マクマードとの話……このテイワズでするべき重要な話の大半をそれで片付けると、俺はマクマードが呼んでくれた男に案内されて、とある場所にやって来ていた。
ちなみに他の面々……オルガ、三日月、クーデリアの3人はそれぞれグランとイサリビに戻り、名瀬はマクマードに言われて何かの用事をこなしているので、ここにいるのは俺だけだ。
そして……
「おお、あんたがあのフレームを持ち込んでくれた人か! しかも、ガンダム・フレームも見させてくれるとかいう。ありがとう、ありがとう」
俺を連れてきた黒服の男と会話を交わすと、その男は俺の前までやってきて、そう感謝の言葉を述べる。
褪せた金髪とバンダナが特徴的な眼鏡を掛けた中年……それとも初老? ちょっと顔を見ただけでは年齢が分かりにくいな。
まぁ、このオルフェンズ世界においては技術的な進歩である程度の不老……というか、長寿の技術もあるらしいので、その辺は何とも言えないが。
「私はこの歳星で整備長をしている者だ。整備長とそのまま呼んでくれればいい」
いいのか?
そう思ったが、本人がそう言ってるようだし……
「整備長、ちょっといいですか?」
「っと、ちょっと待っていてくれ」
そう言い、近付いて来た他のメカニックとの会話をする。
その様子を見ると、本当に整備長と呼ばれているらしい。
あるいは、そういうキャラ付けなのかもしれないな。
俺にしてみれば、整備長という肩書きだけ分かっていれば問題ないので、その辺は構わないが。
そんな事を考えている間に、話し掛けてきたメカニックに指示を出し終えると、再びこちらに戻ってくる。
「それで、どこまで話したんだったか」
「いや、まだ何も話してないが」
「む、そうだったか。それで、君が預けたフレームだが……よくあんなフレームを見つけたね。それこそ砂漠で砂金を1粒見つけるのと、そう違いはないくらいの確率だと思うよ」
「そこまでか」
「ああ。……まぁ、勿体ぶるのもなんだし、単刀直入に言おうか。君が持ってきたフレームは、ヴァルキュリア・フレーム。正確には分からないが、恐らくこの世界に10機あるかどうかといった、希少な……本当に希少なフレームだよ」
「マジか」
整備長の言葉に、思わずそう突っ込む。
ガンダム・フレームより貴重だというだけで、俺にとっては完全に予想外だった。
「ああ、マジだとも。このヴァルキュリア・フレームというのは、厄祭戦の時にガンダム・フレームと同時期に開発されたのだが、エイハブ・リアクターを2基使えるガンダム・フレームの方に注目が集まって、結局殆ど製造されなかったというフレームだ。ガンダム・フレームよりも軽量でしかもエネルギー効率がいい。そういう意味で、素性のいいフレームではある。実際、厄祭戦が終わった後、ギャラルホルンはこのヴァルキュリア・フレームをベースに新しいフレームを開発し、それで新しいMSを作っていったくらいだ」
その言葉に、このフレームを見つけた時の事を思い出す。
確か、どこかグレイズに似ている部分があるとか何とか。そんな風にグランのメカニックが言っていたように思う。
「つまり、現在ギャラルホルンで使われているグレイズの祖先? いや、グレイズの前にはゲイレールがあった筈だから、それがヴァルキュリア・フレームの直系と考えればいいのか?」
「そうだ。よく知っていたな。グレイズ・フレームはこのヴァルキュリア・フレームの子孫という訳だ」
「……火星から地球に向かう途中にある高密度デブリ帯でこのフレームを見つけた時、うちのメカニック達がグレイズ・フレームに類似点があるとか言ってたけど、間違ってなかったのか」
「ほう、それに気が付いたとはなかなかだな。さっきも言ったが、このヴァルキュリア・フレームは歴史上10機作られたかどうかといったくらいに希少だ。つまり……このヴァルキュリア・フレームを使ってMSを作るとなると……」
整備長はそこまで言うと、顔を顰める。
それを見れば、明らかに難しいと言っているように思えた。
「難しいのか?」
「そうだな。ガンダム・フレームでも、厄祭戦時にどのような形状だったのかを確認するのは難しい。それよりも数が少ないヴァルキュリア・フレームとなると……」
「どうにかならないか?」
こう言ったのは、やはりヴァルキュリア・フレームがガンダム・フレームと張り合うだけの性能を持っていると思えたからだ。
機構的には古いのかもしれない。
だが、このオルフェンズ世界においては、それこそ厄祭戦の時に作られたロディ・フレームやヘキサ・フレームのMSが普通に使われている。
つまり、ガンダム・フレームと張り合うだけの性能を持つヴァルキュリア・フレームを使ったMSとなると、それはガンダム・フレームを使ったMS……ガンダムと同じくらいの切り札になってもおかしくはない。
それ以外にも、未知の技術を集めるというシャドウミラーの国是的な意味でも大きいが。
「そう言われても……あ、いや。ちょっと待ってくれ。確か以前テイワズの情報網で……ちょっと待っててくれ。少し調べてくる!」
そう言うと、整備長は俺の返事を聞く事もなく、どこかに向かう。
えっと、それはつまり、俺がここで整備長が戻ってくるまで待ってるしかないのか?
ここで帰っても、それはそれで構わないとは思う。
思うのだが、そうなるとヴァルキュリア・フレームを使ったMSについての情報はなかなか入手出来ないという事になる。
そうならないようにする為には、やはりここで待っている方がいいだろう。
とはいえ、特に見ていてもやるべき事はない。
ヴァルキュリア・フレームを眺めていてもいいのだが……うん?
周囲に何か面白いものでもないかと見ていたのだが、かなり離れた場所に光る何かを見つける。
ここは歳星の中でも最も大きな格納庫というか、整備場というか、そんな感じの場所なので、かなりの広さがある。
そんな場所でかなり遠くなので、混沌精霊に俺の視力があったからこそ見えたのだろう。
光っている何か。
それを見た時、微妙に嫌な予感がした。
その何かに、心当たりがあった為だ。
マクマードから聞いた、ジャスレイとかいう奴の癖……癖? 性癖? 個性? まぁ、そんな感じの事。
そんな俺の予想は、見事に当たる。
金色に輝いているのは、百錬だったのだから。
なるほど、マクマードが俺に引き渡す前に調べる以上、JPTトラストの息が掛かっている訳ではない……いや、多少は息が掛かっているのかもしれないが、それでもテイワズを率いるマクマードの方が大きな影響力を持つここを使うのは、そうおかしな話ではない。
後は、それを承知の上でジャスレイとやらが何か妙な事をしてこないといいけど。……名瀬の様子を見る限り、何かしかねないのは間違いないんだよな。
そんな風に思っていると、予想していたよりも早く整備長が戻ってくる。
「どうしたんだい?」
「いや、あれ……って言っても見えないか。向こうに金色の百錬があってな。俺に引き渡される、シングルナンバーの奴だ。話には聞いていたが、本当に金色だとは思ってもみなかった」
「ああ、その件か。話は聞いてるよ。その百錬に乗って模擬戦をやるんだろう? 30機相手は無謀だとしか思えないけど」
「その辺は心配するな。特に問題はないから」
「……まぁ、いい。ヴァルキュリア・フレームなんて希少品や、グシオンやバルバトスといったガンダム・フレームを持ってきてくれたお礼に、あの百錬に何か妙な仕掛けがないかどうか、あるいは仕掛ける者がいないかどうかは、厳しく見ておくよ」
「そうしてくれると、俺としても助かるな。……それで、ヴァルキュリア・フレームの件は?」
そう言うと、整備長の表情は瞬時に興奮したものになる。
いや、これ……本当に大丈夫なのか? と思いたくなるくらいの様子だ。
「以前何かで見た記憶があったけど、モンターク商会という商会でヴァルキュリア・フレームのMSを使ってるようだね。外見データはこれだ」
そう言い、整備長はPDAをこちらに渡してくる。
PDAに表示されているMSは動画ではなく静止画だが……なるほど、外見は悪くない。
いや、悪くないどころか、ぶっちゃけかなりいい。
グシオンと比べれば、圧倒的に上だった。
特徴としては、頭から耳に見えるようなパーツがある事か。
実はウサギをモチーフにしたMSとかじゃないよな?
「いいな、これ」
「おや。そうかい? てっきりアクセルの事だからもっと重装甲でないと嫌だと言うと思ったんだけど」
「何か勘違いしてるようだが、グシオンは俺が奪った時にああいう外見で、それを大々的に改修出来るメンバーがいなかったから、そのまま使ってるだけだ」
「へぇ、そうなのかい? なら、グシオンをもっと使いやすいように改修しても?」
「ああ、それは構わない。いや、寧ろ望むところだ。俺にとっては百錬のように高機動型のMSの方が使いやすい」
「だろうね。あのグシオンは、生存性に特化したMSだ。おまけに重装甲だから燃費も悪い」
そうなんだよな。外見が好みではないというのもあるが、それ以上に燃費の問題が大きい。
「まぁ、その辺については後で話すとして……まずはこっちだな。データはこれしかないみたいだけど、このまま作れるのか?」
PDAにあるのは静止画のデータだけだ。
他にも何枚かあって、一応全身を前後左右上下から確認出来るようにはなっているものの、だからといってそれだけでMSを作れる訳がない。
外見データ以外にも、様々なデータが必要なのは間違いないのだから。
「そうだね。もしこのMS……えっと、名前はグリムゲルデというらしいけど、これと同じMSにしたいのなら、モンターク商会と取引をして、機体データとかを貰う必要があるだろうね」
「出来るか?」
普通に考えると、そのグリムゲルデというMSはモンターク商会にとって切り札だろう。
何しろ、ヴァルキュリア・フレームはガンダム・フレームよりも数が少なく、希少なのだ。
であれば、そんな切り札のデータを他人に対して容易に渡すかと考えると……ちょっと難しい。
「どうだろうね。ただ、出来るかどうかは分からないけど、試してみないと何とも言えないだろう?」
「まぁ、それは否定しない」
どんなに難しいことでも、実際に試してみなければ、それが叶う可能性はゼロなのだ。
試してみれば、それが1%……あるいはもっと可能性は高いかもしれないが、それでもゼロではない。
特にテイワズという巨大な組織……実際にはマフィアやギャングといった連中だと考えれば、モンターク商会とやらも取引に応じる可能性があってもおかしくはない。
「だろう? ……ただ、もし断られた場合は、百錬……いや、百里の方がいいか? そっちのMSを作った経験を活かして、そちら方面のMSになると思うけど」
「それはそれで構わない。まぁ、MSについては困ってないし、ヴァルキュリア・フレームについては暫く預けておくよ」
実際、MSについてはグランに搭載しているマン・ロディや、昭弘に貸したグレイズもある。
ましてや、空間倉庫に中には大量のグレイズやMWすらあるのだ。
……ああ、そう言えばギャラルホルンのMWは特に使う様子もないし、グランとイサリビにあるMWを取り替えた方がいいかもしれないな。
「そうかい? 分かった。じゃあ、こっちでも色々と手を尽くしてみるよ。いや、それにしてもヴァルキュリア・フレームにガンダム・フレーム……うーん、一気に面白くなってきた! じゃあ、すぐに指示を出すから、これで失礼するよ。戻るのに、誰か案内人をつけようか?」
「いや、構わない。別にそこまで広い場所でもないし」
いざとなったら、影のゲートでどうとでも出来るし。
とはいえ、テイワズの本部と呼ぶべき場所だけに、ここには監視カメラが結構な数ある。
マフィアやギャングといった組織だけに、当然の事なのかもしれないが。
「そうかい? じゃあ」
そう言い、整備長はすぐに俺の前からいなくなる。
さて、そうなると俺はこれからどうするべきか。
やっぱりさっさとグランに戻った方がいいのか?
ここに残っていれば、それはそれで面倒な事になりそうな気がするし。
何しろ、ここはテイワズにとって重要機密と呼ぶべき場所だ。
普通に考えれば、俺がいるのは色々と不味いだろう。
実際にはマクマードから許可を貰っているので、調べて貰えば問題ないのは分かって貰えると思うんだが。
そんな風に思いながら、通路を歩いていると……前方から何人かのいかにもマフィア……いや、チンピラ? とにかくそんな者達が歩いているのが分かった。
問題なのは、その中に以前俺が取引をした相手……あー……何だったか。名前はちょっと忘れたが、とにかく今回の騒動の一端になった男もいるという事だ。
そして俺の視線を感じた訳ではないだろうが、その男は不意に俺の方を見ると、その表情を驚愕に染めるのだった。