平和ってなんだろうな。
視線の先にある光景を見つつ、そんな風に思う。
昭弘と模擬戦をやった翌日……俺の姿は歳星から少し離れた宙域にあった。
当然ながら、ここにいるのは俺だけではない。
JPTトラストに所属する船が多いが、それ以外の組織の船もかなりいる。
当然ながらシャドウミラーのグラン、鉄華団のイサリビ、タービンズのハンマーヘッドもいた。
まぁ、無理もない。
これから行われる模擬戦については、マクマードが色々な相手に知らせていたらしいし。
ちなみにマクマードまでもがこの宙域に見学に来ていた。
本来ならテイワズを率いるマクマードは、そう簡単に本拠地である歳星から出るような事はないのだが。
それだけ、今回の一件は大事なのだろう。
もっとも、それは無理もない。
マクマードの話によれば、この模擬戦で俺が圧倒的な実力を……それこそ、俺が1人で30機のMSを倒すという力を見せつける事によって、シャドウミラーという組織がテイワズと五分の関係を持つに値するだけの存在であると示す必要があるのだから。
そういう意味で、マクマードとしては今回の話が大きくなればなる程にいいのだろう。
後は……俺に対する謝罪のつもりでか、JPTトラストを相手に憂さ晴らしをする機会を与えたとか。
『これより、模擬戦を開始する。……この模擬戦は、これからのテイワズにとっても大きな意味を持つだろう。双方共に全力を尽くすように』
意外な事に、そう口にしたのはマクマードだった。
普通、こういうのはもっとこう……そう、立場の軽い者とかがやるんじゃないか?
とはいえ、何故マクマードがこういう事をしているのかは、実は俺にも分かる。
ジャスレイは色々と小細工をするのが上手い。
それでも、こうしてマクマードが見ている前で……他にも多くの観客がいる前で、迂闊に小細工は出来ないだろう。
これでマクマードがここにはおらず、周囲には自分の取り巻きとかだけなら、露骨に何らかの小細工をしかねないが。
だが、今のこの状況でそれは無理。
これはつまり、マクマードが俺の援護をしているのだろう。
……もっとも、援護とはいえ、特に何か俺に有利になるような事をしたりはしないだろうが。
あくまでも、平等に模擬戦が行われるようにという配慮だろう。
それで十分助かるのも事実だが。
向こうが何か小細工をしてきても、それを正面から打ち破るだけの自信はある。
あるのだが、どうせなら面倒は少ない方がいいのも事実。
そんな風に考えている間にもマクマードの演説は続く。
もっとも、その内容はそこまで重要なものかと言われれば、そうでもなかったが。
そして数分の演説が続き……
『では、お互い正々堂々と戦うように。双方共に有意義な模擬戦である事を願う。……始め!』
マクマードの宣言と共に、模擬戦が始まった。
俺は模擬戦の始まりを受けると、すぐに敵に向かって突っ込んでいく。
「ん?」
敵の様子を見て、そんな声が俺の口から漏れた。
てっきり、何らかのフォーメーションでも取ってくるのかと思っていたが、そういうのはなく、ただ全機が一斉に動き出したのだ。
これはちょっと意外だったが……考えてみれば納得も出来るのか?
向こう側にしてみれば、自分達の方が戦力的には圧倒的に上だ。
そんな状況で、これは恐らくだが俺を倒した相手には特別な報酬……いわゆるボーナスが約束されていてもおかしくはない。
そうなると、JPTトラストの所属であったり、傭兵であったり……それこそ30機というMSの数を揃える為に、場合によっては海賊とかも引き込んでいたりしてもおかしくはないが、そういう連中がボーナス目当てに暴走してもおかしくはない。
そんな俺の予想を裏付けるかのように、後方には10機程の数が待機しており、きちんと連携を取ろうとしているように思えるのだから。
そんな風に考えている間にも、俺と敵の間合いは縮まっていき……
「まずはこれだ」
放たれるペイント弾。
そのペイント弾が、一番前に出ていたユーゴーの関節部分に次々と命中し、模擬戦用のシステムが撃墜判定を下す。
エイハブ・リアクターやコックピットが無事でも、四肢の関節が破壊されたと判断すれば、撃墜扱いとなるらしい。
もしかしたらブレードをコックピットに触れさせるとか、そういうことをしなければならないのかとも思ったのだが、これはこれで便利だ。
しかし、先頭を進んでいた1機が撃破扱いになっても、その後ろからやって来る他のMS達の動きは変わらない。
ただひたすらに、真っ直ぐ俺に向かってくる。
最初の1機が撃破扱いになったのに気が付いていないのか、それとも何らかの偶然だとでも思ったのか。
ともあれ、こうして向かって来てくれるのなら対処はしやすい。
2機、3機、4機と撃墜判定を与えていく。
当然ながら、敵も一方的にやられている訳ではない。
こちらに向かって銃撃をしてくる。
撃破しようとまでは思っていないだろうが、こちらの攻撃が多少でも弱くなればラッキー程度の気持ちなのだろうが……俺はスラスターを使い、銃撃の雨の中を泳ぐように移動していく。
敵の攻撃を回避しながらも、撃破扱いを増やしていき……
「弾切れか」
アサルトライフルの残弾が0となる。
敵の数が30機である以上、途中で残弾切れになるのは予想出来ていたので、特に何か思うところはない。
アサルトライフルを放り投げ……後で回収するのが面倒だが、その場合は新しく貰えばいいか。
ともあれ、百錬の手からアサルトライフルがなくなると、向こうの攻撃の勢いが増す。
射撃によって、何故撃墜扱いになったのかまでは、向こうも分からないだろう。
だが、射撃武器がなくなったのだから、もうその心配をする必要もないと判断したらしい。
それは間違っていない。間違っていないが……
「あれだな」
こっちに向かって来ているうちの1機……百錬に目を付ける。
JPTトラストが用意したMSの中には、当然ながらテイワズ・フレームを使った百錬もそれなりにいる。
そして今はこうして敵対しているものの、同じ――シングルナンバーと通常機の違いはあれど――百錬である以上、当然ながらその武器はこっちでも使える。
向こうは必死になって銃撃してくるものの、俺にとってその攻撃は容易に回避出来るしろものでしかない。
寧ろ敵の方が……いや、違うな。
30機のMSは寄せ集めの為か、あるいは俺を倒したボーナス目当ての為か、近くに自分達の仲間がいても一切の躊躇なく攻撃してくる。
そんな攻撃の隙間を縫うように移動し、狙っていた百錬のコックピットにブレードを叩き付ける。
もっとも、ブレードも模擬戦用に用意された奴だ。
コックピットにペイントが付着すると、それでシステムが撃墜判定を下して動けなくなる。
それを確認すると、俺は百錬が持っていたライフルカノンを奪う。
ちっ、残弾10発ちょっとか。
元々通常の百錬が使うライフルカノンは、残弾が20発と少ない。
その分、威力が高いのがメリットだし、複数の弾倉を使うというのもあるんだが……持ってないな。
多分、俺と接触するまでの間に、全ての弾倉を使い果たしてしまったのだろう。
それでもないよりはマシだし、百錬は他にもいるので、これがなくなればまた別の百錬から奪えばいい。
「っと」
ライフルカノンの様子を確認していると、動きを止めた俺を撃破出来ると判断したのか、マン・ロディがこちらに向かって突っ込んでくる。
マン・ロディは俺達が使っているだけじゃなくて、それなりに広がっているMSなんだよな。
そんな風に思いながら、小型のハンマーを手に突っ込んでくるマン・ロディとの間合いを詰め……ハンマーの攻撃を回避し、ブレードでコックピットを斬り裂く……といった形になってペイントが付着し、撃墜の判定となる。
そのまま敵の群れに突っ込み、敵の攻撃は回避し、関節部分に弾丸を命中させて撃墜判定とし、百錬を撃墜判定にしたらライフルカノンを奪う。
あるいはブレードを使ってコックピットを潰すという判定を行い、次々に撃破判定を与えていく。
結果として、敵の攻撃を俺は1発も受けることなく、気が付けばこちらに向かって突っ込んできたMSは全てが撃破扱いとなっていた。
残っているのは、7機。
最初にこっちに向かって突っ込んでこなかったMS達だ。
恐らくはJPTトラスト直属のMS。
全て百錬であるのが、それを示している。
いやまぁ、他の23機の中にもそれなりに百錬は混ざっていたけどな。
「さて、最後の一幕だ」
ぶっちゃけ、既に23機を俺だけで倒した時点で……しかも赤い百錬の装甲に何のペイントもされていない時点で、俺の持つ圧倒的な実力というのは多くの者に見せられたと思う。
思うのだが、それでもやはり23機と30機では、30機の方が聞いた時に受ける衝撃は大きい。
向こうにしてみれば、テイワズNo.2の人物が率いる組織直属のMSパイロットが俺1人に負けるという事があれば、間違いなく大目玉だろう。
もしこれが誰もいない場所で行われた戦いならまだ何とかなったかもしれないが、生憎とこの戦いはマクマードや名瀬によってテイワズの中でも大きな注目を集めていた。
そんな中で負けるというのは、それこそ出世の道を閉ざされる……いや、場合によってはマフィアやギャング的な組織だけに、ケジメとして殺されるかもしれない。
……俺にはそういうのは関係ないが。
自分達で選んでJPTトラストに所属したのだから。
向こうに同情する要素もないので、俺は間合いを詰めていく。
何だかんだと、それなりに模擬戦が始まってから時間は経っている。
推進剤の方も残り半分……いや、30%くらいか?
百錬だからこそ、まだこうしてある程度の推進剤が残っているが、もしグシオンでこの模擬戦に挑んでいれば、恐らくとっくに推進剤切れとなって負けていただろう。
それだけグシオンの燃費は悪いのだから。
そんな事を考えているうちに、残りの敵との間合いが詰まってくる。
向こうも、接近されるとどうしようもないというのは理解しているのか、何とかライフルカノンでこちらを撃破しようとしている。
……考えてみれば少し不思議だが、俺が乗っているこのシングルナンバーの百錬は、元々JPTトラストが所有していたんだよな。
ジャスレイがお気に入りの金色に塗っていたという事は、恐らく誰にも渡さず、飾りにでもしていたのかもしれないが。
ともあれ、この前まで同じ組織に所属していたMS同士が模擬戦とはいえ、こうして戦っているのは不思議な感じがする。
「だからって、手加減はしないけどな!」
そう言いつつ、ライフルカノンを撃つ。
連続して4発が発射され、その弾丸は1機の百錬の両手両足の関節部分に命中し、撃破扱いとなる。
残弾は2発。
仕方がないので連射し、2機の右肘に命中させて利き腕を使えなくする。
MSにおいて利き腕というのは、使えなくなってもそこまで影響はない。
影響はないが、それでも一撃で右肘を撃ち抜かれた者は一体何が起きたのかと驚き、動揺する。
残り6機のうちの2機がそうなると、向こうの戦力は一気に落ちる。
それでも残り4機は構わずに撃ってくるが、俺は弾切れになったライフルカノンを投擲し、そのまま前に出る。
放たれるペイント弾を回避しながら進み、ブレードを構え……
「1!」
ブレードが命中した敵のコックピット部分がペイントで染まる。
「2、3、4!」
近接戦闘の間合いに入ったと向こうも判断したのか、残りの百錬もブレードを手に襲い掛かってくるが、俺はGを無視したような強引な機体操縦を行い、敵の攻撃を回避しては、ブレードで敵のコックピットを攻撃し、撃破扱いにしていく。
そして残り2機となったところで、恐怖からか、混乱したのか、何故か敵は逃げ出した。
当然ながら俺はそれを逃す筈もなく、近くを漂っていた……俺が撃破した百錬が手放したライフルカノンを手に取り、スラスターを全開にして2機のうちの1機を追い……同時に素早く4連射し、俺が追ってなかった方の1機の両手足の関節部分に命中させ、撃破扱いにする。
そうしながらも最後の1機を追い……そして俺はすぐに追いつき、ブレードを使って背中から斬りかかる。
向こうも追いついてきたのは理解していたのか、何とかこっちの攻撃を防ごうと振り向きながらブレードを振るってくるものの……右手を両足を使ったAMBACによって機体を僅かに動かし、ブレードの一撃を回避。
敵の百錬の横を通り抜けながら、コックピットをブレードで攻撃し、ペイントを付着させる。
『そこまで!』
それと同時にマクマードの通信が響き……
『この模擬戦、勝者はシャドウミラーを率いるアクセル・アルマーとする!』
そう宣言するのだった。