「3ヶ月……か。また、予想以上に切羽詰まってるな。そもそも首にした壱番組や弐番組の連中に、退職金を渡す必要があったのか?」
MWの整備に使う費用であったり、施設維持費、参番組に支払う給料……まぁ、これはいい。
だが、支出で結構な割合を占めている、壱番組や弐番組に対する退職金。
これは本当に必要だったのか? と思ってしまう。
「アクセルさんの言いたい事は分かります。ですが、ここできちんとケジメをつけないと、後で面倒が起きる可能性がありますから」
「……ケジメをつけても、面倒が起きる可能性はあると思うけどな」
具体的には、俺の経験からだ。
ブルワーズを乗っ取った時、俺の方針に同意出来ない連中は追い払った。
オルガのように退職金とかは支払わなかったが、仮にも警備会社として表の存在だった壱番組や弐番組と比べて、ブルワーズは海賊で犯罪者だったからな。
口封じをしないで追放という手段は、自分でも随分と甘いと思う。
そして実際、甘かった。
追放された者達のうち、どれくらいの人数かは分からないが、夜明けの地平線団に逃げ込んだのだ。
いや、それだけならまだ納得出来ないでもない。
結局海賊としてしか活動出来ないのだろうと、そう思うのだから。
だが……ブルワーズに残った俺達の情報を夜明けの地平線団に売って、こっちを食い物にしようとしたのは許せない。
不幸中の幸いと言うべきか、夜明けの地平線団の中でも限られた者達……手柄を独り占めにしようとしている者達だけに教えたので、夜明けの地平線団の上層部には俺達の情報は届かなかったようだが。
それでも、俺達を売ったのは間違いない。
その時の事を思えば、やっぱり全員始末した方が……いや、今更か。
それに今はブルワーズを追放された者達じゃなくて、CGSの資金繰りについてだったな。
「まぁ、ケジメについてはオルガが……そして参番組が納得してるのなら、それでいい。事務員の方も、CGSを乗っ取ったって事で、暫くは仕事が少なくなる可能性もあるから、そこまで急に必要ではないだろう。そうなると金か。……具体的にどのくらい必要だ?」
「ちょっと待って下さい。今、事務を任せてる奴を連れてくるので」
そう言い、オルガは部屋を出ていく。
「お金の問題ですか」
部屋の中に俺とクーデリア、フミタンの3人になったところで、クーデリアがしみじみと呟く。
クーデリアにしてみれば、金の問題というのは今までそこまで気にした事はなかったのかもしれないな。
元々育ちがお嬢様のクーデリアだけに、裕福な生活をしてきたのだ。
金に困るという事は、殆どなかったのだろう。
もっとも、今は実はそうでもないらしいが。
父親にしてみれば、自分の娘が革命の乙女として活動しているのは許容出来る事ではない。
当然ながら、クーデリアに資金的なバックアップとかはしていないだろう。
「どうするのですか? ……もしどうしてもと言うのなら、こちらで何とかしますが」
クーデリアの何とかするというのは、恐らくノブリスに対する資金援助だろう。
ノブリスにしてみれば、クーデリアの援助をするのに金を惜しまない筈だ。
何しろクーデリアが活発に動き回れば、その分だけ戦いが起こる。
それは武器商人のノブリスにしてみれば、歓迎すべき事だろう。
戦いが起きれば武器が売れ、その結果としてノブリスに入ってくる金はクーデリアに援助した以上の金になるのだろうから。
もっとも、それを言うのなら俺も……シャドウミラーもクーデリアの事は言えないのだが。
俺達は露骨に援助をして貰ってる訳ではなく、テイワズとの仲介人になったり、MWの購入に便宜を図って貰ったりしている。
代価を支払っているという意味ではクーデリアよりはノブリスにおんぶに抱っこという訳ではないが……大きな目で見れば、そう変わらないか。
とにかく単純に金というだけなら、空間倉庫に入っている金塊やら宝石やらを渡せば、それでどうにかなるとは思う。
ただ、オルガの性格を考えると、ただ渡すと言っても素直に受け取るとは思えないんだよな。
つまり、ただ渡すのではなく何らかの対価として渡せばいい訳か。
もっと具体的には……そうだな、例えばギャラルホルンから奪ってきた物を売る手助けをして貰うとか?
具体的には、MSのグレイズを売るとか。
グレイズは現在このオルフェンズ世界における最新鋭MSだ。
純粋な性能ではガンダム・フレームのガンダムには及ばないものの、それはガンダムが特別なだけだ。
整備性とかコスト的な問題とか、そういうので考えればグレイズは最高のMSだろう。
そしてもしそんなグレイズを売るとなれば、それを欲しがる者は幾らでもいる。
もっとも、エイハブ・リアクターからそのグレイズがどこにあった物なのか……あの基地から盗まれた物だというのは、容易に判明してしまうのだが。
だからこそ、それを売る相手は選ばないといけないし、そういうのをオルガ達にやって貰えば、こっちは楽だ。
MSじゃなくてMWという手段もあるが、そのMWはどうせならシャドウミラーのMWを最新型にしたいし、あるいはCGSのMWもより性能の高いMWにしたい。
そう考えると、MWは売らない方がいいのか?
ただ、そうなると阿頼耶識のコックピットをどこから入手するのかという問題もある。
結局のところ、シャドウミラーの子供組にしろ、CGSの参番組にしろ、阿頼耶識を使ってMSやMWを操縦するのだ。
だからこそ、どうにかして阿頼耶識のコックピットを入手する必要があるんだが……それがまた難しい。
あるいはいっそマン・ロディのコックピットを移植するか。
ただ、そうなるとマン・ロディが普通のコックピットのMSになる訳で……あ、でも防御力が高いという意味では、阿頼耶識のない大人組にとっても使いやすいMSだったりするのか?
そんな風に思うが、結局今の状況では何を考えても取らぬ狸の皮算用ってところだろう。
「どうにかして金が必要か」
「そうなりますね。……参番組には小さい子供達もいます。出来れば、あのような子供達を酷い目には遭わせたくありません」
クーデリアにしてみれば、そのように思うのは当然だろう。
とはいえ、だからといってすぐにどうこう出来る訳ではなく……
そんな風に考えていると、オルガの気配を感じる。
1人ではなく、他の者の気配もあるが……恐らく事務員だろう。
「すいません、待たせてしまって。こっちはうちで事務員をやって貰う事になった……」
「デクスター・キュラスターと言います」
オルガの言葉を続けるように自己紹介し、頭を下げる。
初めて見る顔……いや、以前にCGSに来た時に会ったか?
良くも悪くも……じゃないな。悪くも悪くも目立つハエダとかがいたので、こいつが初めて見る顔かどうかはちょっと分からないな。
とはいえ、オルガが事務員をやって貰うと言ってる以上、恐らくCGSから残った奴なのは間違いないんだろうが。
「それで、デクスター。CGSがこのままやって行くには金が足りないって事だったが?」
「はい。……どんなに頑張っても、3ヶ月……いえ、4ヶ月くらいはどうにかなりますが、それで終わりですね」
「半年保たないか」
半年くらいならどうにかなると思っていたんだが、これはちょっと予想外だったな。
もっとも、特に何かこれといった理由があってそう思っていたのではなく、何となくそうなるだろうなという風に思っていただけなのだが。
「ええ。元々資金繰りはそこまで良かった訳ではないので」
「だろうな」
マルバの様子を見れば、商売とかが上手いようには思えない。
とはいえ、それでも何年もCGSという警備会社を運営してきたのだから、実際にはそれなりに商売のセンスはあったのかもしれないが。
ただ、その運営についても参番組を酷使しての結果だと考えれば、商売上手とは言えないが。
「金か。正直なところ、金を用意するのはそう難しい話じゃない。ただ……例えば金塊とかそういうのをやったとして、金に換える事が出来るか?」
「それは……難しいでしょうね」
デクスターが俺の言葉にそう返す。
「だろうな。俺もそう思う。マルバ達を首にしたのなら、乗っ取ったって情報は既に広がっている筈だ。そうなると、もし金塊や宝石を買うにしても、足下を見てくる筈だ」
最悪、ただ同然で金塊を引き取るとか、そういう事になってもおかしくはない。
「いや、そもそも……アクセルさんからそういう金塊とかを貰う訳にはいきませんよ。俺達もそうですが、アクセルさん達だって大変でしょうし」
オルガのその言葉は、普通に考えれば当たっている。
何しろ俺達は、まだシャドウミラーというPMCを作ったばかりだ。
そしてMWの大会でも優勝し、ノアキスの7月会議でもクーデリアの護衛をしたという事で、名前がそれなりに広がっている。
まさに、今から活躍する……といったところなのだ。
実際には昨日の件でギャラルホルンと敵対したので、俺達もそれなりに危ないのだが。
ただ、昨日の襲撃はあくまでもCGSだった。
そういう風に考えれば、俺達はそこまで悪い噂が広まっていない……のか?
いやまぁ、結局CGSの襲撃をしているギャラルホルンを後ろから襲ったり、その日のうちにギャラルホルンのMSやMWが大量に奪われたりした件を考えると……いや、でも前者はともかく、後者はギャラルホルンの恥だし、そう簡単に話を広げる訳にもいかないのか?
「ちょっと話を変えるか。いつまでも1つの事を話していても、それはそれで問題があるし。……そう言えば、三日月のガンダムはどうなった? ギャラルホルンとの戦いの最後では、スラスターに問題があったようだけど」
「ああ……それは、その……」
俺の言葉に、何故か言いにくそうにするオルガ。
何だ? もしかしてガンダムが使い物にならないくらいに被害が大きかったのか?
あの戦いでガンダムに乗っていた事から、俺は三日月をこの世界の主人公であると認識した。
だが、実はそれは間違いだったとか……そういう事はないよな?
「どうした? 何か問題があったのか?」
「あー……いえ。そういう事はないです。その、コックピットの換装やら、取りあえず動かせるようにするようにおやっさん達がやってくれたんですが、それで忙しすぎてガスを入れるのを忘れたらしくて」
「ガス……推進剤か?」
「ええ、まぁ。お恥ずかしい」
そう言い、頬を掻くオルガ。
エイハブ・リアクターそのものは半永久機関だが、テスラ・ドライブのように推進剤がなくてもMSを動かし続けられるという訳ではない。
MSの……いや、待て。
「そう言えば聞いてなかったが、結局あのガンダムは何なんだ? どこから出て来た? ギャラルホルンが最初に攻めてきた時、すぐに出さなかったというのを考えると、CGSの奥の手って訳でもないようだが」
「あのガンダム……バルバトスって機体名らしいですが、あの機体はマルバがここで見つけたらしいです」
「……は? ここでか?」
ガンダム・フレームというのは、少数しか作られていない。
それでいながら、エイハブ・リアクターを2基搭載出来るという事もあり、その性能はかなり高い。
それこそ売れば一体どのくらいの値段になるのか分からないくらいに高価なのは間違いない。
「ええ。それで今までは、エイハブ・リアクターを動力源として使っていたんですが……」
「戦力として使う事になった、と」
「はい。もっとも、コックピットを始めとして、色々な場所を使えるようにする必要があったので、おやっさんもガスを入れるのを忘れたんだと……」
「待て」
オルガの言葉を途中で止める。
あまりに予想外だった事もあり、自分でも気が付かないうちに強めの言葉となってしまったが……今はそれどころではない。
「バルバトスを使えるようにしたと言ったけど、その中にはコックピットもあったのか?」
「え? ええ。CGSの地下にあった時は、コックピットもなかったですから。聞いた話によると、マルバが最初に見つけた時からコックピットはなかったらしいですね」
「阿頼耶識用のMSのコックピットはどこから入手した?」
「え? いや。コックピットはMWの奴をそのまま流用したって聞いてますが」
「……何?」
それは、俺にとってもかなり予想外の言葉だった。
当然だろう。
MSを操縦するのに、MWのコックピットを使うというのは、俺にとっても予想外の……それこそ、コロンブスの卵といった感じの内容だったのだから。
「それは誰でも出来るのか?」
「え? うーん、おやっさんに聞いてみないと分かりませんが、多分難しいでしょうね。これは一種の裏技に近いですし、それが出来るようになったのは……自慢じゃないですが、参番組が色々と酷い扱いだったからでしょうし」
「なるほど。……なら、俺からCGSに依頼がある。阿頼耶識対応のMWのコックピットを売って欲しい。そしてそれをMSに組み込んで欲しい」
そんな俺の言葉に、オルガは……いや、オルガ以外にデクスターやクーデリア、フミタンまでもが驚きの表情を浮かべるのだった。