シュヴァルベ・グレイズという青いMSについてどこかで見た覚えがあると思ったが、火星を脱出した時に攻めて来たギャラルホルンで、ガエリオが乗っていたMSか。
グレイズという名前がついているのを見れば分かるように、その外見はグレイズの系統にある事を思わせる。
普通のグレイズとは大分違うが、それでも見ればグレイズ系のMSであるのは間違いない。
マン・ロディのようなロディ・フレームのMSとは明らかに違うし。
にしても、クランクが捕らえたか。
そうなると、ガエリオを捕らえたのか?
もしそうなら、大手柄ではあるが扱いが難しい捕虜に……
「クランク二尉! 何故ですか! 何故こんな組織に味方など!」
不意にそんな声が聞こえてくる。
声の聞こえた方に視線を向けると、そこにはロープで縛られた男が1人いて、クランクに食って掛かっている。
何だか聞き覚えのある声のような……
「あいつは?」
「その、シュヴァルベ・グレイズに乗っていたパイロットですよ。何でもクランクさんの知り合いだったみたいで」
「あー……ああ、なるほど、なるほど」
火星から宇宙に上がった時に攻めてきたギャラルホルンの部隊の中に、クランクに心酔している奴がいたな。
クランクからも名前を聞いていた。
アイン……だったか?
うん、確かにそういう名前だった筈だ。
「けど、あいつがこのシュヴァルベ・グレイズとかいうのに乗ってたのか? 以前見た時は普通のグレイズに乗っていたと思うが」
「それを俺に言われても……乗っていたものは乗っていたとしか」
「だろうな。そうか。まぁ、いい。仕事に戻ってくれ」
そう言うと、メカニックは自分の仕事に戻る。
そんなメカニックを見送ると、クランクやアインの方に視線を向ける。
ちなみにクランク達の様子を見ているのは俺だけという訳ではない。
昌弘を始めとした他の面々も、物珍しそうに見ていた。
クランクは、アインだと知って捕らえたのか?
いや、俺に絶対服従のクランクだけに、アインをどうこうというよりも、シュヴァルベ・グレイズという珍しいMSを俺に渡したいという思いの方が強かったのかもしれないな。
俺がMSを集めているのは、クランクも知っている。
それだけに、希少性の高いシュヴァルベ・グレイズを入手出来る機会を見逃したくはなかったのだろう。
それについては感謝するが、問題なのはあのアインという奴をどうするか……か。
見た感じ、クランクに食って掛かっており、とてもではないがこっちの味方をするとは思えない。
となると……もう、いっそ殺すか?
そのように思わないでもなかったが、もしそうすると、それはそれで面倒な事になりかねないんだよな。
あるいは……本当にあるいはの話だが、原作ではあのアインという奴もそれなりに重要な役目の人物という可能性も否定は出来ないのだから。
もっとも、それを言うのならろくに戦う事は出来ないし、アリアンロッド艦隊との戦いでもどうかと思わないでもない。
その辺については、そこまで深く考える事はないのだろう。
「アクセル様、ブリッジに来て欲しいとシーラ様が……」
クランクとアインのやり取りを眺めていると、そんな風に声を掛けられる。
戦いが終わった以上、これからどうするのかを相談したいといったところか?
「分かった。じゃあ、こっちについては……あれについては放っておくか。後であのアインってのをどうするのかクランクに聞いておいてくれ」
「分かりました」
クルーの1人との会話を終え、俺はブリッジに向かったのだが……
『よう、アクセル。久しぶりだな』
ブリッジに入った俺を、映像モニタの向こう側から嬉しそうな満面の笑みで迎えた人物がいた。
まさか、この状況で会うとは思ってなかっただけに、驚く。
「ジャンマルコ?」
そう、そこにいたのはジャンマルコ。
タントテンポという、テイワズには劣るが相応にでかい裏組織の幹部の1人。
ジャンマルコとは以前火星で行われたMWの模擬戦の大会で初めて会い、その後はMSを使った模擬戦をやったりもした相手だ。
模擬戦で勝利した報酬……賞品と評するべきか? ともあれ、結果として俺はジャンマルコからMSを貰い、そのMSはギャラルホルンとの戦いで間違いなく役に立った。
そんな訳で、俺にとっては恩人……というのはちょっと大袈裟かもしれないが、好意的な人物なのは間違いなかった。
『おう。感謝しろよ? さっきのお嬢さんの演説、ギャラルホルンに邪魔をされて途中で止められなかったのは、俺がアフリカユニオンに話を持ち掛けたからなんだからな』
自慢げにそう言ってくるジャンマルコ。
なるほど、クーデリアの演説を何故ギャラルホルンが中断させなかったのかと思ったのだが、ジャンマルコが手を回したのか。だが……
「お前は本当に大丈夫なのか?」
タントテンポの拠点は月だ。
正確には月は厄祭戦で大きな被害を受けているので、月の周辺にあるコロニーなのだが。
ともあれ、タントテンポはギャラルホルンの中でも最精鋭のアリアンロッド艦隊が拠点としている場所に存在する組織だ。
今回の件では間違いなくアリアンロッド艦隊に大きな被害が出た以上、アリアンロッド艦隊に睨まれてもおかしくはない。
タントテンポはそれなりに大きな組織だが、ギャラルホルンのお膝元に存在する組織だけに、どうしても規模は限られる。
木星圏を支配しているテイワズとは、比べものにならないくらいに。
そしてテイワズであっても、ギャラルホルンと揉めるのは避けているのを見れば、タントテンポとギャラルホルンの間にどれだけの力の差があるのかが明らかだろう。
そうである以上、ジャンマルコが今回のような事をするのは、かなりのリスクが伴う筈だ。
そう思ったのだが……
『ああ、そこまで心配する事はないぜ。アフリカユニオンに話を通しただけだからな。ドルトコロニーの一件が世界中に知られた以上、アフリカユニオンにとってはこれ以上の恥を晒したくないと思ったんだろう』
なるほど、そういう思惑か。
実際、俺がサラマンダーで乱入した件や、クーデリアの演説によってドルトコロニーが……そのドルトコロニーが所属しているアフリカユニオンも大きな恥を晒したのは事実。
そう考えると、アフリカユニオンとしてはこれ以上恥を晒すような事は避けたかったのだろう。
「なら、そっちは安全なのか?」
『恐らくはな。……とはいえ、俺もただでここまでリスクを背負っている訳じゃない。見返りは貰うぜ?』
「だろうな。何が欲しい?」
俺とジャンマルコは友好的な関係だが、だからといってジャンマルコもタントテンポの幹部という立場がある以上、何も見返りがないままでアフリカユニオンに接触したりは出来ない。
ジャンマルコとの付き合いそのものはそこまで長い訳ではないが、その性格は大体理解している。
だからこそ、ここで報酬を要求してくるのは十分に理解出来た。
そしてジャンマルコにとっても、俺の言葉は予想通りだったのだろう。
満面の笑みを浮かべ、口を開く。
『聞いた話だと……というか、さっきまでの戦いを見ていれば分かったが、お前達はギャラルホルンと正面から敵対しているらしいな。……あの戦闘機に変形出来る機体についても興味深いんだが』
やっぱりそこを突いてきたか。
このタイミングで通信を送ってきた以上、ジャンマルコは今回の戦いについてしっかりと把握していたのだろう。
だからといって、サラマンダーについての情報を流す訳にもいかないが。
「あのMSについては、こっちでも情報を探しているところだ。出来ればこっちで確保したかったんだけどな」
『まぁ……そういう事にしておいてやるよ』
素直に納得したといった様子ではない。
とはいえ、サラマンダーがアリアンロッド艦隊だけに攻撃をしたのだ。
それは明らかに俺達に有利な状況となっている。
そうなると、サラマンダーは俺達と何か関係があるのだろうと予想するのは難しくはない。
『とにかく、あのMSについてが無理なら、グレイズを1機くれ。見た感じ、お前達は結構な数のグレイズを持っているんだろう?』
「ああ。ギャラルホルンと敵対しているからな」
『……いや、普通はギャラルホルンと敵対しても、グレイズは入手出来ないんだがな。まぁ、いい。それで? グレイズは貰えるのか?』
「そうだな。グレイズ1機なら構わない。……ああ、それと以前言っていたエイハブ・リアクターも買っていくか? グレイズはギャラルホルンから奪ったままだから、そのままだとエイハブ・リアクターの周波数でどこの機体なのかが知られてしまう。だが、俺達が見つけてきたエイハブ・リアクターがあれば、それに換装出来る」
そんな俺の言葉に、ジャンマルコはニヤリとした笑みを浮かべる。
『随分と商売上手になったものだな』
「そうか? 別にそこまでじゃないとは思うけどな。……で、どうする? もっとも換装しても、グレイズで使っていた方のエイハブ・リアクターは、使い道に困るだろうけど」
そのエイハブ・リアクターの周波数がギャラルホルンで保存されている以上、例えば他のMSにそのエイハブ・リアクターを使っても、その周波数を調べれば、ギャラルホルンの火星支部で奪われたエイハブ・リアクターだというのはすぐに判明する。
かといって、エイハブ・リアクターは非常に頑丈に出来ており、普通の手段では破壊出来ない。
……もっとも、ジャンマルコもエイハブ・リアクターを無駄に破壊するといったようなことは考えていないだろうが。
『そうだな。どういう風になるかは分からないが、グレイズのエイハブ・リアクターは取り合えず保管しておく。いつ何に使えるのか分からないし』
「分かった。なら、こっちに来てくれ。グレイズとエイハブ・リアクターを引き渡す」
『分かった、すぐに行く。……ああ、それと。詳しいことはあまり言えないが、これからこっちもちょっと忙しくなると思うから、あまりアクセルと会ったりは出来なくなると思う』
何かあるのか?
そう思ったが、詳しいことは言えないと言ってる以上、聞いても無駄だろう。
まぁ、タントテンポという組織も裏の組織としては相応の規模を持つ。
ましてや、ギャラルホルンの最精鋭であるアリアンロッド艦隊のすぐ側に存在するのだから、何か予定外の事があってもおかしくはないだろう。
……あるいは、もしかしたら今回の一件でアリアンロッド艦隊に大きな被害が出たから、それが影響して何かあった……そんな可能性もない訳ではないと思う。
とはいえ、その件について俺がこれ以上聞いてもジャンマルコを困らせるだけである以上、それを聞くつもりはないが。
ただ……正直なところ、地球での行動についてはジャンマルコ経由でタントテンポの力を借りられるかもしれないと思っていたので、それが少し残念だったが。
クランクがいるし、今では地球にそれなりに詳しい名瀬もいる。
だが、地球はギャラルホルンの本拠地である以上、何が起きるか分からないのも事実。
そうである以上、何かあった時の為に頼れる相手は多ければ多い程にいいのだ。
「分かった。こっちもそのつもりでやる。……ともあれ、グランに早いところ来て、グレイズとエイハブ・リアクターを受け取っていけ。お前が俺達と繋がってるとギャラルホルンに知られると、色々と不味いだろう」
ジャンマルコと俺が繋がっているのは、それこそギャラルホルンの火星支部から報告が上がっている可能性もあるから、今更かもしれないが。
ただ、実際に俺とジャンマルコが接した時間そのものは決して長くはない。
だとすれば、そこまで重要な情報とは思われていない可能性もある。
……だからといって、軽視していい訳ではないのも事実だが。
『そうするよ』
そうしてこれからの事……グレイズやエイハブ・リアクターの受け取りについての件の打ち合わせを終えると、通信が切れる。
「さて、そんな訳でこれからジャンマルコが来るから、そのつもりで対応を頼む」
「分かりました。それはいいですが……アクセル、何か忘れていませんか?」
「うん? 何をだ?」
通信が終わったのを見ていたシーラがそう聞いてくるが、一体何について言ってるのかちょっと分からない。
そんな俺に、シーラは呆れの視線を向けつつ口を開く。
「サヴァランという人物についてです」
「あ」
そう言えばサラマンダーに乗ってからの諸々があってすっかり忘れていた。
サヴァランは今回の一件でシャドウミラーに来る事になったんだったか。
「やはり忘れていたのですね」
「色々とあったからな。それで、サヴァランは?」
「現在はマーベルがシャドウミラーについて色々と教えています」
それは必要か。
今まではドルトという会社で働いていたものの、これからはシャドウミラーだ。
ドルトが普通の会社なのに対して、シャドウミラーはPMCだしな。
それもギャラルホルンと真っ向から対立している。
そういう意味では、やはり出来るだけ早く説明しておいた方がいいんだろうな。