あれ? これってついさっきも同じような事がなかったか?
そう思いながら、俺はオルガに視線を向ける。
俺と名瀬の兄弟の杯に、自分も一緒にやらせてくれと言ってきたオルガを。
「……お前は?」
マクマードがオルガに向け、そう尋ねる。
最初に会った時のような、テイワズのトップとしての迫力を滲ませながら。
「オルガ……オルガ・イツカです」
マクマードも当然ながら、名瀬からの報告でオルガの名前くらいは知っている筈だ。
それでもこうして改めて聞いたのは、俺と名瀬……いや、より正確にはテイワズの今後に関わるだろう兄弟分の杯の話に、横から入り込んできたというのも大きいのだろう。
問答無用で却下しなかったのは、オルガが俺と一緒にここに来たから……つまり、俺の仲間だと認識されているからか。
「そうか。……それで、オルガ。一体何だって今のような事を? 一応言っておくが、今なら冗談だったですませてやってもいいが」
そう言うマクマードから発せられるプレッシャーは、一段と上がる。
それこそ、もしここでオルガが妙な事を言ったら、ただじゃおかないと態度で示しているかのような、そんな態度。
実際、マクマードから発せられるプレッシャーに、オルガの身を案じてだろう。三日月が微かに身体を動かしているのが分かる。
もしマクマードがオルガに何かをしようものなら、三日月は即座にマクマードを殺そうとするだろう。
オルガと互いに依存しあっている関係……というのが近い三日月だけに、相手がどんな人物であっても、オルガに危害を加えるのなら容赦なく殺すのが三日月なのだから。
オルガはマクマードに睨み付けられながらも、片手で三日月の動きを牽制するような仕草をしながら口を開く。
「俺達は、これまでアクセルさんに助けられてきました。特に俺達の仲間の弟がヒューマンデブリだったのを救って貰っています。それ以外に、ギャラルホルンに襲われた時もアクセルさん達がいなければ負けていたかもしれません。そうなれば、俺達は……」
そこまで言うが、最後まで口には出さない。
実際、あの時の襲撃でオルガ達が負けていればどうなっていたか分からない。
そして俺達がいなければ、オルガ達は間違いなく負けていただろう。
何しろバルバトスは途中から動けなくなったのだから。
そういう意味では、それを助けた俺にオルガが感謝するのはそうおかしな話ではない。
「なるほどな。だが、お前がアクセルに感謝してるからといって、兄弟分の杯に参加するって理由にはならないと思うが?」
「そうかもしれません。ですが、アクセルさんとの関係を思えば、この機会にしっかりとしておいた方がいいと思っただけです」
「……なるほどな。アクセル、お前はどう思う?」
マクマードが最初に俺に聞いてきたのは、今回の一件の中心が俺だからだろう。
もし俺が否と言えば、マクマードはオルガの要望を却下する筈だ。
だが……俺がオルガを気に入ってるのは、間違いない。
俺が気に入ってるという以外にも、この世界の原作の主人公である三日月がオルガの相棒であるのは間違いない。
お互いに依存している状況だが、それで俺がそこにこういう形で介入してもいいのか。
もっとも、ギャラルホルンとの戦いの事を思えば、そして植民地である火星の独立について思えば、やはりここは俺も受け入れた方がいいのだろう。
「俺は構わない。別に兄弟の杯を交わしたからといって、今までの関係が変わる訳でもないしな」
「アクセルさん……いや、その……アクセルの兄貴」
「早いって」
感動した様子で俺にそう声を掛けてくるオルガだったが、杯を交わす云々の前に、まだそうなると話も決まってないのに、兄貴呼びはどうなんだ?
「くくっ、好かれてるようで何よりじゃねえか。……名瀬、お前はどうだ?」
「アクセルがいいって言ってるんだから、俺が反対は出来ませんよ。これでオルガが問題のある奴ならともかく、そうじゃないですし」
何だかんだで、どうやら名瀬もオルガは気に入っていたらしい。
「分かった。……じゃあ、兄弟の杯は三人でやる事にする。もっとも、その前にアクセルの実力を他の幹部達に見せつける必要があるがな」
そうして兄弟分の杯についての話は終わり……
「ああ、ちなみに百錬と百里の件、それと新型機を開発したら5機ずつってのは、構わねえ。受け入れる」
予想外にあっさりと、俺の他の要望を受け入れるマクマード。
とはいえ、その気持ちも分からないではない。
俺を敵に回す危険性を理解し、だからこそ俺と名瀬、そしてオルガの兄弟分の杯についての話を纏めたのに、ここで俺の要望を却下した場合、それが無意味になると判断したからなのだろう。
もしくは、新型機はそう簡単に出来ないと思っているからか。
ともあれ、こっちの要望が受け入れられたのは助かる。
「となると、その模擬戦は俺が今乗っているグシオンじゃなくて、百錬か百里を使った方がいいか? ガンダム・フレームのMSという事で、グシオンを使えば元から有利だとか、妙な文句を言われそうだし」
「……それは構わないが、大丈夫なのか?」
「問題ない」
マクマードの言葉に、あっさりとそう告げる。
実際、百錬と百里は双方ともテイワズの新型MSではあるものの、グレイズと同等か少し下といった程度の性能だ。
俺が提案したのは、機動性や運動性については重装甲のグシオンよりも動かしやすいと判断したからなのだが。
「分かった。どっちも出来るだけ早くそっちに送っておこう。百錬の方はシングルナンバーの機体を用意する」
「……シングルナンバー?」
「いや、けど親父……シングルナンバーはタービンズもそうだけど、9つの組織にもう渡ってるだろ。そうなると、どこかの組織から取り上げる必要がある」
マクマードの言葉に名瀬がそう反応するが、それ以前に俺の分からないことを話して欲しいんだが。
「ちょっと待ってくれ。そもそも、そのシングルナンバーってのは一体何なんだ? そこから説明してくれ」
「ああ、すまねえ。アクセルには分からないか。えっと、まずシングルナンバーというのは、その名の通り百錬の中でも最初に作られた9機だ。この9機はフレームとかにも高純度の木星メタルを使用した事で、シングルナンバー以外……つまり10機目以降の機体よりも反応速度や最高出力が上なんだ」
「……なるほど。つまり上位機種って感じか」
俺に分かりやすい例だと、通常のザクとS型、あるいはズゴックとS型といった感じか?
もしくはガンダムと陸戦型ガンダム……いや、これはちょっと違うな。
ああ、リーオーとトールギス、ウイングガンダムとウイングガンダムゼロとか?
これについては、俺の正体を言えない以上、言う必要はないか。
「まぁ、大体そんな感じだ。で、さっきも言ったがこのシングルナンバーというのはテイワズの下部組織に配備されている」
「……つまり、俺にシングルナンバーを与えたいけど、在庫はもうないと?」
「そうなる。……で、親父。どうするんです?」
「丁度いいじゃねえか。ジャスレイの部下がアクセルを相手にふざけた真似をしたんだろう? そのペナルティとして、JPTトラストに渡したシングルナンバーをアクセルに渡す」
「いや、それは……そうなったら、大きな問題になりますよ?」
マクマードの言葉に慌てたようにそう言う名瀬。
だが、マクマードはそんな名瀬の様子を見ても特に驚くような様子はない。
マクマードの事だし、今の提案に名瀬が反対するというのは分かっていたのだろう。
「だろうな。だが、ケジメは必要だ。ましてや、アクセルとの取引では大量のエイハブ・リアクターを購入出来たし、何より未知のフレームを解析出来れば、それはテイワズにとって非常に大きな利益となる」
「それは……まぁ、そうですけど。百里や百錬で使っているテイワズ・フレームも完成はしましたが、まだ見直す場所はありますし」
マクマードの言葉に名瀬がそう言う。
けど、なるほど。百錬や百里のフレームはテイワズ・フレームと名付けたのか。
その気持ちは分からないでもない。
MSはギャラルホルンしか作れないと言われていた中でも、エイハブ・リアクターはともかく、フレームだけでも自分達で作ったのだ。
これははっきり言って快挙だろう。
そんなフレームだけに、自分達の組織の名前を付けるのは分からないでもなかった。
「そんな恩のある相手……それも俺がテイワズと同等の相手と認める組織を率いる人物の顔に泥を塗るような事をしたんだ。ケジメが必要なのは明らかだろう。それに……もしどうしてもそれが許せないってんなら、模擬戦でアクセルに勝てと言えばいい。そうすれば、シングルナンバーも返すし、アクセルとの関係も見直すと言ってやるよ」
「……また、随分と俺を信頼してるんだな」
マクマードが自信たっぷりに言う。
それは俺にとっても驚き……いや、疑問だった。
何故なら、俺とマクマードはまだ会ったばかりなのだ。
そんなマクマードが、そこまで俺の力を信じるというのは……いや、だからこそテイワズを率いるだけの実力者になってるのかもしれないが。
「名瀬の報告を見れば当然だろう」
「親父……」
マクマードの言葉が名瀬の琴線に触れたらしい。
名瀬が真剣な表情でマクマードに頭を下げる。
「よせよ。……それより、アクセルの件についてはこれでいいな? なら次だ。とはいえ、鉄華団だったか。そいつらに協力するのは問題ないんだろう?」
「あ、はい。ただ、アミダの百錬は標準の奴になりますが。そちらもすぐに補給されるって話です」
「分かった。……それでいいな?」
「問題ありません」
マクマードの言葉にオルガが頷く。
こうして鉄華団の話については、俺の時とは違ってあっさりと終わる。
そして次はクーデリアの件……火星に対する投資の件になる。
「さて、そっちのお嬢さんからの要望は火星に対する投資だったな」
「はい。火星のこれからの事を考えると、投資は必要です」
「だろうな。今の火星は出涸らしと呼ばれるくらいだ」
マクマードのその言葉に、クーデリアは一瞬不満そうな表情を浮かべる。
出涸らしという表現が気に食わなかったのだろう。
だが、実際そういう風に言われているのは事実だし、俺も聞いた事がある。
もっとも、火星は本当の意味で出涸らしかと言えば決してそんな訳ではなく……
「私が希望する投資は、ハーフメタルの施設についてです」
「だろうな」
マクマードが特に驚いた様子もなく頷く。
現在の火星で有力な輸出品……物資となると、ハーフメタルしかないというのはマクマードも分かっていたのだろう。
勿論、絶対にハーフメタルだけという訳ではない。
例えば、今はまだ見つかっていないものであっても、この先何か新しい資源とかが見つかる可能性は否定出来ない。
何しろ、ハーフメタルもその名の通り金属だ。
採掘する必要がある以上、有限な資源な訳だ。
今はまだ埋蔵量に大分余裕があるの事実だが、それも掘り続ければやがてなくなる。
だからこそ、いずれ……ハーフメタルの埋蔵量がもう駄目になった時にすぐ対処出来るように準備はしておいた方がいいと思うが。
とはいえ、エイハブ・リアクターを使っている以上、ハーフメタルの需要が途切れる事はないだろうが。
「現在もハーフメタルの発掘は行われていますが、その製錬技術は決して高くありません。それに規模も小さく、それによってロスが発生しています。もっとも、現在判明しているハーフメタルの埋蔵量はかなりのものなので、現状でも問題はないかもしれません。ですが、もっと効率的に……そして大規模にハーフメタルの発掘作業をやれば、今よりも多くの火星の人達を救えます」
「……なるほどな。話は分かった。だが、お嬢さんが言ったようにこれは投資だ。つまり、こっちにもリターンが必要になる。そして、そのリターンはハーフメタル利権にテイワズも噛ませて貰うという事だ。どうだ? それでも投資を希望するか?」
マクマードの言葉は、一種のクーデリアに対する試しだろう。
もっとも、実際に金だけを出して利益を与えないという方法もない訳ではない。
ただ、その場合は当然ながらテイワズに利益のある投資と比べると、どうしても金額は少なくなるだろう。
ましてや、ハーフメタルの利権についてはシャドウミラーにも地球までの護衛の報酬として渡すと話はついている。
そんな中で更にハーフメタルの利権を渡すとなると、それはクーデリアの……つまり、火星の住人に還元する利益が少なくなるという事を意味していた。
もっとも、これも考えようだ。
多少の利益をテイワズに渡すという事で、より大規模にハーフメタルの採掘をする事が出来れば、最終的にはそれだけたくさんの利益を火星の住人に還元出来るのだから。
「分かりました。それでも構いませんので、投資をお願いします」
クーデリアも俺と同じ結論になったのか、それとも違う結論になったのかは分からないが、そう言うのだった。