2隻の強襲装甲艦を、それぞれグランとガラン。
そして輸送艦をジャコバという名前にする事について、特に反対はなかった。
もっとも、シャドウミラーの全員に聞いた訳ではない。
グランは俺が乗る旗艦なので、ガランとジャコバ……もう1隻の強襲装甲艦と輸送艦は現在高密度デブリ帯でエイハブ・リアクターを探しているので、そっちに乗っている面々についてからは何も聞いていない。
ただ、残っている者達の予想によれば全く問題はないと言っていた。
そんな訳で、いよいよ地球に出発する日になる。
「昌弘、本当に行くのか? これは危険な旅になるのは間違いないんだ」
「行くよ。兄貴が行くのに、俺が行かない訳がないだろ」
鉄華団の面々と合流したところで、それぞれが話をしている。
そんな中で俺が最初に見つけたのは、昌弘と昭弘の兄弟の会話だった。
昭弘にしてみれば、生き別れになった弟と再会出来たのだから、その昌弘には間違いなく危険な目に遭うだろう地球には行って欲しくなかったのだろう。
「いや、けど火星にあるシャドウミラーの拠点も守らないといけないだろう?」
「そっちは問題ないよ。俺以外の連中……アストンやデルマ達が残ってくれる事になったんだから。MSもあるし、ちょっとやそっとの戦力じゃ問題ないよ」
昌弘が言ってるのは事実だ。
色々と話し合った結果、子供組……特に俺と最初にあった5人の子供達の中で、今回地球に行く事になったのは昌弘だけとなった。
勿論、子供組と一口に言ってもこの5人以外にも結構な人数がおり、そういう連中は一緒に地球に行く。
また、戦闘員ではないがシーラも結局は俺達と一緒に行く事になった。
正直なところ、最後の最後まで迷った。
迷ったのだが……艦長としての能力もあり、交渉役としても有能で、今回の旅の主役でもあるクーデリアの先生役でもある。
そんな諸々を考えた結果、最終的には一緒に行く事になった訳だ。
……地球組にとっては非常に助かるが、居残り組にしてみれば書類仕事の件で頼れる相手がいなくなったので、かなり厳しくなる。
そうも思ったのだが、シーラから自分がいると甘えが出てしまうと言われれば、そういうものかと納得するしかないのも事実。
そのシーラは、マーベルやクーデリア、フミタンと話をしている。
そんな光景を眺めながら他の場所を見ていると……
「うん? アトラ?」
「あ、はい。その……よろしくお願いします、アクセルさん!」
近くを通りかかったアトラに声を掛けると、深々と一礼してくる。
「え? 何でアトラがここにいるんだ?」
「えっと、実は……私、鉄華団で働く事になりまして」
そう言いながら、アトラの視線はオルガと話している三日月の方に向けられていた。
ああ、なるほど。
俺が以前聞いた話だと、アトラはクリュセにある店で働いていた筈だ。
鉄華団……いや、CGS時代から、食料はアトラの店に頼んでいたとか。
これまでなら、鉄華団は火星で仕事をしていた。
だが、これから鉄華団が行くのは、地球だ。
そして鉄華団の中では最強のパイロットである三日月が地球に行かないという事は有り得ない。
原作的な流れでも、それは間違いないだろう。
そんな訳で、このままだとアトラは三日月と長い間会えなくなる訳だ。
ましてや、ギャラルホルンと敵対している以上、最悪三日月が死ぬ可能性もある。
そしてアトラが三日月を好きなのは、俺から見ても明らかだった。
そんな諸々について考えれば、アトラが少しでも三日月と一緒にいたい、三日月の力になりたいと考えて、今まで務めていた店を辞め、鉄華団に就職するというのは分からないでもない。
「そうか。鉄華団の連中の面倒を見るのは大変だと思うが、頑張れよ」
「はい。その……もしよかったら。アクセルさん達もイサリビに食事をしに来て下さい。頑張って料理をしますので」
「そうだな。アトラの料理は美味いって話だし、期待してるよ」
実際、アトラの料理の腕はかなり高いらしい。
それを示すように、鉄華団の面々はアトラの料理を皆揃って美味いと口にするし。
……とはいえ、このオルフェンズ世界の火星では、上流階級でもなければ本物の食材を食べるのは難しい。
トウモロコシとかそういうのはあるので、それなりの食材は用意出来るのかもしれないが。
それに対して、シャドウミラーの場合は……うん。基本的にはそういう合成食とかを使った料理だが、俺の場合は空間倉庫に大量の料理が入っていたりするしな。
どこで入手したのかは忘れたが、小麦粉や米とか、そういうのも入っている。
食材という意味では、鉄華団よりもシャドウミラーの方が恵まれている。
恵まれているのだが、料理の腕という点では負けているのだ。
一応、マーベルもそれなりに料理は出来るのだが、それはあくまでも一応であって、決して料理が得意という訳ではない。
シーラは……うん。女王だけあって美味い料理を食べてきた経験から、味覚は鋭いのだろう。
だが、味覚が鋭いのと料理が得意だというのはまた別の話だ。
グランやガラン、ジャコバにはそれぞれ食堂もあるので、それなりに料理の出来る者もいるが、それでもアトラの方が料理の腕は上だと思う。
まだアトラの作った料理はそんなに食べた事はないが、恐らく間違いはないだろう。
「え? えへへ。その……私の料理が美味しいって、一体誰が?」
照れながらも、期待を込めて尋ねるアトラ。
やはり自分の料理が美味いと言われるのは、嬉しいものなのだろう。
そして期待が込められているのは……
「三日月だな」
「あ……え、えへへ。そうですか。三日月が……」
照れていながらも、嬉しそうな様子のアトラ。
自分の好きな相手に自分の料理が美味いと言って貰えるのは、それだけ嬉しいらしい。
顔を赤くしている様子は、可愛らしかった。
ちなみに三日月が美味いと言っていたのは、俺の推測とかお世辞とかではなく、正真正銘の事実だ。
三日月と話した時に、そう言っていた。
三日月の性格を考えると、そういう嘘を言ったりはしないだろう。
そういう意味では、アトラは俺の言葉を素直に受け取ってもいい訳だ。
……ただ、三日月の性格からして、美味い料理を作れるのは好感度が高いのは間違いないが、それが同時に女として魅力的なのかという事は、また別の話だろうが。
そもそも、三日月にその手の感情が育っているのかどうかも微妙なところだと思う。
シノとかユージンとかは、女に興味津々なのは間違いないと、見ていれば分かる。
しかし、三日月は……こう言ってはなんだが、女に興味があるようには思えないんだよな。
単純に女に興味があるのを表に出していないだけという可能性もあるので、それが絶対とは言えないが。
「ああ。そんな料理の上手いアトラが鉄華団に入ったという事は、士気が上がるのは間違いない。食事というのは、士気を保つ上で大きな意味を持つし」
「そうなんですか!?」
「いや、何でそこで驚く?」
「その……私の料理で皆の士気が高くなるというのは、ちょっと驚きだったので」
そう言われると、納得する。
アトラは戦いとかについて、何も知らない素人だ。
だからこそ、俺の言葉にそういう事かと思うのは仕方がない。
「美味い料理を食えば、仕事とかもやる気になるだろう? そう考えれば、分かりやすいんじゃないか?」
「そうですね。……じゃあ、これからも頑張らないと!」
「ああ、鉄華団の仕事が成功するかどうかは、お前の働き次第という事だな」
「……うわぁ……」
何とも言えない表情になるアトラ。
そんなアトラだったが、ビスケットの双子の妹が近付いてくるのを見ると、俺に頭を下げてからそっちに向かう。
ビスケットの双子の妹は……見送りに来たんだろうな。
まさか、アトラに続いてビスケットの双子の妹も一緒に地球に行くとか、そういう事はないと思うが。
「アクセルさん」
「オルガか、どうした?」
「いえ、今回の件……改めてアクセルさんに感謝しておきたいと思って」
「感謝?」
「ええ。グレイズのコックピットの換装の仕事だったり、地球行きの仕事に連れていってくれたり。……正直なところ、もしアクセルさんがいなければ、どうなっていたか分かりませんから」
「俺がいないならいないで、それなりに何とかなっていたと思うけどな」
原作のある世界で、主人公の三日月が所属しているのが鉄華団であると考えれば、何だかんだで何とかなったと思う。
とはいえ、俺が介入した結果として、色々と問題が起きてるのも事実だが。
もしかしたら、俺が介入した事によってMWの大会の賞品となっていたユーゴーや、ジャンマルコとの模擬戦の結果貰ったゲイレールとかはシャドウミラーじゃなくて鉄華団が入手したのかもしれないし。
「いえ、そんな事はないと思います」
真剣な表情のオルガ。
この辺は、この世界が原作のある世界であると知っているかどうか、そしてこの世界の原作の主人公が三日月だろうと知ってるかどうかの違いだろう。
「まぁ、そう言うのなら俺からは別に何も言わない。ただ、俺がお前達と組んでもいいと思ったのは……そうだな。例えば昌弘と昭弘の関係からだったり、クーデリアがヒューマンデブリや少年兵について知りたがったりとか、色々とあるが、それ以上に大きいのはオルガが筋を通す奴だからというのが大きい」
「筋を……」
「自分でもそれは意識してるんだろう?」
「はい。それはまぁ。俺達にあるのは、この身だけです。そうである以上、筋を通さない生き方というのは決して好ましくありませんから」
「だろうな。俺にとっては、それが信用に……いや、信頼に値すると思っただけだ」
これは大袈裟でも何でもなく、事実だ。
信用と信頼。
この2つの言葉は似ているが、その意味は大きく違う。
信じて用いるのが信用。信じて頼るのが信頼。
前者は言葉は悪いが、駒として使うことを意味しているのに対し、後者は頼れるだけの相手と認識してることを意味してる。
そういう意味で、俺はオルガを信頼していた。
勿論、オルガ率いる鉄華団は、まだまだ弱小の組織だ。
バルバトスを有しているとはいえ、使えるMSは1機だけ。
パイロットの三日月は主人公に相応しい凄腕だが、そのバルバトスも決して万全の状態ではなく、無理矢理何とか使っているというのが正しい。
MS以外はMWがあるが、これはMSを相手にした場合、勝ち目はない……訳ではないが、かなり低いのも事実。
そんな訳で、鉄華団はまだ組織としては弱小であるものの、それでも成長性というのは原作の主人公云々を抜きにしても高いと思う。
最低でも信頼度という点では、俺達の後ろ盾となっているノブリスと鉄華団のどちらが上かと言われれば、俺は一瞬の躊躇もなく鉄華団を選ぶだろう。
ノブリスにも感謝していない訳ではないのだが。
実際、俺達がこうしてシャドウミラーとして活動していられるのは、ノブリスの手伝いがあったからこそのものだ。
そういう意味では感謝してる。
しかし、シーラが感じた悪しきオーラ力の件があった。
いや、悪しきオーラ力の件がなくても、これまで俺は多くの者達に接してきたから、分かる。
ノブリスは俺達を商売の種としか思っていない。
それこそ、もし俺達を切り捨てるのが利益に繋がるとすれば、即座に切り捨てるだろうことは間違いなかった。
勿論、それが決して悪い事だとは思わない。
別にノブリスは俺の親でも友人でもなく、あくまでも商売として繋がっているだけなのだから。
そういう意味では、以前行ったテイワズに対するエイハブ・リアクターの取引の仲介を頼んだだけで、十分向こうに利益はあった筈だが。
ともあれ、そのように商売で繋がっている以上、俺達の存在がノブリスにとって利益にならない……どころか、マイナスになるのなら、俺達をギャラルホルンに売り払うなりなんなりしてもおかしくはない訳だ。
そんなノブリスと比べると、オルガは信頼出来る相手だ。
原作の主要キャラだとか、そういうのをなしにしても、十分に頼りになる相手なのは間違いない。
鉄華団を起ち上げた――正確にはCGSを乗っ取ったのだが――ばかりの今は、まだそこまで会社の力はない。
しかし……多分だが、今回の依頼をこなす事によって、その名前は大きく知られるようになり、会社としても大きくなるのだろう。
「ありがとうございます」
「気にするな。それより……ネズミはどうしてる?」
ネズミという言葉に誰を思い浮かべたのかは、明らかだ。
実際に俺もその相手を評してネズミと呼んだのだから。
「今のところ大きな動きは見せていません。ただ、間違いなく動くと思います」
「そうか。こっちからは俺のグレイズだけだ。そっちは?」
「ミカのバルバトスを」
シャトルだけに、用意出来るMSは決して多くはない。
そんな訳で、いざという時……具体的にはトドが動いた時の為に、俺達のシャトルにも、鉄華団のシャトルにもMSは用意してある。
そのことを確認しつつ、俺はオルガとの話を進めるのだった。