「フミタン……」
フミタンが自分はノブリスの手の者だと断言した事に、クーデリアもショックを受けた様子だった。
だが、そのフミタンはクーデリアに向かって言葉を続ける。
「私は……私は最初、綺麗事だけを言うお嬢様が決して好きではありませんでした。私は……」
そこで一度言葉を切ったフミタンは、アトラや三日月を一瞥してから再び口を開く。
「私はスラム街の出身です。それこそ理不尽なところは数え切れないくらい見てきました。それだけに、お嬢様の言葉に対して、時には苛立ちすら感じていたのです」
「フミタン……」
悲しそうな様子でフミタンの名前を呟くクーデリア。
無理もないか。クーデリアにとって、フミタンはメイドであると同時に、自分の姉のようにも感じていた相手だ。
それだけに、そのような相手から嫌われていたというのはクーデリアにとって悲しい事だろう。
思わずといった様子で俯く。
「ですが……」
そんなクーデリアに向かい、フミタンは言葉を続ける。
フミタンが言葉を続けるのを聞いて……あるいは、その一言が決してクーデリアを責めるような、嫌うような、厭うようなものではなかったからだろう。
クーデリアは顔を上げる。
「そんなお嬢様と一緒にいるうちに……そして火星の現状を何とかしようというお嬢様を見ていると……何より……」
再度言葉を切ったフミタンは、何故かそこで俺に視線を向けてくる。
いや、何でここで俺?
「アクセル様と接する事により、お嬢様は女として立派に成長されました」
「……え? ちょっ、フミタン!?」
フミタンの言葉に何故か焦った様子のクーデリア。
一体何でだ?
「……まぁ、その件はともかくとして、私はお嬢様と一緒にいるうちに……そう、お嬢様を裏切る事が出来なくなっていったのです。特にアクセル様と出会ってからのお嬢様は大きく変わりました」
「ちょっと、フミタン。いい加減に……」
「そんなお嬢様だからこそ……正直なところ、今回の一件についてアクセル様の予想を聞かされた時は驚きました」
「……」
何かを言おうとしたクーデリアだったが、フミタンの様子に黙り込む。
今はまず、フミタンの言葉を最後まで聞くのが必要だと、そのように思ったのだろう。
「ですから、今の私はスパイとして行動しようとは思いません」
「フミタン……」
クーデリアが目を潤ませてフミタンを見る。
マクギリスからフミタンがスパイだというのを聞かされたのはショックだっただろうが、そのフミタンが最後にはノブリスではなく自分を選んだというのが大きかったのだろう。
普通なら、スパイをしていた者がこのような事を言っても到底信じられない。
それこそ嘘だろうと、強烈な尋問をされてもおかしくはなかった。
だが、フミタンはノブリスにスパイとして送り込まれたのは間違いないだろうが、それはあくまでも情報を伝えたり、クーデリアの監視といったような意味でのスパイだったというのが大きい。
……まぁ、スパイとして鍛えられていたら、フミタンの動きを見れば即座に疑問を抱いただろうが。
あるいは、いわゆる戦闘メイドや武装メイドといったような存在だと認識したか?
原作のある世界だけに、本来なら存在しないだろうそういうメイドがいてもおかしくはない。
ギアス世界でも確かそういうメイドがいた筈だし。
「ふむ、主従の絆というのは美しいものだな」
お前が言うか?
マクギリスにそう突っ込みたくなったが、マクギリスの場合はもしそのように言われても、特に気にしたりはしないだろう。
「ともあれ、フミタンには後で色々と聞きたい事もあるから、そのつもりでいてくれ」
魔法について知らない者がいるこの場所で、魔法についてノブリスに報告をしたのかどうか聞くのは不味い。
……まぁ、ここでそういう事を聞いても、アトラやアジー、マクギリスといった魔法について何も知らない者達にしてみれば、冗談か何かだと思うだろうが。
あるいは、魔法というのが秘密の何かを示す暗号だとでも思うか。
何故か俺をアグニカ・カイエルと見間違えるといったマクギリスなら、アグニカが魔法を使っていたとか言えばあっさりと信じてしまいそうな気がしないでもない。
いやまぁ、実際に魔法を使っていた訳ではないと思うが。
「はい、分かりました」
俺の言葉に短く答えるフミタン。
この様子だと、フミタンも自分が何を聞かれるのかはというのは分かっているっぽいな。
……まぁ、それならそれで構わないが。
後で改めて説明するよりも手っ取り早いし。
「ねぇ、それで結局ギャラルホルンの件はどうするの?」
「そ、そうです! それについて話をしないと!」
三日月の言葉にサヴァランが激しく反応する。
サヴァランにしてみれば、フミタンのスパイがどうとかよりも、まずはドルトコロニーをどうにかするというのが最優先だろう。
だからこそ、こうして慌てた様子で言ってるのだろうが。
「その件については、ここでギャラルホルンの戦力を出来る限り減らそうと思っている。サヴァランとの約束もあるしな」
その言葉にサヴァランが安堵の表情を浮かべる。
ぶっちゃけた話、ギャラルホルンの戦力を減らすというのが重要なのは間違いないが、それ以上にサヴァランという、会社員として有能な人物を入手出来た事の方が大きかったりする。
人材というのは、いつでも重要な存在なのだから。
とはいえ……ギャラルホルンの戦力を減らすというのが、俺達にとって大きな意味を持つのも事実。
だが、正面から敵対しているとはいえ、グシオンを使うのは……ちょっと問題か?
もしここでグシオンを使えば、ギャラルホルンが本格的にシャドウミラーを敵と認識する。
いやまぁ、いまの状態でも十分にシャドウミラーや鉄華団はギャラルホルンに敵として認識されているが、それでもギャラルホルンの認識では敵対しているものの、弱小組織という認識だろう。
あるいはガンダム・フレームを使ったガンダムを所有している事から強気になっていると考えているのか。
ともあれ、敵対はしているものの、言ってみれば侮っているのは間違いない。
とはいえ、それは別におかしな話ではない。
俺というイレギュラーの存在について知らなければ……このオルフェンズ世界の常識で考えれば、ギャラルホルンのその考えは間違っていないだろう。
だからこそ、出来れば今はまだ侮っていて欲しいと思う。
そうなるとグシオンを使わず……ああ、丁度いいのがあるな。
俺の空間倉庫の中には、3機の機体が入っている。
とはいえ、その中でも最強の機体であるニーズヘッグは、呪いの影響で使えないが。
そうなると、残りはサラマンダーとミロンガ改。
どちらもこのオルフェンズ世界のMSとやり合えるだけの性能を持っているが……この場合はサラマンダーだな。
ナノラミネートアーマーのせいで、オルフェンズ世界のMSには基本的にビーム兵器が効かない。
さらには物理攻撃も、同じ場所に何度も当てたり、あるいは関節部分に命中させるなりしなければ意味がない。
そうなると、ミロンガ改のビームサーベルとビームマシンガンは効果がなく、残っているのはエナジーウィングとS-11ミサイルだ。
エナジーウィングから放たれるのはビームではない以上、ナノラミネートアーマーを相手にしても恐らく効果があるだろう。
だが、S-11ミサイルは……うん。威力が大きすぎるだけに問題だった。
予備は結構な数が空間倉庫に入っているが、それでも数は限られているし。
それに何より、コロニーの近くで使うのはちょっと危険すぎる。
そうなると、やっぱりサラマンダーか。
VFを改造したサラマンダーの主兵装はグラビトンガンポッドだ。
これは重力波砲の技術を使った武器である以上、ナノラミネートアーマーを相手にも有効となる。
頭部ビームバルカンやビームサーベル、連装ビーム砲は効果がないだろうが。
ただ、このサラマンダーもミロンガ改と同様にエナジーウィングを装備しているので、そちらも使用出来る。
つまり、ミロンガ改では標準で広範囲攻撃のエナジーウィングか、使うと色々な意味で危険なS-11ミサイルくらいしかオルフェンズ世界のMSに効果のある物がないが、サラマンダーではグラビトンガンポッドがあるので、それを使えば全く問題なくオルフェンズ世界のMSを撃破出来る。
……もっとも、MSを破壊するというだけなら精神コマンドの直撃でどうとでもなるので、別にミロンガ改でも構わないと言えば構わないのだが。
ただ、毎回精神コマンドを使うのが面倒だという事や、ファイターやガウォークになる事によってギャラルホルンを思い切り警戒させられるというのが大きい。
「その……お願いした私が聞くのも何ですが、本当に大丈夫なのですか?」
サヴァランが恐る恐るといった様子で聞いてくる。
ドルトコロニーに住んでいるだけに、アリアンロッド艦隊の実力については十分に……それこそ、説明するまでもなく知っているのだろう。
あるいは俺達以上に。
だからこそ、サヴァランはこうして今更ながらに心配しているのだろう。
「心配するな。俺達は火星でギャラルホルンを相手に戦って、勝利してるんだぞ? ……なぁ?」
「ふっ、そうだな。否定は出来ない」
俺の言葉に鼻で笑ってそう言うマクギリス。
火星の地上で俺達と戦ったのはともかく、火星から脱出した後、宇宙で俺達と戦った中にはマクギリスの姿もあったのだから、余計にそう思っても間違いはない。
あの時はグレイズではなく……ん? あ、思い出した。
「そうか、モンターク商会って、ヴァルキュリア・フレームを使ったMSがあるとか歳星で聞いた組織か」
「……ヴァルキュリア・フレーム? 何故ここでその名前が?」
「地球と火星の間にある高密度デブリ帯で、ヴァルキュリア・フレームを見つけたんだよ。装甲とかそういうのはもう殆ど使い物にならない状態だったが、フレームとエイハブ・リアクターは問題なく使える状態で」
「ほう……ヴァルキュリア・フレームが……」
「ああ。もっとも、最初はヴァルキュリア・フレームの名前も分からなかったけどな。そんな訳でテイワズにフレームを調べて貰ったところ、ヴァルキュリア・フレームだと判明した訳だ。だが、知っての通り……というか、マクギリスの方が詳しいだろうが、ヴァルキュリア・フレームというのはガンダム・フレームよりも数が少ない。当然ながら、ヴァルキュリア・フレームを入手してもそれをMSとして復活させるのは難しい。だが……」
「ヴァルキュリア・フレームを使ったMSを使っている者がいれば話は別か。いいだろう。テイワズにグリムゲルデの各種データを送っておこう」
あっさりとそう言うマクギリスに、少しだけ驚く。
今のこの状況において、マクギリスがそのような事をする理由は、本来ないのだから。
しかし、こうして見たところではマクギリスに何か含むところがあるようには思えない。
「いいのか? 折角のヴァルキュリア・フレームだろう? それを使っているのが、モンターク商会にとっての利益になっていたんじゃないのか?」
「そういう点はなきにしもあらずといったところだが……ただ、元々数の少ないヴァルキュリア・フレームだ。それを使う者が少し増えたくらいでは、特に問題はない。ただ……ヴァルキュリア・フレームはガンダム・フレームとは全く特性の違うフレームだ。私が使っているグリムゲルデも、性能という意味では高いものの、それを使いこなすのは難しい」
「具体的には?」
「グリムゲルデは軽量で高機動のMSだが、軽量故に近接戦闘においては打撃力が低い。敵に有効な……威力のある一撃を与えるには、機体の的確な重心コントロールを必要とされる」
なるほど。
これが例えばオルフェンズ世界以外の世界であれば、マクギリスが言うグリムゲルデの欠点もそこまで大きくはないだろう。
多くの世界では、近接戦闘も行われるが、それ以上に射撃による戦闘の方が多いのだから。
しかし、このオルフェンズ世界において射撃はあくまでも牽制でしかない。
……まぁ、俺が精神コマンドの直撃を使えば話は別だが。
ともあれ、普通は近接戦闘で相手のコックピットを潰して戦いを終わらせるのが一般的だ。
そういう意味では、グリムゲルデは軽量という事でかなりの操縦技術を持つ者が使うのを前提としているのだろう。
もっとも、重量が軽いという意味ではニーズヘッグを使っていた俺にとっては慣れたものだ。
ニーズヘッグもまた、全高15m程度の小型機で、グラビコン・システムやガンダニュウム合金を使ったPS装甲によって機体重量は1tを切っている。
グレイズの重量が30t程だと考えれば、ニーズヘッグの1tというのがどれだけ常識外れの軽さなのかが明らかだろう。
そんなニーズヘッグで近接戦闘をやる場合、当然ながらグリムゲルデ以上に重心コントロールは必須となる。
もっとも、ニーズヘッグの場合はグリムゲルデとは違って機体の操縦ではなく、グラビコン・システムによって近接戦闘の時の重量を変化させているのだが。
そんな風に思いながらも、俺はグリムゲルデについての情報をマクギリスから聞き出すのだった。