『アクセルさん!? 何でMSに!?』
外からそんな風に叫ぶ声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声に映像モニタを確認すると、そこにはMWのコックピットから上半身を出したオルガの姿があった。
どうやらオルガは無事だったらしいと思いつつ、俺は外部スピーカーで言葉を返す。
「色々とあってな。いわゆる企業秘密って奴だ」
オルガが聞きたかったのは、つい先程までCGSの建物の中にいた俺が、どうやってMSを持ってきたのかという事だろう。
もしくは、そのMSはどうしたのかと。
ただ、昌弘から昭弘経由でMWの大会に出たというのは知っている筈だ。
そうなれば、賞品としてMSを入手したというのを知っていてもおかしくはない。
だとすれば、MSの出所については聞かないか。
もっともMWの大会の賞品はユーゴーが2機で、このゲイレールはジャンマルコとの模擬戦で勝利した賞品なんだが。
まぁ、今はどのみちそんな話をしているような余裕はないが。
それに俺の魔法については企業秘密なのは間違いない。
「とにかく、今はMWを俺の周囲に集めろ。すぐにマーベルがもう1機のMSに乗ってこっちに合流する。後は俺がギャラルホルンのMSを倒せば、それでいい」
『いや、んな事言ったって……敵のMSはまだ結構な数がいるんですよ!?』
「心配するな。このくらいの敵ならどうにかなる」
オルガ……あるいは俺とオルガの話を聞いている者にしてみれば、俺が強がりを言ってるように思えるだろう。
だが、実際襲撃してきたMSのパイロットの操縦技術はそこまで高くない。
これがギャラルホルンの平均なのか、それとも火星のギャラルホルンの中でも腕の未熟な者達を送ってきたのか、もしくは本拠地のある地球ならともかく、ここは圏外圏だからそこまで腕の立つ者がいないのか。
その辺は俺にもちょっと分からないが。
……いや、やっぱり最後はないか?
普通に考えれば、それこそ海賊とかが多数いる圏外圏だからこそ、腕利きのMSパイロットが必要になる筈だ。
『じゃあ……その、少し頼みます。今、ミカに奥の手を準備して貰ってるので』
申し訳なさそうな様子でそう言うオルガだったが……奥の手?
ミカというのは、三日月の事で間違いないだろう。
しかし、奥の手というのは一体なんだ?
そんな疑問を抱く。
しかし、それを聞くよりも前にこちらに向かって4機のグレイズが突っ込んで来た。
ちっ、CGSの襲撃に一体何機のMSを出してきたんだ!?
姿を現したグレイズのうち、2機が途中で足を止めてライフルをこちらに向けてくる。
なるほど。後方から援護射撃をするつもりか。
残りの2機は、間合いを詰めてくるが……
「回避しろ!」
集めておいてなんだが、外部スピーカーでMWにそう指示を出す。
一度に相手をするのが数機でも、俺だけなら全く問題はない。
それこそ容易に対処出来るだろう。
だが、グレイズの持つライフルが1発当たっただけで致命傷になるMWは違う。
そして俺は、そんなMWを守りながら戦う必要があるのだ。
これがニーズヘッグなら……いや、サラマンダーやミロンガ改であっても、これなら楽に対処出来る筈なのに。
とはいえ、ゲイレールを使っている以上、仕方がない。
そう思いつつ、俺もこちらに向かってくるグレイズに向かって突っ込み……映像モニタで遠くに映ったユーゴーの姿に笑みを浮かべる。
どうやら任せたグレイズを早々に片付けて、マーベルがやって来たらしい。
「挟み撃ちだ。さて、どうする?」
そう呟くと同時に、ユーゴーが牽制として……というより、自分の存在をギャラルホルンのMS隊に気が付かせて、動揺させる為に110mmマシンガンを連射する。
勿論、ライフルでも何でもないマシンガンの弾丸で、グレイズにダメージを与えられる筈がない。
あるいは先程俺がやったみたいに関節部分に命中させれば話は別だが……さすがにマーベルでも、それは無理だ。
ギャラルホルン側にしてみればいきなり自分達の後方から攻撃されたのだ。
動揺し、動きが乱れるのは自然な事だろう。
……というか、CGSはともかくシャドウミラーはMSを保有しているという情報はあった以上、ここまで動揺するような事はないと思うんだが。
あるいは一度安心だと考えてしまった以上、ここでMSを持ち出してくるというのは予想外だった……とかか?
そう思いながら、俺はシールドアックスを手にしてグレイズの1機との間合いを詰める。
向こうはゲイレールの動きに反応して行動しようとするが……
『遅いんだよ、ミカぁっ!』
喜色満面といった様子でオルガが叫ぶ声と同時に、地上が爆発する。
何だ?
オルガの反応から、取りあえず俺に悪い事ではないと判断するも、グレイズに対する攻撃を止めて一度距離を置く。
マーベルのユーゴーもまた、この状況に何らかの異変を感じたのだろう。
グレイズの中でも援護射撃を行っていた2機から距離を取る。
そうして距離を取りながら、地上を爆発させた相手を確認すると……
「ガンダム?」
そう、それは恐らく……多分……きっと、ガンダム。
これまでのガンダム系の世界でも、ガンダムという名前であればガンダムっぽいというのは何となく認識出来る感じだった。
寧ろガンダムっぽくないガンダムとなると、俺の乗っているガンダム・グシオンがその筆頭だろう。
増加装甲に増加装甲を重ねているその姿は、とてもではないがガンダムには見えないのだから。
ともあれ、地中から姿を現したそのガンダムは、地上に着地すると周囲の様子を見つつ、鉄塊……そう、それは巨大な鉄塊に持ち手の柄がついているといったような、そんな武器を大きく一振りする。
映像モニタ越しでも、その破壊力が想像出来るような、空気そのものを砕くかのようなブオンという音が周囲に響く。
ガンダム・グシオンを使っている俺が言うのもなんだけど、ガンダムが質量兵器を持つってのはちょっと違和感があるよな。
そんな風に思っていると……
「おい?」
オルガの先程の言葉から、このガンダムに乗っているのは間違いなく三日月だ。
だが、その三日月は巨大な金属の塊をこちらに向けてくる。
何だ? 俺と敵対するつもりか?
一瞬そう思ったが、考えてみれば当然か。
三日月はこのMSに俺が乗っているのは分からないのだから。
その上、ゲイレールはグレイズの1世代前のギャラルホルンの主力MSだ。
その外見も……まぁ、それなりに似通っている。
ユーゴーとグレイズ、ゲイレールとグレイズでは、間違いなく後者の方が同系列だと判断されるだろう。
そういう意味では、三日月が俺の乗っているゲイレールを敵だと思っても間違いないのだが……
「落ち着け、それに乗ってるのは三日月か? 俺はアクセルだ」
『……え? アクセル?』
俺の言葉が余程意外だったのか、三日月のガンダムは持っていた鉄塊の切っ先を下ろす。
そして何やらオルガと通信でやり取りをし……
次の瞬間、俺の近くにいたグレイズの1機が、バトルアックスを手に三日月の乗っているガンダムに襲い掛かる。
外部スピーカーでのやり取りだった事もあり、向こうにしてみれば三日月の隙を突いたつもりだったのだろう。
あるいは……もし三日月の乗っているMSが通常の操縦システムなら、その判断も間違ってはいない。
だが、三日月が乗っている以上、あのガンダムのコックピットは阿頼耶識対応型なのは間違いなく……
「やっぱり」
クレイズの振り下ろしたバトルアックスの一撃を回避しながら、三日月のガンダムは巨大な金属の塊を振るう。
その金属の塊は、あっさりとグレイズの胴体……コックピットのある場所を潰す。
物理攻撃に対しても耐性を持ち、高硬度レアアロイも相当な頑強さを持つが……金属の塊を、しかもガンダム・フレームによって叩き付けられれば、それを防ぐことなど到底出来ない。
何しろガンダム・フレームというのは他のフレームと違ってエイハブ・リアクターを2基設置可能なのだ。
当然そのエネルギーはエイハブ・リアクターが1基しかない普通のフレームを使ったMSよりも上になる。
もっとも、厄祭戦が終わってMAとの戦いがなくなった今となっては、エイハブ・リアクターを2基も使うのは無駄……それこそ蚊を退治するのにバズーカを使う……というのは少し大袈裟かもしれないが、ともかくそういう感じで、何よりガンダム・フレームはコストが高いという事もあって、今のグレイズとかはエイハブ・リアクターを1基だけしか使っていない。
実際、ギャラルホルンが相手をするのは、せいぜいが犯罪者とか海賊とかそういう連中だったのだろうし、それで十分にどうにかなったのは間違いないだろう。
だが……そこにこうしてガンダム・フレームのMSが現れ、金属の塊を2基のエイハブ・リアクターの力によって振るわれたのだ。
グレイズのコックピットのあった場所はあっさりと潰れ……パイロットが死んだのも間違いない。
もしこの状況でパイロットが生き残るとしたら、それこそ俺のような物理攻撃が無効といった能力が必要になる。
そしてこのオルフェンズ世界にそのような者がいる筈もなく……いや、もしかしたら俺が知らないだけで実はオルフェンズ世界にもそういう特殊能力を持った者がいるかもしれないが、それでもこのグレイズのパイロットがそういう能力を持っているという事は有り得ないだろう。
そんな訳で、コックピットを潰されたグレイズは地面に崩れ落ちる。
うーん……実はこれ、俺が倒したグレイズよりも被害は小さいんじゃないか?
コックピットが潰されたのは俺がシールドアックスで倒したグレイズも同様だったが、俺の場合はその前に右肘を破壊している。
そうしなければ参番組のMWが撃破されていたので、仕方がないのだが。
それでも三日月が倒したグレイズと比べて、俺の倒したグレイズの方が被害が大きかったのは事実。
ともあれ、残りのグレイズを倒してしまうか。
そう思ったのだが、そう思った俺が動くよりも先に三日月のガンダムが動き出す。
鉄塊を手にグレイズに襲い掛かるガンダム。
それを何とか防いで……そこに残っていた2機、後方から射撃で援護する為に残っていたうちの1機がバトルアックスを手に近付いてくる。
残っていた最後の1機は、マーベルのユーゴーと戦っていた。
となると、この援護をしにきたグレイズは俺が相手をするべきか。
そう思い、シールドアックスを手に、援軍に行こうとしたグレイズに迫るが……
「何?」
俺が追いつき、攻撃をしようとした瞬間、三日月のガンダムのスラスターが妙な挙動をするのが見えた。
どうするか。
一瞬迷ったが、援軍に向かうグレイズにシールドアックスを投擲し、そのまま三日月のガンダムの方に向かう。
俺の投擲したシールドアックスは、グレイズの背中……具体的にはコックピットのある場所の後ろを狙って放たれたのだが、偶然なのか、もしくは狙ってやったのかは不明だったものの、グレイズはスラスターを使って機体を動かす。
結果として、俺の投擲したシールドアックスはグレイズの左肩に突き刺さっただけに終わった。
左腕が半ば使いものにならなくなったグレイズは、ちょうどそのタイミングで右腕に持つバトルアックスを振るう。
決して好調ではないスラスターを全開にし、金属の塊で地面を掬い上げるような一撃を放ち、それによって生じた土煙を目眩まし代わりにして突っ込む三日月のガンダム。
それも正面からグレイズに突っ込むのではなく、地面すれすれの位置を移動しての一撃。
掬い上げるような軌道で放たれたその一撃は、本来ならグレイズの股間部分から胴体を破壊し、それによってコックピットも破壊されていただろう。
だが……掬い上げるような金属の塊の一撃に対し、俺の攻撃を受けて左腕が使えなくなったグレイズが、右手で持ったバトルアックスで僅かに軌道を逸らす。
結果として、その一撃は狙われたグレイズに致命傷を与えるということは出来なかったが、頭部を吹き飛ばすといった成果を上げる事になる。
そして2機のグレイズは即座に撤退していく。
「逃がすと思うか? ……いや、止めておいた方がいいか」
一瞬追撃しようとしたのだが、すぐにそれを止める。
追撃を行わなかった理由は、幾つかある。
マーベルのユーゴーが円月刀によってグレイズのコックピットを潰していた事。
倒したグレイズはこちらで確保しておく必要がある。
そして何より、三日月のガンダムが動きにくくなっていた事だ。
もしこの状況で俺達が追撃に移り……その隙を突くかのようにギャラルホルンが攻めてくるという可能性も、ない訳ではなかった。
何しろMSがない……いや、三日月のガンダムを考えると、ない事になっていたという表現の方が正しいのか?
とにかくそんなCGSに、ここまで大量のMSで襲撃してきたのだ。
そうなると、もしかしたら……そんな風に思うのは、そうおかしくはない筈だった。