転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3921話

 御留我 威都華。

 そう書かれた漢字を見て、俺は何と言えばいいのか迷う。

 これは、杯を交わす儀式の時に張られるらしい。

 つまりこれは、洒落でも何でもなく本気で書いたという事なのだろう。

 

「えっと……名瀬、これ本気か?」

「ん? 何がだ?」

 

 俺の言葉に、名瀬は不思議そうな……俺が一体何を聞いてるのか分からないといった様子で聞いてくる。

 うん、これは本気で言ってるらしい。

 無理もないのか?

 この世界の標準言語は英語だ。

 実際には俺の知ってる英語とは色々と違っているが、それでもベースの言語となってるのが英語なのは間違いない。

 実際、鉄華団の面々やシャドウミラーの子供組にクーデリアやフミタンが文字を教えてるが、それは英語だったし。

 厄祭戦の後で日本の文化がどこまで残ってるのかは分からないし、残っている文化も妙な方向に向かっていたりしてもおかしくはない。

 そう考えれば、オルガの漢字もおかしくはないのだが……俺には暴走族か何かの当て字のようにしか思えない。

 こうして当て字を作れるという事は、漢字とかは普通に残っているのだろうが。

 とはいえ……

 

「そうなると、俺の名前はどうなる?」

「え? アクセル・アルマーは……うーん……亜食攻流 亜流魔亜とか?」

「……いやまぁ、うん。それがテイワズの流儀なら、それに従うくらいはしてもいいが」

 

 どういう漢字を当て嵌めても、俺には暴走族の当て字にしか思えない。

 なら、テイワズの流儀でやった方が、まだ周囲に納得して貰えるのだろうと、そう思っておく。

 別にこの漢字がずっと残る訳じゃないしな。

 というか、この漢字だとアクセル・アルマーじゃなくてアクセル・アルマアにならないか?

 漢字で最後を伸ばすのをどういう風に表現すればいいのか、俺にはちょっと分からないが。

 

「うん? 何かおかしいんですか、これ?」

 

 オルガは漢字を見ても特に何も感じていない様子でそう言う。

 まぁ、名瀬とかと違ってオルガはスラム街の出身だ。

 CGS時代は参番組を纏めていたので、書類とかを出す必要があって文字の読み書きは出来るのだろう。

 だが、それはあくまでも英語で漢字は全く分からない。

 だからこそ、現在こうして漢字で書かれた俺の名前を見ても、そこまで疑問に思わないらしい。

 

「いや、何でもない。まぁ、こういうのは今回だけだしな」

 

 さすがに名瀬やオルガと兄弟分の杯を交わした後は、またこういう儀式に参加するような事はない……と思う。

 あるいはマクマードと何らかの杯を交わすといった事になるかもしれないが……いや、多分それはないか。

 

「ねぇ、あれがオルガの名前なの?」

 

 俺達の会話にそう入ってきたのは、三日月だ。

 当然ながら三日月も和服に着替えている。

 

「ああ、そうだ。あれでオルガ・イツカって読むんだ」

「ふーん……じゃあ、俺の名前は?」

 

 漢字で書かれたオルガの名前に興味を持ったのか、三日月にしては珍しく興味を持った様子で聞いてくる。

 それを聞いた名瀬は、少し考え……

 

「三日月の名前は、三日月・オーガスだったよな?」

「うん、そうだよ」

「なら……」

 

 恐らく予備に取っておいたのだろう新しい紙に、名瀬は筆を手に文字を書く。

 そこには『三日月 王我主』の文字。

 

「うん、これでどうだ」

 

 自信満々といった様子の名瀬に、名前の意味を聞く三日月。

 自分の名前とオルガの名前に同じ文字が入っているのを喜ぶ三日月。

 それを見ていた他の面々も集まってきて、それぞれに名前を口にし、名瀬から書いて貰う。

 ちなみにマーベルは日本文化に詳しいので、漢字についてもそれなりに知識がある。

 あるのだが……だからこそ、当て字を見て微妙な表情を浮かべていた。

 もしかしたら、マーベルも暴走族とかがこういう当て字を使うというのを知ってるのかもしれないな。

 そうして話をしている間にも時間が経過し……やがて杯を交わす儀式の時間となるのだった。

 

 

 

 

 

 杯を交わす儀式が始まる。

 部屋の入り口から中を覗くと、既に儀式を行う部屋……というか、広間? には多くの者達が集まってきていた。

 驚いた事に、そこにはジャスレイ達の姿もあった。

 多分、ホールでの一件があるから、ここで帰ってしまったら完全に俺に負けたというのを多くの者達に知らせてしまう。

 それを嫌って、こうして無理にでも儀式に参加したのだろう。

 ……もっとも、漏らしていた奴はさすがにいなかったが。

 ジャスレイの表情にもう恐怖の色はない。

 もう本当に恐怖を感じていないのか、それとも恐怖を感じていても表情に出していないだけなのか。

 その辺は俺にも分からなかったが、それでも少しだけ見直した。

 俺の予想だと、とっとと逃げ帰るんだとばかり思っていたし。

 

「アクセル、いいな?」

 

 マクマードに促され、儀式の会場に入っていく。

 この儀式の主役は俺と名瀬、オルガの3人だったが、そんな俺達と共にそれぞれ一緒に来た者達がついてくる。

 オルガの後ろには三日月、ユージン、ビスケット、昭弘、シノの4人。

 俺の後ろには、マーベル、シーラ、クーデリア、クランクの4人。

 名瀬の後ろには、マクマードとアミダを始めとした名瀬の妻達。

 そして何故かラフタが俺達の中心にある台の上に酒を注いでいく。

 ……実際には酒ではなく、水なんだが。

 何しろ俺が酒を飲んだら、最悪歳星が……いや、本当に最悪の場合はこのオルフェンズ世界そのものがどうにかなってしまう可能性がある。

 マクマードはそこまで俺の言葉は信じていないだろうが、それでもある程度――本人が具体的にどのくらいと判断してるのかは分からないが――俺の実力を理解している為に、俺の要望を聞き入れた形だ。

 もしジャスレイがこの件を知ったら、一体どうなるんだろうな。

 ふとそんな事を思ったが、今のジャスレイにそんな事が出来る筈もない。

 表情には出していないが、俺に恐怖してるのは間違いないのだから。

 そんな風に思いつつ、俺は周囲の様子を確認する。

 本来なら、この儀式に参加するのはシャドウミラー、鉄華団、タービンズの面々だけの筈だった。

 だが、実際にはテイワズに所属する多くの者が集まっている。

 これが……これこそが、マクマードの狙い。

 この前行われた模擬戦において、シャドウミラーというのが敵に回す事は出来ない……もし敵に回せば、テイワズに壊滅的な被害を与えるような実力を持つというのを理解させ、だからこそ俺と敵対しないように普通とは違う特例としてシャドウミラーをテイワズと互角の相手とする。

 その為に行われているのが、今ここで行われている杯を交わす儀式なのだから。

 そんな儀式を見届ける為に、テイワズやその傘下の組織のトップの多くがここに集まり、この儀式を見守っていた。

 ラフタの注いだ水……ちなみにこの水も名瀬に聞いたところによると特別な水らしい。

 具体的にどういう意味で特別なのかは俺にも分からないが、わざわざそんな事で嘘を言ったりはしないだろう。

 そんな訳で、俺はその水を口に運ぶ。

 ……こうして飲んでみた限りだと、やはり特に何かがあるようには思えないな。

 味ではなく、もっと別の何かによって特別な水という扱いになっているのだろう。

 そして俺に続き、名瀬とオルガも水の杯を口に運び……そうして儀式は終わる。

 儀式そのものは、そこまで長々と何かをやったりするものではない。

 よくあるような、お偉いさんの長々とした話を聞くとかもない。

 今まで時間を掛けたのに、これで終わり? というのが正直な感想だった。

 そうして儀式が終わると、俺と名瀬、オルガはマクマードの部屋に呼ばれる。

 

「ご苦労さんだったな。……儀式の前にちょっとした騒動があったらしいが」

 

 そう言い、マクマードは俺の方を見てくる。

 騒動というのが何なのかは、考えるまでもない。

 ジャスレイとの一件を示しているのは明らかだった。

 

「あの一件でジャスレイとの格付けが明確に出来たんだ。それは悪くないと思うが?」

「そうかもしれんが……少しやりすぎだ。あれだと、ジャスレイのプライドをボロボロにしたようなものだぞ」

「そのくらいしないと、向こうは格の違いを理解しないだろう?」

「そうかもしれんが、今回の件でジャスレイはアクセルを明確に敵と認識したのは間違いない」

「……敵、ねぇ」

 

 あそこまで俺の殺気を感じて怖がっておきながら、俺を敵に回すか?

 それこそ、俺を敵に回さないように何とかするという風になると思うんだが。

 とはいえ、それはあくまで今の俺の予想だ。

 俺の与えた恐怖を乗り越え、その上で俺を敵として認識する……ジャスレイがそんな風になっても、それはそれで納得出来た。

 ただそうなると、面倒な事になりそうだったが。

 

「その時はこっちも相応の対処をするよ。そもそも今日の出来事も刺客を送ってきた相手に対する報復のようなものだし。そういう意味では、かなり手加減をしてると思うが」

 

 10人以上の刺客に襲われたにも関わらず、客観的に見て俺がやったのはジャスレイの頬を何度か叩いただけだ。

 それも明確に痛みを与えるように叩いたのは最後だけ。

 そう考えれば、俺の報復は生温いと言われても仕方がないだろう。

 実際には殺気を叩き付け、多くの者達がいる前でジャスレイの取り巻きに漏らさせ、ジャスレイの頬を叩いて謝らせるといった事をしたと思えば、かなり……それこそこれ以上ない程にジャスレイの面子を潰したのだが。

 あるいは、周囲に誰もいなければジャスレイもそこまで面子を潰されなかったかもしれないが、模擬戦の時から残っていたテイワズ関係の組織の関係者……それもトップやそれに近い地位にいる者達が多くいたしな。

 そんな者達の前であの失態だ。

 ジャスレイの……あるいはJPTトラストの影響力が低下するのは間違いない。

 

「あんなのがNo.2というのは、どうかと思うがな。それこそ、名瀬をNo.2にした方がいいだろう?」

「アクセ……兄貴、それは」

 

 杯を交わしたからだろう。

 名瀬は俺を名前で呼びそうになりつつも、すぐに名前ではなく兄貴と呼ぶ。

 杯を交わしてから何度か兄貴と呼ばれてはいるが、まだ慣れないな。

 ちなみにオルガも俺と名瀬を兄貴と呼ぶようになった。

 言ってみれば、長男が俺、次男が名瀬、三男がオルガといったところか。

 年齢的にもそう間違ってはいない序列……か?

 もっとも、名瀬はまだ兄貴呼びに慣れていない様子だったが。

 実年はともかくとして、外見年齢だと俺と名瀬は大体同じくらい……いや、寧ろ名瀬の方が少し年上といったようにも見える。

 いつまでこのオルフェンズ世界にいるのかは分からない。

 だが、解呪が成功しない限り俺がこのオルフェンズ世界から出て、ホワイトスターに戻ることは出来ない。

 それが具体的にいつになるのかは分からないし、出来る限り早く呪いを解呪しようとは思っている。

 だが……それが具体的にいつ出来るのかは、分からない。

 場合によっては、オルガが俺よりも年上の外見になる可能性も否定は出来なかった。

 まぁ、そこまで解呪を遅らせるつもりは全くないが。

 

「はっはっは。それはいい。……名瀬がそのつもりなら、こちらとしては構わんのだがな」

「勘弁して下さいよ、親父。ただでさえ、タービンズだけで手一杯なのに。そこに加えて、今度はシャドウミラーとの関係であったり、鉄華団との関係だったり……とてもじゃないでですが、テイワズのNo.2なんて事は出来ませんよ」

「だ、そうだが……オルガはどう思う?」

「え? 俺ですか? ……名瀬の兄貴なら出来ると思いますけど。何しろ、特に学のない俺が鉄華団を率いているくらいなんだし」

「おい、オルガ……お前まで俺をこれ以上忙しくさせるつもりなのか?」

 

 名瀬が天井を向きながらそう言う。

 名瀬にしてみれば、このままなし崩し的にテイワズのNo.2にさせられるというのは絶対にごめんなのだろう。

 俺にとっては名瀬がNo.2になってくれる方がありがたいのだが。

 

「いや、ただ……その方がいいかなと思っただけで」

「仕事が忙しくないならともかく、今のままだと無理だな。特にタービンズはテイワズの中でも物流をしている。そうなると、俺が実際に前に出て仕事をしないと駄目というのもあるんだよ」

「そうですか。……残念ですね」

「言っておくが、そうだからこそ俺は一緒に地球に行くんだぞ?」

 

 そう言われると、オルガとしては何も言えなくなる。

 今回のタービンズが一緒に地球に行くのは、オルガだけではなく俺にとっても助かる事だ。

 元ブルワーズとしては、高密度デブリ帯を通れるし、地球に行ってからはクランクがいる。

 だが、頼れる伝手は多ければ多い程にいい。

 もし一方の伝手が駄目でも、もう一つの伝手が使えるというのは大きいし、そういう風に出来ると知ってるだけで安心感が違う。

 

「まぁ、ともあれ……これから地球まで俺達全員で行くんだ。色々と面倒な事もあると思うが、よろしくな」

 

 そう言う俺の言葉に、名瀬とオルガはそれぞれ頷くのだった。

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