さすがにそれは無理だな。影のゲートをギャラルホルンに見せる訳にはいかないし」
クーデリア達には影のゲートを見せたものの、ギャラルホルンにまで見せたら、一体どうなる事やら。
普通に考えれば、ギャラルホルンにとって魔法を使う俺は危険極まりない存在と認識されてしまうだろう。
それこそ、クーデリアを放っておいて俺を狙ってきてもおかしくないくらいには。
だからこそ、俺としてはギャラルホルンに俺の存在を教える訳にはいかなかった。
「そうなると、戦場になっている少し手前くらいまでを?」
「ああ。もっとも、ギャラルホルンがCGSのある一帯を封鎖とかしていると危険かもしれないが……さすがにそのくらいのリスクはどうにかするしかないだろう」
封鎖している中にいつの間にかMSがいるのを向こうが察知しても、それは気が付かれないうちに封鎖を突破されたといったように思われるだろう。
そういう意味では、影のゲートから出てくる光景を見られなければ、それでいい。
あるいはもしそれを見られても、何らかの記録媒体に保存されるようなことがなければ、1人や2人がそういう風に言っても常識的に緊張して幻覚でも見たか、寝不足で半分寝惚けていたか……そんな風に思われるだけだろう。
というか、そうであって欲しい。
「分かったわ。……最後に一応念の為に聞いておくけど、本格的にギャラルホルンを敵に回しても、いいのね?」
確認を求めて来るように尋ねてくるマーベルに、俺は頷きを帰す。
「そうだ。ここでCGSを潰させる訳にはいかない」
これで、壱番組と弐番組が潰されるのなら、それはそれで構わなかっただろう。
しかし参番組だ。
この世界の主人公と思われるオルガや、昌弘の兄の昭弘がいる参番組を潰させる訳にはいかなかった。
「アクセルさん! その、俺も連れていってくれませんか!」
昭弘について思い浮かべると、まるでそれを察知したかのように格納庫で様子を見ていた昌弘がそう言ってくる。
だが、俺はそれに対して首を横に振った。
「駄目だ。敵がMWだけなら、昌弘も連れていってもよかったが、MSがいる。MWでMSの前に出るのがどれだけ絶望的なのか……それは考えるまでもなく知ってるだろう?」
「それは……」
宇宙で実際にMSに乗っていた事から、昌弘は俺の言葉の意味を理解する。
そして悔しそうにユーゴーを見て、呟く。
「くそっ、マン・ロディが地上で使えれば……」
「そうだな。もしマン・ロディがあったら一緒に行くのを許可しただろう。だが、それがない以上はどうしようもないのも事実。今は待っていてくれ」
俺とマーベルを抜かした、純粋な元ブルワーズ組として考えれば、昌弘はトップクラスの技量を持つ。
それこそ、ギャラルホルンとの戦いでも相応の戦力にはなるだろうと思えるくらにいは。
だが……そのMSがない。
MSというだけなら、俺がゲイレールに乗って、マーベルがユーゴーに乗るので、ユーゴーがもう1機空いてはいる。
いるのだが、MWの大会の賞品であるこのユーゴーは、コックピットが阿頼耶識に対応していなかった。
つまり、幾ら昌弘が腕利きのパイロットだからといって、それは阿頼耶識が前提にあるものである以上、普通に操縦するのには向いていないのだ。
勿論、阿頼耶識があるからといって普通の操縦が出来ない訳ではない。
訳ではないが、それで阿頼耶識と同じように操縦出来るかと言われれば、それはまた別の話だ。
昌弘達子供組は、阿頼耶識があるのが前提とした上での訓練しかしていないのだから。
かといって、阿頼耶識のない大人組を連れて行くかと言えば、それもまた否だ。
こちらは純粋に、操縦技術の未熟さからそうなる。
これで子供組に負けない程の操縦技術があれば話は別だったのだが、残念ながらそこまでの技量はない。
大人組も、相応に訓練をしてはいるんだが……基本的にはMWの操縦訓練だしな。
「でも……いえ、分かりました。その、アクセルさん。兄貴を……よろしくお願いします」
昌弘はそう言って頭を下げてくる。
ここでどうしても自分が行くと言っても、俺達がそれを許さない。
それなら、ここで話をしているだけCGSの……昌弘にしてみれば自分の兄の生死に関わってくると、そう思ったのだろう。
「任せろ。絶対……とは言わないが、俺達が戦場に参加すれば戦局は覆る」
そう言うが、俺達が影のゲートで避難するまでに参番組のMWは何機か撃破されている。
MWが撃破されたからといって、コックピットにいるパイロットが必ず死ぬという訳ではない。
訳ではないが、それでMWはMSよりも小さく、それが撃破されれば生き残る可能性が低いのも事実。
つまり、最悪……本当に最悪の場合、実は影のゲートを使う前に昭弘が死んでいる可能性も否定は出来ないんだよな。
ただ、MWの中に2機だけ妙に動きのいいのがいたのを考えると、多分大丈夫だとは思うけど。
それにオルガが恐らくこの世界の原作の主人公であった場合、昭弘は主要キャラの1人という扱いになる筈だろうし。
……もっとも、主要キャラだろうが何だろうが、俺が介入した結果原作と違う流れになって、その結果昭弘が死んでしまうという可能性は否定出来ない。
ともあれ、その辺については今はまず考えなくてもいい。
今この状況でやるべきなのは、少しでも早くCGSを助けに行く事だ。
そんな訳で、俺は心配そうな昌弘を……そして何かあったのかを完全にはまだ納得出来ていない様子のクーデリアとフミタンをその場に残し、ゲイレールに乗り込む。
「マーベル、準備は?」
機体を起動させながらマーベルに尋ねると、マーベルの乗ったユーゴーから返信がある。
『こちらは問題ないわ』
マーベルの言葉通り、MSの様子におかしなところはない。
そうなると、後はもうすぐにでも出撃出来る。
ゲイレール用の武装でも、ここで必要なのはシールドアックスだ。
シールドアックス……これはその名の通り、左手に装備されているシールドは同時にアックス……つまり斧でもある。
オルフェンズ世界におけるMSの戦いで重要な、近接攻撃用の質量兵器。
それが、このシールドアックスだった。