俺の放った殺気に真っ先に反応したのは、三日月だった。
それに続いてオルガや昭弘が反応し、ユージンは最後。
本来なら魔法とかのないこの世界において殺気とかそういうのを感じられる者はいない……とはいわないが、そう多くない筈だ。
それでもこうして殺気に反応したのは、恐らく殺気を殺気と認識していないが、何か雰囲気が変わったといたように感じたのだろう。
もしくは、死線を潜り抜けてきた件もあり、殺気を感じられるようになっていたのか。
クランクが反応していないのは、殺気を感じる事が出来ないからか、それとも俺に絶対の忠誠を誓っているので、殺気を感じてもそれを受け入れているのか。
その辺は生憎と俺にも分からなかったが、とにかくクランクが黙っていたのは間違いない。
ちなみにここに同席しているクーデリアとフミタン、それにビスケットの3人は、そもそも殺気に気が付いてすらいなかった。
無理もない。
クーデリアは革命の乙女と呼ばれるようになったが、結局のところお嬢様育ちなのは間違いないし、フミタンはそのメイドだ。
そんな2人が殺気に気が付ける筈もない。
じゃあ、何でビスケットは……まぁ、見るからにそういうのが得意そうには見えないしな。
「そんな訳で、クランクが裏切った時の事は俺に任せて貰えないか?」
「……分かりました」
「おい、オルガ。いいのか?」
オルガが俺の言葉に頷くと、ユージンがそれに不満そうに言う。
だが、オルガはそんなユージンに対して問題ないといった様子で口を開く。
「今の妙なの……お前も感じたんだろう?」
「それはそうだけど、だからってそのおっさんを信じてもいいって事には……」
「ユージン」
オルガはまだ不満そうな様子のユージンの名前を呼ぶ。
特に何かを言った訳ではない。
ただ名前を呼んだだけだが、それでもユージンにとっては何らかの意味があったのか、黙り込む。
「アクセルさんがここまで言ってるんだ。それなら、信じてもいいと思わないか? それに、もし何かあったら、アクセルさんが自分で処理をすると言ってるんだ。それに……アクセルさんが言うように、これから俺達は地球に向かうんだ。その案内人と考えれば、悪い事ではないと思わねえか?」
「それは……」
オルガの言葉に、ユージンは完全に納得した様子ではないものの、それでも一理はあると判断したのだろう。
それ以上の追及は止めたらしい。
「それで……あんたがアクセルさんに従ったってのは分かった。ギャラルホルンについて教えてくれるんだよな?」
「ああ。俺が知ってる事は全て話そう。だが、これはアクセル様にも話したが、俺は上から疎まれていてな。……昨夜の襲撃の後で彼女をどうにかしろと言われて半ば捨て駒にされたのを見れば、それは分かるだろう」
「……そうだな」
昨夜の襲撃の件については、オルガも色々と思うところはあるのだろう。
参番組からも、少ないが犠牲者が出ているのだから。
だが、それでもその件について何も言わないのは、俺に従っているからなのだろう。
「なら、これだけは聞かせろ。ギャラルホルンは一体何でお嬢さんを殺すのではなく、生きたまま確保しようとした?」
「コーラル三佐が何を考えているのかは分からない。だが……コーラル三佐は金に汚い人物として非常に有名だ。事実。現在ギャラルホルンの本部から監査を受けているらしい。その辺に関係している可能性が高い」
「つまり、クーデリアを捕らえる事で手柄にして、汚職を握り潰そうとしていると?」
「あくまでもギャラルホルンで流れている噂ですが」
俺の言葉にクランクはそう答える。
分かっていたが、俺とオルガ……いや、俺とそれ以外では言葉遣いが大分違うな。
もっとも、それを気にしている者がいないのは幸福な事なのかもしれないが。
「もしクーデリアが捕らえられていたら、どうなっていたと思う?」
「現在の火星の独立運動の活発さを考えると、大々的に逮捕したと公表し、最悪即座に処刑となる可能性もあるかと」
クランクの説明に、クーデリアの表情が厳しくなる。
まぁ、捕まったら死刑になると宣言されたようなものだから、そうなるのは当然だろうが。
ちなみにそれ以外にも非常に不愉快だが、クーデリアとフミタンの美貌や男好きする身体を思えば、どうせ死刑になるからという事で、そういう行為が行われる可能性も高い。
クーデリアはそちら方面には気が付いていないようだが。
ただ、フミタンは……表情があまり変わらないが、何となく気が付いているような気がする。
この辺は年齢の違いか。
「なるほど。お嬢さんをギャラルホルンに引き渡すことが出来ないのは間違いない。……そうなると、その監査って奴が終わるまでどうにか持ち堪えれば、そのコーラルって奴が失脚して、こっちに手を出さないとか……そういう事にはならないか?」
「……いや、難しいだろう。革命の乙女の存在は、既に火星全土に広がっている。今となっては、例えコーラル三佐が失脚しても、そのままとはいかないだろう。コーラル三佐の後釜が出来るだけ早く手柄を欲して手を出すか、もしくは別の者が自分の出世の為に手を出すか。その辺は分からないが、やはりそのままという訳にいかないのは間違いない」
その言葉に何人かが残念そうな様子を見せる。
あるいは、火星のギャラルホルンのトップにいるコーラルという人物をどうにかすれば、何とかなるかと思ったのだろう。
斬首作戦という訳ではないが、最悪俺が影のゲートや気配遮断を使ってどうにかするという方法もあったのだが……それはまぁ、今更の話か。
「そうなると、やっぱりギャラルホルンをどうにかする必要がある訳か。……オルガ、クランクの一件ですっかり後回しになっていたが、グレイズのコックピットを阿頼耶識に……ああ、そう言えばこの件についてはまだ聞いてなかったな」
グレイズの件について話そうとしたが、その前にやるべき事を思い出す。
俺が口にした聞きたい事というのに興味を持ったのか、部屋の中にいる他の面々の視線を向けられながら、クランクに尋ねる。
「ギャラルホルンにおいては、阿頼耶識のように体内に機械を埋め込むとか、あるいは義足の類を嫌っているという事だったが、クランクはその辺はどう思う?」
これは聞いておくべき事だろう。
これからクランクには地球までの案内人をして貰う。
つまり、シャドウミラーの子供組やCGSの参番組のように、阿頼耶識の手術を受けた者達と行動を共にするのだ。
そんな中で、クランクがそのような相手に嫌悪感を持っていたりしたら、間違いなく面倒な事になる。
そう思ったのだが……
「クランク?」
何故か戸惑った様子を見せるクランクに、そう尋ねる。
俺の言葉には基本的に即座に反応するクランクなのだが、一体何故こんな風に不思議そうな顔をするんだ?
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「いえ。その……以前はそこまで強くないですが、嫌悪感があったのは事実です。ですが、不思議な事にアクセル様に忠誠を誓った今は全くそのような嫌悪感はありません」
「何? ……いや、なるほど」
最初はクランクの言ってる意味が分からなかったが、すぐに納得する。
今のクランクは、元のクランクの性格ではあるが、俺に対して絶対服従となっている。
その辺が何らかの影響を及ぼして、阿頼耶識とかにも嫌悪感を抱かなくなったのではないか。
勿論これは予想でしかない。
もしかしたら、もっと何か別の理由でそうなったのかもしれないが……まぁ、取りあえず嫌悪感を抱かないというのは、これから行動を一緒にする上で悪くない。
「アクセルさん? どういう事です?」
「悪いが、これも企業秘密の1つだ。とはいえ、これからお前達とは一緒に地球に向かう。そう考えると、後でその秘密についても教えた方がいいのかもしれないが……今はまだ話せない」
具体的にいつになったら話してもいいのかは、正直なところ分からない。
大雑把な目安としては、やっぱり宇宙に上がってからか。
ただ……少し心配なのは、あの小悪党なんだよな。
明らかに何かあったら即座にこっちの情報をギャラルホルンに流して、自分だけは助かろうとするような奴に思える。
とはいえ、それでも即座に排除しないのは、シャドウミラーではなくCGSの所属であるというのもあるし、そういうのに限って何だかんだと最後まで裏切らない可能性もあるというのを考えると、俺の判断だけでどうにか出来る訳じゃないんだよな。
いっそ、炎獣を使って誰にも知られずに殺して、その死体は灰も含めて焼いてしまえば……と思わないでもなかったが。
「そう、ですか。……分かりました。アクセルさんがそう言うのなら、取りあえず信じておきます」
「おい、オルガ。本当にいいのかよ!」
「落ち着け、ユージン。アクセルさんのこれまでを思い出してみろ。それなら信じられるだろ?」
「それは……けど、それでも今の言葉を素直に信じてもいいとは、ちょっと思えないぞ」
「かもしれないが、後で教えてくれるって言ってるんだ。なら、そこまで心配しなくても大丈夫だと思う。……そうなんですよね?」
確認するように聞いてくるオルガ。
オルガにしてみれば、自分が率いる者達を守る為である以上、その辺はしっかりさせておく必要があると考えているのだろう。
責任感が強いのは、行動を共にする俺にとっても悪い事じゃない。
「そうなるな。悪いが、今はまだ無理だという事だけを覚えておいてくれ」
「……分かりました。昨夜、俺達を助けてくれたアクセルさんが俺達を裏切るとは思えません。俺は信じます」
オルガがそこまで言うと、ユージンもそれ以上は無理に聞くのを止める。
何だかんだと、ユージンはオルガを信じてるんだろうな。
もっとも、ユージン本人はオルガに対抗意識を持っているようなので、そんな事を言っても素直に認めはしないだろうが。
「悪いな。それで……えっと、何だったか。クランクが阿頼耶識とかに対して嫌悪感はない……そう、MSか。俺達が所有しているグレイズだが、そのグレイズにCGSの所有しているMWの阿頼耶識対応のコックピットを換装するって話だったな。まずは試しに俺が決闘で乗ったグレイズのコックピットを換装してみるって話で」
「そうでしたね。……色々とあって、すっかり忘れてました」
大きく息を吐き、オルガがそう言う。
オルガにしてみれば、決闘の件は完全に予想外だったのだろう。
一応、厄祭戦の前にそういう文化というか、土壌はあったのだから、そう考えるとそこまでおかしな話でもないのかもしれないが。
「じゃあ、早速始めてくれ。報酬については心配いらない。しっかりと払う」
「ですが、うちのMWのコックピットを抜くと、そのMWは使い物にならなくなるのが痛いですね」
「どこか、MW用でいいから阿頼耶識対応のコックピットを大量に持っている商人とか知らないか?」
「アクセルさん達は、ノブリスとかいう武器商人の大物と関わりがあるんですよね? そちらから回して貰っては?」
「どうだろうな。多分難しいと思う。ここまで明確にギャラルホルンと敵対してしまった以上、ノブリスも俺達との取引をそう簡単にはしない……というか、出来ないと思う。もしそんな事をすれば、ノブリスがギャラルホルンに目を付けられるだろうし」
これは口に出せないが、もしそうなったらノブリスは恐らく俺達をあっさりと切り捨てるだろう。
ノブリスにしてみれば、俺達……シャドウミラーやクーデリアといった存在は、あくまでも金儲けの手段でしかない。
その金儲けによって自分の身に危険が及ぶのなら、それこそ即座に損切りをするのがノブリスという男だ。
「そうなると、どこか他の場所からMWを……それも、阿頼耶識対応のMWを確保する必要がありますね。アクセルさんはどこか心当たりはありませんか?」
「ないな。……どうしてもとなると、以前MWの大会で戦った会社に連絡を取ってみるという可能性はあるけど」
マルバは阿頼耶識は忌むべき物という外聞によって、MWの大会には参番組を出さないで壱番組を出した。
……結果、1回戦負けしたが。
しかし、本気で優勝を狙っていたチームの中には、阿頼耶識を使う者達を出場させたりもしていた。
そういうチーム……会社なら、当然ながら阿頼耶識対応のコックピットのMWを持っている筈だ。
そのMWのコックピットを……あるいはMWそのものを購入したいと言えば、条件次第で売ってくれる……やっぱりちょっと難しいか。
ギャラルホルンがCGSに襲撃したというのは、それなりに話が広がっていてもおかしくはない。
そう考えると、俺達に協力するという事はギャラルホルンに敵対するというのを意味し、寧ろギャラルホルンの覚えを少しでも良くする為に、こっちを攻撃してもおかしくはない。
「やっぱり駄目だな。下手をすれば敵を増やすだけになりかねない」
そんな俺の言葉に、オルガを含めて話を聞いていた者達は残念そうにするのだった。