「つまり、今回戦うアリアンロッド艦隊は出来る限り戦力を減らして欲しいと?」
「ああ、そうなる。このアリアンロッド艦隊を率いている人物は厄介な相手でね。私の望みを叶える為の最大の障壁となる。そういう意味では、その戦力が減るというのはこれ以上ない程、こちらにメリットは大きい」
ホテルの一室にて、俺達はまだ話を続けていた。
ヴァルキュリア・フレームを使ったMS、グリムゲルデについての話もあって少し脱線したものの、今は本題に戻っている。
マクギリスが俺達に接触してきたのは、恐らくこれが最大の理由だったのだろう。
マクギリスは火星での戦いで実際に俺達の……というか、俺の実力を味わっている。
純粋なMSの操縦技術以外にも、理解出来ない何らかの手段――精神コマンド――を使い、特殊な銃弾という訳でもないのにナノラミネートアーマーを貫通し、それによって撃破するというのもその目で見ている
マクギリスが……あるいはギャラルホルンの火星支部がと言い換えてもいいか、その辺りの情報について本部に報告をしているのかは分からない。
あるいは、報告しても信じて貰えなかったという可能性もあるだろう。
何しろこのオルフェンズ世界において、ナノラミネートアーマーの防御力というのは非常に大きな信頼をされている。
そうである以上、そのナノラミネートアーマーを容易に貫く手段があると言っても、それを素直に信じる者が一体どれだけいる事やら。
あるいはマクギリスの性格を考えると、意図的に信じられないような報告をして、それで本部にそれは嘘だといったような事を言われた可能性も否定は出来ない。
マクギリスがギャラルホルンに対して何か思うところがあるのは、これまでの言動を見れば明らかなのだから。
だからこそ、ギャラルホルンの最精鋭とも呼べるアリアンロッド艦隊の戦力を少しでも減らしたいと思い、こうして俺に接触してきたのだろう。
フミタンがスパイだという、そんな情報を土産に。
「話は分かった。ギャラルホルンと敵対している身としては、その最精鋭のアリアンロッド艦隊の戦力が減るのは、望むところだ。だが……マクギリスは何を思ってそれを望む? 何の為に自分の所属する勢力の戦力を減らそうと考える?」
それは今回の依頼……依頼? 既にアリアンロッド艦隊と戦うのは決定事項だが、とにかくアリアンロッド艦隊の戦力を少しでも減らして欲しいというマクギリスの頼みを聞く上で、是非とも聞いておくべき事だ。
理由によっては、色々と考える必要もあるだろう。
「私が望むのは、ギャラルホルンの腐敗の一掃」
端的にマクギリスが言う。
けど、なるほど。火星支部の件を思えば、ギャラルホルンが腐敗しているのは間違いない。
勿論、ギャラルホルンの全員が腐敗しているとまでは思わない。
クランクのような実直な奴もいるし。
だが、それはあくまでも末端の兵士の話だ。
上に立つ者達が腐敗をしているのは間違いないのだろう。
「それは……」
俺はマクギリスの言葉に納得したものの、部屋の中にいる何人かはマクギリスの言葉に驚いていた。
それだけマクギリスが口にした言葉は理解出来なかったらしい。
あるいは理解は出来ても信じられなかったのか。
「アリアンロッド艦隊のトップも腐敗しているのか?」
「いや……」
マクギリスが俺の言葉に首を横に振る。
「うん? それだと話が違わないか?」
「正確には何らかの不正をしている可能性は高いが、その証拠は掴めていない。だが……問題なのは、アリアンロッド艦隊を率いている人物は現状の、腐敗しているギャラルホルンを良しとしているところだ。このままでは、ギャラルホルンが将来的にどうなるか」
ああ、なるほど。
アリアンロッド艦隊を率いてる人物は、いわゆる現状維持派なのか。
あるいは本当にどうしようもなくなったら、その場しのぎでどうにかしようと考えているかもしれないが。
とはいえ、その件については俺はそこまで関わらなくてもいいか。
俺にとっては、ギャラルホルンの戦力が減るというだけで、これからの事についてはかなり有利になる。
ギャラルホルンについては……まぁ、何故かこっちに友好的なマクギリスが何かを企んでいるのなら、マクギリスに任せてしまえばいい。
「話は分かった。それで……うん?」
話を続けようと思ったのだが、それよりも前に外から何かが聞こえてくる。
何だ? と思って窓から外を見ると……
「どうやらもう始まったらしい」
俺の隣でそのように口にするマクギリス。
その言葉通り、既に事態は始まっていた。
現在俺の視線の先……街中で行われているのは、労働者達のデモ。
しかしこれがただのデモではないというのは、デモを行っている者達がMWに乗っている事だろう。
しかも、そのMWには見覚えがあった。
イサリビの中にあってコンテナを壊して中を確認した時に見たMWだ。
つまりあのMWは鉄華団が運んだコンテナから出されたものなのだろう。
その辺についてどうにかする……物騒な事が起きたらどうにか止めるといった事でオルガ達が……マーベルも含めて行動していた筈だが、その理由はどうあれ失敗したらしい。
あるいはこういう状況になるしかない何かがあったのか。
「そんな……アクセルさん!」
俺と同じく窓から外の様子を見ていたサヴァランが、俺に視線を向けてくる。
サヴァランにしてみれば、この状況は何としてでも止めたかったのだろう。
だからこそ、先程の交換条件の件もあって……そして何より俺がギャラルホルンの戦力を減らしたいというのを理解している事もあって、そう言ってきたのだ。
「分かっている」
そして俺もサヴァランを引き抜き、マクギリスからの件もあるし、何よりギャラルホルンの戦力を少しでも減らす必要があるのも事実。
マクギリスに視線を向け、尋ねる。
「それで? これからギャラルホルンはどう動く?」
「私が掴んでいる情報では、あのデモの行く先……ドルト本社の建物をギャラルホルンが守っていて、そこで自作自演を行って自分達が攻撃を受けたように見せ掛け、反撃するという形でデモ隊を殲滅。それによってデモ隊の暴発を誘い、アリアンロッド艦隊が全てを片付けるという流れになっていた筈だ」
「アリアンロッド艦隊がという事は、デモ隊はMSも有しているのか?」
「ああ、その通りだ。ただし、細工されたMSだがな」
「……何? いや、考えてみれば当然か」
今回の一件は、簡単に言えば不穏分子……ギャラルホルンに逆らう者達に対しての見せしめだ。
そうである以上、その見せしめは派手であればあるだけいい。
例えば、デモ隊がMSを持っていたが、そのMSを相手にアリアンロッド艦隊側は1機も撃墜されずに勝利するとか。
勿論、アリアンロッド艦隊はギャラルホルンの中でも最精鋭と言われてるだけに、普通にデモ隊と戦っても勝利は出来るだろう。
何しろデモ隊は元々が労働者だ。
つまり、MSの操縦訓練は最低限しているだけマシといった感じだろう。
しかし、それでも……いや、だからこそと言うべきか、流れ弾が怖い。
ナノラミネートアーマーがあるので基本的には問題ないだろうが、関節に命中する可能性もある。
あるいは可能性は恐ろしく低いが、デモ隊の中にMSパイロットとしての才能がある者がいた場合、アリアンロッド艦隊に被害が出る可能性も十分にあるのだから。
そういうイレギュラーをなくした上で、アリアンロッド艦隊が無傷で勝利をしたと。
ギャラホルンに逆らっても意味はないと。
そう知らしめる為に、MSに細工をしたのだろう。
「何という事を!」
叫ぶのは、サヴァラン。
無理もないか。
サヴァランにしてみれば、何とかしてこの状況を止めようと思っていたのだろうし。
MSについて知っていたのかどうかは分からないが。
ただ、今の話を聞いて黙っていられはしなかったのだろう。
「落ち着け。さっきも言っただろう? 俺がいれば、アリアンロッド艦隊にも勝てる。後は……そうだな」
問題なのは俺がいるからといってデモ隊に被害が出ないかと言われれば、そうではないという点だろう。
俺は自分の強さに自信を持っている。
その上で、このオルフェンズ世界のMSではなくサラマンダーという、異世界の兵器を使うのだ。
戦えば勝つ。
だが、今回の一件はある意味で護衛ミッション的な要素もある。
デモ隊……いや、MSに乗ってるような者達をデモ隊と呼んでもいいのかどうか分からないから、ここは反乱軍とでもしておくか? その方が色々と分かりやすいだろうし。
そうも思ったが、それはちょっと大袈裟か。
実際にMSを使って暴れ始めたのなら、そんな風に呼称してもいいのかもしれないが。
そんな反乱軍になるかもしれないデモ隊が乗ったMS……しかもギャラルホルンによって細工をされており、戦力としては期待出来ない者達も出てくるのだ。
その連中は間違いなくギャラルホルンによって殺される。
守る方法があるとすれば……アリアンロッド艦隊がギャラルホルンにとっての精鋭なら、自分達の仲間が、ましてや母艦が攻撃されている時にデモ隊を放っておけるかと言えば、それは否だ。
味方を守る為に、何よりも母艦を守る為に俺をどうにかしようとするだろう。
MSというのは優秀な兵器なのは間違いない。
だが、母艦がなければ推進剤の補給やら、武器弾薬の補給やらが出来ない。
そういう意味では、母艦がないとMSの行動範囲はかなり狭い。
……まぁ、ドルトコロニー周辺での戦いである以上、それこそ最悪の場合はドルトコロニーにあるギャラルホルンの基地を使ったりといった手段もあるだろうが。
ただし、素人同然のデモ隊を相手に、ギャラルホルンの最精鋭であるアリアンロッド艦隊の母艦が何隻も沈められ、MSが何機も撃破されるといった事になったら、どうなるか。
ギャラルホルンの名声は地に落ちる。
そうなると、今までギャラルホルンに押さえつけられていた者達が動き出してもおかしくはない。
勿論、実際に母艦を沈めたりMSを撃破するのは俺なのだが、グシオンを使う訳ではない以上、それは分からないだろう。
ましてやVFという兵器を見た事もない以上、デモ隊にやられたと考えてもおかしくはない。
それと……ギャラルホルンと正面から戦わないのなら、シャドウミラー、鉄華団、タービンズが出てもいい。
いや、タービンズについてはまだ知られてない――マクギリスには知られているようだが――以上、ここは出さない方がいいか?
シャドウミラーと鉄華団のMSには、デモ隊の細工されたMSを確保……回収させればいい。
「よし、作戦は決まった。聞いてくれ」
そう言い、俺は思いついた作戦を説明していく。
「うーん、俺は構わないと思うけど、まずはオルガに聞かないと。オルガが駄目って言ったら、引き受けるのは無理だよ」
説明を聞いた三日月がそう言う。
この件については、三日月ならそう言うだとろうと思っていたので、特に問題はない。
オルガの性格を考えれば、恐らく否とは言わないだろうし。
あるいはこれがドルトコロニーの住人を助けるだけなら、鉄華団を率いる立場として反対する可能性もある。
だが、アリアンロッド艦隊の戦力を減らすというのは、俺達にとって決して悪くはない事なのだ。
地球に向かう、そして地球での行動に対して、アリアンロッド艦隊が出てくる可能性がそれだけ減るという事なのだから。
もっとも、それはそれで俺だけに頼るのは嫌だと、オルガが主張する可能性もあるが。
もしそういう風に言ってきたら、兄貴分として俺の言う事を聞けとでも言っておくか。
「鉄華団はそれでいいとして……」
そこで言葉を止め、アジーに視線を向ける。
だが、アジーはそんな俺の視線に対し、首を横に振る。
「今、私達がギャラルホルンに見つかるのは不味いだろう?」
「そうだな。それは否定しない。実際、タービンズの存在は隠しておきたいし。……けど、それはあくまでも百里や百錬を使えばの話だろう? 幸い……という表現はどうか分からないが、ガルム・ロディとマン・ロディが幾らかある」
出来ればグレイズを使えばいいんだろうけど、アリアンロッド艦隊を相手にするのにグレイズを使うというのは、それこそ喧嘩を売るようなものだしな。
また、エイハブ・リアクターの周波数を調べれば、火星の基地から盗まれた物だというのがはっきりするのも痛い。
こうして考えると、エイハブ・リアクターの周波数の件がかなり邪魔だ。
とはいえ、このオルフェンズ世界においてはそれが普通である以上、俺達がそのデータを全て消すといった事は不可能だしな。
「ガルム・ロディか……なるほど、分かったよ。名瀬に聞いてみる」
百錬や百里に慣れている、アミダ、ラフタ、アジーの3人だが、ガルム・ロディも別に使えない訳ではない。
ギャラルホルンの最精鋭たるアリアンロッド艦隊を相手に戦闘をするのは厳しいかもしれないが、動けなくなったりしたデモ隊のMSを確保して安全な場所まで運ぶという事なら出来るだろう。
そして、話が決まると……実際に行動に移る事になるのだった。