俺がマクギリスを見ていると、何かを成す云々という話は忘れたかのように、マクギリスが口を開く。
「この辺で最近戦闘があったようなのだが……何か気が付いたことはないかい?」
「どうだったかな。俺は今日はここにいるけど、農場で働いている訳じゃない。今日はちょっと用事があって来ただけだ」
「そうか。イザークは知らないのか。……そっちの君はどうだ? この農場の跡取り息子なんだろう?」
「うえっ!?」
マクギリスの視線が向けられたのは、ビスケット。
まさかここで自分に話が向けられるとは思っていなかったのか、ビスケットは焦った様子を見せる。
例えばこれが、最初からビスケットがマクギリスの相手をしていれば、ビスケットもここまで驚くような事はなかったのだろう。
だが、今までマクギリスは俺と話をしていた。
そのような状況でいきなり自分に声を掛けられたのだから、それに驚くなという方が無理だった。
「確か何日か前に戦闘音っぽいのが聞こえてきたとか、言ってなかったか?」
慌てているビスケットに、そう助け船を出す。
この農場は鉄華団から離れた場所にはあるが、それでもクリュセと比べれば間違いなく近い。
だからこそ、ギャラルホルンの襲撃があった時にそれが聞こえてもおかしくはなかった。
……まぁ、襲撃があったのは夜中だったので、寝ていたと誤魔化せばどうにかなるかもしれないが。
「えっと……ああ、そうそう。イザークさんの言う通り。何かそれっぽい音が聞こえたような、聞こえなかったような」
ビスケットが誤魔化すように言う。
ただ、これは一体どのくらい効果があるのかどうか、微妙なところだが。
何しろ、マクギリスはイザークという俺の偽名に気が付いているのだ。
それはつまり、今のビスケットの言葉も真実であるとは到底認識されない……そんな可能性も十分にある。
「ただ、近くには民兵の拠点があるから、そこで模擬戦でもやってるんだとばかり」
「なるほど。そういう可能性もあるか。……ありがとう。助かったよ」
「いえ、お役に立てたようなら何よりです」
笑みを浮かべ、そう告げるビスケット。
そんな様子を見たマクギリスは、車の後ろで未だに吐いているガエリオに向かおうとして……足と止めると、俺に視線を向けてくる。
「イザーク、また会える事を期待してるよ」
意味ありげにそう言うと、ガエリオを乗せて車で走り去っていく。
「あの人……ギャラルホルンの襲撃について、何も知らなかったみたいだね」
三日月の言葉に俺やビスケットが頷く。
マクギリスやガエリオがギャラルホルンの所属なのは間違いない。
それも、恐らく……本当に恐らくだが、その態度や阿頼耶識に対するガエリオの嫌悪感から、恐らくはギャラルホルンの中でもお偉いさんだろう。
だというのに、同じギャラルホルンの襲撃については何も知らなかった。
これは何故だ?
普通に考えれば、あの襲撃はギャラルホルン全体の意思という訳ではなく、一部の者の独断だったという事か。
クランクから聞いた、コーラルという奴の性格を考えれば、そうおかしな事ではない。
「多分、ギャラルホルンの内部には権力争いとか、そういうのがあるんだろうな」
何しろギャラルホルンは実質的にこのオルフェンズ世界を治めている者達だ。
当然その規模はかなり大きく、組織内部での権力闘争は常に行われていてもおかしくはなかった。
また、ギャラルホルンにはセブンスターズとかいう、7つの家があり、それが実質的にギャラルホルンを牛耳っている。
7つの家……そう考えると、そこでもかなりの駆け引きとかがあってもおかしくはない。
三日月がバルバトスに乗った件からも、この世界の原作が始まったのは間違いない。
そこに現れた、ギャラルホルン所属のお偉いさんと思しきマクギリスとガエリオ。
しかも揃って美形。
もしかしたら、あの2人はそのセブンスターズの関係者という可能性も十分にあるな。
まぁ、これはあくまでも状況証拠だったり、この世界が原作のある世界だと知っている俺だからこそ、そのように思えたのだが。
もしその辺について何も知らないのなら、そういう風に思い当たるといった事は出来ないだろう。
「アクセル……」
そんな声に視線を向けると、そこにはクーデリアの姿がある。
側にはフミタンも従っていて、マクギリス達がいなくなったから、こうして出て来たのだろう。
「どうやらクーデリア達が見つかるような事はなかったようだな。それだけは幸運といったところか」
「そうですね。まさか、ここでギャラルホルンと会うのは少し予想外でした」
俺や三日月、ビスケットならともかく、クーデリアは目立つ。
革命の乙女として大々的にTVに出てるのだから、当然だが。
「俺達との間で起きた戦闘を知らないという事は、多分だけど火星支部の者じゃない……つまり、地球からやって来た監査の人員なんだろうな」
クランクがそんな風に言っていたのを思い出す。
「ともあれ、まずは一度鉄華団に戻るか。オルガにも色々と説明する必要があるだろう? それから俺は一度シャドウミラーに戻って、クランクに色々と話を聞いてみようと思う」
その言葉には誰も反論はなく……トウモロコシの収穫は元々それなりに日数を掛けて行うものなので、今日急いでやる必要もないという事になり、俺達は鉄華団に戻るのだった。
「うん? 何だか人が集まってるな」
鉄華団の拠点に戻ってくると、そこには団員達の多くが外に出ていた。
もしかしたら何か問題があったのではないかとも思ったが、見た感じだと別に誰も厳しい表情を浮かべてはいない。
それどころか、どこか嬉しさすら感じさせる。
「あ、三日月さん!」
鉄華団の中でも子供組の1人が、車から降りた俺達……というか、三日月を見て嬉しそうに駆け寄ってくる。
オレンジの髪の子供は、満面の笑みを浮かべて建物を……その中でも上の方を指さす。
何だ? とそこに視線を向けると、そこには赤い図柄が描かれていた。
「あれは何?」
「鉄華団のマークだよ。……これから、俺達はあれを守っていくんだ」
「オルガ」
三日月の疑問に答えたのは、オルガ。
そのオルガの口には、やる気に満ちた笑みを浮かべている。
なるほど、オルガにしてみればこうして自分達だけの……鉄華団としてのマークを作る事により、CGS時代を完全に訣別したという訳か。
「いいマークだな」
「ありがとうございます」
褒められたのが嬉しかったのか、オルガは満面の笑みを浮かべる。
それを見ながら、俺はトドの姿がない事に気が付く。
以前のオルガとの話からすると、恐らくトドは今この時にでも妙な動きをしてるのだろう。
まさか、それがオルガに見抜かれているとは思いもせずに。
「気分の良いところで悪いが、少し話をしたい。時間はいいか?」
「では、すぐ部屋を用意します」
そう言い、オルガは俺を案内するのだった。
「そう、ですか。どうやらギャラルホルンも一枚岩ではないって事ですね。クランクの一件からそれは分かっていましたが、それが明確になった訳だ」
俺、三日月、ビスケットの説明を聞いたオルガが、天井を仰ぎながらそう言う。
ちなみに部屋には他にもクーデリアとフミタンもいるが、この2人は俺達がマクギリスと話している間、ずっとトウモロコシ畑に隠れていたので、特に何か説明する事はない。
寧ろ俺達の説明を聞いて納得している。
トウモロコシ畑から戻ってくる時に大雑把な説明はしたが、今ここで初めて詳細を聞いたのだ。
「そうなるな。シャドウミラーに戻ったら、クランクに色々と聞いてみるつもりだ。俺の予想通り、マクギリスとガエリオの2人がギャラルホルンのお偉いさんなら、クランクも名前を知ってる可能性は十分にあるし」
ついでに、マクギリスが俺を見て口にした、アグニカ・カイエルという人物についての名前についても、知っているといいんだが。
俺を見てマクギリスがそう口にしたという事は、多分俺とそっくりか……あるいは、顔は似ていなくても雰囲気とか印象とか、そういうのが似てるんだとは思うが。
ただ、そこには大きな疑問もある。
俺はアクセル・アルマーだ。
原作のキャラに転生というか、憑依というか、そんな感じの人物。
なのに、アグニカというのがアクセルに似ているというのは……やはり疑問だった。
それだと、アグニカという人物がスパロボに出てくるアクセルと似ているという事になる。
違う作品のキャラが似ているというのは……まぁ、ないとは言わない。
何らかの作品に出てくるキャラのパク……いや、オマージュというのは、そう珍しい事ではないからだ。
ネギま世界やペルソナ世界で購入した漫画とかでも、そういうのは普通にあった。
だからこそ、有り得ないとは言わない。
だが……それでも疑問というか、不思議に思うのも事実。
これが実際に顔が似ているのではなく、雰囲気や印象ならまだ納得出来るのだが。
その辺については、クランクに実際に聞けば分かるだろうが。
「そしてマクギリス達がギャラルホルンの襲撃を知らなかった事を考えると、ギャラルホルンの内部で何かトラブっている可能性が高い。つまり……」
「地球に行くのは今のうちってところですね」
オルガの言葉に頷く。
俺達が動けば、恐らくギャラルホルンも動く。
そうなると、ギャラルホルンと戦闘になったりもするだろう。
だからこそ、ギャラルホルンの内部で混乱している時に動くのがいい。
勿論、俺達が動けばギャラルホルン内部で混乱していても、それぞれ俺達を相手に攻撃してくる可能性が高いだろう。
だが、ギャラルホルン同士で対立しながらの行動なら、こっちも相手の隙を突くといったことが出来る筈だ。
そうなれば、一致団結したギャラルホルンを相手にするよりは、大分楽になる。
最悪……いや、俺達にとって最高の展開としては、ギャラルホルン同士でそれぞれ戦いになってくれる事だ。
「そうなる。クーデリアの依頼を受けた時から、しっかりと準備は進めてきた筈だな?」
「はい、こっちは大丈夫です。アクセルさんの方はどうでしょう?」
「問題ない。準備は出来ている」
正確には、問題がない訳ではないのだが。
具体的には、シーラの扱いだ。
事務員達を纏めているシーラだけに、俺達がいない間もシャドウミラーが動く場合は、火星にシーラを残した方がいい。
だが、地球で誰かと交渉をする事になったりした場合、シーラがいてくれると非常に助かるのも事実。
クーデリアに対して、色々と教えたりも出来るし。
クーデリアにとっても、シーラは自分の先生的な存在でもあり、それだけに一緒に行動すれば落ち着ける相手でもある。
そう考えると、シーラは火星にもいて欲しいし、俺達と一緒に来ても欲しい。
その辺りについて、まだ決まっていなかったのだ。
とはいえ、もうそろそろ出発となると、本格的に話を進める必要があるのも事実。
具体的にどうするのかは、今日帰ってから話すとしよう。
個人的には、シーラには一緒に地球に来て欲しいと思うが……その辺は俺の私欲もあるしな。
もっとも、それ以外はオルガに言ったように問題なく準備がされているのも事実。
エイハブ・リアクターの発掘に高密度デブリ帯に向かっている連中も、強襲装甲艦は俺達と一緒に来て貰う予定だ。
ただ……輸送艦だけで火星に戻すのはちょっと心配なんだよな。
MSの護衛を何機かつけるといったことをする必要があるか。
そうなると戦力が減る……と以前なら悩んだだろうが、幸いなことに現在の俺達はオルフェンズ世界においても最新鋭MSのグレイズが結構な数ある。
そして鉄華団に依頼をし、コックピットを阿頼耶識対応型の物に換装している。
……少しだけ驚いたのは、鉄華団がどこからともなく阿頼耶識対応型のコックピットを入手してきた事だろう。
この辺はCGS時代に繋がりのあった相手と取引をしたらしい。
コックピットを鉄華団に売った者達にとっても、何らかの理由で破壊されたり、故障したMWのコックピットを取り出せば金になるのだから、悪い話ではない。
結果として、鉄華団は自前のMWを使い物にならないようにする事はなく、グレイズのコックピットの換装作業を行っていた。
それでも換装が間に合わないグレイズは……別にどうしても阿頼耶識対応のコックピットにする必要はない。
それこそ阿頼耶識を持っていない大人組に操縦させてもいいし。
にしても、こうなるとユーゴーやゲイレールは……うん。あまり使う機会はなくなるな。
取りあえずユーゴーとゲイレールは火星のシャドウミラーが使う戦力として残していく事になるだろう。
戦いが激しくなるのは、あくまでも宇宙に出て……そして地球に向かう俺達だ。
火星に残った者達は、そんなに問題はないと思う。
ギャラルホルンにとっても、俺達がいなくなれば迂闊にこっちにちょかいを出してくる可能性は……うーん、必ずしもないというのが怖いところだな。
そんな風に思いつつ、俺はオルガ達と打ち合わせを続けるのだった。