転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3934話

 ビスケット・グリフォン?

 三日月とアトラのデートを見て楽しむ為に後を追っていた俺達に、不意に声を掛けてきた男の口から出たその言葉に、一瞬疑問を抱く。

 だが、ビスケットという名前からして、恐らくは俺の知ってるビスケットか……あるいは同じ名前の別人か。

 何しろビスケットという名前はともかく、名字がグリフォンというのは……あのビスケットにはちょっと似合わないような気がする。

 もっとも、その人に似合っていない名前というのはそう珍しい事ではない。

 いわゆる、キラキラネームというのとはまた違う、そんな感じの名前。

 そんな風に思いながら声を掛けてきた相手を見ると……そこには太り気味のビスケットとは違ってスマートな、大人の男といった様子の人物の姿があった。

 

「……あんたは?」

 

 さすがに話し掛けられた以上、しかもこんな場所でいきなりビスケットの名前を出された以上、放っておく訳にもいかず、三日月とアトラのデートを追跡するのを止めて、そう尋ねる。

 クーデリアが少し不満そうな様子だったが、今はこの男の方が重要なのだろうと判断し、足を止めた。

 主導者……という表現はどうかと思うが、とにかくこの件について一番やる気のあったクーデリアが足を止めたので、フミタンやアジーもまた足を止める。

 アジーが少しだけ残念そうにしていたのは、きっと俺の気のせいではないだろう。

 

「私はサヴァラン・カヌーレ。君達の知っているビスケットというのが私の知っているビスケットと同一人物なら、ビスケットの兄だよ」

 

 そう言い、笑みを浮かべるサヴァラン。

 だが……

 

「ビスケットの兄? 名字が違うのにか? そもそも、お前の言ってるビスケットと、俺の知ってるビスケットが同一人物とは限らないだろう?」

「あー……そうだね。ちょっと懐かしい名前を聞いたから、つい」

 

 そう言うサヴァランは、自分の知っているビスケットの特徴を口にする。

 小さい頃のビスケットについて言われても、俺には判断出来ない。

 だが、桜という祖母が農園をやっていて、双子の妹がいるという話を聞けば、それは俺が知っているビスケットなのは間違いない。

 

「なるほど、どうやら俺の知ってるビスケットと同一人物のようだな。……で、名字が違う理由は?」

「ああ、私は養子になったんだよ。だから火星に行かず、ドルトコロニーに残る事が出来たんだ」

 

 その言葉には、十分な説得力があった。

 実際、サヴァランは身なりもそれ程悪くはない。

 勿論、オーダーメイドのスーツを着ているといったような訳ではなく、普通の会社員が着るようなスーツだったが。

 それにしたって、着の身着のままに近い鉄華団の面々と比べると……うん。随分とマシなのは間違いなかった。

 

「そうか、話は分かった。なら、ビスケットを呼ぶか? ビスケットもどうせなら兄さんと会いたいだろうし。荷物の件があるから、少し時間が掛かるかもしれないけど」

 

 そう言った時、サヴァランの眉がヒクリと動く。

 

「えっと、荷物の件というのは何かな? そもそも、ビスケットが今どこで何をしているのかが分からないんだ」

 

 どうやらビスケットと連絡を取っていなかったらしい。

 CGSに入っていたビスケットは無理でも、祖母の桜には連絡が出来ていたようにも思えるが。

 あるいは、仕事で忙しくてそれどころではなかったのかもしれないな。

 

「今、ビスケットは鉄華団という警備会社に所属している。それなりの立場にいる」

 

 これは嘘でも何でもない事実だ。

 ビスケットは鉄華団の中においても珍しく書類仕事とかを得意としているので、重宝されているのだから。

 言ってみれば、オルガの相談役というか、補助というか……そんな感じの立ち位置にあるのは間違いない。

 

「て……鉄華団?」

 

 鉄華団という名称が意外だったのか、それとも何かあるのか……いや、これは何かあるか?

 アジーに目配せをすると、実戦経験が豊富なだけあり、アジーはすぐにサヴァランが逃げられないよう、後ろに回り込む。

 それでいながら、サヴァランはアジーがそんな行動を取っている事に気が付いてもいない。

 見た目通り会社員で、荒事とかそういうのには関わっていないのだろう。

 

「ああ、鉄華団だ。知ってるのか?」

「いや、えっと……名前を聞いた事があるような、ないような……」

「そうか。なら、ゆっくりと話そうか」

 

 俺の言葉に何かを感じたのか、サヴァランは咄嗟に逃げようとする。

 が、すぐ後ろにはアジーがいて、そんなサヴァランを逃がさない。

 

「おや、どうしたんだい? 言っておくが、私は夫を持つ身だ。悪いけど、積極的にアタックしてきても、受け入れてはやれないよ」

「まぁ、そう言うなよ。少しくらいは話を聞いてもいいだろう? そうだな、どこか人気のない場所にでも移動するか。ここで恋愛沙汰に関する愁嘆場は遠慮したいし」

 

 本来なら知人の兄と会って話をするのだから、喫茶店にでも行くのが最善なのだろう。

 だが、ここでそのようなことをやってしまうと、間違いなくサヴァランが助けを求めて騒動になる。

 それこそ、最悪ギャラルホルンが来たりしてもおかしくはない。

 ……アジーの話によるとギャラルホルンについてはそこまで心配しなくてもいいという事だったが、鉄華団に反応したサヴァランの様子を見ると、そうも言ってられない。

 なので、喫茶店のような場所ではなく……建物の陰になって見えない場所まで移動する。

 アジーがサヴァランを捕らえ、口も掌で塞いでいるので、大声で助けを呼ばれる心配もない。

 こちらとしても、サヴァランがビスケットの兄だというのが本当なら――話の流れから恐らくほぼ確実に本当だとは思うが――手荒な事はしたくない。

 そういう意味でも、騒がれずに大人しく話の出来る場所まで移動するのは当然の事だった。

 問題なのは、クーデリアをどうするかだな。

 鉄華団の名前について知っているという事は、恐らくだがギャラルホルンから諸々についての情報を聞いているのだろう。

 この状況で一体何がどうなってそうなったのかは分からないが。

 何しろ、サヴァランは会社員ではあるが、特別ギャラルホルンと関係があるようには思えない。

 とはいえ、人の繋がりというのは意外と分からないものだ。

 もしかしたらサヴァランの知り合いにギャラルホルンの者がいてもおかしくはない。

 何しろ、ギャラルホルンという組織は大きい。

 つまり、人もそれだけ多数いるのだから。

 まぁ、その辺はゆっくりと聞かせて貰えばいい。

 とはいえ、ギャラルホルンと繋がりがあるような相手を確保した以上……

 

「クーデリアとフミタンは、出来ればグランに戻って欲しいところだけど、どうする?」

「アクセルさん」

 

 俺の言葉に真っ先に反応したのは、クーデリアやフミタンではなく、サヴァランを捕らえているアジー。

 まさかこの状況でアジーが声を掛けてくるとは思わず、どうしたのかと視線を向ける。

 

「こいつ、今……より正確にはクーデリアさんの名前が出たところで、明らかに緊張した」

 

 アジーが俺をさんづけで呼ぶのはともかく、クーデリアをさんづけで呼ぶのは……まぁ、クーデリアが依頼人だからというのが大きいのだろう。

 正確にはクーデリアの依頼を受けているのはシャドウミラーと鉄華団なのだが、タービンズは俺達に攻撃を仕掛けたペナルティとして、オルガの要望によってクーデリアの依頼を手伝う事になっている。

 つまり、一応タービンズにとってもクーデリアは依頼人という扱いになるのだろう。

 ともあれ……

 

「クーデリアの名前に緊張か。つまり、クーデリアの事を知ってる訳だ。……さて、誰から聞いたのか、教えて欲しいな」

 

 火星においては革命の乙女として有名なクーデリアだが、地球に近いこのドルトコロニーにまで名前が知られているのは少し不自然なような気がする。

 勿論、火星から地球にハーフメタルを輸出――という名目で買い叩かれているのだが――している以上、地球のすぐ側にあるドルトコロニーに寄る事もあるだろう。

 そうなれば、現在火星では独立の機運が高まっていて、その仕掛け人……という表現はちょっと相応しくないか。象徴的な存在であるクーデリアの事が伝わっていてもおかしくはない。おかしくはないのだが、それなら何でサヴァランはクーデリアの名前を聞いて緊張したのか。

 

「……」

 

 俺の言葉にアジーから口を塞がれていた掌を外されても、無言で返すサヴァラン。

 これは間違いなく何かを知ってる様子だな。

 とはいえ、この状況にも関わらず何も言わないのは……見かけによらず度胸があるのか?

 もしくは、自分がビスケットの兄だから、その知り合いである俺が危害を加えるような事はしないと考えているのか。

 

「言っておくが、ビスケットの兄だからといって何もしないとは思っていないよな? その気なら……」

 

 そう言うと、ポケットから出したように見せ掛け、空間倉庫から取り出した拳銃の銃口を突きつける。

 

「っ!?」

 

 それを見た瞬間、サヴァランが息を呑むのが分かった。

 

「分かっただろう? 詳しく説明して貰おうか」

「ビスケットが……」

「うん?」

 

 俺の問いに口を開いたサヴァランだったが、何故ここでビスケットの名前が出て来たのか分からない。

 今回の件について、ビスケットが何か関係しているとは思えないんだが。

 

「ビスケットがまさか、クーデリア・藍那・バーンスタインの手下になっているとは、思わなかったよ」

「……は?」

 

 サヴァランの口から出た予想外の言葉に驚く。

 一体何がどうなってこんな事を言う?

 今回の一件で、クーデリアが何か関係……いや、待て。コンテナに武器を入れてドルトコロニーまで運ぶように依頼をしてきたのは、ノブリス。クーデリアの後ろ盾となって資金援助をしたのもノブリス。シャドウミラーを結成する諸々を行ったのもノブリス。

 そしてノブリスが俺達を自分の儲けの為にしか見ていないのは間違いない。

 ……もしかして……

 

「アクセル?」

 

 自分をじっと見ている俺に気が付き、クーデリアが不思議そうな視線を向けてくる。

 

「もし……だ。もし、ここで騒動が起きたら。それもちょっとした暴動程度の騒動ではなく、MW、場合によってはMSを使うような騒動が起きたとする」

 

 いきなり物騒な事を口にし始めた俺に、他の面々は……それこそサヴァランまでもがいきなり何を言い出すのかといった様子で見てくる。

 

「これから俺が言うのは、あくまでも予想だ。推測に推測を重ねた、それこそ妄想と言われても仕方がない事かもしれない。それを承知の上で聞いてくれ。……そしてサヴァランだったな。お前にこの話を聞かせるのは、この中でお前が一番ドルトコロニーに対してだったり、それ以外にも色々と事情を理解してそうだからだ。もしお前が素直に俺の聞く事に答えたら、最悪の……本当に最悪の事態は避けられるかもしれない」

「……え? 一体何を?」

 

 戸惑うサヴァランだったが、俺はそれを無視して言葉を続ける。

 

「いいか? もし本当に最悪の結果になった場合、ドルトコロニーがどうなるか分からない。それこそ最悪、コロニーが破壊される可能性もあると知った上でどうするか決めろ」

「冗談か何かですか?」

「そうだったらいいんだけどな。生憎ともし俺の予想が当たっていた場合、冗談どころの話じゃない」

 

 真剣に言う俺の様子に、それでもまだ戸惑うサヴァラン。

 もっとも、これは無理もないのか。サヴァランにしてみれば、俺達はさっきから情報を引き出そうとしていたのだ。

 そこでいきなりこんな事を言えば、それはもしかして自分から情報を引き出す為に一芝居打っていると、そう思ってもおかしくはないのだから。

 

「とにかく、お前の話次第では最悪の事態になるというのだけを理解した上で答えろ」

「わ、分かりました」

 

 完全に俺の言葉を信じた訳ではないのだろう。

 だが、それでも俺の様子からもしかしたら……と思ったらしい。

 あるいは、本当に秘密の事は喋らず、話してもいいような事は話すつもりになったのかもしれないが。

 それでもいい。

 とにかく俺達は現在のこのドルトコロニーについての詳細な情報について殆ど知らない。

 その辺りを補佐して貰えるだけでも、十分ありがたかった。

 

「まず最初に、現在このドルトコロニーにおいて、武器が必要な件について何か心当たりがあるか?」

「……あります」

 

 数秒の沈黙の後、サヴァランが頷く。

 

「実はドルトコロニーでは……このドルト3だけではなく他の場所でもそうですが、経営陣と実際に現場で働く者達の間で大きな問題があるんです。これはどのドルトコロニーでも、調べればすぐに分かる事ですが」

 

 なるほど、だからこそサヴァランはこうしてあっさりと説明した訳だ。

 これがもっと機密度の高い内容であれば、また話は違っただろうが。

 そんな風に思いながらも、俺は予想を口にする。

 

「そんな中で、ドルト2に運ばれた武器。もしドルトコロニーで騒動が起きたら、どうなる? ……いや、それだけじゃない。その騒動の途中で火星において革命の乙女と呼ばれているクーデリアが死んだら。間違いなく大きな混乱が起きるだろう。最悪の場合、火星対地球まで行くかもしれないな。もっとも、そうなってもあっさりとギャラルホルンに潰されそうだが。ただ、そうした混乱の中で何が求められるか……武器だ」

 

 そしてノブリスは武器商人だと、俺は確認するように言うのだった。

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