「待たせたね」
「こういう場合は、今来たところだって言うんだったか?」
歳星……正確には歳星の宇宙港の入り口で、俺はアミダに向かってそう言う。
今日はジャスレイを引っ張り出すのを目的として、歳星に来ている。
昨日、それを知った名瀬は、自分の妻にして一番信頼出来るパートナーであるアミダを俺の護衛として寄越したのだ。
正直なところ、混沌精霊の俺に護衛はいらないのだが。
ただ、その辺についての情報は教えていない以上、名瀬が護衛としてアミダを送ってくるのはそうおかしな話ではない。
そのアミダは、俺の言葉を聞いて呆れの視線を向けてくる。
「そういうのは、私じゃなくてマーベルやシーラに言いな。喜んでくれるだろうさ」
「……喜ぶか?」
本当に喜ぶかどうか疑問に思ったのだが、アミダは当然といった様子で頷く。
「勿論さ。恋人に言って欲しい台詞の一つだろう?」
どうやらそういう事らしい。
正直なところ、俺にしてみれば本当に今のような台詞で喜ぶかどうか分からない。
とはいえ、もし喜ぶのなら今度言ってみてもいいだろう。
「そうか。なら、今度試してみるよ」
「そうしてあげるといい。……それで、今日はどこに行くんだい?」
「どこって言われてもな。目的が目的だから、具体的にどこに行くかというのは決めてないんだよな」
これがジャスレイの件が何も関係なかったら、食事とかそういうのに行ってみてもいいかもしれない。
だが、テイワズのNo.2であるジャスレイだ。
俺達には気が付かないところで、こっそりと手を回している可能性は十分にあった。
そうなると、喫茶店やレストランといった飲食が可能な場所は特に避けた方がいいだろう。
俺の場合は毒であっても、それが魔力や気とは関係のないタイプなら問題ないが、アミダはそうはいかない。
そういう意味では、アミダは足手纏いですらあるんだが、名瀬の厚意である以上、それをどうにかする訳にもいかないしな。
「うーん、じゃあ小物でも見てみるかい?」
「それはこの前ラフタに連れて行かれたよ」
小物とかを売ってる店は、男の俺としてはあまり居心地がよくなかった。
男がそういう店にいるのは珍しいのか、他の客にかなり見られていたんだよな。
実際には俺以外にも男がいない訳ではなかった。
恋人同士で来たりしてる奴もいたし。
勿論、そっちでも男はかなり注意を集めていたが。
俺が……いや、俺やラフタが視線を集めたのは何かもっと別の理由があったのだろう。
あるいは、俺はともかくラフタがタービンズに所属していると知られているからか。
「その時、俺やラフタは妙に視線を集めたんだけど、何でか知ってるか?」
「ああ……そうだね。ラフタはタービンズの中でもそれなりに知られているんだ。そしてタービンズにいるのは、全員が名瀬の女。そんなラフタが名瀬じゃない男と一緒にいたんだから、注目を集めたんだろうね」
俺の予想は大体当たっていたらしい。
「そうなると、アミダと一緒に歳星を歩いていれば、それはそれでまた注目を集めるんじゃないか?」
「だろうね。けど、今回はある意味で目立つのが目的なんだろう? なら、私達が目立つのは悪い話じゃないと思うけどね」
「そう言われるとそうなのか」
もしアミダの事を知ってる者が、明日行われる兄弟分の杯の儀式について知ったら、どう思うんだろうな。
もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、俺が兄貴分であるというのを利用して、アミダを奪ったとか、そういう風に認識されたりするんだろうか。
そうなると、アミダを護衛として派遣して貰うのを止めるべきだったか?
とはいえ、名瀬にしてみれば俺の力を知らない以上、護衛は必須だと考えてもおかしくはない。
それなら、ラフタでも……あるいは他の女でもよかったような。
今更の話か。
そう思い直し、俺はアミダの方を見る。
「取りあえず、目立つというだけなら適当に歳星の人の多い場所を歩いて回るか。そうなれば、俺を知ってる……いや、捜している奴には見つかるだろうし」
「アクセルがそれでいいのなら、私は構わないよ。服も見ておきたいしね」
「そういうのは、俺じゃなくて名瀬と一緒にしてくれ」
女の買い物……それも服となると、それが一体どれだけの時間が掛かるのか、容易に想像出来る。
だからこそ、それなら俺ではなく本当のアミダの相手である名瀬と一緒に買い物をして欲しかった。
……もしかして、名瀬はそれが嫌で俺にアミダの買い物を押し付けたとか、そういう事はないよな?
うん、これについては後でしっかりと名瀬に聞いておく事にしよう。
もしそうだった場合、兄貴分として話しておく必要があるだろうし。
「そうだね。じゃあ、買い物は名瀬と楽しむ事にするよ。……ここで話していても話は進まないし、行こうか」
そんな言葉に頷き、俺はアミダと共に宇宙港から出る。
途中何人かの見知らぬ相手と遭遇するが、そのような者達からは驚愕の視線を向けられる。
それがこの前の模擬戦について知っている者達だからなのか、それともアミダについて知っているからなのか。
その辺は俺にもどうなっているのかは分からない。
分からないが、とにかく人目を集めている……つまり、当初の予定通り目立っているのは間違いなかった。
そんな風に思いながら街中に出ると、俺はアミダに案内されるように色々な店を見て回る。
いわゆる、ウィンドウショッピングって奴だな。
「この帽子とか、どう思う?」
「アミダに似合ってると思う」
アミダが見ていたのは、夏に海辺で被るのが似合っているような、麦わら帽子。
実際にアミダから聞いたところだと、これは外見は麦わら帽子に見えるものの、実際にはそのように見える別の素材を使っているらしい。
……無理もないか。
もし本当に麦わらで作っていたら、かなり壊れやすいし。
「そうかい? ふふっ、じゃあ名瀬にも喜んで貰えるだろうね」
「……一応言っておくけど、俺が似合ってると思っているからといって、それが名瀬の好みと合ってるとは限らないぞ?」
極端に的外れの服装なら、似合っていないと口にも出来るだろう。
だが、一般的に見て似合ってる場合……それを好むか好まないかは、それこそ好みによる。
俺が似合ってると思っても、名瀬から見た場合はそこまで似合ってるようには思えないというのは普通に有り得るのだ。
とはいえ、アミダも当然ながらその辺については分かっているらしく、素直に頷く。
「だろうね。けど、アクセルが似合ってると言ってるんだから、恐らく大丈夫だと思うよ」
「まぁ、アミダがそれでいいのなら、それはそれで構わないけど」
そう言うと、アミダは笑みを浮かべて店の中に入っていく。
普通ならこういう時は、男が支払うのだろう。
だが、それはあくまでも普通のデートならだ。
そもそもアミダは俺の護衛であって、これはデートではない。
……その護衛が護衛対象を放っておいて離れるというのはどうかと思うんだが。
もっとも、周囲には俺を窺っているような気配や視線はない。
アミダもそれを何らかの方法で感じ取っているのかもしれないな。
そんな風に思っていると……
「ん?」
まさに今の考えがフラグになったのか、不意に俺に向けられる視線が1つ。
ただし、その視線には敵意の類はあれども、殺気の類はない。
つまり、JPTトラストに所属する者であるのは間違いないが、俺を見つけたからといってこの時点で手を出してくるようなつもりではないのだろう。
他に考えられる事とすれば……恐らく、上に連絡をして俺にどう対処するのかを聞くといったところか?
丁度そのタイミングで、アミダが店から出て来る。
その頭には、買ったばかりの麦わら帽子。
俺を見て笑みを浮かべて近付いてくるが……一瞬、その表情が変わる。
どうやらアミダも視線に気が付いたらしい。
これはちょっと意外だったな。
この世界の人間だけに、こういう視線とかに気が付けないかとばかり思っていたんだが。
「気が付いたか?」
「……アクセルも気が付いたのかい?」
「こういう視線には慣れているしな」
俺はこれまでにもこの手の視線を多数浴びてきた。
シャドウミラーという組織の事を思えば、現地組織……特に敵対した組織が危険視し、監視をするのはそうおかしな話ではないだろう。
「一体どういう風に今まで生きてきたのやら」
「それを言うのなら、アミダもそうだと思うけど」
「私は名瀬からアクセルの護衛を頼まれているんだよ? そうである以上、このくらいの事が出来なくてどうするのさ」
UC世界とかでは、殺気とか視線とか、そういうのを察知することが出来ない奴が大半だったけどな。
ニュータイプなら、そういうのを察知出来たりするのかもしれないが。
「それで? これからどうする? まだ買い物を続けるのか?」
「それアクセルがどうしたいかに決まるけどね。……ただ、アクセルは注目を集めるのが目的なんだから、この時点でもう十分という形にはならないんじゃないかい?」
「そうだな。もっと注目を集める必要がある。なら、次の店に行くか」
そう言いつつ、俺はアミダと共に色々な店を見て回る。
1匹見たら30匹いると思え。
そんな言葉が相応しいように、街中を見て回るに従って見張りの数は多くなっていく。
さて、見張りの数も大分増えてきたし、そろそろ何かを仕掛けて来てもいいと思うんだが。
「周囲に被害が出ない場所に移動しないか?」
「そうだね。私達の都合で他の人を巻き込むのはどうかと思うし。……公園にでも行くかい?」
「人がいないか?」
公園となると、子供達が遊んでいるといったイメージがある。
勿論、ここは歳星……テイワズの本拠地である以上、子供はそう多くないだろう。
ハンマーヘッドには名瀬の子供が大量にいるが。
とはいえ、歳星全体で見ればやはり子供は少ないらしく、アミダは俺の言葉に問題ないと答える。
「基本的に歳星にいるのは大人が大半だしね。勿論大人が公園にいたりする事もあるけど」
「デートとかだな」
子供達が巻き込まれるようなことはないだろうが、だからといってデートをしている大人を巻き込むのは、それはそれでどうかと思わないでもない。
とはいえ、子供の場合は判断力が低いので、何かトラブル……具体的には俺やアミダが襲撃されるといった事があっても、逃げたり出来ない可能性が高い。
大人なら……まぁ、うん。大人であってもそういう突発事態に弱い奴はいるだろうから、問題ないとは言えない。
だが、子供と違って大人なら自己責任だろう。
ましてや、マフィアやギャングといった性質を持つテイワズに所属しているのだから、その辺の嗅覚が鈍いと死んでもおかしくはなかった。
「ともあれ、公園に行くか。ここだと被害が大きいし。公園に子供がいたら……保護者に言って、移動して貰うしかない」
このままここにいるよりは、公園の方が被害は少ないだろう。
襲撃をするにしても、一体どんな方法で攻撃をしてくるのかまでは分からないが。
狙撃とかそういうのなら、こういう場所でもそこまで被害はないものの、爆弾とかだと周囲に被害が大きくなってしまう。
そう考えると、やはり公園に行くのが最善だろう。
「だろうね。じゃあ、公園に向かおうか」
アミダも俺の言葉に同意し、公園に向かう。
幸いにも公園に向かう途中で襲撃を受けるような事はなかった。
そうして無事に公園に到着したのだが……
「子供はいないな」
「いや、子供どころか大人もいないのは……おかしくないかい? もしかして、誘導された?」
「それか、偶然か。……さて、どっちだろうな」
出来れば偶然であって欲しいんだが……それは期待するだけ無駄か。
そんな風に思っていると、何人かの男達が姿を現す。
これで子供と一緒だったり、恋人や妻と一緒だったりすれば、ここが公園である以上、そこまで違和感はない。
だが……その手に拳銃を持っているのを見れば、どんな目的でここに来たのかは明らかだ。
「まさか、こうも堂々と……予想していたよりも派手に動くな」
何かがあるかもしれないとは思っていたが、それでもこれはちょっと予想外だった。
「アクセル、銃は?」
どこからともなく拳銃を取り出して構えながら、アミダが尋ねてくる。
「あるけど、あの程度の相手に問題はないだろ」
「ちょ……」
俺の言葉が予想外だったのか、アミダは戸惑いの声を上げる。
だが、その声を聞いた次の瞬間には、俺は瞬動を使って男達の前まで移動していた。
魔法を使ったりするのは、後々の面倒を考えると遠慮しておきたい。
だが、この瞬動なら特に問題はない……いや、あるか? いや、ないだろう。
ネギま世界の古菲から、中国拳法には瞬動と似たような移動方法があるとか何とか、以前何かで聞いた覚えがあるし。
そんな訳で、俺はいきなり目の前に姿を現した事に驚いて動きの止まった男を殴り、後ろにいた数人も含めて吹き飛ばすのだった。