グランでの話し合いが終わった後、俺達はさっそくタービンズの船に行く事にした。
シャトルに乗って話し合いに参加するのは、俺、オルガ、クーデリアの3人。
本来ならそれぞれに副官とかをつけた方がいいのだろうが、いざという時……それこそ名瀬が俺達を騙し討ちにしようとした時に、守るという事を考えると人数は少ない方がよかった。
とはいえ、シャトルを操縦しているのはクランクだし、シャトルの護衛としてマーベルのグレイズ、昌弘のマン・ロディ、三日月のバルバトス、昭弘のグレイズと、4機がいる。
タービンズに残りの戦力がどのくらいあるのかは、分からない。
とはいえ、他にもMSがあったら戦いの時に出撃させていただろう事を思えば、多分他にMSはないか、パイロットの技量に心配があるか。
ともあれ、MSの護衛が4機もいるのを思えば、名瀬が下手な真似をするとは思えない。
……そうなったらそうなったで、またこっちも相応の対処をすればいいだけなのだが。
そんな事を考えている間に、シャトルがタービンズの船の格納庫に入る。
シャトルの扉が開き、俺達はそこから出る。
するとそこでは……
「ようこそ、タービンズの母艦たるハンマーヘッドに」
最初に名瀬と通信をした時、名瀬の側にいた褐色の肌の女が俺達を待ち構えていた。
その女の周囲には他にも何人かいて、敵意に近い視線を向ける者や、好奇心に満ちた視線を向ける者、どう反応すればいいのか分からない、微妙な表情を浮かべる者といった具合に、様々な者達がいる。
「ハンマーヘッドか。……らしい名前だな」
ハンマーヘッドシャークという鮫がいる。
厄祭戦があったオルフェンズ世界で生き残っているのかどうかは分からないが。
ともあれ、そのハンマーヘッドシャークというのは、Tの字の頭部を持つ鮫で、まさにこの艦と似ているのだ。
この艦にハンマーヘッドと名付けたのも、その辺を知っている者だろう。
「へぇ、ハンマーヘッドの名前の由来を知ってるのかい? あれだけのMSの操縦技術に加えて、知性的でもあるなんて、うちの人に負けず劣らずだね」
その表現からすると、さっきの戦闘でMSに乗っていた奴か。
雰囲気と、名瀬の側にいたのを考えると……
「あのピンクのMSのパイロットか?」
「正解だよ。あんたに容赦なくやられたけどね。アミダ・アルカだ。よろしく」
そう言い、手を出してくる女……アミダ。
あそこまでボロボロにやられた割には、こちらに敵意を持ってないのか。
同時に、周囲にいる女達の中で俺に敵意を持ってる奴がいる理由も分かる。
……いやまぁ、アミダの生死もそうだが、それ以前にタービンズと敵対したという時点で敵意を向けてもおかしくはないのだが。
「意外だな。てっきり俺を恨んでると思ったんだが」
「MSはおしゃかだけど、あの状態で生き残ったんだ。幸運なのもあるけど、あんたが手加減をしてくれたからだろう? それで負けたのは、こっちが未熟だったからだ。それで恨むなんてみっともない真似、出来る筈がないだろう?」
そうアミダが言うと、俺に向けられていた敵意の視線が減る。
なるほど。これを狙っての言葉なのか?
……実際には、別にアミダを助けようと思って戦っていた訳ではない。
実際、最後にコックピットを狙った一撃を放とうとしたし。
あの時に青いMSが助けに入らなければ、間違いなくアミダは死んでいただろう。
もっとも、それはアミダも知っている筈だ。
それを知った上で、こうして俺のフォローをしてるのは……現状を詳しく認識しているのだろう。
実際、もしここで敵意を向けている奴が俺達を攻撃しようとした場合、どうなるのかは考えるまでもなく明らかだ。
それを知っているからこそ、皆を守る為にこういう行動に出ているのだろう。
「そうだな。取りあえずそういう事にしておくよ。……それで、俺達は話し合いに来た訳だが」
その言葉に、アミダは一瞬だけ眉を動かす。
分かってはいても、好ましい事ではないのだろう。
とはいえ、だからといってここで俺の言葉を拒否する訳にもいかず……
「分かったよ。案内する。ほら、皆もそれぞれ仕事に戻りな」
アミダの言葉に、集まっていた女達はすぐに仕事に戻っていく。
この辺りの統率力はさすがだな。
「じゃあ……そう言えば、シャトルのパイロットはどうするんだい?」
「ここに残しておく。一応この船……ハンマーヘッドの周囲にも護衛のMSはいるけど、何かあった時には相応の行動をする予定だから、妙な事は考えないでいてくれると助かる」
「あのねぇ……そんな行動がどうとか言われても、うちのMSはあんたが2機も壊したじゃないか」
「そうだな、2機は使えなくした。……けど、高機動型が1機、まだ残っているだろう?」
三日月の性格を考えれば、あの状況で手を抜くという事は考えられない。
それはつまり、あの戦いの中で敵の高機動型を撃破する事は出来なかったのだろう。
そういう意味では、あの高機動型のパイロットは結構な技量を持っているという事になる。
「それでも、この状況で妙な事をしたりはしないよ」
「だといいんだけどな」
「信用がないね」
「それはそうだろう。マルバの口車に乗って、俺達を脅してきたんだ。結果として脅した相手にこの有様だが。……そんな状況で、どう信用しろと? 正直なところ、俺としては今後の憂いを取り除くという意味で、ここでタービンズには消滅して貰った方がいいかもしれないと思ったくらいだ」
「冗談……って訳じゃないみたいだね」
最初は俺の言葉を冗談だと思ったらしいアミダだったが、俺の様子を見てすぐに真剣な表情になる。
ちなみに俺の横では、マルバの名前に嫌な事でも思いだしたのか、オルガが片目を閉じたまま微かにコメカミをヒクつかせていた。
「ああ。冗談でも何でもない。通信でも言ったが、俺がその気になればテイワズの全てを相手にしても勝利出来る自信……いや、確信があるしな」
もっとも、その時はサラマンダーやミロンガ改、もしくはニーズヘッグを使うのが前提だが。
テスラ・ドライブとかは移動に推進剤を使わないが、エイハブ・リアクターを使ったMSは移動するのに推進剤を使うから、ずっと行動は出来ないんだよな。
そういう意味では、このオルフェンズ世界のMSでテイワズと戦うのは難しいかもしれない。
まぁ、別に一度に勝負をつける訳じゃない以上、補給しながら戦うといった事も可能なのだが。
「……そうかい」
アミダの俺を見る目は、今の一言で明らかに変わった。
俺の言葉が本当なのか、それともハッタリで言ってるだけなのか。
それが分からないのだろう。
普通に考えれば、ハッタリだとしか思えないだろう。
しかし、タービンズの中で恐らくは最も腕の立つアミダは俺によって瞬く間にやられた。
ナノラミネートアーマーを無効化する何らかの方法を俺が持っている以上、もしかしたら……そう思ったのだろう。
普通に考えれば、何らかの特殊な装置を使って作った銃弾による攻撃だとか、そんな風に予想する筈だ。
まさか精神コマンドなどというものを使ってるとは、全く思わないだろう。
そして銃弾であったり、あるいはそれ以外の何かであったりした場合、俺だけが使える訳ではなく、シャドウミラーの他の者達や、俺達と協力関係にある鉄華団にもその銃弾か、あるいは技術か。そういうのを譲渡する可能性は十分にあった。
「名瀬にも言うつもりだが、次からは喧嘩を売る相手はよく選ぶんだな」
「……そうだね。肝に銘じておくよ。さて、ついた、あそこだよ」
会話をしながら歩いていたので、どうやらいつの間にかついたらしい。
俺とアミダの後ろをついてきたオルガとクーデリアに視線を向けると、2人揃って真剣な表情を浮かべている。
ただ……なんだ? ちょっとクーデリアが不機嫌そうな様子だが。
一体何故そんな風になっているのかは、俺にも分からない。
分からないが、それでも今の状況を思えばずっとそうしている訳にはいかない。
「クーデリア、どうかしたか?」
「っ!? ……え? いえ、何でもありません」
俺の言葉で我に返った様子でそう言うクーデリア。
どうやら今は理由はともあれ、不機嫌になっているような場合ではないと気が付いたらしい。
「ふふっ、可愛いねぇ……」
「アミダ?」
「何でもないよ。それより、準備はいいかい?」
改めて確認してくるアミダに頷く。
「別にこっちが何らかの準備をする必要はないしな」
扉を開けた瞬間、待ち構えていた名瀬が銃を撃ってくる……なんて事でもあれば話は別だが、まさかそんな事をするとも思えない。
なら、俺がやるべきなのは特に気にせず部屋の中に入る事だけだ。
「そうだね。じゃあ……開けるよ」
そう言い、アミダが扉を開ける。
「ようこそ。シャドウミラーに鉄華団、それと革命の乙女」
扉が開くと、その中で待っていた名瀬が立ち上がると帽子を脱ぎ、それを手に深々と一礼してそう告げる。
微妙に演技めいているように思えるのは、きっと俺の気のせいという訳ではないのだろう。
「随分と元気なんだな。てっきり、もっと落ち込んでるのかと思ったんだが」
「いや、落ち込んでるぜ? 正直なところ、タービンズはテイワズの中でも精鋭揃いと言ってもいい戦力だ。それがあんなにあっという間にやられたんだからな。ただ……それでも、アミダやアジーといった、俺の愛しい女達が死ななかったんだ。あんた程の敵と戦って無事に生きて返ってきたんだから、十分幸運だと思うぜ?」
今の一言で幾つか気になった事がある。
まず第一に、タービンズがテイワズ系列の組織の中でも精鋭だという話だ。
もしそれが事実だとしたら、わざわざそれを俺達に知らせる意味はなんだ?
単純に俺達を敵に回したくないと思っての発言なのか。
そして次に、アミダとアジー……アミダがピンクのMSなら、アジーというのは青いMSに乗っていたパイロットだと思うが、そのパイロットが愛しい女達というものだ。
こちらに関しては……うん。俺が個人的に気になる事だが。
格納庫からここまで移動する中で、俺は男の姿を見ていない。
その状況と名瀬の言動から考えると……多分そういう事なんだろう。
「とにかく、こうして立ったままってのもなんだ。座って話をしよう。……アミダ、お茶を頼む、飛びきりの奴をな」
「分かったよ。最上級の茶葉を使って淹れてくるから、待ってな」
そう言い、アミダは部屋から出ていく。
それを見送り、勧められるままにソファに座ったところで、一応という風に言っておく。
「ちなみに毒とかそういうのが入っていた場合、こっちも相応の対処をするからな」
「そんな事をする筈がないだろう?」
そう言う名瀬だったが、果たしてその言葉はどこまで信じていいものやら。
MSを使った戦いではどうしようもない状態であるのは、既に名瀬も理解している筈だ。
なら、毒を使って……といった考えになっても、おかしくはない。
もっとも、そうなっても俺には効果がないが。
ただ、問題なのは俺には効果がなくても、オルガとクーデリアには効果がある事だろう。
「そうだな。そう信じているよ。今のどうしようもない状況を一変させられるという風に思っても、心が動かない事を期待している」
「……その辺については、信じて貰うしかないな」
そう言う名瀬だったが、それを口にするまでに一瞬の沈黙があったのを考えると、実行するしないは別として、毒殺について多少は考えたのは間違いないのだろう。
考えるだけなら自由だし、その件については俺がこれ以上どうこう言ったりする必要はないだろうから、特にこれといって突っ込むような事はしないが。
「そうか。なら、お前達が負けた件についての話は、そのお茶を飲んでからにするか。オルガとクーデリアもそれでいいか?」
「構いません」
「ええ、問題ありません」
オルガとクーデリアがそれぞれ俺の言葉に頷く。
名瀬もそんな2人を一瞥しているが……それでも最後には俺に視線が向けられる。
名瀬にとっても、今回の交渉の相手で一番手強いのは俺だと認識してるのだろう。
そうしているうちに、やがてアミダが戻ってくる。
……少し、いや大分驚いたのは、持ってきたお茶が紅茶の類ではなく日本茶……いわゆる緑茶だった事だ。
こういう場合は紅茶が出てくるものだとばかり思っていたのだが。
というか、名瀬という名前からもそうだと思ったが、日本系の人種なのか?
いやまぁ、日本系の名前というのであれば三日月や昌弘、昭弘とかもだから、そんなに驚くような事ではないのかもしれないが。
「自分で言うのも何だが、かなり良い茶葉だ。テイワズの幹部でもそう飲めるものじゃない」
名瀬の言葉に、緑茶の入ったコップを口に運び……それを飲む。
紅茶派の俺だが、緑茶とかそういのも嫌いではない。
ただ、それはペットボトルとかのそういうお茶だが。
確かにそれらと比べると、この緑茶は美味い。
また、名瀬が公言していたように、毒の類も入っていなかった。