「シーラ艦長、ガランとジャコバを確認しました」
地球に向かう途中にある、高密度デブリ帯。
そこで俺達は久しぶりに仲間の強襲装甲艦のガランと、補給艦のジャコバの姿を発見していた。
その2隻も当然ながらこちらの姿は確認しているらしく、近付いてくる。
「大丈夫でしょうが、こちらは敵ではなく味方と向こうに通信を」
「そこまでする必要があるのか?」
ブリッジで船長席に座って命じるシーラに、そう尋ねる。
向こうにしてみれば、グランの存在をきちんと把握しているのだ。
そうである以上、わざわざ敵対をするとは思えない。
そう思ったのだが、シーラは首を横に振る。
「いえ、グラン1隻であればまだしも、イサリビとハンマーヘッドが一緒にいます。そうなると、向こうは最悪グランがその2隻に乗っ取られた、あるいは奪ってきたと考えるかもしれません」
「……ああ、そうか。ハンマーヘッドは勿論だが、イサリビについても知らないのか」
シャドウミラーが鉄華団と友好関係にあるのは、ガランやジャコバに乗っている他の面々も知っている。
だが、ガランやジャコバの連中にしてみれば、正確には鉄華団ではなくCGSなのだ。
そうである以上、事情が分からない向こうが念の為に……と攻撃の準備をしていてもおかしくはない。
寧ろ、奪われたグランを奪い返そうと……あるいは奪われたままにしておくよりも、いっそ破壊してしまった方がいいと、そんな風に考えてもおかしくはなかった
勿論、それはあくまでも大袈裟な話だ。
そこまで大きな話にするとは思えない。
ただ、それでも念の為に……とシーラは向こうに連絡を入れるように言ったのだろう。
それにしても、結構長期間ガランとジャコバは高密度デブリ帯にいたのだが、一体どれだけのエイハブ・リアクターを入手したんだろうな。
そう考え、ふと気が付く。
そう言えばエイハブ・リアクターの売買についての問題があったな。
以前……俺がタントテンポのジャンマルコと知り合った当時は、JPTトラストの一件があってテイワズと取引をするのは避けたかった。
だが、今はテイワズと同格の組織という扱いになってしまっており、名瀬と兄弟分の杯も交わしている。
そして百錬や百里のようなMSをテイワズが作っているのを考えると、エイハブ・リアクターは幾らでも欲しいだろう。
そうなると、どっちにエイハブ・リアクターを売るべきか。
あるいはいっそ、どちらにも売るべきなのか?
「アクセル? どうしかしたのですか?」
俺の様子を疑問に思ったのか、シーラがそう聞いてくる。
いや、シーラだけではない。他のブリッジクルーも俺に何かあったのかといったように視線を向けていた。
「いや、今更だがエイハブ・リアクターを売る相手をどうしようかと思ってな。タントテンポとテイワズのどっちに売るか」
「……ああ、その件がありましたね」
シーラも一瞬俺が何を言ってるのか分からなかった様子だったが、それでもすぐに思い出して頷く。
今は艦長をやっているものの、火星にいる時はシャドウミラーの事務員を纏めていたのだ。
実際、JPTトラストとの取引の時も俺と一緒に取引の場所に行ってるし。
……もっとも、それが理由でJPTトラスト側からやって来た奴がシーラに目を付け、一晩貸せとか、ふざけた事を言ってきたのだが。
とにかくそんな訳である意味シーラもJPTトラストの被害者の1人なので、俺がエイハブ・リアクターを売る先としてタントテンポにしていたというのは理解していた。
しかし、俺とテイワズが和解……いや、実質的にテイワズの謝罪か? した事によって、俺とテイワズの関係は修復した。
いや、修復どころか良好になったと言っても間違いではないだろう。
だからこそ、どっちに売るかで迷っているのがシーラにも理解出来たのだ。
「取りあえず、半分ずつにしてはどうでしょう?」
「半分ずつ……下手にどちらかに売らなかったり、あるいは多く売ったりするよりは半分の方がいいか」
そんな会話をしている間に合流し、ガランとジャコバの艦長を務めていた者達が……そして名瀬とオルガもグランに集まる。
「ご苦労だったな。それで、エイハブ・リアクターはどのくらい集まった?」
「はい。全部で13基です」
「……予想していたよりも多いな」
ガランの艦長の言葉に、素直に驚く。
13基というのは、数としてはかなりのものだ。
もっとも、ガランとジャコバが高密度デブリ帯にいた期間を考えると、そのくらい集めてもおかしくはないと思うが。
「それと、ロディ・フレームを何機か見つけています。勿論、今のままではMSとしては使えないですが」
「だろうな。まぁ、フレームだけでも見つけてくれたのは助かる」
ロディ・フレームは厄祭戦において一番多く作られたフレームだ。
そう考えれば、こうして高密度デブリ帯でフレームが見つかるのもおかしな事ではない。
俺が見つけたヴァルキュリア・フレームのようにレア度という点では劣るが……まぁ、そのレア度が高いお陰で、MSとして使うのはかなり難しいらしいんだが。
そういう意味では、既にそのフレームを使ってMSを作れるようになっているロディ・フレームは、即戦力としてありがたい。
マン・ロディは個人的にはあまり好みのMSじゃないんだが……ただ、それは俺の好みじゃないというだけで、昌弘を始めとしたブルワーズでヒューマンデブリとして使われていた者達にしてみれば、扱い慣れているMSなのは間違いない。
そうなると、やっぱりロディ・フレームを入手したのなら、それはマン・ロディとした方がいいのかもしれないな。
あるいは、それこそタントテンポに売るか。
ここでテイワズが出て来なかったのは、テイワズでは百里や百錬がある為だ。
まだ開発されたばかりで数はそこまで多くはないのだろうが、それでも自分達でMSを開発出来る以上、テイワズが作れないエイハブ・リアクターはともかく、フレームは特にいらないだろう。
ヴァルキュリア・フレームやガンダム・フレームのように希少なフレームなら研究価値もあるかもしれないが、大量に作られたロディ・フレームだしな。
「……で? 何で名瀬とオルガがここにいるんだ?」
収穫について聞かされてから、改めてそう尋ねる。
その疑問に、オルガは困ったように名瀬を見る。
「いや、名瀬の兄貴がちょっと行こうぜって言ってきて……」
どうやらオルガは名瀬のことは名瀬の兄貴と呼ぶ事にしたらしい。
まぁ、オルガにしてみれば兄弟分の杯を交わした相手は俺と名瀬がいて、そして両方共に兄貴分だ。
あるいは俺がいるから区別するように名瀬の兄貴と呼んでいるのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺は名瀬に視線を向ける。
「それで? 名瀬はなにをしにわざわざ来たんだ?」
「それはないだろう、兄貴。ここに船を派遣したってのは前に言っていただろう? それで見つかったエイハブ・リアクター……テイワズ直轄のうちとしては、出来るだけ欲しいと思うのは当然だろう?」
名瀬の方は一応俺を兄貴呼びはしているものの、言葉遣いは以前と変わらない。
まぁ、敬われるというのは苦手だから、それならそれで構わないが。
「話は分かった。ちょうどさっきその辺について考えていたところなんだよな。言ったかどうか分からないが、俺はタントテンポにも伝手がある。……まぁ、伝手というか、火星で知り合ったのが1人いるくらいだが」
「へぇ……その相手の名前は?」
「ジャンマルコだ」
「……それは、また……タントテンポの中でも幹部の1人だぜ」
「だろうな」
ジャンマルコの件についてどうやら名瀬は知っていたらしい。
とはいえ、幹部だというのを聞かされてもそこまで驚きはしなかった。
何しろMWの大会に出た時も普通に部下を率いていたし、何よりも宇宙で行った模擬戦はジャンマルコの要望で行われたのだ。
しかもその模擬戦に勝利すれば賞品としてゲイレールを渡すというおまけもあった。
ゲイレールはグレイズの前の世代のMSだが、それでもそう簡単に入手出来る訳ではない。
ましてや、それを賞品として渡す……こんな無茶をやるには、ジャンマルコ自身が相応の権力を持っていないと無理だろう。
そんな諸々を考えれば……後これは少し違うかもしれないが、MSの操縦技術もそれなりの理由にはなるか。
普通なら幹部がMSの操縦技術を持っている必要はない。
いやまぁ、何かあった時に対処出来るだけの、ある程度の操縦技術は必要かもしれないが、それでも高い操縦技術は必要ない。
一般的に……本当に一般的に考えた場合、幹部がMSを操縦する機会なんてないんだから。
もっとも、タントテンポも裏の組織だ。
そう考えれば、いざという時に最前線で戦う必要がある……といったような事があってもおかしくはないのだが。
シャドウミラー……ホワイトスターの方にある、本来の意味でのシャドウミラーでは、幹部が真っ先に敵に突っ込んだりするけど。
「とにかく、少し前……テイワズと和解する前までなら、エイハブ・リアクターをタントテンポに全部売ろうかと思っていたんだけどな」
「それで、今は?」
「お前との関係もあるから、テイワズにも売らないといけないとは思ってる。問題は、分配をどうするかなんだよな」
その言葉に、名瀬が被っていた帽子で顔を隠す。
テイワズとシャドウミラーの今までの関係を考えれば、あまり口出しすべきではないと思っているのか。
「アクセルの兄貴、エイハブ・リアクターを見つけるって話でしたが……この辺りには、エイハブ・リアクターがあるんですか?」
俺と名瀬の話を聞いていたオルガが、興味深そうに聞いてくる。
オルガが何を考えているのか分かる。分かるのだが……
「そうだ。けど、この高密度デブリ帯でエイハブ・リアクターを見つけるのはかなり難しい。それだけじゃなくて、今は大丈夫だがここで行動している海賊もいる。夜明けの地平線団……とかな」
「そうなんだよな。だから、俺達もここにエイハブ・リアクターがあるというのは知ってるが、迂闊にちょっかいを出したりは出来ない」
名瀬が俺の言葉に続ける。
「テイワズの……いや、タービンズの戦力があれば、夜明けの地平線団には負けない自信があるが、だからといってこっちは無傷ですむ訳じゃない。誰かさんと違って魔法は使えないしな」
そう言いつつ、名瀬は俺の方を見る。
ちなみに、名瀬にはまだ魔法について話していない。
それでもこうして魔法という言葉を出したのは、俺の使う精神コマンドの直撃の一件があるからだろう。
本当に俺が魔法を使えるとは思っておらず、ただ単純に俺がナノラミネートアーマーを無効化して撃破するのを魔法と評しただけらしい。
……ただ、兄弟分の杯を交わしたとなると、魔法についても話した方がいいのかもしれないな。
もっともすぐに話せるという訳でもない。
名瀬が俺と兄弟分の杯を交わしたのは、俺を慕っての事ではない。
タービンズが……そしてテイワズが俺と敵対しないようにという割合がかなり大きい。
そんな名瀬に魔法について話せば、当然ながらテイワズにも俺の魔法についての情報が流れる筈だ。
俺と敵対するのがどういう意味を持つのかを知っているマクマードが妙な事をするとは思えないが、その部下達は違う。
特にジャスレイ何かは、俺に対してとてつもない敵意を抱いているのは間違いない。
アミダから聞いた話によると、ジャスレイは名瀬を目の敵にしていたらしい。
その理由は色々とある。
女を使って出世していったのが気に食わない。
名瀬の性格が気に食わない。
だが……そんな中でも最大級の理由は、やはり名瀬が有能でテイワズという組織の中で非常に大きな影響力を持ち始めた事だろう。
つまり、テイワズのNo.2である自分の地位を脅かす存在という風に認識されたのだろう。
そんな名瀬と俺が兄弟分の杯を交わした。
これが名瀬にとってどのような影響をもたらすのかは分からない。
敵対心を抱いている名瀬と俺が兄弟分になったので、俺達を……あるいはオルガも含めて徹底的に潰してやると想うのか、それとも名瀬よりも俺に対する恨みが強い分、今は名瀬を放っておいて俺を狙うのか。
後者の場合は、名瀬にとっては自分が狙われないので悪くないだろうが……ともあれ、ジャスレイが俺に激しい敵意を抱いているのは間違いない。
元々テイワズのNo.2として強いプライドがあったのに、皆の前で俺にあそこまでされたのだ。
これで俺を狙ってこないという事はまずないだろう。
木星近くではない場所で襲ってきた場合は、こっちにも色々と対処のしようがあるのだが。
「エイハブ・リアクターについては、シーラから助言があった。半分ずつ売る事にする。取りあえず今はそれで我慢してくれ」
俺の言葉に、名瀬は素直に頷く。
兄弟分の杯を交わしたばかりだというのに、ここで不満を口にするのは不味いと思ったのだろう。