トサカを付けたMSは、明らかに他のMSよりも格上の存在だった。
それはちょっとした機体の動きを見れば分かるし、周囲にいるギャラルホルンのMSの挙動からも明らかだった。
となると、恐らくあれはグレイズの上位機種、あるいは次期主力機といった感じか?
……いや、ゲイレールとグレイズとの関係を考えると、グレイズに似すぎているな。やっぱり上位機種か。
ザクF型に対するザクS型的な。
角の代わりにトサカだけど。
となると、リーオーに対するトールギスか?
トールギスはプロトタイプリーオーとも呼ばれているらしいし。
そんな風に思っていると、トサカのMSは武器を抜く。
……グレイズがバトルアックスなのに対し、向こうは長剣か。
ともあれ、向こうがやる気ならこっちもそれに対応するだけだ。
未だにバトルアックスに潰されていたグレイズの残骸を放り投げ、俺はトサカのMSと向き合う。
トサカのMSは、こちらに向かって長剣を振るう。
AMBAC機能やスラスターを上手く使い、その動きはかなり滑らかだ。
その一撃をバトルアックスで受ける。
『イザーク・ジュール、数日ぶりだね』
そのタイミングで、接触回線が入る。
映像モニタに表示されたのは、金髪の男……マクギリス。
ビスケットの祖母、桜の農園で遭遇した男だ。
何を思ったのか、俺をアグニカ・カイエルとギャラルホルンの創設者の名前で呼んだ男。
「ギャラルホルンだし、ファリド家の次期当主なんだ。そういう特別な機体に乗ってるのも納得出来るな」
マクギリスの顔を見ても特に驚いた様子を見せず、そう言った俺の言葉にマクギリスが驚く。
マクギリスにしてみれば、自分こそが俺を驚かせるつもりだったのだろう。
だが、実際にはその逆になった訳だ。
『何故、私がファリド家の次期当主だと?』
「この前会った時、自分で自己紹介をしただろう? もう忘れたのか?」
『あの時、私は自己紹介した。だが、ファリド家の次期当主というような事は一切口にしなかったと思うが?』
なるほど。普通ならその辺の情報は分からないのか。
いやまぁ、ある程度の地位にいれば分かるのかもしれないが、出来たばかりのPMCを率いる俺が知ってるのはおかしいと。
俺の後ろにはノブリスがいる。
それを考えれば、分かってもおかしくはないと思うが。
そんな風に考えつつ、視線をバルバトスの方に向けると、そこでは青く塗られた、これもまたグレイズではないがグレイズに近い……このトサカとはまた別の意味でグレイズの上位機種と思しきMSが戦っていた。
俺のところにマクギリスが来たとなると、多分あの青いMSはガエリオだな。
「蛇の道は蛇という言葉があってな」
『なるほど。……それでは、こちらは聞かせてくれるかな?』
そう言いつつ、マクギリスは長剣を振るう。
俺はそれをバトルアックスで受けつつ、若干不満を抱く。
今のマクギリスは、明らかに本気ではないからだ。
手加減をしているのは、一体何を考えての事か。
『君はそのライフルで一体どうやってグレイズを撃破したのかな?』
そう聞いてくる。
マクギリスにしてみれば、その理由が全く理解出来ないのだろう。
あるいは、俺のグレイズの使っている武器が何か特殊な武器……それこそナノラミネートアーマーですら貫けるような何らかの武器なら、納得は出来ただろう。
だが、俺のグレイズが持っているのは、一般的な……グレイズが普通に使う120mmライフルだ。
ギャラルホルンでも使っている武器だからこそ、ナノラミネートアーマーをどうこう出来る武器ではないと理解しているらしい。
そして、だからこそどうやってナノラミネートアーマーの装甲を撃破したのか、気になったのだろう。
「ナノラミネートアーマーは確かに優秀な装甲用の塗料だが、あくまでも塗料だ。何度も同じ場所に命中すれば、その塗料は剥げて射撃武器でも通じるようになる」
こちらに向かって振るわれた長剣の一撃をバトルアックスで受け流しながら、そう通信を返す。
だが、それを聞いたマクギリスは、映像モニタの向こうで笑みを浮かべたまま、それを否定する。
『そうだね。イザークの言う事は正しい。正しいが……しかし、私が見た限りでは何度も同じ場所に命中させるといった事はせず、一撃でグレイズを撃破していた。塗料を剥がすといった事はしていない』
そう断言するマクギリス。
ちっ、戦いが始まった時からこっちの様子を確認していたのか。
「なら、何かそっちでは分からない何らかの方法があるんだろうな」
『それを聞いているのだが?』
何だ? 何だか妙にしつこいな。
そこまで気にする何かがあるのか?
いやまぁ、そう思いたい気持ちは分からないでもない。
今まで自分達の使っていたナノラミネートアーマーが無効化されるという事態である以上、それをそのまま放っておく訳にはいかないと考えるのはおかしな話ではないのだから。
だが……そう、だが。
マクギリスの様子から見ると、それ以上の理由で何かを思っているように感じられるのだ。
一体何がどうなってそうなったのかは、生憎と俺にも分からない。
しかし、その涼しげな表情とは裏腹に、俺がどうやってナノラミネートアーマーを無効化したのかが非常に気になっているのは、間違いのない事実。
とはいえ、まさか敵であるマクギリスにその秘密を教える訳にもいかない。
敵……敵、なんだよな? 多分。
初めて会った時に俺をアグニカ・カイエルと間違え、それも影響してか、微妙にマクギリスは俺に好意的なような感じがするんだよな。
ビスケットの双子の妹にも、チョコレートを渡していたし。
「それを知りたいのなら、俺達の味方になる事だな。俺達の敵であるお前に知らせるようなことは出来ない」
『そうか』
うん?
俺の言葉を聞くと、マクギリスはその場から撤退する。
おい? 一体何がどうなって撤退をするなんて事になったんだ?
そんな疑問を抱くが、シャドウミラーのシャトルに対して距離を空けて包囲していた他のグレイズ達も引き連れ、マクギリスが撤退していく。
もしかして、今の言葉を本気にしたのか?
そうも思ったが、その秘密を知りたい一心でギャラルホルンを裏切るという事はさすがにしないと思う。
ましてや、クランクのような末端の兵士ならともかく、マクギリスはセブンスターズの1つである、ファリド家の者……それも、次期当主だ。
そんな人物が、さすがに……
そう思いながら、バルバトスの方を見ると……
「結構苦戦してるな」
そう思ったのは、恐らくはガエリオが乗っている青いグレイズの上位機種だけではなく、数機のグレイズと同時に戦っている為だ。
こっちは取りあえず安心だろうし、向こうに援軍に向かうとしよう。
そう思ったのだが、そのタイミングでガエリオの乗っていたグレイズの上位機種が撤退していく。
何だ?
そう疑問に思ったが、恐らくマクギリスが撤退をすると通信で送ったから、渋々ではあるが撤退したのだろう。
マクギリスと戦いながらも、バルバトスの戦いはそれなりに見ていた。
ガエリオの操縦技術は、マクギリスには及ばないものの、十分に高かった。
あのまま戦っていれば、バルバトスも負ける……とまではいかないが、ピンチになったのは間違いないだろう。
そうなると、ここでガエリオが撤退したのはマクギリスの指示によるものだと考えた方が間違っていない筈だ。
「ん?」
三日月の援軍に行くか、もしくは三日月の邪魔をしないように遠距離から射撃をしてフォローするか。
そうして迷っていたのだが、不意にバルバトスと戦っていたグレイズの1機が、俺に向かって突っ込んでくる。
120mmライフルを撃ちながらという事は、決して友好的な理由での行動ではないだろう。
そんな風に思いつつ、グレイズの射撃を回避する。
俺を……敵のグレイズを放っておけないとでも思っての行動か?
そんな風に思っていると、グレイズはバトルアックスを振るってくる。
その一撃を、俺もまたバトルアックスで受け止めると……
『貴様ぁっ! 貴様がクランク二尉を!』
殺気すら感じられる怒声。
映像は表示されず、声だけの通信。
だが、それでもこの相手がどれだけの激情を感じているのかが分かりやすい。
にしても……クランク?
何故ここでクランクの名前が?
一瞬そう思いつつも、受け止めていたバトルアックスを弾き、同時に納得する。
クランクはその性格から、下の者達には慕われていた。
上の者にとっては疎ましい存在なのかもしれないが、下からは慕われている。
そんなクランクだが、鉄華団との決闘の後で戻ってこなかった。
それで向こうは死んだと思ったのだろう。
……何故この男が俺がクランクと決闘をしたのか知っているのかは疑問だが。
いやまぁ、決闘をする時もグレイズに乗っていて、俺も今グレイズに乗っている。
そう考えると、俺が決闘をした相手と認識してもおかしくはない。ないのだが……だからといって、そもそもこの男がそれを何故知っている?
考えられる可能性としては、三日月か。
このグレイズは、つい先程まで三日月のバルバトスと戦っていた。
つまり、三日月が決闘をしたのは俺だと、この男に知らせたのだろう。
……いやまぁ、分からないではない。
もう撤退したとはいえ、向こうにはガエリオがいて、何だか妙に動きのいいグレイズもいる。
他にも何機かのグレイズがバルバトスに攻撃しているのだから、マクギリスが撤退してやる事がなくなった俺に、因縁の相手……因縁? とにかく俺に用事のある奴を寄越すのは、ある意味で仕方がないことなのだろう。
実際、ガエリオがいなくなり、このグレイズが俺のところに来ても、バルバドスは結構手間取っているようだし。
あの、妙に動きのいいグレイズが鍵だな。
そんな風に思っていると、再び俺を襲ってきたグレイズがバトルアックスを振るってくる。
「落ち着け! クランクは生きている! 今は俺達の仲間だ!」
まずはこの男を落ち着かせる必要がある。
そう判断し、バトルアックスの一撃を受け止めつつ、そう告げるのだが……
『貴様ぁっ! そんな嘘を俺が信じると思っているのか!』
何だ、こいつのクランクに対する執着度合いは。
慕っている相手がどうこうというよりも、まるでクランク教の信者のように思える。
それだけこの男はクランクを慕っていたのだろうが……
『クランク二尉が、ギャラルホルンを……俺を裏切る訳がないだろうがぁっ!』
しまったな。
クランク教の信者であるこいつに、実はクランクはお前達を裏切って俺達の仲間になったといった事を言えば、こうなるのは容易に想像出来た。
実際、恐らくは本来ならクランクがギャラルホルンを裏切って、シャドウミラーに味方をするということはまずないのだろう。
しかし、それでもそのようなことになった。
それは鵬法璽というマジックアイテムを使ったからこそだ。
もし鵬法璽がなければ、恐らくクランクが決闘で負けたからといって、こちらに降伏するようなことはなかっただろう。
それこそ、自ら命を絶つといった選択をしてもおかしくはない。
良い意味でも、悪い意味でも、クランクはそういう……昔気質な人物なのだ。
武士的な性格をしているという表現の方が正しいのか。
この男もそれを理解しているからこそ、俺の言葉を信じることが出来ないのだろう。
……だからといって、こっちが負けてやる訳にもいかない。
本来の意味のシャドウミラーでもそうだが、このオルフェンズ世界においてのシャドウミラーも、俺の圧倒的な強さが一種の拠りどころになっている部分がある。
そうである以上、ここで俺が負けるなどといった訳にはいかないのだ。
その為、バトルアックスの一撃を受け流すと、バランスを崩したグレイズが態勢を立て直す前に、バトルアックスを振るう。
あっさりと左膝が破壊され、同時に120mmライフルで撃つ事により、右肘の関節が破壊される。
四肢切断……いや、二肢切断? そんな状況になったグレイズを蹴り飛ばす。
正直なところ、こうして襲ってきた以上は殺しても構わないとは思う。
思うのだが、一応クランクを慕っている奴だし、上手くクランクに説得させれば、こちらの戦力となる可能性も否定は出来なかった。
だからこそ、俺としてはここは見逃す。
原作において、クランクやこの男がどういう存在だったのかは分からない。
とはいえ、決闘の件を考えると……三日月が相手なら、恐らくはあっさりと死んでいたのだろう。
そしてこの男がクランクを慕っているのであれば、恐らくそのクランクを殺した三日月を決して許さなかった筈だ。
とはいえ、マクギリスやガエリオと違ってそこまでメインのキャラって感じはしないから、多分サブキャラ的な感じだったのだろう。
ともあれ、そういう奴でも仲間に入れられるのなら欲しいと思う。
これがホワイトスターと繋がっているのなら、そこまで考えなくてもいいのだが。
しかし、呪いのせいでホワイトスターと連絡出来ない以上、戦力は少しでも必要だった。
そんな風に思いながら、撤退していくグレイズを眺めるのだった。