戦いそのものは、あっけなく……そう、本当にこれ以上ないくらいに呆気なく終わった。
当然か。
普通に考えれば、結局マフィアやギャングといった程度でしかない相手に、混沌精霊の俺を殺せる筈もない。
そもそも、魔力や気がないただの拳銃では、それこそ頭部に銃弾を命中させても俺を殺すどころか、傷つける事も出来ない。
そして俺はネギま世界やペルソナ世界といった、魔法とかがあって生身で戦う世界を生き抜いてきたのだ。
人数差があっても、戦いになったりはせずに一方的な蹂躙になるのはそうおかしな話ではない。
「呆れたね」
そう言いながら近付いてきたのは、拳銃を出したものの、結局1発も撃つ事がなかったアミダだ。
「何がだ?」
「あんた、本当に人間かい?」
「決まってるだろう」
一応、嘘は言っていない。
俺はただ、人間じゃなくて混沌精霊に決まっているだろうという言葉を省略しただけなのだから。
「これだけの人数……それも銃を持ってる相手に勝つような実力の持ち主を人間と呼んでいいかどうか分からないけどね」
「その辺は修行次第でどうとでもなるな」
これもまた、嘘ではない。
俺もそうだが、シャドウミラーの面々はエヴァによって修行をしている。
その修行はかなりの厳しさだ。
それこそ普通の人間なら耐えるのが無理なような。
魔力や気、あるいはそれ以外の何かで人間以上の力があれば話は別だが。
「そういうものかい?」
「ああ」
「じゃあ、私も?」
その言葉は、軽く聞いているようでいながら、真剣な色がある。
そこまでして力を求めるのは……名瀬の為か。
あるいはタービンズに所属する女の為か。
「どうだろうな。その辺は人によって違う。いわゆる才能だ」
「それなら、十分にあると思うけどね」
「……アミダが力を望んでいるのは分かる。だが、俺のような力を手に入れるには、相応の時間が掛かる」
本当に手段を選ばないのなら、他に手がない訳でもない。
ただ、こっちも一か八か……いや、ほぼ確実に死ぬだろう方法だ。
つまり、俺の血を飲んで召喚の契約を結ぶ事。
グリや刈り取る者、狛治。
現在俺と召喚の契約を結んでいるのはこの3人だが、3人が3人共俺の血を飲んだ事によって強化されている。
……とはいえ、ただでさえ俺の血は魔力が濃縮されている。
ヴァンパイアのエヴァですら、俺の血を1滴でも原液のまま飲む事が出来ない程に。
ましてや、このオルフェンズ世界に来てからは解呪の為に大量に余っていたPPを全て精神に……つまり、魔力に注ぎ込んだ。
結果として、俺の魔力は一気に増えた。
そんな俺の血を1滴でも飲んだら、どうなるか。
アミダのやる気は間違いなく本物だろう。
だからといって、その身体は結局普通の人間でしかない。
恐らく……いや、ほぼ間違いなく血の魔力に耐えられずに死ぬだろう。
万が一、本当に万が一……いや、億が一、兆が一生き残ったとしても、人型という事で狛治を見れば分かるように、竜翼や角といったものが生えてくる。
これは名瀬を愛するアミダにとっては、許容出来ないだろう。
名瀬の性格を考えれば、アミダが人外の存在になっても態度を変えたりはしないと思う。
だが、アミダにしてみれば、そういう自分を名瀬に見せたくはないだろう。
それ以外にも、タービンズのような身内はともかく、それ以外の者達の前には出られなくなる。
アミダはタービンズの中でも最強のパイロットだ。
それだけに、何だかんだと表に出るような事も多い筈だった。
特にこのオルフェンズ世界は、阿頼耶識はともかく、義手や義足といったようなものですら嫌悪する傾向にある。
そんな中で竜翼や角、場合によっては尻尾とかも出来たら……うん。
あるいはいっそ、コスプレとして認識されるなら、それはそれで構わないとは思うが。
「そうかい」
俺の言葉に少しだけ残念そうな様子を見せつつ、アミダはあっさりと俺の言葉に頷く。
俺の様子から、何かを思い知ったのだろう。
……これでホワイトスターと自由に行き来出来るのなら、それこそエヴァに訓練してもらって、魔力や気を使った戦闘が出来るようになる可能性もあるのだが。
それが無理である以上、俺がここで何を言っても意味はないだろう。
「ともあれ、だ。……この連中はどうすればいい?」
話を切り替えるべく、俺は地面に倒れている襲撃犯達に視線を向ける。
この連中は当然ながら生きている。
俺にとっては敵ではあっても脅威のある敵という訳じゃないし。
それに何より、誰から俺達を襲うように命令されたのか、それを聞き出す必要もあるし。
もっとも、こうして堂々と襲ってきたのを思えば……
「ちなみにこの連中からJPTトラストに届くと思うか?」
「難しいだろうね。ジャスレイというのはその辺は狡猾だ。こうして使い捨ての刺客を送ってきた以上、もしこいつらが捕まっても自分に届かないようにはなってると思ってもいいだろうね。腐ってもテイワズのNo.2なんだから」
少し悔しげに言うアミダ。
本人にしてみれば、テイワズに所属している相手という事で、色々と思うところがあるのだろう。
だからといって、この状況ではアミダが言うようにどうしようもないのだろうが。
「なら、生け捕りにする必要もなかったか?」
「……いや、例え切り捨てる為の存在だろうが、それでも向こうの戦力を多少なりとも減らせるのは間違いないんだ。もしここで何もしなければ、切り捨てる予定の者達を使って、更に仕掛けてくる可能性もある。そう考えれば、あまり意味はないだろうけど、それでもやっておいた方がいいだろうね。この連中の扱いはこっちに任せてくれるかい?」
「そうか? じゃあ、任せる」
俺が何か行動するより、事情を十分に分かっているアミダ達にこの連中の相手は任せた方がいいだろう。
そう判断し、俺はアミダに頷く。
そんな俺の言葉に、アミダは短く感謝の言葉を口にすると、早速どこかに連絡をするのだった。
「で、予想通りジャスレイには辿り着けなかったと」
『すまねえな、親父の方でも手を回したが……向こうも自分の仕業だという証拠が見つかれば危険だというのは理解している』
映像モニタに表示された名瀬が、帽子を手に面目なさそうな様子で言ってくる。
あれだけの人数がいても、ジャスレイにまで届かなかったらしい。
勿論、予想はしていたので、そこまでショックでもないんだが。
何しろあそこまで堂々と襲撃してきたのだから、そんな連中が捕まっても自分に届かないように何人も間に挟んでいるのは間違いない。
とはいえ、そうして自分に届かないという自信があるのなら、あの公園で無関係の利用者を追い払うとか、そういう事はしなくてもよかったと思うんだが。
もし無関係の者達がいれば、最悪それらを人質として使ったりも出来る。
しかし、実際には公園に行った時、そこには俺達以外誰もいなかった。
これは襲撃をしてきた者達が手を回してそのようにしたとしか考えられなかった。
まさか偶然ああいう感じになったとはさすがに思えないし。
「ジャスレイも、ここで自分が俺を襲ったとなれば破滅……とまではいかないかもしれないが、ダメージが大きい。そうである以上、念には念を入れて自分に届かないようにしたんだろうな」
『ああ、多分そうだと思う。……とはいえ、あれだけ大々的に襲撃をして失敗したんだ。それに杯を交わすのは明日である以上、もうこれ以上手を出してくるような事はないと思う』
名瀬の言葉はそう間違っているようには思えない。
実際、この状況でジャスレイが更に手を出してくるのは難しいだろう。
そもそも手駒を用意するのも難しい筈だ。
公園での件は、念には念をいれて自分に辿り着けないようにして用意した手駒だった。
だが、そんな手駒は当然ながら用意するのに手間が掛かる。
適当に用意した駒、あるいはいっそジャスレイと直接繋がりのある者であれば用意出来るかもしれないが、もしそのような事をすればジャスレイまでは容易に辿り着く。
だからこそ、公園で手駒を失った以上、明日まではろくな行動が出来ないという判断はそう間違ってはいない。
「こっちとしては、ここで迂闊な行動をしてくれる方が楽なんだけどな」
『そりゃそうだ。だが、向こうもそれは理解している。そもそも、今回の件だってかなりギリギリだったんだと思うぜ? アクセルを敵に回せばどうなるのかは……模擬戦が証明しているしな』
「そういうものか。俺としてはMSと生身では違うという理屈で行動してくれると助かるんだが」
MSの凄腕パイロットであっても、生身の状態では容易に殺せる。
それこそ今回のように街中を歩いているところを、不意打ちで銃撃したりしたら、普通なら死ぬだろう。
そういう認識でジャスレイが俺に攻撃をしてくれば、対処もしやすいんだが。
『それは仕方がない。親父の目も光っている以上、向こうもそう派手な行動は出来ないんだろ』
「今日の一件は派手ではなかったと?」
『向こうにしてみれば、そうなんだろうな。自分に繋がる事のない手駒を大量に使ったんだ。そういう意味では派手にならない程度の最大限の動きだった……と思ってもいいのかもしれないな』
名瀬の言葉に、そういうものかと納得する。
「ともあれ、今日の件はこれ以上動きはない。そして明日になれば杯を交わすんだ。……もしジャスレイが最後に動くとすれば、俺がグランからテイワズの本部に向かう時くらいか」
『さすがにそれは……ないんじゃないか?』
「普通ならないだろうな。けど、今日の失敗はジャスレイにとって痛い……それもちょっとやそっとではなく、相当の痛みだった筈だ」
普通に考えれば、調べても自分に繋がらない手駒というのは使い勝手がいい。
例えば今日みたいな時とか。
しかし、だからこそそういう手駒を用意するのは相応に手間な筈だ。
ジャスレイはそんな手駒の全て……かどうかは分からないが、それでもかなり多くを今日の一件で使った。
しかもそれで計画……俺に対する襲撃が成功していればまだしも、失敗した。
それも全員が生け捕りにされるという、最悪の形で。
生け捕りにされた以上、今日の人員を用意したルートは再度使う事は出来ないだろう。
そういう意味では、致命的とまではいかないが小さくないダメージをジャスレイに与えたのは事実。
それに苛立ったジャスレイが、爆発するという可能性も……なきにしもあらずといったところか。
『いや、さすがにそういうことはないと思うが』
「俺もそうは思うけど、それでも万が一を考えれば準備しておいた方がいいのは間違いないだろう?」
俺の言葉に、名瀬は少し考えてから頷く。
『分かった。親父に少し話してみる。取りあえずこっちの件は心配しないで、アクセルは明日に向けてゆっくり休んでくれ』
「分かった。じゃあ、任せる」
こういう時、兄貴分――となる予定――の俺が動くではなく、弟分の名瀬に任せるというのは、合っているのかどうか。
そう思ったが、こういう時に動くのが弟分だと言われれば、そういう事かもしれないな。
そんな風に思いつつ、名瀬との通信を切る。
「さて、そんな訳で明日は色々と忙しくなりそうだけど……そっちは問題ないか?」
俺が名瀬と話していたのはブリッジだ。
当然ながらここには他の面々もいて、その話を聞いている。
そんな中で、明日の杯を交わす儀式に参加するのは、マーベル、シーラ、クランクの3人だ。
後はシャドウミラーではないが、クーデリアも参加する事になっている。
もっとも何人かは儀式には参加しないが、途中までは一緒に行く。
昌弘なんかはそのタイプだな。フミタンとかも。
鉄華団でもオルガと一緒に何人か参加するらしいが、その中には昭弘もいる。
昌弘はそんな昭弘の立派な姿を一目でいいから見たいのだろう。
儀式には参加出来なくても、専用の服……いわゆる着物か。その着物を着ている光景はその目で見る事が出来るし。
「ええ、問題ないわ。明日は私やシーラがいなくても何とかなるように準備はしてあるから」
マーベルのその言葉に、シーラに視線を向ける。
すると俺の視線を受けたシーラは、特に何を言うでもなく頷く。
その仕草だけで、問題がないと言ってるのは明らかだった。
ちなみに明日着る服は和服……というか着物らしい。
テイワズという名前だったりするのとは裏腹に、何気に和風……ヤクザ? あるいは極道? そっち系の要素も入ってるんだよな。
オルフェンズ世界の成り立ちを思えば、そんなにおかしな事ではないのかもしれないが。
厄祭戦によって、一度文明は崩壊寸前までいったんだし。
その時のゴタゴタで、文化的な面でも色々とあったのだろう。
それにマクマードの部屋に行った時、盆栽をやっていたりしたし。
そもそもの話、兄弟分の杯を交わすという時点で和風だろう。
いや、マフィアやギャングにもそういうのはあるのかもしれないが。
ともあれ、そんな訳で明日の服装は着物な訳だ。
生憎と俺は着物の着付けは出来ないのだが、マーベルが出来るらしい。
そう言えば以前座禅とかにも興味があるって言ってたし……その辺が理由なのだろう。
そんな風に思いつつ、俺はマーベルやシーラと話を続けるのだった。