「アクセルさん……ありがとうございます!」
コックピットから降りると、オルガがそう感謝の言葉を口にし、頭を下げてくる。
「気にするな。……それにしても、まさかCGSにMSが……それも、ガンダム・フレームのMSがあったとはな。驚きだ」
「まぁ、CGSの動力炉としてエイハブ・リアクターが使われていただけなんですけどね。……それより、ほら。お前も」
「その……命を助けてくれて、ありがとうございました!」
オルガの隣にいた子供が、俺に向かって深々と頭を下げてくる。
うん? 一体なんだ?
「オルガ、こいつは?」
「こいつはダンジ・エイレイといいます。こいつのMWがMSにやられそうになった時に、アクセルさんが来てくれたので」
そう言われ、思い出す。
俺がここに来た時、グレイズによって攻撃されそうなMWがいたな。
MSの右腕の関節を射撃し、それで助けた相手だろう。
「ああ、あの時の。……怪我は?」
「少し身体を打っただけです」
「そうか」
見た感じ、このダンジという子供は明らかに若い。……いや、幼い。
10歳とかその辺くらいか?
オルガの様子を見る限り、このくらいの年齢の子供を望んで戦場に出したという訳ではないらしい。
それが仕方がないという事でもあったのだろう。
何しろ、この連中はこのCGSにしか居場所はない。
もしこのCGSがギャラルホルンによって攻撃されれば、それこそ最悪の出来事になっていた可能性もあるのだ。
だからこそ、出せる戦力は出す必要があったらしい。
それこそ、子供でも戦力として使えるのなら出すくらいには。
そして子供であっても、阿頼耶識の手術を受けた者ならMWを自由に動かせるので戦力になる訳だ。
「それで、その……アクセルさん達はこれからどうしますか?」
ダンジの様子を見ていた俺に、オルガがそう声を掛けてくる。
「どうと言われてもな。……そもそも、何がどうなって……いや、それよりも前にこれは話しておく必要があったな。ギャラルホルンが狙っていたクーデリアと、その秘書のフミタンは無事だ。現在シャドウミラーにいる」
実際にはギャラルホルンが狙っているのは、クーデリアだけであって、フミタンは特に狙ってはいないだろう。
とはいえ、フミタンの性格を考えるとクーデリアから離れない以上、一蓮托生だろう。
そんな訳で、クーデリアとフミタンは一緒に扱う必要があるのは間違いなかった。
「シャドウミラーに? ……一体、いつ?」
「企業秘密だな」
「……MSについてもそうでしたよね?」
「そうだな。MSについても企業秘密だ。悪いが、これはシャドウミラーにとって重要な事なんでな」
そう言うが、当初の予定では参番組は俺達と一緒にクーデリアの護衛として地球に行く予定だった筈だ。
そうなると俺達と一緒に行動する事も増える訳で……いっそ、魔法について教えてもいいのかもしれないな。
とはいえ……ああ、そうだ。これも聞いておかないとな。
「ちなみにだが、何で今回の戦闘は参番組だけだったんだ? 壱番組と弐番組はどうした?」
多分だが、参番組を捨て駒にして逃げ出したと思う。
ただ、これはあくまでも俺の予想であったり、状況証拠でしかない。
だからこそ、オルガに聞いたのだが……
「俺達を置いて逃げ出しました。……ただ、アクセルさん達のお陰でギャラルホルンを撃退したので、もしかしたら戻ってくるかもしれませんね」
そこまで厚かましい事が出来るか?
一瞬そう思ったが、ハエダ達にしてみれば参番組というのは使い捨てに出来る消耗品でしかない。
それこそブルワーズにいた昌弘達と同じような扱いだろう。
……もっとも、それでも昌弘達よりも扱いは良かったみたいだが。
それでも捨て駒にされたのは間違いない。
オルガ達にも色々と思うところはあるだろう。
「もし戻ってきたら、どうするんだ?」
「それは……分かりません」
片目を瞑ったままで、そう言うオルガ。
言葉ではこう言ってるが、何かを考えているのは間違いない。
「何をするつもりかは分からないが、最悪参番組はシャドウミラーで引き受けてやる。マルバも今回の件を交渉材料にされれば、そう強気に出る事は出来ないだろうし」
「……覚えておきます。取りあえずマルバ達が戻ってきたら面倒なことになると思うので、アクセルさん達はシャドウミラーに戻った方がいいかと」
「そうだな。……俺達が倒したグレイズは貰っていくが、構わないよな?」
「それは構いません。アクセルさん達の手で倒した相手なのですから」
そう言うオルガの言葉に俺は頷く。
もしこれがハエダやマルバであれば、俺達が倒した敵でも、CGSを相手に攻撃してきたのだから、その所有権は自分にあるとか言ってもおかしくはないだろう。
もっとも、その言葉をこっちが素直に受け入れるかどうかはまた別の話だが。
「分かった。それで……このままって訳にはいかないだろうから、色々と相談をする必要があるだろう。クーデリアの護衛をどうするのかといった件もあるし」
他にも、壱番組や弐番組との決定的なまでの確執をどうするのかといった問題もある。
俺の予想が正しければ、オルガは壱番組や弐番組、そしてマルバを囮にした。
そして実際、その囮に引っ掛かってギャラルホルンのMWは結構な数がそっちに向かったのだ。
当然、死人とかも出ていてもおかしくはない。
そんな連中が、オルガの話をまともに聞くとは思えなかった。
だが、そこに俺がいればどうか。
以前行った、生身での模擬戦について思い出してもおかしくはない。
そうなれば、オルガ達を幾ら憎んでいても、迂闊に対処など出来る筈もなかった。
「いえ。今回の件は俺達のやった事です。なら、俺達がその責任を取るのが筋ってもんでしょう」
「そうか」
ハエダやマルバに対して、筋とか道理とか、そういうのを考えても意味はないと思うんだが。
向こうにしてみれば、自分達がオルガ達を見捨てて逃げたというのも、特に気にしてはいないだろうし。
だからこそ、自分達が見捨てたオルガ達に、囮にされたということで不満を抱き、それを力で解決しようとしてもおかしくはなかった。
もっとも、こうしてオルガが断ってきた以上は、無理強い出来るような事でもないのだが。
「分かった。なら……取りあえず、明日また来る。その時は、こっちも相応に戦力を持ってくるから安心しろ」
「戦力って……また、ギャラルホルンが来ると?」
「あくまでも可能性だけどな」
今回の戦いで、ギャラルホルンがかなりの被害を受けたのは事実だ。
MWは勿論、MSもそれなりに撃破されてしまったし。
そうである以上、これ以上の戦力の喪失を嫌がる可能性がある。
だが、単純に可能性だけで考えた場合、今回負けた事で面子を潰されたと判断して再び攻めてくる可能性がある。
もしくは、クーデリアをこのまま放っておくと独立運動が更に活発になるから、多少の犠牲は払ってでもクーデリアを捕らえるなり、殺すなりする必要があると攻めてくる可能性もある。
他にも可能性というだけなら幾つか考えられるが……何より、俺が恐らくはまた攻めてくるだろうと半ば確信しているのは、やはりこのオルフェンズ世界の原作が始まったという思いからだろう。
クーデリアの護衛として地球まで行くという依頼を受けたところで、いきなりギャラルホルンの襲撃。
この流れから、恐らく原作が始まったと考えて間違いないと思う。
……ただ、その中で少しだけ俺の予想外だった事は、この世界の原作の主人公はオルガだろうと思っていたが、実は三日月だったという事か。
まぁ、三日月も主人公候補の1人だったのは間違いないし、そういう意味ではそこまでおかしくはない……と思っておこう。
「分かりました。じゃあ……あのMSの修復も何とかしないといけませんね」
オルガが動きの止まったガンダムに視線を向ける。
そこでは、ガンダムが動きを止めていた。
もう動けないのか、それともまだ動けるけど動かない方がいいと判断したのか。
その辺は俺にも分からないが、とにかくグレイズとの戦いの中でスラスターの挙動がおかしかったのは事実。
参番組にしてみれば、唯一のMSだ。
それだけに、何とか直したいと思うのは俺にも理解出来る。
だが……問題なのは、それを直せるのかという事だろう。
今までMWしか使ってなかった以上、MSの修理のノウハウがあるとは思えない。
そうなると、あのガンダムの修理をするのは難しいと思うのだが……オルガの様子を見る限りだと、特に問題がないように思えた。
恐らく、何とかなる目処が立っているのだろう。
「頑張ってくれ。……何なら、シャドウミラーのメカニックを何人か出向させようか? それなら、あのガンダムの修理も出来るかもしれないけど」
「ありがたい話です。本来ならお願いしたいところですが……そうなると、シャドウミラーのメカニックに迷惑を掛けてしまうことになるかもしれません」
迷惑? と一瞬疑問に思ったが、何の事なのかはすぐに分かった。
壱番組や弐番組、マルバといった連中が戻ってくれば、間違いなくオルガ達は殴られる。
いや、最悪の場合殺されてもおかしくはない。
実際に、あの連中は参番組だけにギャラルホルンの相手を任せ、逃げ出したのだから。
……それも、俺はともかく、本来なら護衛対象のクーデリアや、そのメイドのフミタンすらも見捨てて。
普通に考えれば、そんな状況で更にここに戻ってくるという事は考えられない。
考えればないのだが、それでもあの連中なら恥知らずにも戻ってくる可能性がある。
とはいえ、ギャラルホルンが今回の一件で諦めたとは思えない以上、そのギャラルホルンのMW隊と互角にやり合った参番組は、マルバ達にとっても重要な戦力な筈だ。
……いや、駄目か。向こうにしてみれば、オルガ達は自分達の所有する道具といった認識だろうし。
その道具が自分達を嵌めたのだ。
この後について考えるような余裕があるかどうかは……正直微妙なところだろう。
「分かった。……気を付けろよ」
「ありがとうございます」
頭を下げるオルガをその場に残し、俺はマーベルと共に撃破したグレイズを確保して、シャドウミラーに戻るのだった。
「うおっ、これは……グレイズですか!? それもこんなに……」
シャドウミラーの格納庫に戻ると、俺とマーベルが持ってきたグレイズ……正確にはグレイズの残骸を見て、メカニックが驚きの声を上げる。
無理もないか。
残骸とはいえ、実質的に潰されているのはコックピットだけ。……いやまぁ、俺が右腕を破壊した機体とかもあるけど。
とにかく、コックピットが潰されているので、そのままでは使えないが、それはつまりコックピットを換装すれば使えるという事になる。
特に阿頼耶識のコックピットをどうにかして入手出来れば、戦力的には一気に充実するだろう。
もっとも、その阿頼耶識のコックピットをどこから持ってくるのかというのが問題なのだが。
いっそ、MWのコックピットを……とも思うが、どうだろうな。
「コックピットの中には死体があるから、それは片付けておいてくれ」
「片付けるって、どうすればいいんです?」
これが宇宙なら、死体を放り出すといった事も出来るが、ここは地上だ。
そういう事は出来ない。
「MWで穴を掘って埋めておけ」
いっそ燃やしてもいいのかもしれないが、ギャラルホルンではどういう風に埋葬をするのか分からないしな。
ここで下手に燃やしたりしたら、後で問題になる可能性もあった。
あるいはいっそ、空間倉庫に収納しておくか?
そうも思ったが、あまり良い気分はしない。
バイストン・ウェルにいた時は、恐獣の死体を大量に詰め込んでいたりしたんだが。
やっぱり人の形をしてるかどうかというのは重要なのだろう。
なので、取りあえず埋めておく。
もし後でギャラルホルンと和解するなりなんなりした時は、その死体を返せばいいだろう。
ギャラルホルンとの和解の可能性があるかどうかは、正直なところ微妙だが。
今となっては、真っ向から対立状態になったしな。
俺にしてみれば、ギャラルホルンと戦うのはどうという事はない。
何しろ色々な世界で、その世界の最大勢力といった相手と戦う事も珍しくなかったのだから。
だが、それはあくまでも俺だからだ。
この世界しか知らない者達にしてみれば、ギャラルホルンと戦うというのは自殺行為でしかないだろう。
とはいえ、シーラやクーデリア、フミタンからCGSの襲撃について話を聞いているにしては、そこまで衝撃を受けている様子はない。
これは俺の力を信じているからか。
……まぁ、魔法という力を実際に見て知っているだけに、そういう風に考えてもおかしくはないが。
そんな風に考えていると、クーデリアがフミタンを引き連れてやって来るのが見える。
あの2人にも、事情を説明しないとな。
そんな風に思いつつ、取りあえずメカニックにゲイレールの整備も頼むのだった。