「アクセルさん、勝手にグシオンを使ってすいませんでした」
そう言い、昭弘が深々と頭を下げてくる。
昭弘にしてみれば、俺に預けられた……それも自分が無理を言って俺に預けて貰ったグシオンを、勝手に戦闘に使ったのだ。
そのことを申し訳なく思うのは、昭弘の性格からしてそうおかしな話ではない。
俺は別に気にしてないんだが。
「それについては気にするな。何しろ、あの時は周囲を完全に包囲されていたんだ。戦えるMSはあればあっただけいい」
これは昭弘を慰める為の言葉という訳ではなく、俺が心の底から思っている事だ。
何しろ上下左右前後……その全てからの攻撃だったのだから。
しかも俺が話を聞いたところによると、俺の戦った2方向はMSが3機だったが、中にはMSが6機とか8機とか……海賊船も2隻とか、そういう場所もあったらしい。
これが一ヶ所から全て纏まってきたのなら、対処するのも容易だろう。
だが、包囲してそれぞれに敵がいる状態となると、一方向を攻撃しても他の敵が攻撃をしてくる。
それに対処するのは、こちらもやはり数だ。
そして数に質が伴えば、言う事はないだろう。
そういう意味では、昭弘がグシオンに乗ったのは悪い話ではない。
「ありがとうございます」
「この場合、感謝の言葉を口にするのは俺だと思うけどな。ともあれ、グシオンを持ってきてくれたのは助かった」
「いえ、アクセルさんに少しでも恩を返せたのなら嬉しいです。……それと、あのMSですが正確にはグシオンではなく、グシオンリベイクらしいです」
「グシオンリベイク? それは歳星の整備長がつけたのか?」
「えっと、多分」
「……まぁ、分かった。ただ、正式名称がグシオンリベイクなのは理解したけど、呼ぶのに長くなるから、グシオンと呼ぶつもりだけどな」
その言葉に、昭弘も納得した様子を見せる。
多分、昭弘もグシオンリベイクではなく、グシオンの方が呼びやすいと思ったんだろうな。
書類上はグシオンリベイクという名称にしておいても、実際にはグシオンと呼ぶのはそう悪くない話だと思う。
その方が分かりやすいしな。
「では、俺はこれで失礼しますね」
そう言うと、昭弘は頭を下げて俺の前から立ち去る。
それを見送ると、俺は改めてグシオンを見る。
以前のようなダルマ状態とは違い、今のグシオンはかなりスマートになっている。
そのお陰で機動力も高くなっているのは間違いないだろう。
操縦感覚もある程度違うだろから、操縦訓練をしておいた方がいいな。
俺は今まで多くの機体に乗ってきた経験がある。
その経験によって機種転換訓練の類はすぐに出来るので、今回もそうなるだろう。
……実際にはグシオンとグシオンリベイクでは同じ機体なのだが、改修作業によって全く別の機体になっている。
そういう意味では、やはり機種転換訓練という表現の方が正しいのだろう。
「アクセル様、少しよろしいでしょうか?」
「ん? クランクか。どうした?」
「はい。鉄華団についてですが、グレイズをもう1機譲渡なり貸し出すなりした方がいいのではないかと思います」
「もう1機? ……ああ、なるほど」
クランクが何を言いたいのかをすぐに理解する。
今の鉄華団では、バルバトスに乗る三日月はともかく、他にも昭弘とシノがMSのパイロットとしている。
そして先程の夜明けの地平線団との戦闘では、昭弘がいなかったからシノがグレイズに乗っていたものの、その昭弘も今は普通にイサリビに戻っている。
そうなると、昭弘とシノが2人に対してMSはグレイズ1機。
元々今現在行動している勢力の中で、鉄華団は一番戦力が少ない。
三日月の乗るバルバトスはかなりの戦力だが、それでも数は1機なのだ。
それに対して、シャドウミラーは3隻の船があり、それぞれにMSを積んでいる。
タービンズはハンマーヘッドだけだが、そこに乗っているアミダ達は経験豊富なMSパイロットだ。
そうなると、やはりここは鉄華団のてこ入れが必要だろう。
幸いな事に、阿頼耶識対応のコックピットに換装したグレイズはまだそれなりに余裕がある。
そしてシャドウミラーにおいては、阿頼耶識を持ってる昌弘達は乗り慣れているマン・ロディの方がいいと言うのだから、鉄華団に譲渡するなり、貸し出すなりはしても何も問題はない。
「分かった。なら、クランクの方から話を通しておけ」
「いえ、その……私は彼等に嫌われていますので、余計な面倒になるかもしれません。アクセル様の方から話を通して貰えれば」
そう言うクランクだったが、鉄華団の面々がクランクを未だに嫌っているのは、理解出来ないでもない。
何しろ、CGSだった時に襲撃されて、その戦いによって参番組にもそれなりに被害が出ているのだから。
それでも魔法によって俺に絶対服従となったから、鉄華団の者達も何も言わないだけだ。
勿論、それは色々と恩のある俺がそうしているからこそ何も言わないだけで、実際には思うところはあるのだろう。
寧ろクランクとの関係という意味では、シャドウミラーの面々との方がいい。
元々面倒見が良いというのもあり、昌弘を始めとした子供達もそれなりに懐いているし、大人達も教官的な意味で自分達を強くする訓練をしてくれるクランクは……好ましくとまではいかずとも、それなりに認めているらしい。
もっとも、クランクにしてみれば俺に言われたからこそ、そういう仕事をしている訳で……精々が俺の戦力として少しでも有効に活用する為に、精鋭にしておきたいという感じか。
「お前が鉄華団の者達に嫌われているのは解っている。だが……俺がオルガとも兄弟分の杯を交わした以上、これから鉄華団との付き合いは間違いなく長くなる。ましてや、火星では鉄華団とシャドウミラーはかなり近い場所にあるんだ。そう考えると、いつまでもクランクが鉄華団に嫌われたままだというのは、問題がある」
これは事実だ。
三日月がこの世界の主人公である以上、これから鉄華団とはそれなりの付き合いになるのは間違いない。
だからこそ、俺の部下として働くクランクと鉄華団との関係が劣悪なままというのは避けたい。
これから具体的にどうなるのかまでは分からないが、それでも関係が悪くていい事なんかはないだろうし。
「分かりました。アクセル様がそう仰るのであれば、私に否はありません」
そう言うクランク。
だろうな。まぁ、多分そういう感じになるとは思っていた。
そもそもの話、クランクは鵬法璽によって俺に対して絶対服従なのだ。
俺がそうしろと言えば、それがどんなに理不尽な事でも受け入れるだろう。
勿論、心の底の部分ではクランクが本来嫌がるような事を無理矢理させたりすれば、それによってストレスが溜まったりするだろうが。
例えば無抵抗な一般人を殺せという命令を出したりしすれば、その辺は顕著だろう。
鵬法璽によって俺に絶対服従のクランクだけに、その命令には従う。
だが、その心の中では強いストレスが溜まり……それが限界にまで達した時にどうなるのかまでは、生憎と俺にも分からない。
もっとも、俺もわざわざそんな命令を出すようなつもりはないが。
ともあれ、今回の俺の命令はクランクにとってもストレスを溜めるようなものではない。
……まぁ、自分を嫌っている鉄華団の者達と会い、話をするというのはそれなりにストレスになりそうだが。
だが、この件についてはクランクに言ったように、これからのことを思えば必ずやっておく必要があるのだ。
鉄華団の面々とクランクの関係は、今は冷戦状態という表現が相応しいような状況になっている。
その冷戦状態を普通の……友好的とまではいかずとも、通常のやり取りが出来るような、そんな関係になって欲しい。
「任せる」
俺の言葉にクランクが一礼すると、早速準備に入る。
俺はそれを見送った後で、ブリッジに向かうのだった。
『じゃあ、夜明けの地平線団についてはこのまま無視して、真っ直ぐ地球に向かうって事でいいんだよな?』
映像モニタに映された名瀬の言葉に頷く。
「ああ。今はまずクーデリアを地球に連れていくのを最優先にする必要があるしな。今回の一件で相応に時間を使ったし、それを取り戻したい」
『けど、アクセルの兄貴。夜明けの地平線団ってのは最大規模の海賊団なんですよね? その連中がこうして撃退されたとなると……面子ってのが立たないんじゃないですか?』
「つまり、俺達を追撃してくると?」
そんな俺の言葉にオルガが頷く。
名瀬もまた、そんなオルガの言葉に頷いていた。
「その可能性もない訳じゃないが……追ってきても、俺達に追いつけるかどうかはまた別の話だ。ましてや、高密度デブリ帯を出てからある程度距離を稼げば、そこはもう地球圏だ。アリアンロッド艦隊怖さに、夜明けの地平線団も出て来ないだろうな」
あくまでもこれは予想だ。
オルガが言ったように、自分達の手の者が負けた……それも僅差で負けたとかではなく、圧倒的なまでに負けたのだ。
夜明けの地平線団にしてみれば、それでは面子が立たないと追ってくる可能性は十分にあった。
そして面子の為に、アリアンロッド艦隊と戦うのもやむなしと考える可能性も否定は出来ない。
そうなってくれれば、個人的にはありがたいんだけどな。
夜明けの地平線団は壊滅し、ギャラルホルンの中でも最精鋭と呼ばれるアリアンロッド艦隊の実力を見る事が出来るのだから。
もっとも、そう簡単に俺の希望通りに事態が動くとは思えないが。
俺は2人に、上手くいった時の事を説明する。
その説明に2人は納得した様子を見せたものの、それでもすぐに首を横に振る。
『そこまで上手くいくとは思えないな』
『そうですね。世の中は理不尽で溢れかえってますから』
『それを言うのなら、兄貴が一番の理不尽だろう?』
『名瀬の兄貴に反論出来ないのが辛いところです』
「お前達が俺をどう思っているのか、しっかりと聞きたいところだな」
そう言う俺の言葉に、オルガと名瀬は揃って視線を逸らす。
今の状況が多少なりともゆっくりと出来るようになった事が、今のこのような状況を表している……というのは少し言いすぎか?
「まぁ、その件については後でしっかり聞くとしてだ。とにかく夜明けの地平線団については今はスルーだ。……正直なところ、夜明けの地平線団が俺達を狙った理由が気にならないでもないけど」
『どういう意味です?』
『夜明けの地平線団ってのは、別にこの高密度デブリ帯だけで行動してるって訳じゃないからだろうよ』
「名瀬の言う通りだ」
これがブルワーズであれば、高密度デブリ帯が主な仕事場だった。
だが、夜明けの地平線団は高密度デブリ帯でも行動するが、それ以外の場所でも多く活動している。
普通の海賊ならそんな事は出来ない。
夜明けの地平線団がそのような事が出来るのは、その大規模な人数であるが故の事だった。
……海賊だけあって、MSパイロットの練度という点ではそこまで突出して高くはないんだけどな。
勿論、それだけ人数が集まっている以上、MSのパイロットの質がそこまで悪い訳ではない。
寧ろ人数が多ければ多い程にパイロットの操縦技能の平均値は上がるだろう。
ましてや、夜明けの地平線団でもヒューマンデブリがいるだろうし、そうなると阿頼耶識の手術をしているだろう。
そうなると、厄介な存在なのは間違いなかった。
「考えられる可能性があるとすれば……ジャスレイか」
その言葉に、映像モニタの名瀬が微妙な表情を浮かべながら口を開く。
『兄貴の言いたい事は分かるし、あの男ならそういう事をしてもおかしくはないと思う。思うんだが……親父に目を付けられている中で、そういうのが出来るか? 親父の目は決して節穴じゃねえぜ』
「……なるほど」
名瀬の言葉に一理あるのも事実。
マクマードにしてみれば、歳星から俺達がいなくなったこの状況こそ、ジャスレイが何かを仕掛けると考えてもおかしくはない。
自分で直接仕掛けるのは危険だと判断すれば、誰か他の者を利用するという考えになってもおかしくはないだろう。
……いや、ジャスレイの性格を考えれば、寧ろ自分で直接手を下すという事はせず、誰かを利用して殺すという流れに持っていくのが自然だろう。
だからこそ、ジャスレイが妙な行動をしないようにマクマードが見張っている筈だ。
何しろ一度騒動が起きれば……それがジャスレイだけの問題ですむとは限らない。
JPTトラストだけではなく、テイワズが俺と敵対したとこっちが判断してもおかしくはないのだから。
そんな未来は、俺の力を知っているマクマードにしてみれば絶対に避けたいだろう。
ましてや、今はテイワズとシャドウミラーが同等の存在だと認めたばかりの事だ。
そのような状況で俺達を敵に回すのは、自殺行為でしかないのだから。
そうなると、残る可能性としては……
「ギャラルホルンか」
そう、呟くのだった。