ジャンマルコがグレイズとエイハブ・リアクターを受け取ってからいなくなり、少ししたところでオルガを始めとした鉄華団の面々、そして名瀬を始めとしたタービンズの面々がグランに集まった。
現在グランの会議室にいるのは、そんな面々と、シャドウミラーからは俺、シーラ、マーベル、クランク。後はシャドウミラーに所属している訳じゃないが、今回の依頼人でもあるクーデリアとフミタンの姿もあった。
……ちなみにフミタンがノブリスのスパイだというのがマクギリスによって判明したものの、クーデリアは特に気にした様子はない。
心の中ではある程度気になってはいるのかもしれないが。
あるいはフミタンとしっかりと話してその辺を解決したのか。
ともあれ、一応フミタンが部屋から出る時には誰かをつけている。
恐らくは大丈夫だろうと思うし、俺だけの話ならそこまで気にもしなかっただろうが、現在のシャドウミラーは大人数だ。
他にも鉄華団やタービンズもいる以上、何かあった時……いや、何かを起こさない為にも、念には念を入れておく必要があった。
「それで、これからの件についてですが。どうするのでしょうか? すぐに出発するのですか?」
フミタンの件については、クーデリアも現状を仕方がないとは思っているらしく、特に不満を口にはしていない。
フミタン本人が現在の状況を受け入れているというのが大きいのかもしれないが。
そんなクーデリアの言葉に、名瀬は少し困った様子で部屋の中央にある机……正確には机型のモニタを操作する。
そこに表示されたのは、地球周辺の地図。
「ああ、当初の予定では地球の衛星軌道上にある2つの共同宇宙港のどっちかで降下船を借りて地球に降りる筈だったんだが……」
そこまで言うと、名瀬が困った様子で頭を掻く。
その視線が俺に向けられる。
「アクセルの兄貴の動きは、ギャラルホルンの注意をこれ以上ない程に引いてしまった。あの戦闘機に変形するMSの戦闘力は、生半可なものじゃなかったし。……何より、ナノラミネートアーマーを無視して相手を撃破するという性能すら見せた。もっとも、俺達はアクセルの兄貴がどうやってかナノラミネートアーマーを破壊する手段があるのを知ってるが、アリアンロッド艦隊の連中にとっては完全に予想外だっただろうしな」
あー……うん。名瀬にサラマンダーの件を隠すのは無理だよな。
そもそもジャンマルコだって、俺とサラマンダーの関係は理解していて、その上で知らないという事にしたのだ。
ジャンマルコでそうである以上、名瀬がその辺りについて分からない筈がない。
正直なところ、どこまで俺の事情を話してもいいのやら。
魔法について?
鉄華団に対しては魔法についてしっかりと事情を話したものの、今回の件はサラマンダーの問題であって、魔法ではない。
いやまぁ、空間倉庫については魔法という事にして教えてもいいかもしれないが。
「色々と言いたい事は分かるが、これについてはシャドウミラーの最重要機密だ。……タービンズがテイワズと関係のない組織なら、こっちも色々と教えられたと思うが。そうじゃない以上、こっちも事情を説明出来ないのは、十分に分かるだろう?」
「……兄貴にそう言われると、俺も反論は出来ないな」
素直にそう言う名瀬。
恐らく……というよりは間違いなく、サラマンダーとか魔法について知ったら、テイワズに……より正確にはマクマードに報告しないといけないのだろう。
とはいえ、以前ジャスレイの手の者に襲撃された時、まんま魔法を見せるといった訳ではないが、俺の身体能力の一端をアミダに見せた事がある。
そうなると、俺の実力についてはある程度理解していたりもするんだろうが……あの一件についてはどうなってるんだろうな。
そんな風にも思ったが、取りあえずその件については触れない方がいいだろうという事で放っておく。
「悪いな。それでどう地球に降りるかだが……正直なところ、ジャンマルコ、タントテンポの力を借りたいと思っていたが、それも難しいらしい」
「そうなんですか?」
オルガがそう聞いてくる。
オルガにしてみれば、敵対しているギャラルホルンや友好的なテイワズはともかく、タントテンポという組織についてはあまり詳しくないのだろう。
そもそも鉄華団とタントテンポの間に付き合いがない以上、それもおかしくはないのかもしれないが。
俺はタントテンポの幹部であるジャンマルコと付き合いがあり、名瀬の場合はタービンズ……より正確にはテイワズとタントテンポという裏の組織同士の付き合いがあってもおかしくはない。
だが、鉄華団は違うのだ。
あるいは以前火星で行われたMWの模擬戦の大会に、CGSから出場したのが壱番組ではなく参番組であったら、そのまま勝ち抜いてジャンマルコと戦う機会もあったかもしれないが。
もっともそれは今更の話だ。
ここでわざわざそんな話をしても意味はない。
「ああ。詳しい話については話さなかったが、タントテンポの方でも何か問題があるらしい」
もしかしてだが、俺達がギャラルホルンと揉めたのが影響していたりはしないよな?
そんな風にも思う。
どこでどう影響してそういう風になるのかは分からないが、今の俺達の状況を思えば、そんな風になってもおかしくはない。
そう思ったが、ジャンマルコの性格を考えると、それこそもし俺達が原因だったとしたら、俺達に力を貸せとか言ってきてもおかしくはない。
そういうのがなかった事を考えると、多分俺達の件は関係がないのだろう。
そう思っていると、不意に部屋の通信機に着信がある。
「私が出るわ」
マーベルがそう言い、通信に出る。
「私よ。何があったの? ……え? それは本当? 分かったわ、すぐに知らせる。今は待機していて」
話の途中で驚きを露わにするマーベル。
その時点で何かがあったのは間違いない。
そのマーベルが俺の方……というか、他の面々に向かっても説明する。
「エイハブ・ウェーブの反応があったわ。船が1隻近付いてくるみたい」
「1隻? なら、ギャラルホルンじゃないのか?」
アリアンロッド艦隊があれだけの被害を受けたのだから、まさか1隻で俺達をどうにか出来るとは思っていないだろう。
勿論、アリアンロッド艦隊が受けた被害というのは、あくまでもドルトコロニーの1件で派遣してきた戦力だけの話だ。
その戦力は壊滅的な被害を受けたものの、アリアンロッド艦隊全体で考えた場合は、それが一体どれだけの戦力なのかは分からない。
それでも被害は被害だ。
軍艦やMSは製造すれば問題ないものの、人の命はそうもいかない。
シャドウミラーのように、コバッタや量産型Wを使っているのならその辺も無視は出来るだろうが。
そういう技術がない以上、人命というのは非常にコストの高い存在となる。
……これが貧乏な国や組織となると、人命よりMSとかの方が貴重になるのだが。
ヒューマンデブリなんかはその典型だろう。
「分からないわ。ただ、通信を求めているみたい」
マーベルがブリッジと連絡をしながらそう言ってくるが、通信を求めてくるという事は、余計にギャラルホルンの手の者ではない可能性が高い。
いやまぁ、ギャラルホルンが降伏しろとか、そんな風に言ってくる可能性も高いので、絶対にギャラルホルンではないと断言は出来ないが。
「こっちに回してくれ」
マーベルが俺の言葉に頷くと、すぐに部屋の映像モニタに映像が表示され……
『うおっ!』
映像に映し出され姿を見た者の何人かが、思わずといったようにそんな声を漏らす。
無理もない。映し出されたのはマクギリス……いや、仮面を被ったモンタークだったのだから。
『突然申し訳ない。モンターク商会と申します。代表者とお話がしたいのですが』
「仰々しい話はいい。一体何の用件だ?」
マクギリスという名前は、取りあえず使わない方がいいだろう。
何しろ誰がこの通信を聞いているのか分からないのだから。
もしかしたら、ギャラルホルンでこの通信を傍受している者とかもいる可能性は十分にある。
マクギリスも、それが分かっているからこそ、モンタークとしてこっちに接触してきたのだろう。
『ええ、実は1つ商談がありまして』
「商談? 具体的には?」
『その辺については、こうして通信で話すのではなく、直接会って話をさせて貰いたいのですが、どうでしょう?』
マクギリスのその言葉に、部屋の中にいる面々が俺に視線を向けてくる。
どうするのかと、そう聞いているのだろう。
さて、どうするか。
名瀬とオルガにそれぞれ視線を向けると、2人揃って頷く。
名瀬やオルガにとっても、マクギリスがこうして接触してきた理由を知りたいのだろう。
取りあえず攻撃してきた訳ではないので、こっちに敵対するというつもりがないのは間違いないが。
「分かった。じゃあ、グラン……この船に来てくれ」
『分かりました。では、後ほど』
その言葉と共に通信が切れる。
「兄貴、あいつは何を考えていると思う?」
名瀬の言葉に、俺は少し考えてから口を開く。
「取りあえず、こっちに敵意はないと思ってもいい」
「それは、あいつが兄貴の知り合いだからか?」
そう言う名瀬だったが、考えてみればあの場にはアジーもいたのだから、名瀬がその件で報告を受けていてもおかしくはないか。
……そう言えばアジーで思い出したのだが、縛っていたノブリスの部下達はやはりあの騒動のドサクサに紛れて姿を消したらしい。
全員気絶していたし、動けないように手足をロープで縛っていたんだが。
素人がロープで手足を結んでも、本職……あるいは相応の知識がある者なら抜け出すのは難しくはない。
関節を外して……という手段もあるしな。
だが、当然ながら俺はそういう素人という訳ではないので、1人ではどうやっても抜け出せないように縛っておいた。
それでもいなくなったという事は、恐らくだが俺が見た連中以外にも他にまだそういう奴がいたんだろう。
まぁ、あの連中はどうしても確保したかったって訳でもないので、別にいいんだが。
ノブリスの手の者だったのは間違いないが、ノブリスの企みという点についてはフミタンがいる時点ではっきりとしているし。
いれば後日ノブリスを追求するのに役立ったかもしれないが。
もっとも、それはつまりその時までノブリスの部下達を捕虜にしておく必要があるという事で、その世話であったり、場合によっては何かを企んだりするかもしれないというのを考えると、やっぱりここはノブリスの部下達がいない方が楽なのかもしれないな。
「そうだな。……オルガは聞いてるか?」
「あー……」
俺の言葉に、オルガが困った様子を見せるが……
「オルガ、あの人はチョコの人だよ」
三日月がそう言う。
最初は三日月の言葉の意味が分からない様子のオルガだったが、三日月との付き合いが長い事もあってか、すぐに思い出す。
「それはビスケットの農園のか?」
「ああ」
「……で、何でそいつがあんな仮装を?」
「さぁ? でも、ドルトコロニーで会った時もああいう感じだった」
「次からは、もっと早く教えてくれ」
「うん、分かった。ただ、チョコレートの人に会ってから今まで、かなり忙しかったし」
「う……まぁ、それは違いないが」
オルガの言う通り、マクギリスに会ってから今まで、かなり忙しかったのは事実だ。
三日月もバルバトスに乗って出撃していたのを思えば、そこまで簡単にマクギリスに会ったという話をオルガに出来なかったのは仕方がない……のか?
オルガもそれは分かっているのか、三日月の言葉に反論出来ないようだったし。
「それで、兄貴。そのマクギリスって奴は信じられる相手なんですか?」
「どうだろうな。何だかんだと俺も実際に会った事はそう多くはないし。ただ、ドルトコロニーでアリアンロッド艦隊が仕組んでいた件について教えたし、それを思えばすぐに敵対するって訳じゃないと思うが」
何故かマクギリスは俺をアグニカ・カイエルという、ギャラルホルン創設者と間違えているようだったが、それはここでは別に言わなくてもいいか。
そもそも俺をアグニカと間違えたのは最初、初めて会った時だけだ。
それ以後はアグニカと間違える事はないのだから、この件については別にそこまで重要視する必要はなかった。
「今すぐに敵対しないって事は、将来的には敵対するかもしれないと?」
「どうだろうな。その辺については俺も分からない。とはいえ、それは誰だって同じだろう? こうして兄弟分の杯を交わした俺達だが、数年後、10年後、あるいは数十年後……敵対しないとは限らない筈だ」
もっとも、俺がいつまでもこの世界にいるとは限らない訳だが。
それこそ呪いを解呪したら、ホワイトスターに戻る。
まぁ、それでも今このオルフェンズ世界で起こっている騒動が解決してからの話になるが。
「それは……まぁ、そうですけど。俺は兄貴と敵対したくはありませんよ? アリアンロッド艦隊を相手に1人で勝てる奴を相手に戦いを挑んでも、最悪の未来しか見えませんし」
そう言う名瀬の言葉に、オルガも同意するように頷くのだった。