「予想外だったな」
「何がかしら?」
俺の言葉に、マーベルは少し興味深そうに周囲の様子を見ながらも、そう聞いてくる。
「いや、もしかしたら……というか、かなりの確率でここに来るまでに襲撃やら事故やらがあると思っていたけど、そういうのがなかったから」
現在俺を含めた儀式に参加する者達がいるのは、テイワズにあるマクマードの屋敷……つまり、テイワズの本拠地と呼ぶべき場所だ。
正確にはテイワズの本拠地というのは歳星なのだが、その中でもこの屋敷はテイワズを率いるマクマードの屋敷という事で、本拠地の中の本拠地と言ってもいいだろう。
「そう? 昨日の名瀬との通信を見る限りだと、もう向こうに自分に辿られない駒で動かせる戦力はないんでしょう? なら、手を出してこなくてもおかしくはないと思うけど」
「私もそう思います。この状況で手を出してくるのは、それこそ愚か者でしょう。そのジャスレイという者は、仮にもテイワズという組織のNo.2なのでしょう? なら、そのような事はしないと考えてもいいかと」
マーベルとシーラがそれぞれに自分の意見を口にし、それをクーデリアが興味深そうに聞いていた。
「けど、今日の儀式が終わればシャドウミラーはテイワズと同格の組織という認識になって、ジャスレイがもう俺に手を出すような事は出来なく……なる訳じゃないが、今までのように簡単に手を出すことが出来なくなるのは間違いないんだ。なら、駄目元で手を打ってきてもおかしくはないと思わないか?」
名瀬との通信では恐らく大丈夫だろうとは言っていたが、ジャスレイがシャドウミラーの風下に立つというのは、我慢出来ないだろう。
……まぁ、実際にジャスレイ本人にはまだ会った事がないので、今の俺が抱いているイメージは、人から聞いた情報によるものだ。
もしかしたら、それは表向きの評判だけで、裏では実は……という可能性も否定は出来ない。
いやまぁ、その可能性が低いのは名瀬とかの態度を見れば明らかだが。
それだけに、今日襲撃をしてこなかったのは少し疑問なんだよな。
あるいは今はまだないが、これからそういうのが起きるという可能性も……あったりするのか?
そんな風に考えていると、オルガ率いる鉄華団の面々が姿を現す。
「アクセルさん、今日はよろしくお願いします」
オルガが俺を見つけると近付いてきてそう言い、他の鉄華団の面々も頭を下げてくる。
あの三日月までもが頭を下げているのは、やはりオルガが頭を下げているからだろう。
「ああ、よろしくな。……それにしても、まさかオルガが俺の弟分になるとか言い出すとは思わなかったな」
「その、迷惑でしたか?」
「そんな事はないが、予想外だったのは間違いない」
「アクセルさんには、前々から色々と助けて貰ってますから。それに……いえ、何でもありません」
少し照れた様子でそう言うオルガ。
何を言い掛けたのかは少し気になったものの、この様子だとどうした? とか聞いても答えないっぽい感じだろう。
正直なところ、俺はここまで慕われるとは思っていなかった。
昭弘と昌弘の件は半ば成り行きでそんな感じになったんだし、それ以後は恐らくこの世界の原作の主人公だからという狙いもあった。
そんな諸々を考えると、一種の打算という面が強い。
もっとも打算を抜きにしても、CGSにおける参番組の扱いの悪さ……特にハエダの参番組に対する行動は不愉快極まりなかったが。
「そうか。オルガがそれでいいのなら構わない。……そう言えば、JPTトラストから何か仕掛けられなかったか?」
俺達の方は昨日の公園の一件以外、何も問題はなかった。
だが、ジャスレイにしてみれば、あの公園の一件の結果は不満だった筈だ。
それでも不満であれば、どうするか。
俺達に手を出せないと判断すれば、そこで向かうのは俺達の関係者……つまり鉄華団だろう。
ジャスレイがどこまで鉄華団の情報を集めているのかは分からないが、皆の前で力を……それも30対1で勝利するというとんでもない力を見せた俺とは違い、鉄華団については殆ど情報を持っていない筈だ。
なら、ここで……と、そんな事を考えてもおかしくはないと思う。
実際には三日月という原作主人公のエースパイロットがいるのだが。
昭弘も必死にラフタとかにシミュレータで訓練して貰い、結構な腕になってるらしいし。
もし迂闊にちょっかいを出してきても、JPTトラストに鉄華団をどうにか出来るMSパイロットはいると思えない。
だとすれば、生身での行動か。
公園で俺達を襲ったのも、そういう感じだったしな。
そんな心配をするが、オルガは真剣な表情で頷く。
「ええ、アクセルさんから忠告されたので、誰もイサリビから出しませんでした。ずっとって事だと無理だったでしょうか……」
「そうか、2日後ってのが今回助かった理由か。……まぁ、実際に杯を交わす儀式を終わらせれば、もうジャスレイも迂闊な行動は出来なくなる筈だ。それに向こうが使える手足はこっちでもう大体対処したしな。そう考えれば多分もう大丈夫だとは思うが」
「そうですね。それに今日の事が終われば、少しでも早く歳星を出発して地球に向かえますから」
地球という単語が出た為か、クーデリアがこちらに視線を向けてくる。
「どうかしたのですか?」
「いや、今回の件が終わったら、出来るだけ早く地球に向かう必要があると思ってな」
「……そうですね。歳星にはそれなりに長い時間いる事になっています。ハーフメタルの件についての交渉がある以上、出来るだけ地球に急がなければ」
「落ち着きなさい。このような時に貴方が動揺した様子を見せるのはよくないわ」
クーデリアの言葉に、シーラがそう言う。
シーラにしてみれば、自分の教え子のクーデリアがこうして焦っている様子を放っておけないのだろう。
そんな師弟……あるいは教師と生徒のやり取りはそのままにして周囲を見ると、そこではシャドウミラーの面々と鉄華団の面々がそれなりに話しているのが見える。
特に昌弘は、兄の昭弘に向かってどこかからかうような様子を見せていた。
これから着物に着替えるのだが、その件についてだろう。
……もっとも、昌弘もそうだが、昭弘も名前が漢字というか和風な感じだし、顔つきもどこか日本人っぽい。
まぁ、昭弘の場合は筋骨隆々といった表現が相応しいので、日本人っぽいか? と言われれば素直に頷くことは出来ないのだが。
ただし顔つきは日本人っぽいので着物は意外と似合いそうな気がしないでもない。
本人達がそれを聞いたらどう思うのかは、また別だが。
また、少し離れた場所ではビスケットとクランクが話しているのも見える。
少し変わった組み合わせだが、あの2人は一体どういう話をしてるんだろうな。
ビスケットが話しているという事は、事務仕事に関して?
クランクは元ギャラルホルンという事で……何より以前襲撃してきた者達の中に参加していたこともあり、鉄華団の面々には決して好まれてはいない。
だが、ビスケットにしてみれば事務仕事について相談出来る数少ない相手の一人として、それなりに話しているらしい。
何故そんなことを知ってるかと言われれば、単純にクランクが俺に許可を求めてきたからだ。
鵬法璽によって俺に忠誠を誓っているクランクにしてみれば、ビスケットの相談を自分が受けてもいいのかと、疑問に思ったのだろう。
基本的な事は普通にクランクが判断出来るものの、鉄華団の一件……それも鉄華団の弱点でもある事務仕事について相談だったので、聞いてきたのだろう。
俺にそのつもりはないが、クランクの知識を使って合法的に鉄華団を乗っ取るなり、解散させるなりとか、出来る……かもしれないし。
そういうつもりはないから、普通に相談に乗るように言ってはあるが。
それに……事務仕事についてそれなりにクランクが詳しいのは事実だが、その本質はやはり下士官なのだ。
事務仕事については、出来ない訳でもないといった程度しかない。
……それでも鉄華団の面々とは大分違い、ビスケットのように多少なりとも事務仕事が出来る者達からは本職のようにも見えるのだが。
この辺、元ブルワーズとして大人がかなりの人数がいて、事務仕事そのものはそこまで得意ではなくても字を読め計算が出来るといった者達が多いシャドウミラーが有利だよな。
シーラやマーベルによって、そういう連中はしっかりとこれ以上ない程に事務仕事を叩き込まれているし。
そんな風に思いつつ、俺はオルガとの話を続けていると……
「ほら、いつまでここに集まってるんだ。そろそろ着替えの時間だぜ」
名瀬が姿を現し、そう言ってくる。
「ああ、悪い。……じゃあ、杯を交わす儀式に参加する者が着替えて、それ以外はどこかで適当に時間を潰しておいてくれ」
「一応控え部屋もあるから、そっちで待っててもいいぞ」
名瀬の言葉に、多くの者達がそれに頷く。
「さあさ、女はこっちだよ。これから着る服は少し面倒だからね。着方を教えてあげる必要があるしね」
名瀬と共に現れたアミダがそう言い、マーベル、シーラ、クーデリア、フミタンを連れていく。
フミタンは儀式には参加しないので行く必要はないのだが……まぁ、こっちはこっちで男の着替えに同行するって訳にもいかないだろうし。
そんな訳で、俺達は名瀬に案内されて着替えの為の部屋に向かう。
その部屋には多数の着物が用意されいた。
「凄いな、これ」
「まぁ、体格が違う者も多いしな」
名瀬は俺の言葉に何かを感じた様子もなく、そう言ってくる。
名瀬にしてみれば、この部屋は初めてという訳でもないのだろう。
今まで何度も来たことがあるので、このような態度なのだろう。
そこには名瀬以外にも何人かの男がいる。
考えてみれば、これだけの人数の着付けを名瀬だけで出来る筈もないか。
「じゃあ、それぞれ着替えをしてくれ。……基本的にはこいつらに任せておけばいい。どうしても何か気になる事があったら、その都度言ってくれ」
名瀬の言葉に従い、オルガ達もそれぞれ着替え始める。
名瀬が言うように着付けをする者達の言葉に従って、それぞれ着替えていく。
「アクセルも、着替えようか」
「ああ。……それにしてもこういう和風の服がこんなに残ってるのはちょっと驚きだったな」
「……詳しいな」
俺の言葉に、少し驚きの表情を浮かべる名瀬。
ああ、そうか。厄祭戦の影響でそういう詳しい文化とかそういうのの知識はなくなっている……もしくは、大分減っているのかもしれないな。
もし俺の呪いが解呪されてホワイトスターと自由に行き来出来るようになれば、ホワイトスターを中継として他の世界からこのオルフェンズ世界では失われた文化とか、そういうのを入手出来るかもしれないな。
実際、マクロス世界においては歌舞伎とかそういうのの情報がネギま世界のように日本のある世界から手に入れ、復興しているらしいし。
そういう意味では、今回のクーデリアが地球に行く件をどうにか出来て解呪も成功したら、火星こそがこのオルフェンズ世界における文化の中心になる……という可能性もあるのか。
それは全てが上手くいった場合の話なので、絶対にとはいかないが。
とはいえ、火星が独立した上でやっていけるかもしれないとは思える。
……まぁ、もしホワイトスターと自由に行き来出来るようになれば、別に地球と貿易をする必要もない。
ホワイトスターという取引相手が新しく出来るのだから。
「アクセル?」
「ああ、いや。何でもない。着物とかにそれなりに詳しいのは……そうだな。いわゆる教養って奴か」
「教養……?」
俺の言葉に、疑わしげな……それこそこれ以上ないというくらいに疑わしげな視線を向けてくる名瀬。
「あのな、言っておくがこう見えても俺はかなり教養がある方だと思うぞ?」
士官学校を卒業してるのだから、それは決して間違いではないだろう。
普通、士官学校を卒業したというのは、相応の教養を持ってると認識されるようなものだし。
もっとも、それはあくまでもOGs世界の教養だ。
俺が今まで行った色々な世界……そしてこのオルフェンズ世界における教養として使えるのかは、微妙なところだが。
ただ、この和服や着物について知ってるように、それなりに役立つのは間違いない。
……まぁ、教養以外にも前世の知識とかそういうのもあるんだが。
「はぁ……まぁ、そういう事にしておこうか」
全く信じていないといった様子でそう言うと、名瀬は服選びに戻る。
とはいえ、服についてはそこまで苦労することはない。
元々俺の身体は極端に大きい訳でも小さい訳でもないのだから。
少し大きめではあるものの、それでも平均的な身長なのは間違いない。
そんな訳で、名瀬はあっさり服を決めると、俺の着付けを始める。
名瀬も儀式に参加する以上、着替える必要があるのだから急ぐのは理解出来たが。