マクギリスやガエリオと会った翌日、俺はオルガと共に鉄華団の拠点にある応接室で1人の男と会っていた。
その男は、禿げた中年の男。
トドが繋ぎを作った、オルクス商会の代表であるオルクスだ。
「いや、それにしてもまさかこんな場所で新進気鋭のシャドウミラーを率いるアクセルと会えるとは思わなかったな」
「俺を知ってるのか?」
「ああ、勿論。MWの大会は見に行ったからな。……もっとも、賭けでは負けたけど」
なるほど。あの大会に来ていたのか。
この男の率いる組織は、オルクス商会。……つまり、商会だ。
警備員でもPMCでもない。
ただ、この男の胡散臭さを見る限りだと、恐らくは後ろ暗いところがあるのは間違いないだろう。
もっとも、今のシャドウミラーや鉄華団の状況を思えば、そういう相手でもないと取引をしたりはしないだろうが。
何しろギャラルホルンと正面から敵対しているのだから。
「ご愁傷様。俺達に賭けておけばよかったのにな」
その言葉が気に食わなかったのか、オルクスの目に一瞬不愉快そうな光が浮かぶ。
だが、その光はすぐに消え去った。
なるほど、このくらいの事は出来るのか。
どうやらそれなりにやり手ではあるらしい。
マルバよりはマシといったところか。
「そうだな。だが、シャドウミラーはあの時、まだ殆どの者が知らなかった。それを考えれば、そう簡単に賭けるようなことが出来なかったのは理解して貰えるだろう」
「最初はそうかもしれないけど、2回戦以降は違うだろう?」
1回戦はオルクスが言うように、シャドウミラーについて全く知らないのだから、賭けなくても仕方がない。
だが2回戦以降は、1回戦での戦いを見ている以上、俺の実力を知っている筈だ。
シャドウミラーの大人組はともかく、子供組が阿頼耶識を使っているのは分かるだろうし、俺やマーベルの操縦技術が高いのは、1回戦でも明らかだ。
なのに、それを見抜けなかったというのは、単純にオルクスに強者を見分ける目がないという事を意味していた。
「ぐ……確かに俺には見る目がなかったみたいだな」
悔しそうな様子のオルクス。
俺を見る目には苛立ちがある。
そろそろ感情を隠すのも限界といったところか。
「オルクスさん、アクセルさんと会話をするのもいいですが、そろそろ仕事の話といきませんか?」
そんなオルクスの様子を見たオルガが、そう言う。
一瞬俺に呆れの視線を向けてきたのは、ここでオルクスを怒らせて取引が中止になるのを避けたいのだろう。
とはいえ、オルガの予想ではトドと手を組んでいるのはこのオルクスで、そうなると俺達を嵌める為にも決してここで向こうから取引を止めるといったことはないと思うが。
いや、それでも万が一を考えれば、ここでこれ以上迂闊な事はしない方がいいのか。
「そうだな。今日は取引を纏める為に来たんだった」
「ええ。まさか、オルクス商会のトップであるオルクスさんが来てくれるとは少し驚きでしたがね」
「何、取引というのはお互いの信用が大事だ。そういう意味では、ここでしっかりと顔合わせをしておく必要があるという事だ。それに……アクセル・アルマーともこうして実際に会えたしな」
そこで俺を見て意味ありげに笑うオルクス。
トドと手を組んでいるのが、俺達に知られているとは思ってもいないのだろう。
もっとも、それを突っ込むような事はしないが。
トドを放逐する為にも……しっかりと筋を通してそうするには、ここでオルクスに降りられる訳にはいかないのだから。
その後、契約についての最終確認をして、シャドウミラー、鉄華団、オルクス商会がそれぞれにサインをした契約書を交換する。
ビスケットがオルガと俺の契約書を確認し、問題ないと判断する。
オルクスの護衛……というか、補佐か? その男も同様に契約書を確認し、問題ないと判断する。
うーん、事務員という事でなら、シーラを連れてきた方がよかったか?
そうも思ったが、地球に向けて出発する準備をしているシャドウミラーにおいて、シーラの仕事はかなり忙しい。
そういう意味ではビスケットも同様なんだろうな……その辺はここが鉄華団の拠点というのが影響しているのだろう。
オルクス商会との話し合いが終わったら、すぐにでも仕事に戻れるのだから。
「じゃあ、俺達はこれで失礼する。地球まで、よろしく頼むよ」
「ああ、オルクス商会を当てにさせて貰うよ」
オルクスとオルガが言葉を交わし……そして、オルクスは出ていくのだった。
「上手く餌に引っ掛かってくれたと思うか?」
「どうでしょうね。ただ、俺の感触でよければ……ほぼ間違いなく」
そう告げるオルガの言葉に、だろうなと俺も納得する。
オルクスはそれなりに感情を隠すのは上手かったように思えたが、それでも態度の節々にこちらを侮るような色があった。
だからこそ、MWの大会の件で突いたという点もあるのだが。
「そうなると、本格的に地球に行く準備をする必要があるな。そっちの強襲装甲艦はどうだ?」
「ウィル・オー・ザ・ウィスプ……いえ、イサリビは既に手続きが完了して、問題なく俺達が使えるようになっています。シャドウミラーの方はどうですか?」
「メンテナンスも終わって、全く問題なく動かせる。……けど、イサリビか。船にも名前を付けた方が分かりやすいのかもしれないな」
今までは名前がなくても特に困らなかったのだが、考えてみれば名前はあった方がいいのだろう。
「そうですね。特にシャドウミラーは3隻も船がありますし、名前があった方が便利じゃないですか?」
「かもしれないな。取りあえず……そうだな。高密度デブリ帯まで向かう1隻と、そこで合流して地球に向かう1隻。2隻の強襲装甲艦には何か名前を付けるように考えておくよ」
俺はそういう名前を付けるのはあまり得意ではないのだが、シャドウミラーに所属する面々から名前を募集すれば何とかなるだろう。
X世界においても、シャドウミラーで名前を募集したところ、美鶴のアルカディアが採用されたし。
勿論、同じシャドウミラーであってもホワイトスターにいる面々とオルフェンズ世界のシャドウミラーでは、どうしても違ってくるが。
その後で、オルガやビスケットと軽く会話をしてから、俺はシャドウミラーに戻るのだった。
「名前、ですか」
「ああ。鉄華団の方では所有している強襲装甲艦にイサリビという名前を付けたらしい。そうして自分達で名前を付ければ、自分達の船にも愛着が湧くだろう?」
「そうかもしれませんね。私達がダンバイン世界で乗っていたオーラバトルシップも、グラン・ガランという名前を付けたことで愛着が湧いたのは事実ですし」
シーラが自分の乗っていたグラン・ガランを思い浮かべながらそう言う。
グラン・ガランは修理も終わっている筈だし、ゲートが動くようになってホワイトスターに戻れるようになったら、シーラに艦長を任せてもいいかもしれないな。
ただ……シーラを前にしてそういう事を考えるのはどうかと思うが、グラン・ガランはオーラバトルシップとして考えた場合、失敗作に近い。
全ての能力がオールマイティに高く、総合能力では頭一つ抜けているウィル・ウィプス。
攻撃力自体は低いが、大量のオーラバトラーを運用出来る空母的な性能を持つゲア・ガリング。
攻撃力という意味では他の追随を許さないゴラオン。
機械の館を内蔵し、ゲア・ガリングとはまた違った意味で空母的な性質を持つヨルムンガンド。
これらと比べると、グラン・ガランの攻撃力はそこまで高くはなく、それでいながらマキビシのような形をしているので敵の攻撃を受けやすく、オーラバトラーの運用そのものもゲア・ガリングやヨルムンガンドに比べると劣る。
その優美な外見から移動宮殿と呼ぶに相応しいのは事実だが、ぶっちゃければそんな宮殿が前線に出て戦うというのが間違っている。
グラン・ガランの運用方法は、それこそオーラバトルシップではなく、外交とかに使うのが最善だと思う。
「何か?」
「いや、何でもない」
オーラ力によって、あるいは女の勘かもしれないが、それで何かを感じたらしいシーラが俺を見てそう尋ねてくる。
そんなシーラの問いに、何でもないと内心を表情に出さないようにしながら、首を横に振る。
「とにかく今の俺達がやるべきなのは、強襲装甲艦に名前を付けることだ。……そうだな。いっそ、グランとガランはどうだ?」
「アクセルがそれでいいのなら構いませんが……本当にそれでいいのですか?」
「シーラがいるんだ。やっぱり名前はそういう感じにした方がいいだろう? それでも気が引けるのなら、そうだな。いっそシャドウミラーの面々にグランとガランでいいかどうかを聞いてみるか?」
「頼みます」
そう言いつつもシーラが微妙な表情を浮かべているのは、本当にグランとガランでいいのかどうか、自信がないからだろう。
「分かった。後で聞いておく。……強襲装甲艦の方はそれでいいとして、輸送艦の方はどうするかだな。1隻しかいないんだし、いっそそっちは名前がいらないか?」
「グランとガランと名付けたのなら、補給艦の方もきちんと名前を付ける必要があるでしょう。でなければ、補給艦に乗っている者達が不満に思うかと」
「……そうなるか。とはいえ、すぐに思いつく名前はないし……いっそジャコバにするか?」
「アクセル……」
俺の言葉に呆れの表情を浮かべるシーラだったが、俺自身はそんなに悪くはないと思う。
何しろジャコバ・アオンがいたからこそ、俺はシーラやマーベル達と再会出来たのだ。
そう考えれば、ジャコバ・アオンに感謝の意味を込めてジャコバという名前を付けても悪くはないだろう。
そう説明すると、シーラは完全に納得した様子ではなかったが、頷く。
「アクセルがそう言うのであれば、それもいいでしょう。ただ、一応マーベルにも聞いておいた方がいいかと。それに……もしですが、ジャコバ・アオンにこの件を知られた時に、何と言い訳をするのか、考えておいた方がいいでしょう」
「言い訳か。……そうだな。またジャコバ・アオンに会えたら、言い訳するのと同時に、シーラ達と再会させてくれた感謝をしないといけないし。ジャコバでいいか」
俺がペルソナ世界を追放された時、どことも分からない空間にいた俺を見つけてくれたのは、ジャコバだった。
そうしてシーラやマーベルと合流し……うん、そこまでは感謝しているが、何故オルフェンズ世界に送ったのかは分からないんだよな。
勿論、何も全く分からない世界に転移させられるよりは、未知の世界であってもガンダム系の世界であるというだけで、助かった面があるのは事実だが。
具体的には、ガンダム・フレームのMSは他のMSよりも性能が高いというのがはっきりしてるとか。
勿論、その辺についてはこのオルフェンズ世界においても、MSに詳しい者なら知っている内容だ。
だからこそ、もしガンダムについて何も知らない状況でこの世界に来ても最初は分からなくても、いずれ分かっただろう。
後は……ガンダムの世界は戦争の世界というのも分かったのは大きい。
もっとも、俺が転移する世界というのは基本的に戦いのある世界が基本となっている。
勿論、その戦いの規模も個人でどうにかなるものから、戦争であったり、人類の存亡に関わる世界であったりと、規模は色々とあるが。
ただ、出来ればそういうのがない……戦いは戦いでも、スポーツとかそういうのが原作の世界に行ってみたいとは思う。
いやまぁ、俺の身体能力でスポーツをやるのはそもそもの間違いかもしれないが。
それこそサッカー、野球、バスケ、陸上……他にも色々とスポーツはあるが、そういうのをやったら、一体どうなる事やら。
そうなると、囲碁や将棋とか?
……うん。そういう世界に行っても、そもそもそういうのの世界だと気が付かないで、何らかの日常系の世界だとか、そういう風に認識してしまいかねないな。
「やっぱり俺はこういう世界が向いてるから、ジャコバ・アオンは俺をこのオルフェンズ世界に送ったのかもしれないな」
「いきなりどうしたのですか、アクセル?」
シーラが不思議そうな視線を俺に向けてくる。
「いや、何でもない。ジャコバ・アオンには感謝しないといけないと思っただけだよ」
「そうですね。そのお陰で私やマーベルもアクセルと再び会えたのです。アクセルから以前聞いた、神が命を使って力を使わなければ、恐らく私やマーベルがアクセルと再会することになるのはいつになっていたのか分からないでしょう。そういう意味では、私は寧ろジャコバ・アオンよりも、その神に感謝したい気持ちです」
「……微妙な感じだな。まぁ、そういう意味では俺も感謝した方がいいのかもしれないが。ともあれ、ジャコバ・アオンの件はともかくとして、グラン、ガラン、ジャコバ……これで問題がないかどうか、聞いてみるとしよう」