クランク教の信者が撤退していったのを眺めていたが、三日月の方はどうなったのかと視線を向けると……ちょうどそこでは、あの妙に動きの良かったグレイズのコックピットをバルバトスが持つバトルアックスで潰したところだった。
恐らくは隊長とかそういう奴だったんだろうな。
そんな風に思っていると、隊長を殺されたからだろう。
他のグレイズ達も撤退していく。
オルクスについては、後できちんと落とし前を付けないといけないな。
そんな風に思いつつ、バルバドスのいる方に近付いていくと……バルバドスが、宇宙空間に漂っていた何かを確保していた。
「三日月、何をしてるんだ?」
『え? ああ、これ? あの青いMSとの戦いの中で奪った奴。何か使えそうだから、持ち帰っておこうと思って』
CGSで参番組として活動してきた三日月達としては、使える物は何でも使わないといけないと認識してるのだろう。
実際、それは俺も賛成ではある。
というか、あのワイヤー系の武器……出来れば俺が使いたいと思う。
「そうか。面白そうな武器だから、大事にしろよ」
『分かってるよ。それより、アクセルも自分のシャトルに戻った方がいいんじゃない? 方舟までもう少し掛かるらしいけど、また連中が攻めてこないとも限らないし』
「そうだな。なら、そうするか。……そう言えば、トドはどうなった?」
元々今回の一件は、トドを追放する為に仕組んだ事だ。
もっとも、当初はオルクス商会が攻撃を仕掛けて来るのだと思っていたのに、そこにギャラルホルンが来た事でかなり驚いたが。
シャドウミラーも込みだから、戦力的に足りないと判断してギャラルホルンを引き込んだのか、それともクーデリアがギャラルホルンに高く売れると判断してギャラルホルンを引き込んだのか。
何となく後者のような気がするな。
『ああ、何でもボコボコにしてからギャラルホルンに引き渡したらしいよ』
「そうか。そっちは無事に成功したか。なら、最低限の目的は果たした訳だ」
最低限ではなく、それにプラスしてギャラルホルンの戦力も結構な数、減らす事が出来た。
これはこれから俺達が活動する上で、非常に大きな意味を持つ。
もっとも、それは同時にギャラルホルンが俺達をより脅威として見て、かなり大規模に攻撃してくるという事を意味しているが。
『そうだね。じゃあ、俺は戻るから』
素っ気なく言うと、三日月はシャトルに戻っていく。
最近少しだけ分かってきたけど、三日月のこれは別に俺を嫌っているとかそういう訳じゃなくて、これが三日月にとっての普通なんだよな。
もっとも、俺とオルガの様子に少し嫉妬してるのもあるっぽいが。
そんな風に考えながら、シャトルに戻る。
そして格納庫――と呼ぶには狭いが――にグレイズを着艦させると、すぐに通信を送る。
「クランク、いるか?」
『はい、何ですかアクセル様』
「さっき、俺が最後に戦ったグレイズのパイロットだが、どうやらお前を慕っている奴らしい」
『それは……失礼しました』
「いや、別にそれはお前のせいじゃないから気にするな。それだけお前を慕っていたから、そういう行動に出たんだろうし。それで、あのグレイズのパイロットに心当たりはあるか?」
『そうですね。恐らくですが、アイン・ダルトンだと思われます。アインは、鉄華団……いえ、CGSの襲撃が初陣でした。その件もあって、あの戦いで負けた事を後悔してるのでしょう』
なるほど。
そのアインという奴にとっては、初陣で自分の仲間を多く失った訳だ。
実際、俺だけで結構な数を倒しているし、マーベルや三日月もMSを使ってかなりの数を倒している。
そう考えれば、アインの初陣は惨敗と呼ぶに相応しい結果になった訳だ。
ましてや、あの時はこっちが襲撃された側だったので追撃はしなかったが、もしあの時追撃をしていれば、間違いなくもっと大きな被害を受けた……いや、それどころかアイン本人が死んでいてもおかしくはない。
そんな風に思えば、一種のトラウマに近い状態になってもおかしくはなかった。
ましてや、その後の決闘で尊敬していた……懐いていたと言ってもいいだろうクランクが死んだ――戻ってこない事から、そう判断したのだろう――のだ。
初陣からのそんな諸々を考えると、アインが俺を猛烈に憎んでいてもおかしくはない。
……あれ? そうなると、もしかしたらアインは原作だと三日月を憎んで、ライバル的な存在になったりするのか?
てっきりサブキャラか何か。それこそ数話出て来てすぐに消えていく奴じゃないかと思っていたんだが。
ただ、クランクから聞いたバックボーンを考えると……ちょっと微妙なところだろう。
「話は分かった。それで……クランクはどうしたい?」
『……』
俺の言葉に、クランクが沈黙で返す。
俺に絶対服従のクランクだ。
それだけに、アインとかいう奴についても色々と思うところはあるのだろうが、それを口に出さないのは、ここで自分の言う事は俺の不利益になると思っているからだろう。
たっぷりと1分程が経過した後で、ようやくクランクが口を開く。
『その、出来ればでいいですが、私のようにシャドウミラーに所属するというのは出来ないでしょうか?』
「そう言われてもな。あの状態を見る限り、それはちょっと難しいと思うぞ?」
アインが純粋にクランクを慕っているのは間違いないが、だからこそ同時にクランクが本来考えられない事……具体的には、ギャラルホルンを裏切るような事をしたクランクをどう思うのかは、何となく予想出来る。
そんなのはクランクではないと納得しないか、クランクの偽物だと判断するか、あるいは何らかの手段でクランクを洗脳したと主張するか。
ぶっちゃけ、洗脳というのはそこまで間違っている訳でもないんだよな。
鵬法璽の力によって、俺に忠誠を誓わせたのだから。
『ですが、アインは才能のあるMSパイロットです。性格も真っ直ぐで、好感が持てます』
「その真っ直ぐさが半ば暴走して、今のような事になってるんだがな」
『それは……』
その辺についてはクランクも反論出来ないらしく、黙り込む。
「まぁ、いい。アインの様子を見れば、またギャラルホルンと戦う機会があれば襲ってくるのは間違いないだろう。その時はクランクに任せる。お前が引き入れられると判断したのなら、そうしても構わない」
『ありがとうございます』
取りあえず、これでアインについてはクランクに丸投げ出来るという事だな。
次にアインが襲ってきたら、クランクに任せればいい。
それで説得されるようなら問題はない。
説得が無理なようなら、クランクが自分でアインの始末をするだろう。
俺が何かをすれば問題がある感じになるだろうから、ここは完全にクランクに任せておいた方がいい。
そんな風に思いながら、俺は方舟に到着するのをグレイズのコックピットの中で待つのだった。
「アクセル様、ここに来るまでに問題があったようですね」
そう言い、副官が俺に向かって一礼する。
クランクから様付けで呼ばれていてもそこまで気にしなかったのは、こいつがいたから慣れていたというのもあるんだろうな。
もっともホワイトスターにいるエルフ達は俺を神と認識しており、だからこそ俺を様付けで呼ぶ。
そういう意味では、様付けで呼ぶのはそれなりに慣れていたりする。
……それが喜ぶべきことかどうかは、また別の話だが。
「そうだな。オルクス商会はともかく、まさかギャラルホルンが出てくるとは思わなかった。……それで、グランの整備状況は?」
「問題ありません。メンテは問題なく終わっており、普通に出撃出来ます」
「俺のMSの方は?」
「そちらも問題はありません。グシオンについての整備も終わっています」
ガンダム・グシオンではなく、グシオンと口にしたのは、短いが通信の中で俺がそう話していたのを知ったからだろう。
この辺の鋭さというか、気遣い? そういうのは俺にとっても決して悪くない。
本当に何でこんな奴がブルワーズに所属していたんだろうな。
「分かった。鉄華団と歩調を合わせて出撃する。恐らくだが、いずれギャラルホルンが襲撃してくる筈だ。グレイズを何機か出しておくから、宇宙で使えるようにしておけ」
「マン・ロディはどうするのでしょう?」
「そっちも使うつもりだが……ああ、いや。人数的に足りないか」
ガランとジャコバは、現在高密度デブリ帯にあるエイハブ・リアクターを探しに行っている。
そちらに結構な人手を割いているし、火星にあるシャドウミラーの拠点にある程度の依頼を受けたり、防衛戦力という意味でもそれなりの人数を置いてきた。
一応グランの方にも阿頼耶識を使える子供達が何人かいるし、大人組でもMSを操縦出来る者達がいる。
そういう意味では、それなりに戦力を保持しているのは間違いないものだった。
だが、それでも俺が用意したMSに乗るというのは難しい。
グレイズは性能が高いので、阿頼耶識を使えない大人組でも十分に戦力になるとは思うのだが。
「はい。ガランとジャコバと合流をすれば、戦力をある程度揃えられると思いますが」
「それまではMSはそこまで多くグランの格納庫には出さない方がいいか」
MSがあっても、それに乗る者がいなければ、格納庫で邪魔になるだけだ。
ただでさえ、グシオンやマン・ロディのように、装甲が厚い……つまり、場所を取るMSが多く使われているのだ。
普通のMSより、どうしても場所を取る。
「分かった。じゃあ、高密度デブリ帯に行くまでは現在あるMSで対応する。……エイハブ・リアクターと言えば、俺が見つけた未知のフレームは結局どうなったんだろうな」
高密度デブリ帯でエイハブ・リアクターを探しているという事で思い出したが、あの取引……決して愉快ではない取引から、それなりに時間が経つ。
だが、あの未知のフレームについての情報は、今のところまだ全くこちらには流れてきていない。
テイワズでも分からないような未知のフレームなのか?
もしあのフレームが貴重な物で、だからこそ俺からあのフレームを奪うといった事をするようなら、テイワズに殴り込む必要もある。
もっとも、それをやるにしてもクーデリアを地球まで連れていくという依頼が終わってからの話になるが。
「テイワズの方でもやはり苦戦しているのでは? こちらで調べても、何の情報も入手出来ないフレームでしたし」
「とはいえ、相手はテイワズだぞ?」
シャドウミラーのメカニックでは、何というフレームなのか分からないのは仕方がない。
だが、テイワズ程の大きな組織ともなれば、そこには多くの情報が集まっている筈だ。
それこそガンダム・フレームについての情報とかも俺が思っている以上にあってもおかしくはないだろう。
しかし……そんなテイワズでも、あの未知のフレームについて分からないというのは、そんな事があるのか? と疑問に思ってしまう。
「テイワズでもそう簡単に情報を入手出来ないフレーム……そう考えると、アクセル様の入手したあの未知のフレームはそれだけのお宝なのかもしれませんよ」
「だと、いいんだけどな」
その後も副官と打ち合わせをしてから、俺はクーデリアに会いにいく。
何だかんだと、クーデリアも初めて宇宙に出たのだ。
色々と困っている事があってもおかしくはない。
そう思っていたのだが……
「何だか、随分と子供に好かれているな」
俺がクーデリアを見つけたのは、食堂。
その食堂では、何故かクーデリアが子供達と一緒に料理をしていた。
いや、正確には子供達から料理を教わっている。
クーデリアが子供達……特に小さな子供達に好かれているのは、俺も知っていた。
だが、こうして子供達と一緒に料理をするというのは、俺にとっても予想外だった。
子供達とクーデリアが仲良くなるのは悪い事ではないのだが。
これから地球まで、それなりに移動時間がある。
その間、ずっとここにいるメンバーで暮らすのだから。
あ、でもイサリビに行ったりとか、そういう事も出来るな。
それはそれでちょっと面白そうだ。
「あ……」
料理をしていたクーデリアが、俺を見てその動きを止める。
「ほら、クーデリア。料理の途中で急に動きを止めない。危ないでしょ」
そんなクーデリアに、マーベルが注意する。
マーベルも一緒に料理をしていたらしい。
「ちょっ、マーベル。少し待って……その、アクセルが……」
「あら、アクセル。ちょうどいいところに来たわね。ハンバーガーを作ってるところなんだけど、食べていく?」
「いや、食べられるのなら食べるけど……何でハンバーガー?」
「私の国の料理だからよ」
そう言うマーベルに、俺は頷くことしか出来ない。
実際、マーベルの……というか、アメリカの料理と聞かれればハンバーガーを思い出す者も多いだろう。
そう考えると、俺に反論は出来ない。
それに……本場のハンバーガーを食べてみたいという思いもあるし。