グレイズのコックピットを阿頼耶識対応型の物に換装して貰おうと思っていたところで、不意に聞こえてきた警報音。
一体何があったのかと疑問に思ったが、すぐにCGS全体に通信が流れる。
『監視班から報告。ギャラルホルンのMSが1機……えーっと……あー……赤い布を持ってこっちに向かってる』
その通信に疑問を抱く。
例えばこれが、10機以上のMSであったり、もっと大量のMWであったりが同時に来たのなら、再度の襲撃という事が明らかだ。
ギャラルホルンにしてみれば、自分達の役割や、何よりプライドからCGSに撃退されたというのを許容出来ないのは俺にも理解出来た。
だが……やって来るMSは1機。
一体どういう事だ?
「交渉の相手か?」
「いや、違う。俺が聞いた話じゃ、ギャラルホルンのMSが赤い布を持ってくるというのは決闘の合図だ」
「……決闘?」
雪之丞の言葉に、若干の呆れを抱く。
いやまぁ、MSを使っての決闘というのは、ガンダム世界であると考えれば……そして何より、このオルフェンズ世界について考えれば、そういうことがあってもおかしくはないと思う。
思うが、それでもまさかこうして本当に決闘をしようとするとは……というか、昨夜はあれだけの数で襲ってきておいて、それで今度は決闘?
「取りあえず、向こうの話を聞くか」
「そうだな。オルガ達も外に出るだろうし」
雪之丞が俺の言葉に頷き、そして俺と雪之丞は……それ以外にも、格納庫にいた子供達の中で決闘という言葉に興味を持った者達が外に出る。
するとそこには、雪之丞が言ったようにオルガやクーデリア、フミタン……それ以外にも三日月や昭弘、シノ、それにユージンだったか? そういう連中がいる。
ん?
そこでオルガに向かって何かを言っている大人の男に気が付く。
てっきりCGSに残った男はデクスターと雪之丞の2人だけかと思ったんだが……確か、あの男は見覚えがあるな。
ハエダの腰巾着みたいな感じで一緒に行動していた奴のような気がする。
てっきりハエダ達と同じくCGSを辞めたのかと思っていたが、これはちょっと予想外だったな。
その男は、俺の姿を見ると顔を引き攣らせ、オルガとの話を切り上げて、そのまま走り去る。
……何だ?
そんな疑問を抱くが、取りあえず今はそれよりも決闘を申し込んできたMSだ。
「オルガ、何か動きは?」
「アクセルさん……いえ、特に何も。あそこで待機しているだけです」
オルガの言葉に敵のいる場所を見る。
するとそこには、左肘の辺りから赤い布をぶら下げたグレイズの姿があった。
なるほど、通信で言っていた通りだな。
「向こうがどんなつもりでこういう事をしてきたのか分かるか?」
「いえ。そもそもギャラルホルンの戦力を考えれば、それこそまた大量に戦力を集めて一気に攻撃してくるとかしてもいいと思うんですが……アクセルさんは何か思いつきませんか?」
そうオルガが言ってくるが……まさか、ガンダム系の世界の中には時々こういう奴がいるとか、そういう風に言う訳にはいかないしな。
「考えられる可能性があるとすれば、決闘を挑んできた奴が何か思うところがあっての行動かもしれないな。……ん? コックピットから出て来たぞ」
オルガと話していると、グレイズのコックピットが開いて男が1人姿を現す。
年齢的には初老……と呼ぶにはまだちょっと若いか?
それでもとてもではないが若いとは言えないような、そんな外見の男だ。
「あれがギャラルホルンのパイロットか」
そう呟いたのは、一体誰だったのか。
ちょっと分からないが、とにかく誰かがそう呟いたのが聞こえてきた。
とはいえ、一体何をしに出て来たんだ?
『私は、ギャラルホルン実働部隊所属、クランク・ゼント。そちらの代表との1対1の勝負を望む』
男……クランクと名乗った男は、グレイズの外部スピーカーでそう告げてくる。
どうやら雪之丞が言っていたように、本気で決闘を挑むつもりらしい。
こっちにMSが複数あるのは、向こうも理解している筈だ。
場合によっては、それこそ昨夜向こうがやったみたいに複数のMSで集中攻撃するといった事にもなりかねない。
それは当然ながら、向こうも理解している筈だ。
なのに、こうも堂々と決闘を挑んでくるというのは……さて、何を考えてるんだろうな。
「決闘って……マジか」
「厄祭戦の前は、何か問題が起きたら大概は決闘で白黒をつけていたらしいな」
ユージンの言葉に雪之丞がそう言う。
……なるほど。てっきり騎士かぶれだとかそういうのかと思っていたんだが、どうやら普通に決闘をやる文化があったらしいな。
もっとも、厄祭戦前というのを考えると……今この時代に決闘をするという時点でどうかと思わないでもないが。
『私が勝利したのなら、そちらが鹵獲したグレイズとクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡して貰う!』
へぇ。
この言葉だけで、色々と情報がある。
例えば、このクランクと名乗った男は俺が昨夜ギャラルホルンの基地からMSやMW、それ以外にも各種物資を盗んだというのを、知らない。
これはあの基地の司令官が上……火星のギャラルホルンの本拠地、アーレスに報告していない事。
鹵獲されたグレイズを返せというのなら、そちらについても言及するのが当然だろう。
実際にはクランクの上官が、ただその件について知らせていないだけという可能性もあるが。
そして、クーデリアがCGSにいるという事。
これについては……どうなんだ?
昨日ここを襲撃した時にいたから、今日もここにいると思ったのか。
もしくは、どこからかの情報によってここにいると判断したのか。
それは分からないが……まさか、昨日の今日だから、ここにいたままだと思ったなんて事はないよな?
「ほら見ろ、やっぱりだ!」
不意に聞こえてきた声に視線を向けると、そこにはデクスターや雪之丞と一緒に残った、小物臭のする男がオルガに向かって叫んでいた。
「あっちはお嬢さんが目当てなんだ! なら、お嬢さんをやれば俺達は助かるって! ギャラルホルンを敵に回すってのがどういう事か、分からない訳じゃないだろ!? なら、さっさとお嬢さんを差し出して……」
「おい」
「ひぃっ!」
俺の声を聞いた瞬間、小物臭のする男はそのまま俺から見えない場所に逃げ出す。
何でここまで俺を怖がる?
『勝負がつき、グレイズとクーデリアの身柄をこちらに引き渡せば、そこから先は全て私が引き受ける。ギャラルホルンと貴様等との因縁は、この場で断ち切ると約束しよう』
へぇ……なるほど。そういう風に言ってくる訳か。
つまり、自分が勝ったらグレイズとクーデリアを寄越せと言っている訳だ。
なら……負けたら?
クランクは自分が負けた時の事を何も言っていない。
それは自分が負けるような事はないと確信しているのか、それとも単純にそこまで考えが及んでいないのか。
そもそもの話、因縁を断ち切ると言っているが、クランクにそこまでの権力があるのか?
まぁ、向こうの言葉を聞く限り、ある意味独善ではあるが、それでも俺達の事を思っての話……のつもりなのだろう。
「オルガ」
「……何です?」
「悪いが、あの男の決闘の相手……俺が受けてもいいか? 向こうはCGSにクーデリアがいると思っているが、正確にはクーデリアを受け入れているのは俺達シャドウミラーだ。なら、この決闘は俺が出るのが筋ってものだろう?」
「いえ、ですが……決闘ですよ? MSは……」
「あるだろう? 俺が昨日乗っていたゲイレールじゃなくて、それよりも最新鋭MSで、しかも向こうが欲しているグレイズが。幸い、まだ阿頼耶識のコックピットには換装していないしな」
その言葉に、オルガは意表を突かれた様子を見せる。
まさかここでグレイズが出てくるとは思っていなかったのだろう。
……いやまぁ、実際に俺もそういう意味でグレイズを使うとは思っていなかったけど。
ただ、丁度いいタイミングなのは事実。
「あの男がCGSに攻めてきたという事で、お前達で何とかしたいと思うかもしれない。だが、さっきも言ったようにクーデリアの護衛をしているのは俺だ。そしてクーデリアの地球に行く件で話を持ってきたのも俺だ。……そんな訳で、この決闘については俺に任せてくれないか?」
「それは……」
オルガは俺に迷った様子を見せる。
そして何故か三日月を見る。
その三日月は、クランクの言葉が面白くなかった様子だったが、何かを言うような事はない。
ただ、オルガの視線を受けてじっと視線を返すだけだ。
「分かりました。……お願いします」
目と目で会話したのか、やがてオルガが俺に向かってそう言ってくる。
少しだけ悔しそうな様子を見せているのは、出来ればオルガとしては自分でこの状況をどうにかしたかったからだろう。
まぁ、その気持ちは分からないでもない。
今までは散々ハエダ達に殴られ、好き勝手にされてきたのを、ようやく自分達の身の安全を確保したのだ。
それなのに、いきなりギャラルホルンに攻められたのだから、それに思うところがないという訳にはいかないだろう。
それこそ、もし俺がいなければ……つまり原作通りの流れなら、恐らくは三日月がバルバトスに乗って決闘を受けたのだろうとは思う。
だが、ここには俺がいる。
それに……あのクランクというのは、ギャラルホルンについて色々と詳しい事情を知っているだろうし、性格的には多少独善的な面はあるが、善良な人物であるのは間違いない。
なら、これからこの世界で活動する上で、そしてギャラルホルンの本拠地たる地球に向かう上で、情報源として役に立つのは間違いない。
とはいえ、しっかりと話した訳ではないだろうが、あの性格から頑固なのは容易に予想出来る。
そうである以上、素直に仲間になれと言っても仲間にはならないだろう。
それこそ決闘で負けたからといって仲間になれと言っても、恐らくは断る筈だ。
そして……自分の命で償うとか言って、自殺してもおかしくはない。
だからこそ、クランクは使い物になる人物でもあるのは間違いない。
異世界からやって来た俺達だったり、元ブルワーズの連中だったり、お嬢様育ちのクーデリアや、そのメイドのフミタンだったり、スラム街出身の少年兵やヒューマンデブリの参番組だったり……ある意味、この世界の常識を持っている者というのは、俺達の中では驚く程に少ない。
雪之丞とデクスターくらいか?
……まぁ、それを言うのならクランクだってギャラルホルン所属で、この世界の平均的な生活を知ってるとは思えない。
厄祭戦以前に行われていた決闘を、こうして堂々と挑んでくるのがその証拠だろう。
それに……ギャラルホルンで働いているという事は、恐らくだが書類仕事とかも出来る筈だ。
シャドウミラー的には、事務員はまだまだ少ない。
……事務員の数という事だと、今のところデクスター1人しかいないCGSも足りないが、それでもクランクという男を譲る気はなかった。
しかもクランクはギャラルホルンに所属していた以上、兵士の訓練とかにも詳しい筈だ。
一応俺が士官学校に通っていた時の経験や、これまでの多くの戦場からの経験で鍛えているが、この世界にはこの世界らしい鍛え方とか、そういうのもあるかもしれない。
また、こうして決闘を挑んでくる以上、MSの操縦技術にも自信があるのだろう。
そんな諸々を考えると……決闘というのは突拍子もない展開ではあったが、クランクはオルフェンズ世界で活動する上で、非常に大きな意味を持つのは間違いない。
「じゃあ、行ってくる。あのクランクって奴には、これから出るというのを知らせておいてくれ。こっちから出て来ないのを我慢出来ず、ここに突っ込んでこられたら困るからな」
「分かりました。じゃあ、アクセルさんはMSの用意をお願いします」
頭を下げるオルガに頷くと、格納庫に向かおうとし……
「アクセル!」
そんな俺の足を止めたのは、クーデリアの声だった。
「どうした?」
「……戦うのですか? 向こうが決闘を挑んできたという事は、あのクランクという人は自分の実力に自信を持っているのは間違いないでしょう」
心配そうな様子で俺に言うクーデリア。
何でこの程度の事で?
そう思ったが、考えてみればクーデリアは俺がMSの操縦を得意としてるのを知らない。
生身での戦いは護衛の時に見せた時があるし、MWの大会で優勝しているところを見てはいるだろうが、MSとMWは普通に考えれば別物だ。
阿頼耶識を使えるのなら、普段と同じ動きが出来るのでMSもMWもそう違いはないものの、阿頼耶識ではない普通のコックピットだと、操縦方法は大きく違う。
半ば戦車の発展系と呼ぶべきMWと、人型機動兵器のMSでは操縦方法が大きく違うのはおかしくないのだから。
「心配するな、俺はこう見えてもMSの操縦は得意だ。ギャラルホルンにお前は渡さない。俺が絶対に守ってみせるから、安心しろ」
「ば……馬鹿。……信じてます」
「どうせなら、笑顔で送ってくれ。革命の乙女の笑顔なら力になるのは間違いないし」
「……アクセルの勝利を信じてます」
そう言い、笑みを浮かべるクーデリアをその場に残して俺は格納庫に向かうのだった。