『姐さんはやらせない!』
俺が胴体だけになったピンクのMSにとどめを刺すべく移動していると、グシオンの前に青いMSが姿を現す。
先程まで昭弘とクランクを相手にしていた、青いMSだ。
オープンチャンネルでそう叫んだのは、少しでも俺の注意を自分に向けさせようとしてだろう。
先程のピンクの機体とこの機体は、形そのものは変わらない。
違うのは色だけだ。
そうなると、色の違うどちらかはパーソナルカラー……つまり、腕利きなのだろう。
そしてどちらが腕利きなのかは、2機の動きを見れば明らかだった。
つまり、俺がたった今、四肢と頭部を破壊したMSの方だろう。
それが意味するのは……
「邪魔だ」
そう呟き、グシオンアックスを青いMSに向かって振るう。
本来なら、このMSは昭弘とクランクに……より正確には、MSに慣れる為に昭弘に任せるつもりだった。
しかし、こうして俺の前に立ち塞がったのなら仕方がない。
そう判断し、一撃でコックピットを潰そうとするが……青いMSは長剣でコックピットを守る。
それを見た瞬間にグシオンアックスの振るう軌道を変化させ、コックピットではなく下半身……膝から下を同時に破壊する。
ガンダム・フレーム特有の、2基のエイハブ・リアクターによる圧倒的な出力を活かした一撃によって、あっさりと青いMSの両膝から下は切断……というよりは、破壊という表現が相応しい状態になる。
宇宙空間でいきなり足を破壊されれば、当然だがその反動で機体は動く。
即座に状況を把握し、咄嗟にスラスターを噴射したのは悪くない判断力だ。
冷静に自分の状況を把握してるのはさすがだが……だからといって、この状況でどうにか出来る訳もない。
「じゃあな」
その言葉と共に、バランスを崩した影響でコックピットを守っていた長剣が離れたのを確認すると、コックピットに向かってグシオンアックスを叩き付けようとし……
『待ってくれ! 頼む、そいつらを殺さないでくれ!』
オープンチャンネルで名瀬がそう呼び掛けてきた。
その言葉と同時に、グシオンアックスの動きも止まる。
もし後数秒……いや、1秒でも遅ければ、恐らくこの青いMSのコックピットはグシオンアックスによって叩き潰されていただろう。
そう判断出来る……本当にギリギリのタイミングだった。
「へぇ、じゃあ、それは俺達に全面的に降伏する、無条件降伏をするという事か?」
『それは……』
「言っておくが、言葉はしっかりと選べよ。お前の言葉次第で、このまま戦闘は続けるからな」
そう言うと、名瀬はすぐに俺の言葉に頷く。
『分かった。無条件降伏をする』
「いいだろう。ついでに言っておくが、何かを企んでそれでまた戦いになった時、今度は何を言っても攻撃を止めたりはしない。問答無用で殺すからな」
『分かったよ。妙な事は考えない。それでいいんだろう? 全面的に降伏するよ。ラフタの奴にも戦闘中断の連絡は入れた』
ラフタ? と名瀬の言葉に疑問に思ったが、恐らく先程の信号弾の後で攻撃をしてきた敵……三日月を向かわせた相手だろうと判断する。
「そうか、それはよかったな。もしお前が降伏してきたのに、それでもそのラフタという奴が攻撃を止めなかったら……」
そこで言葉を止める。
それだけで、名瀬は俺が何を言いたいのか分かったのだろう。
映像モニタの向こうで大きく息を吐く。
『あんた……最初に通信で話した時もそうだったが、妙に当たりが厳しくないか?』
「それはそうだろう。お前はテイワズ直系の組織なんだろう? テイワズとの取引で不愉快な思いをした俺が、何でそんな相手に対して友好的になると思うんだ? ましてや、お前は戦いの前に随分と上から目線だったしな。それで友好的になれという方が無理だろう?」
『……参ったな、こりゃ』
名瀬が帽子で顔を隠す。
いやまぁ、無理もない。
名瀬にしてみれば、戦いの前に誰を敵にするのか分かっているのかとか、完全に上から目線で言っていたのに、実際に戦いになってみれば、こうしてあっさりと……それこそ戦いではなく一方的な蹂躙といった表現が相応しい終わりになったのだから。
いやまぁ、実際テイワズのMSも決して弱い訳じゃない。
特にピンクのMSのパイロットは、一流の操縦技術を持っていた。
だが……それでも、俺を相手にするには未熟だったのだ。
せめて、一流を超えた一流、超一流の域に足を踏み入れていれば、もう少しやり合えたんだろうが。
もしくは、阿頼耶識を使った操縦だったりしたらもう少し食い下がれたかもいしれないが。
これが原作だったら、当然だが俺を含めたシャドウミラーの存在はいなかったので、鉄華団だけでタービンズと戦うような流れになったのだろう。
そうなると、かなり苦戦……というか、勝ち目はなかった筈だ。
これも一種の原作介入なのかもしれないな。
「さて、ともあれ無条件降伏である以上は、色々と話し合いをしようか。マルバの扱いもあるしな」
そう言いつつ、ふと気が付く。
映像モニタにマルバの姿がないな。
イサリビで通信を受けた時は、あそこまでうるさかったってのに。
……いや、それが理由か?
あるいは、戦闘の最中に騒がれては邪魔になるから追い出したか。
もしくは戦闘の怖さに自分からブリッジから抜け出したのか。
何しろギャラルホルンの襲撃の時には、真っ先に逃げ出したくらいだし。
いやまぁ、ギャラルホルンと鉄華団……それとシャドウミラーを一緒にするのはどうかと思うけど。
『分かった。……俺も色々と話したい。ただ、こっちも準備がある。具体的には、その2人の救助とかな。そんな訳で、話をするのは1時間……いや、2時間後にしてくれないか?』
「それは構わないが、その時間で何か妙なことがあった場合、どうなるのかは……分かってるな?」
『あんたに勝てるとは思わねえよ』
ホールドアップといったように両手を挙げ、深々と息を吐いてそう言う。
名瀬にとって、今回の戦いは完全に予想外だったのだろう。
実際に戦いが始まる前の自信満々な態度からすると、タービンズの戦力にそれだけ自信があったんだろうし。
俺のナノラミネートアーマーを無効化する何らかの方法については警戒していたんだろうが……それでも何とか出来ると思っていたのか?
ともあれ、その結果がこの状況だ。
名瀬が完全に自分の敗北を認めるのも分からないでもない。
「それが分かっているのならいい。なら、2時間後に」
そう言い、俺は青とピンクのMSから離れていく。
そのままグランに向かっていると、クランクと昭弘のグレイズが近付いてきて通信を送ってくる。
『すいません、アクセルさん。あの青いMSを任されたのに』
申し訳なさそうな様子の昭弘。
そんな昭弘に対し、首を横に振る。
「気にするな。そもそも昭弘は、これが初めてのMS戦だろう? なら、まずはMSでの戦いに慣れるのが先決だ」
ぶっちゃけ、今回の戦いで昭弘が敵を撃破するとは、俺も思っていなかった。
今言ったように、あくまでも戦闘に慣れて貰うのが目的だったのだ。
そういう意味では、今回の昭弘の行動は決して悪いものではなかった。
「クランク、昭弘の行動はどうだった?」
『さすが阿頼耶識といったところでしょうか。普通なら、初めて乗るMSではそう簡単に自由に動かせたりはしないのですが』
そう言うクランクの言葉は、決してお世辞ではない。
それだけ阿頼耶識が凄い……いや、昭弘に才能があるという事なんだろうが。
「そうか。なら……ん?」
言葉を続けようとしたところで、映像モニタに映し出された光景を見て、止める。
そこには先程俺が戦ったタービンズのMSとはまた違った、別のMSの姿があった為だ。
なるほど、多分あれがタービンズの船が信号弾を使った時、グランやイサリビに攻撃を仕掛けようとしたMSなんだろう。
ラフタとかいう奴が乗ってるのが、あのMSなのだろう。
見た感じ、高機動型といったところか。
もっとも映像モニタを見る限りだとそれなりにダメージを受けている。
……仕方がないか。
向こうが出してきたMSは3機。
それと比べて、こっちが出したMSは結構な数になる。
ましてや、向こうは三日月のバルバトスやマーベルのグレイズ、昌弘や他にも何人かの子供組のマン・ロディ。
そういう意味では、向こうはかなり不利だったのだ。
寧ろそのような数と戦って、小破にもならないようなダメージだというのは、それだけあのMSのパイロットの技量が高いという証だろう。
『あれも、どうやらテイワズ独自のMSのようですな』
俺がかなり離れた位置をすれ違ったMSに注意を向けていると気が付いたのだろう。
クランクが通信でそう言ってくる。
「そうだな。性能的には……まだ詳細は分からないが、それなりに性能が高いように思えた」
もっとも、タービンズのMSパイロットの技量は高い。
それはあの青やピンクのMSのパイロットの動きを見れば明らかだ。
戦ってみた感じでは、ギャラルホルンのMSパイロットよりも上だろう。
もっとも、俺が知っているギャラルホルンのMSパイロットは、あくまでも火星支部の者達だ。
そしてギャラルホルンにとって、火星支部というのは左遷先的な感じに近いらしい。
……植民地、それももう殆ど旨みのなくなった植民地が任地と考えれば、それはそう間違っていないようにも思うけど。
そうなると、当然ながら性格的に問題のある奴や、MSの操縦技術が高くない落ちこぼれの集まる場所となってもおかしくはない。
そういう意味では、タービンズのMSパイロットの方が技量が上でもおかしな事はないのだろう。
『そうですな。……それより、今はまずグランに戻りましょう。タービンズとの会談まで、時間があるようでないのですから』
クランクの言葉に、どうせならもう少し会談までの時間に余裕を持たせるべきだったかとも思う。
だが、名瀬の性格を考えると、ここで下手に時間を与えすぎれば、それこそ何をするのか分からない。
そういう意味では、会談まで2時間というのはそんなに悪くない選択だったと思う。
それでも何かをしてくる可能性がないとは言わないが……自分達の力には強い自信があった名瀬が、あそこまで一方的に蹂躙されるといった状況になったのだ。
だとすれば、ここで何か妙な行動をしようものなら、今度こそタービンズという組織そのものが崩壊……破壊? とにかくそのような状況になる可能性がある。
そう考えれば、名瀬も迂闊な事は出来ないだろう。
他に考えられるとすれば、MSが母艦に戻ったのを見計らって即座にこの場から撤退するという方法もある。
そうすれば、あるいは今はどうにか逃げ切れるかもしれないが……タービンズというのは、テイワズの中でも物流を任されている組織だ。
それはつまり、どこか一ヶ所にいるのではなく、組織として宇宙の色々な場所を移動している訳だ。
そうなると、それこそいつシャドウミラーと遭遇するかも分からず、一度遭遇してしまえば、以前は逃げ出したという事実がある以上、即座に殲滅されてもおかしくはない。
また、俺の認識としてはテイワズ直系の組織であるタービンズと戦闘になった以上、テイワズに……あるいはテイワズ系列の組織を手当たり次第に攻撃しても構わない。
そんな諸々を考えると、名瀬が逃げ出すとは考えられなかった。
『その、アクセルさん。このMSはどうすれば?』
昭弘が困った様子で聞いてくる。
昭弘にしてみれば、自分の乗っているMSをどうすればいいのか分からないだろう。
「そうだな。取りあえずイサリビに持っていけ。現在のところ、イサリビが収容しているMSはバルバトスだけだろう? なら、そのグレイズは次も昭弘が乗る可能性が高いだろうから、イサリビにあった方が手っ取り早い」
『いいんですか?』
驚きの表情を浮かべる昭弘。
昭弘にしてみれば、自分がグレイズを借りて乗るのはこれが最初で最後だと思ったのだろう。
グレイズは現在のギャラルホルンにおいて最新鋭の量産型MSである以上、そのように思ってもおかしくはない。
「ああ、構わない。幸いなことに、MSはそれなりにあるしな。鉄華団としてこれから行動する以上、お前達にもMSは多い方がいいだろう」
バルバトスは間違いなく強力なMSだが、長年CGSの動力源として使われていただけに、どうしても性能を万全に発揮するのは難しい。
雪之丞率いるメカニック達が色々と頑張っているらしいのだが、それでもやはりそう簡単ではない。
そもそも、雪之丞達は今までMWの整備はしてきたが、MSの整備はした事がなかったらしいしな。
そう考えれば、何も分からない中で上手くやっていると思う。
シャドウミラーのメカニックから、色々とアドバイスを貰ってはいるらしいが。
『ありがとうございます』
「気にするな。ともあれ、2時間後にはまた事態が動く。今はそれに備えて準備をするようにな」
そう言いつつ、俺は映像モニタに表示されたグランに向かって移動するのだった。